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リモートVJや『SASUKE』エリアのバーチャル体験も!SXSW出展レポート
TBSは、2024年3月にアメリカ・テキサス州オースティンで開催された最先端テクノロジーの祭典「サウス・バイ・サウスウエスト2024(以下:SXSW)」に出展しました。
TBSがSXSWに出展するのは今年で2回目。今回は「Go beyond Tokyo,Go beyond Broadcasting」をコンセプトに、TBSの最新技術であるLive Multi Studio(以下、LMS)、T-Qom、音六AIの展示と、『SASUKE』のブースを展開しました。その様子や反響について、プロジェクトメンバーの永山知実、峯松健太、大西陽一、中本聖也、村松麟太郎に聞きました。
「LMS」でアメリカから東京のリモートVJ体験を提供
まずはLMSについて教えてください。どんな技術ですか?
永山 LMSは、インターネット越しに超低遅延で映像、音声、制御信号を送ることができるソフトウェアです。今年3月1日に、一般リリースされています。
TBSテレビでは、LMSを使ったリモートプロダクションの実績を積み上げてきました。リモートプロダクションとは、スタジオと中継現場をネットワークで接続し、番組制作を行う手法です。0.1秒未満の超低遅延で送られた映像を見ながら、カメラの遠隔操作、スイッチング、CG付与などを行うことができるので、LMSを使えば例えば海外で行われているサッカーの試合を赤坂から遠隔で映像制作をすることも可能です。
LMSを展示した目的は?
永山 まずは認知拡大です。SXSWは4万人以上の来場者数が見込まれ、メディア取材も期待していました。また、SXSWは音楽や映画、テレビ、インタラクティブアート分野の参加者が多く、LMSのターゲットユーザーと同じです。市場調査とユーザー獲得にも大いに期待していました。
そこで今回はLMSの体験を通して特徴を知ってもらい、技術知識が乏しい人でも楽しいと思えるような展示を目指しました。
どのように展示しましたか?
永山 今回はリモートVJ(ビジュアルジョッキー)と称し、アメリカから東京のヘキサゴンビル9階にあるTech Design XのLEDウォール、照明、CGを操作する体験を作り、展示しました。
こちらが展示ブースの様子です。左下のMIDIコントローラーのボタンを押すと、Tech Design Xの照明や映像の操作や、カメラの切り替えを行うことができます。また、パソコンのインカメラを通して展示ブースの映像をTech Design XのLEDウォールに映すギミックも仕掛けており、大変盛り上がりました。
来場者の反響はいかがでしたか?
永山 ブースには4日間で延べ200名以上が来場し、リモートVJを体験した方からは「全然タイムラグを感じない操作感だね」「映像も綺麗」といった喜びや驚きの声をいただきました。映像制作以外の業種の方にも楽しんでいただけたようです。
また、今後のプロモーションやセールス先の参考につながるヒアリングもできたので、TBSのテックビジネスにおいて非常に参考になりました。
制作現場で活躍中の「T-Qom」
次に、T-Qomの展示についてうかがいます。T-Qomはどんな技術ですか?
峯松 T-Qomは、インターネット回線を利用したコミュニケーションアプリです。複数の音声を利用することができ、既に制作現場でも利用の輪が広がっています。動画コンテンツ制作で必要なタリー送信も可能です。
開発者・高岡崇靖のコメント 開発コンセプトは、【現場での使いやすさ重視!】です。現場に負担のないシステムを構築することで、クリエイティブな作業により多くの時間を割けるようにすることを目的としました。難しい放送機材を扱うことなく、アプリを立ち上げるだけで、異なる場所で作業するスタッフ間でコミュニケーションをとることができます。
来場者の反響はいかがでしたか?
峯松 非常に多くの反響があり、「とても優秀なWalky-Talky(意味:トランシーバー)だね」「これがあればSXSWの会場で迷子にならないよ」といったコメントをいただきました。
また、今回はテレビの制作現場で使われることを想定して展示をさせていただきましたが、商業施設やイベント会場など、もっと広い用途で利用できるということがわかったこともよかったです。
展示の手応えはいかがでしたか?
峯松 国籍を問わずこういったシステムのニーズがあるとわかった一方、どうPRすればいいのかという点が難しかったです。TBSが率先してこういったシステムを導入し、現場ベースで有用性をアピールしていくことが非常に効果的なのかなと感じられました。
多言語対応のAIナレーションシステム「音六AI」
続いて、音六AIはどんな技術でしょうか?
大西 音六AIは、AIによるナレーション作成システムです。番組制作においてナレーションを入れる場合、通常はアナウンサーさんやナレーターさんの音声を録音したものを編集で使うというワークフローが必要になりますが、これを使うことで、原稿さえあればナレーションができます。多言語対応しているので、まさに今回の「Go beyond Tokyo,Go beyond Broadcasting」というコンセプト通り、国境を越えるサポートを担う技術だと思います。
来場者の反響はいかがでしたか?
大西 「AIだとわからない」「リリースを早くしてほしい」といったコメントをいただきました。T-Qcomと同様、さまざまなニーズがあることがわかり、すごく手応えを感じました。システムの評価も非常に高く、取り組みの方向性が間違っていないということが非常に自信に繋がったと思います。
今年のSXSWでは、AIに関する展示が多かったそうですね。
大西 SXSW2024では、やはり生成AIがトレンドの最先端だなと実感しました。一方、ターゲットや目的が定まっていない展示も目立っていたように感じています。そんな中、音六AIはコンセプトが非常にわかりやすいという点で来場者の方から高評価をいただきました。
私も一人のエンジニアとして、テクノロジーは新しい技術をただ使うということが目的ではなく、”誰のためになぜ”開発したのか、そしてそれを”どのように解決したのか”ということをしっかりと説明できなければいけないと強く実感しました。
展示を終えて、どんな心境ですか?
大西 個人的に、今回の展示は昨年に引き続き2回目のチャレンジでした。昨年はもじこを展示し、今年は音六AIを展示したのですが、大変なことも多々ありながら、本当にやってよかったと思っています。よく「世界に出る」と言われていますが、やる前はそれがどういうことかよくわかっていませんでした。展示を通して今は世界に出るってこういうことなんだ!と自身の経験を踏まえてお伝えすることができるのではないかと感じています。
そして日頃の業務に関しても、もう一歩踏み出して挑戦してみよう、もう一つ視野を広げて考えてみようと背中を押してもらえる経験になったと思います。
『SASUKE』ブースはアトラクションのバーチャル体験で大盛況
昨年に引き続き、『SASUKE』に関する展示もありました。どんな内容でしたか?
中本 昨年はメタバースを使った『SASUKE』の体験ブースを展開しましたが、今年はApple Vision ProとARを利用し、『SASUKE』のおもしろさを伝える体験創出に挑戦しました。Apple Vision Proを被り、『SASUKE』のエリアや人物をバーチャル体験できる展示です。
実寸大のフィッシュボーンの中を歩き回れたり、山田勝己さんと会えるようなコンテンツを楽しむことができます。
村松 また、スマホで簡単に楽しめるSASUKEフォト企画も実施しました。QRコードを読み込むとARコンテンツが出てくる仕組みです。未来技術の皆さんにご協力いただき、山田勝己さんやファイナルステージなど、8つのARコンテンツを作らせていただきました。
山田勝己さんに関しては、全身の3Dデータを活用し、ARに落とし込みました。山田さんと写真を撮り、「#withYAMADA」を添えてSNS投稿してくれる方もいらっしゃいました。
それと、『SASUKE』では昨年、「坂本さん」というカメレオンをイメージした公式キャラクターが登場したので、今回はそのパネルを作ってフォトブースを作ったり、ステッカーを配布したりと、キャラクターの認知を広めていきました。
来場者の反響はいかがでしたか?
中本 展示は大盛況で、長蛇の列ができるほどでした。Apple Vision Proを持っている方には「これがApple Vision Proの中で一番おもしろいコンテンツだった」というお声をいただき、『SASUKE』の魅力を引き出せたなと嬉しかったです。
村松 フォトブースにはたくさんの子どもたちが集まってきたり、ステッカーも早々に配り終えてしまったりと、「坂本さん」の人気が垣間見えました。今回は大人だけでなく、若い世代にも『SASUKE』の認知を広めたいと思っていたので、狙い通りだったと思います。
また、南アフリカの方から「『SASUKE』が大好きだけど、南アフリカでは放送してないんだよ。どうにかしてくれ」というお声をいただいたことから、これまで以上に海外のニーズに応えていく意識が大事だなと思っています。
『SASUKE』の展示を振り返り、総括をお願いします。
村松 バーチャルを活用したコンテンツは番組を見たことがない人でも『SASUKE』を身近に感じることができるので、興味を持っていただくきっかけとして非常に可能性を感じました。また、『SASUKE』のIPは使い方次第でビジネスの可能性が広がると思います。特に「坂本さん」はこれから人気が出そうな予感があるので、3D化したり、声を入れたりと、動きを加えていくなど、ゆくゆくはポケモンのような存在になれる可能性だってあると思っています。
自分は入社6年目で毎年『SASUKE』に関わっていますが、想像以上にこのコンテンツが海外から期待されてるんだなと実感しました。今後は国境を越えてファンを一人でも多く増やしていく動きを進めていきたいです。
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永山知実
2023年TBSテレビにキャリア入社。メディアテクノロジー局 未来技術設計部。テクニカルエバンジェリストとして、宣伝・広報、技術営業を行う。映像・音声・制御信号伝送ソフトウェア「Live Multi Studio」の事業化を担当。TBSグループ有志R&D集団、TBS Tech Design Labにも所属。
峯松健太
2010年TBSテレビ入社。東京タワーからスカイツリーへの親局移転を行う。完了後2015年から情報システム局に異動し、社内の働き方改革を推進。グループウェア「TBS Cloud」の導入や、社内システムのクラウド化を進めている。
大西陽一
2022年TBSテレビ入社。ICT局システム開発部に配属後、23年にTBSグロウディアへ出向。社内業務システム開発や研究開発のプロジェクトマネージャーを務める。基幹システムや「音六AI」、「もじこ」などを担当。今回のSXSWは昨年に引き続き2回目の参加。
中本聖也
2023年TBSテレビにキャリア入社。メディアテクノロジー局 未来技術設計部。テクニカルエバンジェリストとして、TBSのイノベーションスペースTech Design XでのR&D活動や、先端技術とTBSコンテンツを組み合わせた開発を行う。「SASUKE VR」として、Apple Vision Proのアプリ開発や、生成AIを活用したAI誤字チェッカー「TBS LUPE」などのプロダクト開発を推進。
村松麟太郎
2019年TBSテレビ入社。スポーツ局配属後、スポーツ番組制作部で『東京VICTORY』と『SASUKE』のチーフADを務める。東京・北京五輪では現場ADを経験。2022年4月にスポーツニュース部へ異動後、『S☆1』の番組Dをしながら担当競技(体操・フィギュアスケート)の取材業務。情熱大陸では『体操・橋本大輝』のVTRを制作。現在はTBSスパークルに出向し、パリ五輪に向けた中継業務を担当している。