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TBSアニメ『ウマ娘 シンデレラグレイ』は伝説の名馬をモチーフに、ウマ娘・オグリキャップのひたむきな努力や青春を描く。大ヒットゲーム発、新作アニメの魅力をプロデューサーが語る

TBSは、アニメ『ウマ娘 シンデレラグレイ』(毎週日曜ごご4時30分~)を2025年4月から分割2クール(4月期・10月期)で全国28局ネット放送中です。本作は、Cygamesによるクロスメディアコンテンツ『ウマ娘 プリティーダービー』発で、「週刊ヤングジャンプ」(集英社)で連載中の同名漫画が原作です。実在する競走馬をモチーフにキャラクター化しており、やがて“怪物”と呼ばれるウマ娘・オグリキャップを主人公としたストーリーが描かれます。
この作品のプロデューサーを務めるのは、TBSテレビの伊藤將彦。本作に込めた思いや見どころに加え、自身のキャリアに関する話を聞きました。
放送はGⅠレース後!競馬ファンにも視聴を促す戦略を

伊藤さんはアニメ『ウマ娘 シンデレラグレイ』のプロデューサーとして、どんな業務を担当されていますか?
伊藤 アニメはドラマのようにTBS単独で作るのではなく、複数の会社が出資して作る製作委員会方式をとることがほとんどです。製作委員会には2パターンあります。「TBSが幹事になって企画を立てて製作する場合」と、「幹事会社が別にいて既に動いている企画に、TBSが放送と二次利用の一部の窓口業務を担う形で参加させていただく場合(非幹事作品)」があり、本作は後者となります。
幹事は委員会の組成や、映像の制作管理などクリエイティブのほか、宣伝、ビジネスにおいて多くの役割を担いますが、今回TBSは幹事ではないのでそのうちの一部を担っています。クリエイティブの部分は幹事であるCygames様と制作会社のCygamesPictures様、そして漫画の発行元の集英社様が中心になって手掛けています。TBSは放送局として内容を考査し、あとはアフレコやダビング、V編(ビデオ編集)に立ち会ったりしています。
ビジネス面においては担当する窓口業務を委員会を代表して行っています。国内番販では日本BS放送様(BS11)やAT-X様へのセールスに伴う条件交渉、契約の締結を行い、Cygames様と共同で窓口を持たせていただいている海外セールスや国内商品化に関わる業務も一部担当しています。
これまでのアニメ『ウマ娘 プリティーダービー』(2018~2023年、Season1~3)は他局で放送されていましたが、本作をTBSで放送するのはなぜでしょうか?
伊藤 それは、Cygamesさんが幹事のオリジナルアニメ『勇気爆発バーンブレイバーン』(2024年1月期、木曜よる11時56分から放送)をTBSで放送させていただいたご縁がきっかけです。この作品の打ち合わせのときに、『ウマ娘 プリティダービー』をサービス開始からずっと遊ばせていただいていることをお伝えしたところ、後日、『ウマ娘 シンデレラグレイ』の企画をご紹介いただきました。
過去に3シーズンもテレビアニメ化された人気作をTBSで放送できるのは、放送局のブランディングにおいても非常に意義のあることで、Cygames様にはとても感謝しています。
日曜日の夕方に放送することに関して、どのような意図があるのでしょうか。
伊藤 TBSが製作委員会に入る前から、「分割2クール」で放送することがすでに決まっていました。その中で、各所調整をしてTBSアニメのレギュラー枠である「日曜ごご4時30分」の放送枠をご提案させていただきました。本当に偶然のめぐり合わせによる結果ではありましたが、視聴という面では大きな意味があったと思っています。競馬は基本的にごご4時前にメインレースが終わるので、レースで盛り上がった熱を持ったまま、その流れでアニメ『ウマ娘 シンデレラグレイ』を見ていただくこともできるためです。
また、日曜夕方はご自宅で過ごされる方も多いため、コアなアニメファンだけでなく、ライト層の視聴者にも見ていただける可能性が高いと思っています。
アニメ『ウマ娘 プリティーダービー』は既に第3期まで放送されましたが、TBSはすでに出来上がったチームに入って製作に協力していくようなイメージでしょうか。
伊藤 いえ、製作委員会としてはこれまでとは全く違うチームで作っています。あくまでも今回は『ウマ娘 シンデレラグレイ』という作品ですから。製作委員会のメンバーは、Cygames様をのぞき、今回初めて『ウマ娘』シリーズに出資する会社ばかりです。

臨場感ある演出に注目、ドラマ性の高いオグリキャップの物語
本作は、アニメ『ウマ娘 プリティーダービー』とはどんな違いがあるのでしょうか。
伊藤 『ウマ娘 プリティーダービー』はレースや青春群像劇としての面白さに加え、ウイニングライブなど「かわいらしさ」が特徴的な作品でした。ですが、今回はかわいらしさの部分は控えめに、熱いレースバトルと青春に特化した見応えのある作品に仕上がっていると思います。
『ウマ娘』シリーズは実在する競走馬をモチーフにしたキャラクターを描いた作品で、今回の主人公はオグリキャップです。実在したオグリキャップ号は歴代の競走馬の中でも、地方競馬から中央競馬に出てきて成功を収めた、ドラマ性が非常に高い競走馬として知られています。
ひた向きに努力を重ねて困難を乗り越え、勝利をつかんでいく。世代を超えて心に突き刺さる要素がしっかりと詰まっている作品です。オグリキャップの「シンデレラストーリー」にご注目ください。

『ウマ娘』シリーズといえば、レースシーンが見どころですよね。その疾走感を演出するための楽曲にも注目が集まっているのではないでしょうか。
伊藤 そうですね。本作の音楽を担当するのは、多くのアニメや映画、ゲーム音楽を手掛けてこられた、川井憲次さんです。川井さんが『ウマ娘』シリーズの音楽を担当されるのは今回が初めてと聞いております。川井さんの音楽によって、さらに臨場感が高まるのではないかと期待しています。
また、音楽に関してもう一点特筆すべきは、第1クールのオープニング主題歌「超える」を[Alexandros]様が担当していることです。『ウマ娘』のアニメ作品はこれまでテレビアニメや映画、配信コンテンツとして展開されていますが、アーティストタイアップの主題歌は今回が初めてです。しかも、それが男性アーティストというのは、個人的にはかなりインパクトが大きかったです。実際に情報解禁したときは、かなり好意的な反応だったと捉えています。今までの『ウマ娘』シリーズとは一味違うというところをアピールできたのではないでしょうか。
プロデューサーとして関わっていく中で、一番苦労された部分は?
伊藤 『ウマ娘』というコンテンツの認知度はとても高いので、全国ネットでの放送はもちろんのこと、どうしたらさらに認知を広めていくことができるのか、そのための施策を仕込むことに苦労しています。
具体的には、情報番組などに番宣や先行上映会の様子を取り上げていただいたり、『CDTV ライブ! ライブ!』への[Alexandros]様のご出演や、TBSラジオ『アフター6ジャンクション2』内の「アトロク アニメエクストリームジョブ」というアニメに関するレギュラーコーナー(毎月第一月曜よる9時5分ごろ~)に、オグリキャップ役の高柳知葉さんにご出演いただいたりしました。また、CBCテレビさんの「CBC 5チャン春祭り」というイベント内でアニメ『ウマ娘 シンデレラグレイ』の番宣映像を流すなど、細かい施策も重ねています。放送局に求められるものをしっかりと提供して、作品に貢献することが大事だと考えていますし、やりがいも感じています。
海外展開はどのように考えているのでしょうか。
伊藤 歴代の『ウマ娘 プリティーダービー』のアニメは英語圏でも展開していますが、アジアでの人気が圧倒的です。今後、英語版のゲームが配信される予定なので、それをきっかけに北米やヨーロッパ圏でもアニメ『ウマ娘 シンデレラグレイ』をさらに多くの人に見ていただけたらいいなと考えています。どんな反応があるのか楽しみにしています。
ズバリ、アニメ『ウマ娘 シンデレラグレイ』の見どころを教えてください。
伊藤 今回のアニメ『ウマ娘 シンデレラグレイ』は、映像のクオリティーの高さはもちろんですが、実際にあったオグリキャップ号のエピソードを巧みに取り入れたストーリーが非常に魅力的です。オグリキャップ号が活躍していた当時を知る人なら、特に心をつかまれると思います。また、競馬に詳しくない方でも純粋に楽しんでいただけるようにシナリオが作られているので、老若男女問わず、ぜひ多くの人にご覧いただけたら嬉しいです。
特に、レースシーンは臨場感があり、本当に目が離せません。オグリキャップを演じる高柳知葉さんもラジオでお話されていましたが、走っているシーンの息づかい等、リアルさを追求した作品となっています。それは、クリエイティブに携わっている皆さんの努力の賜物です。これまでの『ウマ娘』シリーズのファンの方々をはじめ、多くの視聴者の期待に応えられる仕上がりになっていると思います。
個人的に、ゲームはサービス開始から遊ばせていただいていますし、『ウマ娘 シンデレラグレイ』の漫画もコミックス1巻が発売されて以降、ずっと読ませていただいています。現在、漫画は800万部以上発行されている人気作なので、アニメもファンの方々からの期待値が高い作品だと思っています。『ウマ娘』シリーズは知名度の高いIPですし、「いつかTBSで放送できたらいいね」と他のプロデューサーとも話していました。それが実現して、とても感慨深いです。

TBSアニメ事業部なら、多様なジャンルのアニメに挑戦できる
ところで、伊藤さんはどんな経緯でTBSテレビに入社されたのでしょうか?
伊藤 2008年にキャリア採用として入社しました。もともと映画やアニメが好きで、就職活動の際は出版社やテレビ局、アニメの制作会社等の就職試験を受けていました。新卒で角川書店に入社し、「月刊ニュータイプ」というアニメの情報誌の編集をしていた時期もありました。
TBS入社当初は当時のCS事業部(現在のCSメディア事業部)で編成・制作等を担当後、そこからドラマやバラエティのビデオグラムを制作していた映像事業部、番組関連の商品や書籍を作るライセンス事業部、CMセールスにおける社内や広告会社様との調整を行う営業推進部を経験し、2019年に当時は映画・アニメ事業部だった現在のアニメ事業部に異動になりました。初めてアニメのプロデューサーを任されたのは、40歳の時でした。もう少し若ければよかったなと思いつつ、ちょうどアニメ事業部の人員を募集していたということで、希望を出して異動が決まりました。
アニメの情報誌を作る仕事をしていたので、会社としては即戦力になれそうだと期待していただいたのかもしれませんが、雑誌の編集とアニメの制作は全然違うので、すべてゼロからのスタートでした。仕事内容もこれまでTBSで手掛けてきたものと大きく変わったので、異動というよりも転職したような感覚でした。
アニメ制作の仕事の魅力と苦労する点を教えてください。
伊藤 作品ごとに異なる部分も多いと思いますが、アニメは、映像を作る「クリエイティブ」と、製作委員会方式でいろいろなパートナーと一緒に資金を投じて回収する「ビジネス」の要素を併せ持っています。良いフィルムを作りながら事業として成り立たせることは苦労する点でありながらも、やりがいがあって面白味を感じています。
TBSのアニメ事業部の魅力は何だと思いますか?
伊藤 若手を含めて誰でもいろいろなジャンルの企画を出せるところが魅力だと思います。例えば、『五等分の花嫁』(2019年~第1期放送開始、以降テレビアニメ・映画で展開)のようなラブコメもあれば、映画『たべっ子どうぶつ THE MOVIE』(2025年)のような既存のキャラクターを生かしたアニメ、『けいおん!』(2009年に第1期、2010年に第2期、2011年に映画)のような女の子が主人公の青春ストーリー、『勇気爆発バーンブレイバーン』のようなロボットアニメなど、TBSが放送してきたアニメは本当に幅広いですよね。もちろん、会社からはビジネス面での可能性を求められますが、ジャンルを問わず、さまざまな作品に挑戦できます。
伊藤さんの今後の展望を教えてください。
伊藤 プロデューサーとして携わらせていただいているオリジナル映画の公開が控えているので引き続き物作りをしていく予定ですが、これまで会社のおかげで物作りに携わってこられましたので、今後の業務の中心としては後輩たちがより良いコンテンツを作れるようにマネジメントの部分からサポートしていければと考えています。それがアニメ事業部の強化につながっていきますし、ひいてはTBSのブランディングにも貢献できると思っています。自分がしたいことではなく、周りが挑戦したいことに打ち込める環境や体制を作ることができればと考えています。
最後に、アニメ制作の仕事を目指す就学生に向けて、メッセージをお願いします。
伊藤 学生の頃は、アニメはサブカルチャーという色合いが強いコンテンツでしたが、今は幅広い層に受け入れられているメインカルチャーになったと感じています。だからこそ、アニメ制作の仕事を志望するならば、ジャンルを問わずアニメ以外のコンテンツにも触れていることがとても大事だと思っています。例えば実写映画や演劇、小説や漫画等のストーリーコンテンツを幅広く見ておくと、アニメ制作で生かせる部分が多くあるはずです。
それと、今流行っているものをきちんと把握しておくことも大事だと思います。アニメ製作の仕事は映像を作る作業とビジネスを展開する作業が同時に進行していきます。今、何が流行っていて、何がビジネスとして成立するのかを把握する力が求められると思います。
こういったことは自分自身がきちんとできていたとは言い難かったので、あえて言葉にしてみました。興味がある方はぜひ挑戦してみてください。
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伊藤將彦
TBSテレビ アニメ映画イベント事業局 アニメ事業部所属。
2002年、角川書店に入社。「週刊ザテレビジョン」編集部、「月刊二ュータイプ」編集部等を経て、2008年にTBSテレビにキャリア入社。事業部門や営業を経験した後、『それでも歩は寄せてくる』(2022年)等をプロデュース。
『ウマ娘 シンデレラグレイ』
©久住太陽・杉浦理史&Pita・伊藤隼之介/集英社・ウマ娘 シンデレラグレイ製作委員会
© Cygames,Inc.