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TBSアニメ『地縛少年花子くん2』、待望の続編はよりダークな世界へ…プロデューサーが語る5年越しの制作秘話
TBSは、2025年1月12日(日)より、TVアニメ『地縛少年花子くん2』の放送をスタートします。原作は月刊「Gファンタジー」(スクウェア・エニックス)で連載中のあいだいろ氏による同名漫画でシリーズ累計1000万部を突破。学園の七不思議である男の子の幽霊・花子くんと、願いを叶えるために花子くんを呼び出したオカルト少女・八尋寧々が繰り広げる学園怪異譚です。2020年のTVアニメ『地縛少年花子くん』第1期、2023・2024年のショートアニメ『放課後少年花子くん』に続き、この度、第2期がTBS系全国28局ネットにて放送されます(毎週日曜ごご4時30分~)。
第1期の立ち上げからプロデューサーを担当するのは、TBSテレビの片山悠樹。本作に込めた思いや自身のキャリアに関する話を聞きました。
第1期は大好評、満を持して第2期制作へ
まずは、TVアニメ『地縛少年花子くん』第1期のアニメ化が決まった経緯を教えてください。
片山 以前からやり取りのある制作スタジオのスタジオ雲雀さん、原作元のスクウェア・エニックスさんと、TBSの3社間でアニメ化の話が出たことがきっかけで始まった企画です。TBSが製作委員会の幹事として、2017年の後半から動き始めました。
キャスティングはどのように決めましたか?
片山 作品として主役の花子くん役は緒方恵美さんにお願いすることにしました。緒方さんといえば、過去の有名作品で主人公の少年役を担当されていましたが、近年は妖艶な女性キャラクターやイケメン男性キャラクターも演じられています。プロジェクトとして「もう一度、緒方さんに少年の主人公を演じていただきたい」という希望もあり、実現しました。
花子くん以外はオーディションで選ばせていただきました。個人的に思い出深いのは、八尋 寧々役の鬼頭明里さんと、源 光役の千葉翔也さんのキャスティングです。僕はスタジオ雲雀さんが作られているTVアニメ『ようこそ実力至上主義の教室へ』が大好きなんですが、この作品のメインキャラクターを演じているのが、鬼頭さんと千葉さんなんです。オーディションさせていただいた上でお二人に決まったのですが、とても不思議な縁を感じました。
アフレコの様子はいかがでしたか?
片山 第1期は2019年から2020年頭にかけて制作しましたが、ちょうど海外でコロナが蔓延し始めた時期だったので、「(コロナ禍前に)キャストの皆さんと集まってアフレコできた最後の作品だった」と緒方さんがよくおっしゃっています。
ショートアニメ『放課後少年花子くん』2023年放送分(1日目~4日目)のアフレコはブースに入る人数を制限したり、パーテーションを立てたりしていました。個別で録ると掛け合いパートが難しくなったりしますので、作品の作り方に大きく影響していたように思います。今ではコロナ禍前のように皆でアフレコできるようになり、よかったですね。
アニメをご覧になって、原作者からはどんなリアクションがありましたか?
片山 あいだいろ先生にはすごく喜んでいただきました。アフレコに参加していただくなど現場にお越しくださることも多く、一緒に作っていただいている感覚です。ちなみにもう7年も前の話ですが、先生は「もっけ」役のオーディションにも参加されていましたね(笑)。
第2期の制作が決まったきっかけは?
片山 『地縛少年花子くん』(以下、『花子くん』)は、アニメを支持してくださるファンの方をたくさん獲得できたことや、スタッフやキャストの皆さんと楽しく前向きに作品作りができたことで、続編制作への熱量が内外で高い作品でした。私も幹事プロデューサーとして「どうしても第2期を作りたい」という気持ちが強く、調整を続けたことでようやく実現に漕ぎつけました。
2020年の第1期放送から第2期まで丸5年かかってしまいましたが、ショートアニメプロジェクトを立ち上げて、視聴者の皆さんの熱を保てるような施策にも取り組みつつ、じっくりと制作できたと思います。
アニメ化にあたり、こだわったところは?
片山 原作は、個人的にコマ割りを含めて描き方が他の漫画作品と違うなと思っていて、瞬間瞬間で絵画的な印象を受けました。第1期の絵作りでは、原作の良さを『花子くん』のアニメらしさとしても出せるように、スタッフ間で心掛けて制作してもらいました。
ちなみに第1期は安藤正臣監督、『放課後少年花子くん』が北村真咲監督、第2期は福井洋平監督と、実は3シリーズ全て監督が異なります。
第2期の福井監督には、これまで大切にしてきた世界観を生かしていただきたいとお伝えしています。第2期は物語の内容が進むにつれてキャラクターの背景描写がどんどん深くなっていくので、第1期とはまた異なる作品のように展開していきます。
第2期は、よりダークな世界観に
ズバリ、第2期の見どころを教えてください。
片山 実は、第1期のときは続編の制作は決まっていませんでした。ですから第1期では全12話で楽しんでいただけるよう、原作順に追っていくとどうしても中途半端になってしまう部分は入れずに制作しました。
第2期では、第1期で入れられなかった「三人の時計守」のエピソードなどを含めて存分に描いています。まずは、ここが一番大きな見どころです。
そして、かなりダークな内容になってくるので、第1期とは全然違う作品のように感じるかもしれません。見ている方に、より“沼”にハマっていただきたいですね。
さらに、ストーリーやキャラクターに合わせた色使いにも注目していただきたいです。原作漫画の絵画的な世界観を表現するために、第2期でも一つのシーンに細かい描写がいろいろ詰め込まれています。
『花子くん』は海外でも大人気と聞いていますが、反響はいかがですか?
片山 新しいPVを出すとコメント欄は日本語のほか英語やスペイン語、韓国語などいろいろな国の言語でコメントされるので、さまざまなエリアの方に見ていただけているのかなと思います。特に北米エリアのファンの方たちに大きな支持をいただいています。
原作漫画は海外版があり、北米でものすごく売れているそうです。原作を先に読まれていた方のほか、アニメから入って漫画を読まれた方もたくさんいらっしゃると聞いてます。
また、北米のライセンシーさんからは「『花子くん』は北米で大人気だけど、人気になったポイントが因数分解できない作品だ」と言われたのが印象的でした。ライセンシーさんは、作品を分析してヒットした要因を見つけ、それに合わせてその後の作品を買い付けされるのですが、『花子くん』のような流行の仕方は他の作品では見られないようで、特別な作品だそうです。
個人的にはキャラクターの描写と関係性の構築の仕方が秀逸なんじゃないかな、と感じています。
主人公の花子くんは一見すると友達のようなフレンドリーなキャラクターですが、実際はすでに亡くなっている地縛霊です。それをふと思うと、ぞわっとした怖さを感じますよね。寧々ちゃんとどれだけ心を通わせたとしても、二人は亡くなった人と生きている人であって…これは他の作品ではあまりない設定です。日本でヒットした理由も、あいだ先生が描く独特のビジュアルとキャラクターの描写にあると思います。
海外のイベントにも参加されているそうですね。
片山 2024年は、ロサンゼルスで行われている「AnimeExpo」(※2024年は約40万人が訪れた全米最大級のアニメイベント)に参加し、『花子くん』のブース出展と、先行上映会をやらせていただきました。特に印象的だったのは、日本とアメリカでのコスプレの捉え方の違いです。日本ではコスプレイヤーさんをみんなが写真を撮ってその完成度を評価し合うような文化があるように感じていてそれも素晴らしいと思っていますが、アメリカはもっとカジュアルで、自分で作ったものを身につけてキャラクターになりきっていて、自ら楽しんでいる方が多いように思いました。女性が花子くんのコスプレに挑戦されている姿が多く見られましたね。
2020年からアニメ続編を待っているファンに一言お願いします。
片山 「お待たせしてすみません」という気持ちもありながら、「ついに第2期ができました!」とご報告したいです。できる限り長く続けられるように今後もいろいろな施策を考えていくので楽しみにしていてください。
それと第1期は限られたエリアでの深夜放送でしたが、一度にたくさんの方に見ていただきたいなと思い、今回は夕方の全国ネットで放送できるよう各所に提案して動きました。ぜひ多くの皆さんにご覧いただきたいなと思います。
営業時代の出会いが今のアニメ制作にもつながる
ところで、片山さんはなぜTBSテレビに入社されたのでしょうか。
片山 ドラマや情報バラエティなど、TBSのテレビ番組が好きだったからです。私の学生時代は脚本家・野島伸司さんのTBSドラマが盛り上がっていて、皆で学校で話題にしていました。一番好きだったのが『未成年』(1995年)、社会問題に向き合うシリアスな内容のドラマでした。私と同じ頃に入社したTBSの人間は『未成年』に憧れて入ってきた人が多いんではないでしょうか。
アニメとゲームもずっと好きで、ゲーム会社への就職も視野に入れていましたが、当時はクリエイティブな仕事は理系に関する知識や技術が求められていたことから、文系の自分は勝手に諦めました。
入社当初はどんなお仕事をされていましたか?
片山 入社から約10年間は営業を担当していました。映画・アニメ事業部(※現在はそれぞれ独立した部署)には数年希望を出し続けていて、2017年に異動しました。入社のきっかけはドラマでしたが、30歳を過ぎていたので、自分が挑戦したいことで貢献できそうな分野はアニメだと思ったんです。
それと営業時代はゲーム会社さんを担当していて、その流れで仲良くなった方が何名かいらっしゃいます。当時はアニメとゲームがクロスメディア展開して、成功した作品が多い時期だったので、アニメなら営業で培った人脈や知識を生かせるのではないかと思ったのも理由の一つです。
異動後は、初日からいきなりアニメのプロデューサーを任されました。もちろん、上司がついていてくれましたが、無我夢中でやっていましたね(笑)。『花子くん』も異動からわずか3か月くらいで任せてもらった作品です。
ご自身の転機になった作品は?
片山 『花子くん』もそうですが、2018年の『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』は大きな転機になった作品です。ブシロードさんと制作したオリジナルアニメで、私は幹事プロデューサーではありませんが、2番手のプロデューサーとして関わらせていただきました。
ゼロから作るオリジナルアニメは、長いキャリアがあるプロデューサーが取り組んでも、なかなか成功するものではありません。なおかつ、この作品はアニメだけではなく、アニメ・ゲーム・舞台のメディアミックスのプロジェクトです。それぞれターゲットが異なるので、どちらも満足してもらうような作品を作るのは簡単ではありません。
そんな一大プロジェクトに、自分のアニメキャリアの早い段階で関われたことはとても勉強になり、アニメプロデュースをするうえで、考えの礎を作ってくれた作品でもあります。脚本はもちろん、キャラクターの誕生日など細かな設定までみんなで作り上げたのはとても楽しかったです。
それと、このプロジェクトはブシロードさんやポニーキャニオンさんのプロデューサーとご一緒させていただいたのですが、皆さん比較的年齢が近くて、アニメが好きなだけで営業しか経験がなかった私をとても優しく受け入れてくださいました。同世代のプロデューサーと一緒にこの作品を盛り上げられたのは、キャリアとしてもすごく良い経験になりました。
このお二人は、実は僕が今手掛けている別のプロジェクトにも参加してくださっています。この出会いがなければ、もしかしたらその企画も立ち上がっていなかったかもしれません。
片山さんがアニメをプロデュースする上で大事にしていることは?
片山 制作のスタッフィング、製作委員会を構築する段階に最も注力しています。アニメは制作に2~3年かかるので、その間にいろいろなハードルが出てくるものです。ですから、同じくらいの思いや熱量がないと、乗り越えられません。そこで自分の描きたい世界を何倍にもしてくれるような、信頼できるパートナーを集めることが大事です。あとは、自分が皆さんをうまくまとめていくのが成功の秘訣かなと思います。
今後はどんな作品を作っていきたいですか?
片山 どんなジャンルでも作ってみたいなと思っています。概念的な話にはなりますが、見た方が「何か新しい体験ができた」と思ってくださるようなアニメの制作に携わりたいと思います。ヒットする作品を作りたいというより、「今、ないものを作りたい」という気持ちが強いですね。
最後に、アニメ制作の仕事を目指す就学生に向けて、メッセージをお願いします。
片山 アニメの面白さは、アイデア一つで全てを作れるところだと思います。実写作品だと人が演じる前提があったり、CGやVFXがあるとはいえ、生で撮るには向いていないジャンルもあったりしますが、アニメなら制限がありません。例えば、実写作品は漫画や小説を原作とすることが多い一方、アニメなら動物の図鑑を原作として作品を作ることもできます。
ですからアイデアをいかに生み出せるか、という点が大事になってきます。おすすめは、書店に行くことです。書店には自分が普段接することのないジャンルの作品も置いているので、今までにない考えが生まれやすいと思っていて、私を含めてうちの部員はよく書店に行く人が多いです。
ほかにも、「エンタメ」と名の付くものに、あまり選別せず接しておけば、アニメ制作にも生かせるはず。アニメが好きだからアニメだけを見るのではなく、いろいろなジャンルに触れることで、良い作品が生まれるんじゃないかと思います。
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片山悠樹
2006年TBSテレビ入社。アニメ映画イベント事業局 アニメ事業部。
プロデュース作品は『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』『推しが武道館いってくれたら死ぬ』『プラチナエンド』『アンダーニンジャ』『ラーメン赤猫』など多数。
『地縛少年花子くん2』©あいだいろ/SQUARE ENIX・「地縛少年花子くん2」製作委員会