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番組を視聴者に届ける「マスター」はテレビ局に必要不可欠な“心臓”部、活躍中のTBSアクト若手担当者に聞く放送の裏側

テレビ局には、放送するすべての素材(生放送番組・収録番組・CM・データ放送など)を集約し、それらを番組編成の時間で組み立て、東京スカイツリーなどの送信所や系列局に送る主調整室(別称:マスターコントロールルーム、以降「マスター」)があります。
TBSテレビにおいてマスターの運用・管理などを担うのが、「送出」部門。放送に必要不可欠で「心臓」ともいえる重要な役割を持つ部署には、どのような業務があるのでしょうか。TBSアクトのステーション本部送出二部に所属し、送出業務を担当する山川由弥に話を聞きました。
野球延長やJアラート対応等…監視以外の業務もさまざま
まずは、送出部門の仕事内容を教えてください。
山川 送出の業務内容は大きく分けて二つ、放送に関わる「オペレーション業務」と放送設備に関わる「設備業務」があります。
はじめにオペレーション業務ですが、とても細かく分かれています。
監視卓に座って、オンエアを監視する「監視業務」のイメージが強いかもしれませんが、生放送番組前にあらかじめ組んだ放送データと番組のQシート(※CMや提供クレジットが入るタイミングなどを記した用紙)との差異を確認する「オンエア前チェック業務」や、事前にマスターへ送られてくる送出データ等を確認する「転送確認」、さらにニュース速報等を出す「速報送出」、災害時に特番へ切り替える「特番対応」、スポーツ番組などで放送時間を変更する「延長対応」などがあります。
簡単に言うと、今放送している内容の監視をしつつ、これから放送を控えている内容をチェックする。事前に、事故を起こす可能性を極限までゼロにする必要があるので、人の手でできる限りの対応をしています。
監視のため、マスターにはたくさんの画面が並んでいますね?
山川 地上波で流す映像や音声は多くの機械を通して「電気信号」に変換され、関東では東京スカイツリーに伝送されたのち、各視聴者に届きます。マスターには、「“JNN系列28局へ伝送する全国ネット向け”や“関東ローカル向け”に送出した映像」、「東京スカイツリーに送って戻ってきた映像」などの画面を並べて、監視できるようにしています。実は電気信号に変換する過程で、多くの機器を通るうちに微少の遅延が発生するため、監視画面で比べると映像は少しずつずれが生じます。
さらに地上波だけでなく、「BSデジタル放送」や「配信のTVer」を監視する画面もあります。
監視業務はどのような仕組みで働いているのでしょうか。
山川 監視業務は24時間を「早番・遅番・夜勤の3交代制」で行い、1日に多くの人が入れ替わりで働いています。
マスターはデスクが3列に分かれていて、最前列の監視卓にはオンエアの「監視者」、2列目にデータ等の事前チェックを行う人がいます。3列目には災害などが発生したときの最終判断を行う「放送指揮者」が控えます。監視業務は1時間交代で行っていて、1日で1人につき約3回まわってくる仕組みです。
バラエティの途中に急に報道番組に切り替わることがありますが(通称:カットイン)、そのカットイン作業は監視者が行います。2024年元日に起きた能登半島地震のときも、元の番組から報道特別番組に切り替える作業を行いました。
ちなみに監視は地上波だけでなく、BSデジタル放送や配信のTVerにも一人ずつ監視要員がついています。
監視業務で心掛けていることはありますか?
山川 例えば生放送番組で、ロケ先からの中継映像などは電波の関係で乱れることもあります。そういった乱れなどを見逃さないために、集中力を切らさないよう意識しています。また、番組の演出でノイズの効果音や無音のシーンがある場合は、あらかじめ部内に周知し、その放送時間の監視者が注視できるようにしています。
ちなみに、シフト勤務なので生活リズムが乱れてしまうことは悩みです。特に夜勤中に眠くなってしまわないよう、各自が自分なりに睡眠調整を行っています。

特番放送時は人数が増えるのでしょうか。
山川 基本的にオペレーションに関しては人数は変わらず、特番やスポーツイベントの場合も初動は3人です。ただし、野球中継などの延長がある番組には延長対応の人員を一人つけることもあります。ほかにも応援で部員が駆けつけてくれることもあります。
延長の場合はどんな対応をしますか。
山川 スポーツなどが延長になった場合は、すでにデータを組んだ編成から、番組の放送時間を延ばす必要があります。以降の番組は後ろにずれてしまうので、「吸収処理」を行います。
例えば、2024年に放送された『世界野球 プレミア12』では、1時間延長した日がありました。その後の番組はすべて1時間押しになるわけですが、これを調整するために、深夜~早朝の『TBS NEWS』の放送時間を短くする処理を行いました。
あらかじめ延長を想定して番組データを作っているので、この処理を行えば時間が足りるようになっています。データを作っている「放送実施部」と連携して業務を行っています。
緊急事態発生時に担当されたことはありますか?
山川 何度か経験がありますが、初めて担当したのは配属2年目のときです。夜勤で「あと30分で勤務が終わるな」と思っていたところに、政府から弾道ミサイルによる「Jアラート(全国瞬時警報システム)」の情報伝達がありました。放送ではミサイル発射の速報を送出、Jアラート特番に切り替えを行いました。ちなみにJアラートが発令された際は100%、特番に切り替えます。
配属して初めてのJアラートで、しかも特番放送という状況でしたが、普段から訓練を行っていたおかげで、考えるより先に体が動いてスムーズに特番体制に入ることができ、勤務後にホッとしたことを覚えています。
日々、放送事故が発生しないように訓練されているそうですが、どんな訓練でしょうか。
山川 部署の訓練担当者が、実際に起こった過去の事例や、「この編成・時間にこういう事が起こったらどう対処すべきか」などの課題に基づくシナリオを作成します。それに沿って平日の毎日15時台に1時間ほどの訓練を行っています。

続いて、設備業務の内容を教えてください。
山川 マスターでは数千台もの機器を24時間365日稼働させています。放送を安全に送出するため、機器の定期的なメンテナンスを行い、故障を最小限に抑えることが大切です。一台につき約5年周期で行いますが、扱う機器が多いので常に何かのメンテナンスをしています。設備業務を行う部員は、専門分野が異なるいくつかの班に分かれて活動しています。
具体的には、機器の老朽化に伴い、定期的に「設備更新」を。それからメンテナンスを行い、故障を最小限に食い止めています。しかし、そんな対策をしていても、どこかしらの不具合は発生してしまいますので、そうした場合の「障害対応」も行っています。
最新の技術を取り入れ、より高品質な放送を実現するため、次世代設備の検討・開発も行っています。

TVerリアルタイム配信をより楽しめる技術の開発も
山川さんは、設計・開発において新たな分野を手掛けられているそうですね。その内容を教えてください。
山川 実施するかは検討中ですが、TVerでの配信に関することです。ご存じの通り、TVerでは地上波と同時に同じ番組を配信する「リアルタイム配信」を行っています。現在はゴールデンタイム帯の時間に地上波と同じ番組のみを配信していますが、今後は地上波と異なる配信独自の番組を編成できる仕組みを作りました。
例えば、昼間『ひるおび』を放送している間、現在のTVerではリアルタイム配信を行っていませんが、その間に別の番組を流すことが技術的に可能になったのです。
この新分野を始めることになったきっかけは?
山川 配属から2年間はオペレーション業務のみでしたが、3年目に念願かなって設備業務を行う班に参加させてもらいました。今からでも関われるプロジェクトがないか、先輩に相談したところ、「配信改修の伝送系のチーフをやってみようか」と、このプロジェクトを任せてもらえることになりました。10人ほどのチームで、約2年前から動いています。
具体的にどんな作業があったのでしょうか。
山川 TVerに配信するにあたって必要なシステムのバージョンを変えるなど、機器メーカーさんとも協力しながら作業を進めてきました。
TVerの配信にも、地上波と同様に送出業務がありますが、システムの変更に伴い、その業務の内容も変わってきます。これまで手作業で入力していた情報を上位のシステムで設定できるようになったり、リアルタイム配信でも特番や延長対応があるのですが、その際のオペレーターの作業が大幅に簡素化されたりと、さまざまな業務において効率化が期待できます。
放送の中核を担い、やりがいはひとしお。充実した環境も魅力
ところで、山川さんはなぜこの仕事を選んだのでしょうか?
山川 きっかけはTBSの「1dayインターンシップ」に参加したことです。情報系の学科で学んでいたこともあり、当初は通信系の会社への就職を考えていました。しかし社員の方々のお話を聞き、マスターの中も見学させてもらい、放送を支える業務に魅力を感じました。先輩社員が会社に必要とされている姿を見て、私もこうなりたいと思うようになりました。
部署の雰囲気はいかがですか?
山川 とても和気あいあいとしたアットホームな雰囲気です。男性が多いイメージがあるかもしれませんが、ここ数年で女性も増え、20代だけで言えば男女の比率は同じくらい。基本シフト勤務のため、休みは人によってバラバラですが、スケジュールが合うメンバーでスポーツをしたり、ライブを見に行ったりと、部員の仲は良いと思います。
業務での送出部門の魅力は、機器のマニュアルが非常に充実していたり、約半年間の研修制度も設けていたりと体制が整っていることです。文系出身の方やこれまで技術に触れてこなかった方も、一人でオペレーションできるようになれます。
長年経験されているベテランの先輩方もいらっしゃるので、過去にあった災害の対処法を教えていただいています。
この仕事のやりがいを教えてください。
山川 私が保守メンテナンスや設定を行った後に、その設備を通して放送・配信が無事に行われた時は感動します。 ほかにも、特番発生時や延長対応の時などは、普段行っている訓練が生かされる瞬間でもあるので、やりがいを感じます。
送出はオンエア監視のイメージが強いかもしれませんが、事前準備や設備の保守もあります。それに、地上波放送だけでなく、BSやTVerなどの配信にも関わっています。
そもそも送出部門がないと放送が成り立たず、放送の中核を担う「心臓」のような部署だと思います。何千人という人たちが頑張って作ったものを最終的に請け負って全国の皆さんに放送する、とても責任重大でやりがいがある仕事です。
業務にあたって、必要な資格などはありますか?
山川 必ず持っておかなければならない資格はありません。しかし、今後さまざまな設備のIP化が進むにつれてネットワークの知識が必要になってくるので、あらかじめ勉強をしておくといいかなと思います。当部署でもネットワークに詳しい先輩が講師となり、毎週ネットワーク勉強会を開催してくださって、部員は知識を深めています。
私は情報系の学科でネットワークやセキュリティについて学びましたが、入社4年目の今、その知識がとても必要になっています。もっと勉強しておけばよかったな、と思うこともあります。
最後に、就活生へのメッセージをお願いします。
山川 テレビ局には、番組を作るプロダクション系の仕事以外にも、番組を届ける送出のようなステーション系の仕事など、さまざまな業務があります。どれも、視聴者の皆さんにTBSの番組を見ていただくための大切な仕事です。
各々、得意分野や学生時代に学んできたことがあるでしょうが、TBSグループには、それを生かせる仕事がきっとあると思います。ぜひTBSグループの一員として一緒に仕事しましょう!
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山川由弥
2021年TBSアクト入社。ステーション本部送出二部にて、送出業務を行う。
地上波・配信オペレーション業務、設備更新・メンテナンス業務などに携わる。
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