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多数の企業を経て楽しい人生を。THE SEVEN井上衛プロデューサーが歩んだ異色の経歴

THE SEVENは、映画やドラマ他あらゆるエンターテインメントコンテンツのプロデュース集団です。TBSグループのグローバル戦略を担い、世界中のオーディエンスが楽しめる作品を続々と発信していきます。

2023年7月には、ドラマ『ダブルフェイス』や『MOZU』、東野圭吾などベストセラー作家の小説の映像化を手掛けてきた井上衛プロデューサーが参画。これまでどんなキャリアを経て、今後どんな作品を作るのか、話を聞きました。

新聞社、劇団四季を経て、WOWOWでドラマプロデューサーに

井上さんは新卒で新聞社に入社されたそうですね。

井上 メディア関係に就職したくて、たまたま受かった朝日新聞社に入社しました。文化企画局に配属され、講演会などや美術展の後援、表彰事業のバックアップ業務をしていましたが、気の迷いのゆえと言いますか、大学時代に遊び半分で芝居や映画をやっていたこともあり、エンターテインメントのビジネスをより現場に近いところで学びたいと思い、劇団四季に転職しました。劇団四季には5年弱在籍し、団体営業や宣伝、マーケティング等いろいろな業務を担当し、ちょうど30歳になったところで退職しました。

その後、WOWOWに入社されます。

井上 WOWOWはその当時、BSデジタル開局のタイミングで、中途を多く募集していまして、最初は宣伝担当として入社しました。当時のWOWOWは、映画や海外ドラマ、スポーツなど外部で作られたコンテンツを主に購入して放送していたのですが、やがて、他社との差別化を図るためにオリジナル作品を強化することになり、「ドラマW」というオリジナルドラマ制作プロジェクトが始まりました。

当時の編成局長が社内でドラマ制作に興味がありそうな人をピックアップしチームを作ったんですね。そこに自分は宣伝担当として入りました。社内の人間はほぼ全員ドラマ制作は未経験だったので、最初はアイディアも制作会社さんに頼りきりなところがありましたが、だんだんメンバーが自分たちで作り出すようになり、その様子を見ていたら、自分でもできそうだと勘違いしてしまって(笑)。そこからドラマプロデュースの道に進みます。

初めてのプロデュース作品は単発ドラマ『春、バーニーズで』ですね。

井上 プロデューサーとして最初に作るチャンスをいただいて、これしかないと。主人公の男性は子連れの女性と結婚して幸せに暮らしていたけど、ふと会社の帰りに一人で日光東照宮まで行く、表面的にはただそれだけの話なので、今なら絶対に企画が通らないと思います(笑)。でも、原作者の吉田修一さん、監督の市川準さんが素人の自分にいろいろなことを教えてくださって、主演の西島秀俊さんともお付き合いが始まりましたので、とても良い経験だったと思います。数字的な意味での「ヒット」はしませんでしたが、自分の気持ちの中では、未だに『バーニーズ』を超えるドラマは作れていません。

THE SEVEN井上衛

小説原作のドラマを多数手掛け、時には脚本も担当

TBSと共同制作の『ダブルフェイス』や『MOZU』も担当されました。

井上 この2作は本当に楽しかったです。WOWOWにいながらTBSさんとご一緒できたのは幸せなことだと思いますし、放送から10年以上経った今も「MOZUのプロデューサーですよね」と言われることがあります。なかなか、そういった作品には巡り合わないですよね。

『文豪少年!~ジャニーズJr.で名作を読み解いた~』では、ご自身で脚本を書いたそうですね。

井上 これは芥川龍之介や森鴎外などの文豪小説を現代版にアレンジし、若手の皆さんに演じていただくという企画で、書いていてとにかく楽しかったです。若い方にとって、文豪小説はあまり馴染みがないと思いますが、若手の皆さんを通して作品に触れるきっかけを作ることができたのは、些少ではありますが、エンタメの歴史に貢献できたような気がしてすごく意義がある仕事だと感じました。角川文庫さんとタイアップし、文庫本の売れ行きも上がったそうです。文豪のご子孫の方にはもちろん事前にお伝えしてご了承をいただいていましたが、嫌がられるかなという懸念もあった中、「若い方と繋いでくださってありがたい」という喜びのお手紙をいただいたりしまして、「やってよかった」と思える仕事です。

日本と韓国で映画化された『さまよう刃』も担当されました。この作品をドラマ化しようと思った理由は?

井上 『さまよう刃』は少年犯罪との向き合い方、そして、そもそも人が人を殺すとはどういうことなのかなど、人間にとって正解のない、でも誰もが考えなくてはならない要素が詰まっている作品です。原作の本質に迫るためには、いろいろな立場の人を複合的に描く必要があり、映画の尺ではどうしても描き切れていないと感じていましたので、連続ドラマ化したいとずっと考えていました。ちょうど少年法が改正され、成人年齢が20歳から18歳になるタイミングがありましたので、映像化の許諾をいただきました。

撮影時期はコロナ禍の真っ只中で、ドラマもハードな内容だったので、現場には緊張感が漂っていました。でも、スタッフさんも役者さんも、今こそ取り組むべきテーマだと思ってくださっていたように感じます。過激な描写もあったので、社内で議論もありましたが、自分としてはWOWOWという有料放送だからこそ実現できる、またしなくてはならない企画だと考えていましたし、結果として多くの方に視聴していただいたので、よかったと思います。

THE SEVEN井上衛

配信ドラマの制作は、発想の転換が必要

WOWOWでのドラマ作りはいかがでしたか?

井上 当初はプロデューサーの数も少なく、地上波放送と同じことをやってもしょうがないという考えだったので、自分のような素人でも入りこむ余地がありました。当然のことながら時が経つにつれて結果を求められるようになりましたが、やる気があればできるという幸福な時代に、いろいろチャレンジできてよかったと思っています。

その後、WOWOWを退職されています。

井上 同じ会社にキャリアの最期までいることも、もちろん尊い生き方ですが、自分は一度きりの人生だから、体も頭も動くうちにいろいろな経験をしたいと思い、あてもなく退職しました。全然違う仕事をすることも考えていたのですが、ありがたくもお声がけをいただいて、BS松竹東急さんで開局記念ドラマを作らせていただいたり、大手芸能事務所さんから思わぬお誘いがあったりして。ただ、自分が与えていただいた場所で本当に役に立っているか、どこにいても、いつも不安になってしまうタイプなので、まあ、落ち着かないといいますか。

THE SEVENは『ダブルフェイス』と『MOZU』で信頼関係ができていた森井輝プロデューサーからお誘いいただき、入社しました。今は配信向けドラマの企画をいくつか動かしています。

配信ドラマを作るにあたって、WOWOWや地上波のドラマとはどんな違いがありますか?

井上 まず、スケジュール感が全然違います。例えばWOWOWでは企画立案から撮影、オンエアまで短くても1年から1年半ほどかけていましたが、配信向けの作品の公開はもっと長期スパンになります。

制作予算の考え方も異なります。日本のテレビドラマ制作においては、いかに予算を節約するかを考えがちでしたが、海外の配信会社さんは「必要なお金であれば使う」という方針。でも、単純に金額が多いということではありません。例えば予算がこれまでの10倍あったとしても、うまく使い切れないのであれば、良いプロデューサーとは言えません。ただ派手にすればいいのではないし、予算をかけずに同じ表現ができるならもちろんお金がかからない方がいい。メリハリをつけてお金を使うことにはまだ全然慣れません。今、自分は発想の転換を迫られているところです。

今後、どんな作品を作りたいですか?

井上 THE SEVENは、世界に通じる日本の作品を発信していく方針なので、自分が好きな作品というよりも、ワールドマーケットで戦える題材、ということを意識して企画を考えています。

40歳くらいまでは自分の名前を世に出したいという思いもありましたが、これからは若いクリエイターの方が映像の世界に入りたくなるような作品を残していきたいです。

最後に就活生にアドバイスをお願いします。

井上 これからは日本のマーケットだけでは戦えない時代になるので、まずは海外の人とコミュニケーションをとる手段を身につけた方がいいと思います。おそらく、自分たちがこれまでやってきた日本のドラマ制作のルールは通用しなくなると思うので、アドバイスできるようなことはないような気がします。むしろ、若い人の発想を学びたいですね。語学以外にも他国の作品をたくさん見たり、歴史を学んだり、地球全体を見る視点を養いたいと思います。

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THE SEVEN井上衛

井上衛
朝日新聞社、劇団四季からWOWOWへ。オリジナルドラマシリーズ「ドラマW」の立ち上げに携わり、TBS×WOWOW共同制作「ダブルフェイス」(東京ドラマアウォード2013グランプリ)、「MOZU」シリーズや、東野圭吾原作・連続ドラマ「さまよう刃」(衛星放送協会オリジナル番組アワード最優秀賞)など数々の人気作家原作の映像化をプロデュース。映画「パレード」で第60回ベルリン国際映画祭国際批評家連盟賞受賞、ドラマでは「天の方舟」、「MOZU」シリーズにおいて国際エミー賞にノミネート。WOWOW退社後、新BS放送局開局事業への参加、大手芸能事務所におけるコンテンツ制作等を経て、2023年7月よりTHE SEVEN所属。

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