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ドキュメンタリーと国際共同制作に奮起、TBSスパークル磯原幸道の挑戦

TBSスパークルは、日本最大級の映像制作会社です。TBSだけでなく、他局の番組も手掛けているほか、時には海外のプロダクションと共同制作を行うことも。他国との共同制作はどんな風に行い、日本の番組制作と比べてどんな違いがあるのでしょうか。TBSスパークルニュース情報本部クロスメディアセンター文化情報部兼グローバル戦略室でチーフディレクターとして活躍する、磯原幸道に話を聞きました。

コミュニケーションは全て英語、海外との共同制作に奮闘中

磯原さんは、国内向けの番組と、世界に向けた番組の両方を手掛けています。まずは、国内向け番組制作の仕事内容を教えてください。

磯原 一つは、『ガイアの夜明け』(テレビ東京)のスパークルチームのチーフディレクターを担当するなど、ドキュメンタリー番組の制作に携わっています。今の部署には2023年10月に異動してきたばかりですが、もともとドキュメンタリー制作を志望していたので、ようやく10年越しの念願が叶いました。

また、2月に放送された『第66回グラミー賞授賞式』日本版も担当しました。グラミー賞授賞式は、テイラー・スウィフトやビリー・アイリッシュといったノミニー達が一堂に会してセレモニーを行い、そこでしか見れないパフォーマンスを披露するイベントです。日本ではWOWOWが放送権を持っています。現地の放送ではCMが入るのですが、WOWOWにはCMがありません。なので、本来CMが入るところに日本人の出演者がグラミー賞の見どころや感想をスタジオで語ります。海外のエンタメに触れられるのは、個人的にとても楽しいです。

他局の番組制作を通して感じることは?

磯原 『GLOBAL AGENDA』(NHKワールド)という全編英語の討論番組を初めて担当したときは、NHK独自のルールが多くて驚きました。やはり公共放送なので、確認作業は慎重に行っていましたし、さまざまな立場の人の取り上げ方が公平になるように、すごく気を付けているように感じました。

昨年6月に放送した『Direct Talk』では、ノーベル文学賞作家のオルハン・パムクにリモートでインタビューしましたが、これも指摘を受ける方向がTBSとは違うと感じました。

海外プロダクションとの共同制作では、どんなことをしていますか?

磯原 国際共同制作といって、海外と共同での番組制作も行っています。「Tokyo Docs」という、海外のクリエーターとマッチングできるプロジェクトがあり、現在はそこで出会った中国、ネパールのチームとそれぞれ制作作業を進めています。

また、VRのドキュメンタリーも制作していて、これはフランスのチームと共同で進めています。軍艦島がかつてどんなものだったのか再現しようとしていて、VRゴーグルをかけて見てもらう、没入感があるコンテンツを作っています。

国際共同制作は、当然、会議も英語でやっているので、うまく聞き取れなかったり伝わらなかったりして毎回悔しい思いをしていますが、既存のテレビ番組とは違う刺激があり、非常に楽しくやっています。

国際共同制作をするにあたって、日本との違いをどう感じますか?

磯原 海外のディレクターは「保証された状況なんてない」という考えがスタンダードです。自分で企画を立ち上げ、ピッチングをして資金を調達するところまでが仕事なので、とても過酷な競争の中にいます。コンペが多いので、みんな覚悟が違います。アジア系の人も当然のように英語を話せるし、頭も良いので一緒に仕事するのはとても刺激的です。

言い方は悪いかもしれませんが、日本では会社に所属していれば、待っているだけで仕事がくることが多いと思います。でも、これは海外の方から見たら特別なことで、自分がいかにぬるま湯にいるのかと思い知らされました。

TBSスパークル磯原幸道

情報番組歴は延べ10年、生放送はまるでスポーツのよう

以前は長年、情報番組の制作に携わっていたそうですね。

磯原 生放送は延べ10年くらい携わっています。『朝ズバッ!』から始まり、『情報7daysニュースキャスター』、『ビビット』、『グッとラック!』、『あさチャン!』、『THE TIME,』を担当していました。

生放送を10年やっていた中で特に印象に残ってる出来事は?

磯原 たくさんありますが、初めて担当した『朝ズバッ!』でディレクターとして東日本大震災の被災地へ行ったことは、今でも鮮明に覚えています。全てを失ってしまった人の話を聞くのはなんてつらいんだろうと衝撃を受けました。

それと、2017年に『ビビット』を担当していた頃、夜中に富岡八幡宮で宮司が切り付けられる事件が起きたのですが、この事件を放送するために、準備していたラインナップを全て崩して再配置したのも印象に残っています。翌週には情報が古くなり、出せなくなるニュースも多々ありましたが、そこは割り切らなければならない。これは生放送の苦しみでもあり大変ですが、よくあることです。下世話な話ですが、この日は高視聴率でした。視聴者は知らないことを見に来ているんだなと改めて実感した瞬間でもあります。

収録番組と比べてどんな違いがありますか?

磯原 よく言うのは、生放送はスポーツのようなイメージです。僕はチーフ歴が長かったので、例えばサッカーのフォーメーションを考えるように、ホワイトボードにスタッフの名前を貼って、誰が取材に行くのか、誰がまとめるのかなどを決めていました。特に中継はバタバタするのですが、上手くいくと気持ちいいんですよ。

チーフとしてスタッフとのコミュニケーションで気をつけていたことは?

磯原 情報番組は曜日ごとにチームができているし、エンタメやスポーツなどいろいろな班があったりと、大勢のスタッフが携わっています。これだけ人数が多いと「自分の声が届いてない」と不満を抱く人が出てきてしまうので、何かあったらまずは僕に相談するようにと、徹底して伝えていました。当然、僕にもわからないことがありますが、そのときはわかる人につなぐ。「この人に言えばなんとかなる」と思ってもらえると、自分も楽だし、みんなもやりやすかったんじゃないかなと今は思います。最初は大変でしたけどね。

もともと、人をまとめることは得意でしたか?

磯原 得意と思ったことはありませんが、中学生の頃はバスケ部の責任者をしたり、高校生になったら僕が部長となって演劇部を立ち上げたりと、気付けばずっと自分が責任を背負うポジションにいることが多かったです。大学時代に所属していた演劇サークルでは、個性的な人も多かったですが、いろいろな人の考えを理解して、公演という共通のゴールに向かえるよう取りまとめていった経験は、今の仕事にも活きていると思います。

TBSスパークル磯原幸道

TBSスパークルは多様な文化が交わる交差点のような場所

ところで、磯原さんはなぜこの仕事を選んだのでしょうか?

磯原 学生時代、ずっと演劇をやっていて、より多くの人に見られるコンテンツを作りたいと思ってテレビに関わる仕事を選びました。

それと、文学も大好きで、椎名誠さんの旅行記を愛読していたのですが、それがよくドキュメンタリー番組になっていました。パタゴニアなど、人があまり行かないようなところへ行っていて、それを見てこんな仕事をしたいと思いました。就職面接では「旅行記や紀行ものが好き」という話をした記憶があります。

TBSスパークルの魅力は?

磯原 僕は就職が決まったとき、父親に「クリエイティブな仕事に就くよ」と言ったら、「クリエイティブとはいえ会社だから、クリエイティブな業務は6割で残りの4割は事務的な仕事だと思う。それでも腐らずやれよ。」と言われましたが、入ってみたらほぼ9割クリエイティブな仕事でした。特に、若い頃は事務的な作業なんて経費精算の1割ぐらいしかなかったです。この環境は、クリエイティブな仕事をしたい人にとって魅力的だと思います。

また、僕はWOWOWとテレ東とNHKの番組を担当していますが、複数の局の番組制作に携わることができるので、自分の中で多様な文化が混ざり合っています。他の社員も同様に、いろいろな仕事をしているので、TBSスパークルには多様な文化が交差点のように集まっています。そこから他にはないものが作り出せると思うので、これは強みだと思います。

それと、NHKワールドの仕事ができるのは、TBSスパークルだからこそだと思います。この半年だけでも、英語を使ってやり取りする仕事が半分を占めています。TBSスパークルの前身企業の頃よりも、チャンスが広がったと思います。

今後やりたいことは?

磯原 日本のドキュメンタリー制作と、国際共同制作に携わりながら、できるならグラミー賞やトニー賞など外国のエンターテインメントにも関わっていきたいです。それと、海外のスタッフを見て、自分でもっと仕事をとっていかなければ、と以前よりも強く思うようになりました。昔とはテレビの置かれた状況も違いますし、これからは自分で仕事を生み出すことを現実的に捉え、行動していきたいと思います。

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TBSスパークル磯原幸道
磯原幸道
TBSスパークル ニュース情報本部 クロスメディアセンター文化情報部 兼 グローバル戦略室 チーフディレクター

2005年 現・TBSスパークル入社。「情報7daysニュースキャスター」や「THE TIME,」など、生の情報番組を延べ10年程経験。その傍らTBS「夢の扉」や、毎日放送「情熱大陸」テレビ朝日「地球の目撃者」など、ドキュメンタリー番組も多数制作。2019年以降「Tokyo Docs/Colors of Asiaシリーズ」など、国際共同制作にも参加。2023年にはNHKワールドの「Direct Talk オルハン・パムク編」2024年には同局「Global Agenda」の制作にも携わるなど、
全編英語の国際放送の番組も手掛けている。また、テレビ番組だけではなく、現在フランスのVRコンテンツ制作会社TARGOとの共同制作で、軍艦島の歴史をモチーフにしたVRドキュメンタリーを制作中。

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