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挑戦者をどう捉えるか。TBSアクト中田学・明石諒に聞く、『SASUKE』撮影現場の裏側

1997年からTBS系列で放送されている人気番組『SASUKE』。第41回大会を迎える今年は、12月27日に放送されます。10月には、2028年ロサンゼルス五輪で『SASUKE』を基に考案された障害物レースが採用されることが決定し、話題となりました。放送の枠を超えた『SASUKE』の広がりについて、各分野の担当者に裏話などをうかがいます(全4回)。

今回は、『SASUKE』の照明を担当するTBSアクトの中田学と、撮影を担当する明石諒に話を聞きました。

一番大事なのは、挑戦者の熱意を映像で伝えること

『SASUKE』の撮影はどんな風に行われているのでしょうか。撮影、照明の立場からそれぞれ教えてください。

明石 撮影でいうと、ステージ全体にカメラを置いたらすごい台数になってしまうので、スポットごとにカメラマンを配置し、挑戦者と並走しながら撮っています。例えば、スタートを撮るカメラマンは、撮り終わったら2ブロック先に走って先回りする、というような感じです。人が直接操作するカメラが16個、セットに固定するカメラもいくつか置いてあります。通常のレギュラー番組と比べるとはるかに多い数ですね。

『SASUKE』撮影スタッフ
『SASUKE』撮影現場の様子

中田 照明で言うと、ファーストステージは昼間、セカンドステージ以降は夜に撮っています。ファーストステージは逆光になるので、影にならないように照明を当てることと、一般の方も多いので、お祭り感を出すことを意識しています。昼間は照明がついているかどうかは見た目ではほとんどわかりませんが、足りない部分を補っていくような感じです。

セカンドステージ以降は、総合演出の乾雅人さんが「セカンドステージは(ゲームの)スーパーマリオブラザーズの「1-2」みたいにしたい。地下に潜ったあの世界感がいいんだよな」と昔からよく言っているので、そのイメージをなんとなくキープしながら徐々に怪しさを増していきます。ファイナルステージでは、大きな構造物と小さい人間の対比を表すように意識しています。

それぞれ大事にしていることは何ですか?

明石 競技をしっかり撮るというよりは、その人自身を撮ることを意識しています。例えば、ファーストステージの最初で落ちてしまったときに、どう表現していくかというと、出場者の方には申し訳ない部分もありますが、視聴者の方が見ておもしろいと感じる雰囲気も醸し出すように指示しています。序盤からテンションが下がるような映像作りにしてしまうと、見ていて気持ちよくないですからね。

中田 一番大事なのは、やっぱり挑戦者の熱意だと思います。『SASUKE』はもともとこの世になかったのに、『SASUKE』を中心に考えて生きる人が出てきて、今や世界規模のものになった。人の熱意から世界まで広がったというところをどう表現できるのか、その辺の映像作りはおもしろいと思います。

どういうところが難しいですか?

明石 挑戦者と同じく、僕らもその神経勝負を撮るのは一発勝負なので、その点はシビアなところはあります。システム的な話で言うと、今まではアナログチックな収録スタイルでしたが、今は時代のニーズに合ったデジタルなものに変換しています。

中田 緑山の現場は野外なので、天井がありません。照明は天井が命ですが、天井がない中で作るというところと、コンセントもないので、全ての電源を緑山に全部引かなければならない。そこは他の番組とは違いますよね。

あとは、ただでさえ照明の表現は難しいのに、テレビ照明となると映像がプラスされてくるので、映像を作り上げていくことに時間がかかるところですかね。

TBSアクト中田学、明石諒

雨や雪が降ると、ものすごく綺麗な映像が撮れる

お二人は『SASUKE』に携わるようになって長いですか?

明石 TD(テクニカルディレクター)として担当するようになったのは、まだ2回目です。それまではカメラアシスタント等で参加していました。

中田 僕は入社当初から携わっています。LDとしては第17~18回大会くらいからだと思います。ずっと走り回って泥だらけになりながらやっていました。

『SASUKE』の収録は年に一度です。撮影チームの方は普段どんな仕事をしていますか?

明石 カメラでいうと、僕を含め、基本はスポーツ全般を担当しています。野球、サッカー、バスケ、何でもやってます。素早い動きを撮影することに慣れているスタッフで『SASUKE』を撮影しているというわけです。

中田 僕は普段は音楽番組など様々な現場を担当しています。『SASUKE』では、LD(ライティングディレクター)として僕が「繊細な顔周りのところはドラマ班の方がいいかな」といった感じでスタッフを割り振っています。なので、『SASUKE』照明チームは様々な現場の人を集めていますね。

今年の収録はいかがでしたか?

中田 収録日本番はずっと晴れていましたが、バラシ(撤収)の日は台風並みの大雨で、ファイナルステージがバラせなくて大変でした(笑)。15年くらい前は、現場に雷が落ちたこともありました。技術的なことよりも、天候に左右されることが大変です。電源も止めないといけないし。

でも、照明的には本番だけ雨や雪が降ったら嬉しいですね。ビーム照明を投影するために煙を炊くのですが、野外だから煙がたまらないので綺麗に見せることが難しいんですね。だから、雨や雪が降ると、その雨などに照明が映し出されて映像がすごく綺麗になって最高なんですよ。ただ、カメラマンと競技者からしたら、最悪ですよね。

明石 最悪ですね。機材が濡れちゃうし、足場が悪くなって走れなくなるし、いいことはないけど、ドラマは生まれますよね。でも、今年は珍しく緑山の地盤が固くて走りやすかったです。毎年、雨が降って、みんな泥だらけで帰ってきていたので。

撮影者・照明者として、今年の見どころは?

中田 担当して長いので、よく見どころを聞かれますが、全部通して見た方がいいと思います。順番があるからこそおもしろくて、ピンポイントで見ると逆にそのおもしろさがわからないかもしれません。あとは、サスケくん(森本裕介さん)のように難関エリアをどんどんクリアしていく挑戦者を見るのはおもしろいですよ。

明石 今年は有観客で収録したので、挑戦者のテンションがだいぶ違うと思います。後ろにお客さんがいるというだけで、映像的にも天と地の差。挑戦する方も気持ちいいですし、撮る側としてもお客さんがいるとさらに気合が入ります。

TBSアクト中田学

良い映像作りには、現場でのコミュニケーションが必須

ところで、お二人はなぜ今の仕事を選んだのでしょうか?

明石 僕は子どもの頃から父親のカメラを触っていて、小学校の卒業アルバムに「テレビカメラマンになる」と書いていました。大学では観光情報学を勉強していて、旅番組とスポーツが好きでしたが、カメラマンのことはすっかり忘れていて、販売業の内定が決まりました。でも、親から「あんたカメラマンになるんじゃないの」と言われ、「そうだった」と内定を全部蹴って専門学校に入り直し、今に至ります。

中田 僕は当時付き合っていた彼女が木村拓哉さんのファンで、木村さんが照明の仕事をしているドラマがあったので、言われるがままに照明を学ぶ専門学校へ行きました。でも、個人的には照明にあまり興味がなかったので、就職活動のときはどうするか悩んでいました。すると、普段は全然口を利かない父親が「男は一生仕事しろ。金を稼ぎ続ければ何でもいいから」とだけ言ってきました。働かない時期があることが男として絶対NGだったんですよ。だから、流れで照明会社を受けて、以来ずっと照明の仕事をしています。

撮影・照明・音声は現場の三大技術と言われますが、意見が割れることもありますか?

明石 ここ最近はあまりないですね。現場でもマネジメントでも、フランクによく話ができていると思います。パワーバランスでいうと、昔は照明が強かったです。今も出演者は照明とメイクと話をする機会が多いと思います。

中田 照明は昔気質の人が多く、以前は言葉も素行も悪い人が多かったように思います。でも、そんな人が現場でハッとするような繊細な色を出すところを見て、この仕事に魅力を感じました。

良い映像を作るためには照明やメイクの技術ももちろん大事ですが、一番大事なのは番組をより良いものとして進めるためにコミュニケーションをとることだと思います。

撮影と照明、それぞれ海外のテレビ局やスタッフとの違いや、差を感じる部分はありますか?

明石 海外の方がスキルが高いと感じる部分もありますが、日本も負けていません。例えば、ピッチャーの手元を映すカメラを初めて導入したのは、元をたどるとTBSグループの方なんです。それを脈々と受け継いでいるので、まだメジャーには負けていないかなと思います。

中田 照明に関しては、海外にはいろいろな肌の色の人がいるので、肌に合わせた色の使い方をしているように感じます。考え方は日本と結構似てますね。ただ、日本の方が繊細だと思います。

最後に、現場で働くことを目指す就活生にアドバイスをお願いします。

明石 カメラは撮影スキルというよりも、コミュニケーション能力が大事だと思います。カメラマンは制作スタッフや出演者、照明などみんなと話さなければ仕事にならない。それができないと完全に孤立してしまいます。カメラ技術は練習すれば誰でもうまくなるから大丈夫です。

中田 僕は先輩から「本を読みなさい」とよく言われていました。表現する前の段階で、自分の中ではそれが何色なのか、例えば夕日が出てきたとしたら、その夕日は本当に赤色なのか、というものを自分の中で考える作業をしなさいと。あとは、時間があるうちにいろいろなものを見ておくといいと思います。

TBSアクト明石諒

中田学
TBSアクトデザイン本部照明技術部。2000年ティエルシー(現TACT)入社。現在のレギュラーは『SASUKE』『CDTVライブライブ』。一児の父。

明石諒
TBSアクトプロダクション本部撮影技術部。
2007年 東通(現TACT)入社。入社時より中継撮影の部署を担当。現在は駅伝やマラソンなどのロードレースやフィギュアスケートを担当。妻と子供2人の4人家族。

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