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番組のキモは編集にあり!TBSスパークル岡崎正宏に聞く、意外と知らないテレビ番組編集の世界
テレビ番組の制作には多くの技術スタッフが関わっています。撮影した内容の全てを番組にするのは困難で、映像をテーマに基づき取捨選択してつなぐ“編集者”の存在が欠かせません。編集者は、時に番組全体の構成を考えるなど、番組制作の根幹に関わっています。
その手腕を評価され、数々の賞を受賞したのがTBSスパークルの岡崎正宏。実はあまり知られていない編集者の仕事について、話を聞きました。
生放送番組の編集は瞬発力がカギ
岡崎さんは、どんな番組の編集を担当しているのでしょうか。
岡崎 僕が所属する「映像編集部 番組編集セクション」は、主に生放送番組のVTR編集を担当している部署です。普段は『THE TIME,』『ひるおび』などの情報番組を担当するほか、『世界遺産』『ガイアの夜明け』(テレビ東京)、NHKの番組など紀行・ドキュメンタリー系の編集も手掛けています。TBSスパークルが制作する他局の番組や他の制作会社の番組を、指名をいただいて担当することもあります。
生放送番組とドキュメンタリーの編集では、どんな違いがありますか?
岡崎 編集には「オフライン編集」と「オンライン編集」の2種類があります。オフライン編集は映像素材をつないで番組の骨組みを作るまでの作業。一方、オンライン編集はその先の工程。映像加工やテロップ・音楽・ナレーションまで入れて番組を完成させる作業で、ポストプロダクションのスタッフが担当します。
ドキュメンタリーなどの番組では、1~2名の編集者がオフライン編集を担当します。長い時は1か月以上の時間をかけ番組全体を編集し、オンライン編集に引き継ぎます。
生放送番組の場合は、番組内で放送する大量のVTRを、たくさんの編集者が短時間で編集します。多くのVTRは、同じ編集者がオフライン編集・オンライン編集両方の作業を担当します。
生放送番組の映像はどんな流れで編集しているのでしょうか。
岡崎 まずはディレクターがVTR原稿を書き、プロデューサーなどがチェック。それをもとに映像素材でVTRを作ります。生放送番組の編集は放送までの時間が限られるため瞬発力が求められます。OAの時間が迫る中、ギリギリまで編集していることも珍しくありません。毎日届く膨大な量の映像素材と、少ない時間を相手に、スタッフは日々奮闘しています。
生放送番組の編集経験は長いですか?
岡崎 入社後、最初の配属が「ニュース編集部」で、ずっとニュース番組の編集をしていました。その後、情報番組を編集する「番組編集部」へ異動になりましたが、仕事の幅が広がるようにと当時の部長やデスクが他にもいろいろな番組を任せてくれるようになりました。(※「ニュース編集部」「番組編集部」は当時の名称)
当時の僕にとっては『夢の扉+』(2016年終了)や『ガイアの夜明け』など、ハードルが高い番組ばかりでしたが、おかげで番組の作り方が少しずつわかるようになりました。それまでは一部のVTRを作る仕事でしたが、“一つの番組全てを一人で考える”という経験はとても大きかったです。以降、ドキュメンタリー番組の仕事も徐々に増えました。
ドキュメンタリー番組の編集では、構成を手掛けることも
岡崎さんはNHK Eテレで2022年11月に初回放送されたドキュメンタリー番組『ブラッドが見つめた戦争 あるウクライナ市民兵の8年』(以下、『ブラッドが見つめた戦争』)で編集を担当。「第29回日本映画・テレビ編集協会賞(JSE賞)」などを受賞されました。この番組の編集は、他のドキュメンタリー番組と何が違うのでしょうか。
(※「日本映画・テレビ編集協会賞(JSE賞)」とは、協同組合「日本映画・テレビ編集協会」が1年でもっとも優れた映画・テレビ作品の編集者を顕彰する、編集者が選ぶ編集賞。劇場映画・放送作品各1名ずつ選出しています)
岡崎 ウクライナの戦争の最前線で映像を記録・SNSで発信し続ける市民兵のブラッド。その“映像日記”をもとに、彼の8年間の心の軌跡を描いたドキュメンタリーが今回の番組です。ごく普通の青年だったブラッドが、戦争から抜け出せなくなっていくさまを追っています。“戦争が人にどういう影響を与えるのかを見せたい”というのがディレクターの思いでした。
通常、ドキュメンタリー番組はディレクターを中心に制作チームが撮影し、撮りためたものをまとめて一つの番組を作ります。ロケがないということはほとんどありません。
しかし、『ブラッドが見つめた戦争』ではインタビューと資料映像以外は全てブラッドが撮影した映像素材で作られています。8年間、目の前で起きたことをとにかく記録し続けた映像は約500時間あり、それを一つの番組にまとめるのはとても難しかったです。作ろうとしている番組の内容に沿って撮影された映像素材ではないので、各シーンをどうやってつなげていくか、そのストーリーテリングに一番苦労しました。
そもそも、この番組に携わるようになったきっかけは?
岡崎 この番組の制作は「オルタスジャパン」と「NHKエデュケーショナル」ですが、かつて『報道特集』でキャスターを務め、今はオルタスジャパンに所属している吉岡攻さんからご指名いただいたのがきっかけです。今作では吉岡さんがプロデューサー、そしてオルタスジャパン入社2年目(当時)の方がディレクターデビューの番組になるので、全面的に任せたいとご依頼いただきました。
吉岡さんは長年、日本の報道界を引っ張ってこられた方ですが、ご自身の意見を押し通そうとはしません。譲れない部分では引き下がりませんが、他者の意見も取り入れてくれる大きな度量があります。
僕は、時には吉岡さんの考えと反対になっても「こうした方が視聴者に伝わるのではないか」と思った時には正面から意見を伝えたり、自身の判断で構成やナレーションを変えることもあります。吉岡さんは、そんな僕のことを信頼してくださっているようです。これは他の方との仕事も同じで、ディレクターたちと意見をぶつけ合いながら、良いものを作るのが編集の仕事だと思っています。
JSE賞の授賞式には、吉岡さんもいらっしゃったそうですね。
岡崎 吉岡さんも駆けつけてくださり嬉しかったです。テレビにはいろいろな賞がありますが、日本は作品自体への賞がほとんどです。裏方に向けた賞は珍しく、特に編集者に向けた賞があると知らなかったので驚きましたし、光栄でした。
また、『ブラッドが見つめた戦争』は「第39回ATP賞テレビグランプリ ドキュメンタリー部門」の最優秀賞も受賞しました。
(※「ATP賞」とは、作り手である製作会社のプロデューサーやディレクターが審査員となり、すぐれたテレビ番組を顕彰する賞。『ブラッドが見つめた戦争』において岡崎さんは、JSE賞のほか「第76回日本映画テレビ技術協会映像技術賞」「第27回JNN技術賞 特別賞」も受賞)
『ブラッドが見つめた戦争』では、撮影者の思いを強く意識
『ブラッドが見つめた戦争』は、編集にどれぐらいの時間がかかりましたか?
岡崎 編集作業でいうと大体2か月ほどで完成しました。ただ、ブラッドは戦場で戦っているので、通信環境が悪くなかなか連絡が取れませんでした。編集期間中にリモートでインタビューを撮ることになっていましたが、通信環境が良い場所へ長距離移動する必要があるうえに、通信状況が悪化したり、戦況が変わって来られなくなったり…と、なかなか予定通りに進まず編集期間も大幅に延長されました。常に命の危険にさらされているので、連絡の途絶えた期間が1か月あったときには本当に心配しました。当初予定していた放送日よりもだいぶずれてしまったものの、とにかく放送できただけでよかったと思っています。
編集作業のなかで、印象に残っているシーンは?
岡崎 ブラッドを含めた小隊が初めて銃撃戦に巻き込まれたシーンです。銃弾が飛び交うなかでもブラッドがカメラを離さずに撮影した映像を編集しました。
このシーンは見ている方が画面に釘付けになるシーンにしようと意識して編集しました。現実離れしすぎてもいけませんが、報道番組であっても関心を持ってもらうためには映画を見ていると錯覚するようなシーンも必要だと思ったんです。このシーンの編集に数日間かけたことを覚えています。
戦闘シーンは、ドラマとは違って実際に起きていること。送られてきた素材には、ショッキングなものも含まれていたのでは?
岡崎 何を見せて何を見せないのか、それで編集の方向性も変わってきます。最終的な決定権はプロデューサーにありますが、ディレクターとどこまで見せられるのか丁寧に判断しながら作業を進めました。
僕自身は普段からニュース番組の編集で事故やテロの現場映像などを目にしていますが、この番組の作業では映像よりも、銃声や砲撃の音がきつかったです。多くの映像にその音が入っているので、編集中にだんだん頭が痛くなってしまい、街中でも金属音を聞くと跳弾の音に聞こえてしまったこともありました。
編集する際、大切にしていたことは何ですか?
岡崎 番組の編集を始めたのは、ロシアのウクライナ軍事侵攻(2022年2月)から半年経った頃でした。当時、ウクライナの街が爆撃された被害を伝える映像はたくさんありましたが、前線で兵士が戦っている映像はほとんどありませんでした。世界中から注目されるであろう貴重な映像を、責任を持って世の中に出そうと考えていました。
それにブラッドは元々映像制作の仕事をしており、僕と同じ編集者でもありました。本当は自分で編集して作品にしたかったろうと思います。ですから、彼が見てしっかり納得してもらえるようなものを作ろうと意識していました。
今回に限らず、カメラマンやディレクターが撮ってきた映像は宝物で、下手な編集をするわけにはいきません。それは20~30秒のニュースでも、1時間の番組でも同じです。映像素材を見ていると、「こういう風に使ってほしいんだな」とカメラマンの意図を汲み取れることもあります。映像を通して撮影者と会話するような気持ちで編集に臨んでいます。
ちなみに、ブラッドから番組の感想はありましたか?
岡崎 ディレクターは感想を聞いたものの、「それが本音かどうかはわからない」と言っていました。きっとブラッド自身には歯痒い思いもあったはずですが、世の中に出せたことは評価してくれたかなと思います。
編集に正解はない。番組制作の根幹に関わるクリエイティブな仕事
そもそも、なぜ編集の仕事をしようと思ったのでしょうか。
岡崎 実はもともと編集をしたいと思っていたわけではなく、マスコミ志望でもありませんでした。就職活動では興味のある企業をいくつか受け、ITベンチャーに就職しようとしていました。でも「何か違う」と思って取りやめ、縁あってTBSの報道局でADのような役割のアルバイトを開始。
そこである時、「UTYテレビ山梨」へ研修に行く機会があったんです。UTYは当時、カメラも編集も全て記者が一人で行っていました。私も一人の記者について、いろいろと体験しましたが、編集の仕事が妙に面白く感じました。それを機に編集の仕事を勧めてもらい、編集の会社があると知って試験を受け、今に至ります。
現在まで、どんな風に技術を磨いてきたのでしょうか。
岡崎 いろいろな仕事をやらせていただいて、さまざまな経験を積めたことが一番大きいと思います。新人の頃はなかなかコツが掴めず、時間もかかって…編集がオンエアに間に合わなかったこともありました。そんな失敗をしてもなお、編集を続けさせてくれたという点では、上司の肝が据わっていたのかもしれません(笑)。
編集の魅力は何だと思いますか?
岡崎 テレビ番組はカメラや照明、編集など、それぞれ誰が担うかによって全く変わってきます。特に編集は一番、番組に“自分らしさ”を込められるのではないかと思っていて、密かな面白さを感じています。あまり目立たないかもしれませんが、番組制作の根幹に関わる役割を果たしていて、影響力は絶大です。
また、たくさんある映像素材から一つの番組を組み立てていく作業は非常にクリエイティブ。完成した時はとても達成感があります。何かを作ることが好きな人におすすめです。
岡崎さんのような編集者になるには、どんなスキルが必要ですか?
岡崎 僕自身、まだまだ発展途上ですので偉そうなことは言えませんが、どんなスキルが必要かというよりも、「編集って面白い仕事だな」「もっとうまくなりたい!」と強く思えることが一番なんじゃないでしょうか。その気持ちがあれば、自然と自分のスキルを高める行動につながっていくと考えています。
また、どんなテーマでも臨機応変に対応できる柔軟性は武器になるかもしれません。そのテーマについて知っているか知らないかで編集も変わってきますので、雑学王のように知識を蓄えている方や好奇心の強い方は向いていると思います。
最後にTBSグループを目指す学生に向けてメッセージをお願いします。
岡崎 今はスマホが1台あれば撮影・編集・公開までできる時代、新卒で入ってくる若者たちはすでに動画編集の技術が高く、危機感を感じることもあります。しかし、やはりプロの品質というものがあり、TBSグループには制作はもちろん、カメラや音響効果、編集も含め、番組を作るために必要なセクションのプロが揃っています。自分のアイデアを高いレベルで実現させたい人にはうってつけの場所です。
さらにTBSスパークルなら、TBSの番組だけでなく、TBS以外の番組にも携わる機会があります。その局の看板番組に携わることもありますので、日本のテレビ業界の最前線に身を置くことだとも言えます。若者ならではの価値観やアイデアを巻き込み、未来のTBS、未来のテレビにつなげてほしいですね。
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岡崎正宏
TBSスパークル ニュース情報本部 映像編集部 所属
2005年、ジャパンエディターズユニオン(現TBSスパークル)入社。報道局にて報道番組の編集に従事。2010年より『あさチャン!』『ひるおび』『THE TIME,』など生放送の情報番組をはじめ、『世界遺産』『夢の扉』などTBSの番組を担当。
ほかにNHKをはじめ、各局の番組も多数編集している。NHK『ETV特集』『BSスペシャル』『アナザーストーリーズ 運命の分岐点』『サイエンスZERO』『ドキュメンタリーWAVE』、テレビ東京『ガイアの夜明け』『カンブリア宮殿』など。