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『レコード大賞』『CDTV』などの音楽番組&スポーツ放送に欠かせない「中継」、“熱”を届ける現場作りの醍醐味をTBSアクト担当者が語る

テレビ放送には、さまざまな設備やシステムが使われています。これらの設計や工事、メンテナンスを行う部署は、まさに縁の下の力持ちとして、日々の放送に欠かせない存在です。

TBSにおいて、この大事な業務を担っているのが、TBSアクトのファシリティ本部です。“放送の生命線”とも言えるこちらの部署では、どのような業務が行われているのでしょうか。仕事内容や魅力について、ファシリティ本部 ファシリティ事業部の浦克彰(うら・よしあき)に話を聞きました。

フルマラソンほどの長さのケーブルを引く…知られざるゴルフ中継の裏側

浦さんが所属するTBSアクト ファシリティ本部とは、どんな部署でしょうか。

 ファシリティ本部は、放送を届けるために必要な設備の設計や工事、メンテナンスを行う部署です。
ファシリティ事業部と設備メンテナンス部の2つに分かれており、それぞれ20人弱ずつ所属しています。男女比は男性の方が多く、年齢層は高めで、ベテランのスタッフも活躍中です。

設備メンテナンス部は、その名の通り、設備のメンテナンスを中心に担う部署です。

私が所属しているファシリティ事業部は、主に放送システムと中継業務を担当しています。

放送設備のスタジオ・サブ(※番組の進行に合わせてスタジオに設置された複数台のカメラを切り替えたり、音響や照明をコントロールしたりする場所、副調整室)を作ったり、音声の卓などの設備を更新して整えたりするほか、イベント会場や野外から放送するための中継環境を構築する業務もあります。最近では、ある法人のスタジオ新設工事をさせていただき、徐々に業務のバリエーションが広がっているように思います。

私の担当業務を具体的にお伝えすると、主に“スポーツ中継、音楽番組などのスタジオ関連、選挙特番”の3つがあります。

では、まずスポーツ中継に関する仕事内容を教えてください。

 スポーツ番組では、主にゴルフと駅伝の中継業務を担当しています。

ゴルフ中継での業務は、ゴルフ場に中継するための環境を構築し、放送終了まで見届けています。ゴルフ場には中継設備がないので、カメラや音声のケーブルを引いて、中継車につなげなければなりません。このケーブルを敷設する業務を、弊社が受託しています。

ゴルフ場は広いので、膨大な量のケーブルが必要です。局の中継車がいつ入って来てもいいようにケーブルを引き始め、中継車が到着したら機材を出してスタジオのサブと同じような環境を構築していきます。その後、本番の立ち合いをして、撤収。短くて約2週間、長ければ20日間ほど現地に滞在して作業します。

ちなみに、ゴルフは『ロピアフジサンケイクラシック』や『ZOZO CHAMPIONSHIP』など、TBS以外の番組にも携わっています。旧テクト(※TBSアクトの前身企業の一つ)が民放他局の仕事も受託していたので、その流れで引き続き担当しています。

広大なゴルフ場で、人力でケーブルを敷設
広大なゴルフ場で、人力でケーブルを敷設
ケーブル敷設は、チームで作業
ケーブル敷設は、チームで作業

どのようなスケジュールで進めていますか?

 金・土・日曜日の3日間で開催する大会が多いので、その週の月・火曜日あたりには中継車が入って来て、カメラをセットしたり、画のチェックを行ったりと、準備を始めます。ですから、私たちはそれまでにケーブルを引き終えるように進めています。

時には、続けて大会の準備を行うことも。例えば、8月中旬に長野県で『NEC軽井沢72ゴルフトーナメント』、9月上旬に山梨県で『ロピアフジサンケイクラシック』が開催されるのですが、大会期間は離れていても、準備期間が重なってしまいます。その場合は、合間に一度、東京・赤坂のオフィスに戻り、追加の機材を積んで現地に向かっています。これは、毎年夏のルーティンとなりつつあります。

この業務には、何人ぐらいが携わっているのでしょうか。

 大会の規模によって異なりますが、大体7~8人で対応しており、日数がいただける現場は5人の場合もあります。

「フジサンケイ」と名の付くものは冠大会で、通常のゴルフ中継は1番と15、16、17、18番の5ホールくらいしか放送しないのですが、「フジサンケイ」の大会は18ホール全てを放送しています。放送時間も長いので、人手も多く必要ですし、長期間滞在することになります。

ゴルフ中継の業務では、どんな苦労がありますか?

 ゴルフ場に引くケーブルは、全部伸ばしてつなげるとフルマラソンの距離(42.195km)くらいあります。それを7~8人で引かなければならないので、体力的にキツイと感じることはあります。

使用するケーブルは、フルマラソンの距離に匹敵する長さに
使用するケーブルは、フルマラソンの距離に匹敵する長さに

また、屋外での作業なので、雨や雷で作業が中断することも。夏場は日焼けもありますし、熱中症対策も欠かせません。まずは安全第一で進めつつ、期日までに完成できるよう工程を考えて進めています。それでも、体を動かしながら働けるのは、自分には合っていて楽しく感じています。

ゴルフ場内の木を使用してケーブルを設置
ゴルフ場内の木を使用してケーブルを設置

続いて、駅伝の中継業務について教えてください。

 駅伝の中継はゴルフとは違って、「連絡線」を構築することがメインの業務です。駅伝で走るコースに中継所を置き、各中継所と統括するセンターが連絡を取り合う専用回線を準備しています。生放送中、センターにいる番組ディレクターが都度映像のチェックを行ったり、指示を出したりするため、電話線ではなく、即時に連絡できる専用の回線が必要です。放送が終わるまで運用を見届けています。

クイーンズ駅伝』や『ニューイヤー駅伝』といったTBSで放送する大会のほか、『箱根駅伝 予選会/本選』や『全日本大学女子駅伝』といった他局で放送する大会も手掛けています。

「スポーツ中継」といっても、競技によって業務内容が異なる点は、特徴の一つだと思います。

駅伝はどういったスケジュールで動いているのでしょうか。

 大会によって進め方が異なりますが、TBSで放送する大会は、最初に回線を使いたい場所のオーダーがあります。その回線の申請を弊社が代行し、回線業者が現地で工事してくれるので、それを弊社スタッフが確認し、「出合試験」(※開通されたかどうかの確認)を行います。その後、技術スタッフに引き渡します。

ただし、回線は申請したらすぐに開通するわけではないので、早めの準備が必要です。例えば、『クイーンズ駅伝』は2025年11月23日(日)に宮城県で開催、生中継しましたが、10月下旬の段階で申請を進めています。

駅伝中継の業務には、どれくらいの人数が関わっていますか?

 これも大会の規模によって異なります。2025年10月に行われた『全日本大学女子駅伝』は6人で対応しましたが、『箱根駅伝 予選会/本選』はもっと多いです。ただ、繁忙期に開催されるので、スタッフを外注して本番を迎えています。

専用回線の準備では、選挙特番の専用線申請代行業務も担当されているそうですね。

 これも駅伝の業務と似ています。選挙用に臨時の回線を用意してほしいという依頼で、TBSからのものもありますし、他局からは通信業者への申請代行から依頼されることもあります。申請後、工事が終わった部分に関して、現場で開通試験に立ち合っています。

TBSアクト浦克彰

音楽特番は約一週間前から準備を開始、イベントではファンの熱量に感動も

浦さんは、『CDTV ライブ! ライブ!』や『音楽の日』、『輝く!日本レコード大賞』といったTBSのさまざまな音楽番組のスタジオ業務にも携わっています。具体的に、どんな業務を行っていますか?

 音楽番組では、モニターの仮設とプロンプターの送出、連絡線の構築が主な業務です。

ここで仮設するモニターは、制作者が出演者にステージに登場する合図を出したり、進行の補助をしたりするために使うものです。セット裏にあり視聴者には見えませんが、番組を届けるためには必要不可欠です。

プロンプターとは、歌詞や台本を出演者に向けて表示する装置のこと。アーティストさんがいつでも歌詞を見られるように、歌詞をデータ化し、本番中に楽曲に合わせてモニターに表示するためや、『輝く!日本レコード大賞』のような長時間の特番では台本も分厚いので、カンペとして進行内容をお出しするために使っています。

音楽番組とは少し違いますが、『オールスター感謝祭』でもモニターの仮設業務があります。この番組は出演者が多く、いろいろなところに楽屋を作るので、場所によってはスタジオを確認するためのモニターがありません。そのため、モニターがない部屋には仮設モニターを設置して信号を送れるよう配線し、制作側に向けてインカムの配線もしています。

モニターを設置してその信号を送ったり、信号を変換して送出先に送ったりするので、ケーブルは必要不可欠です。ゴルフ中継ほどではありませんが、ケーブルを引く作業は発生します。特番に関しては、ファシリティ事業部のメンバー総出で対応しています。

どれくらい前から準備をしているのでしょうか。

 『CDTV ライブ! ライブ!』は毎週月曜日にオンエアなので、日曜日のリハーサルから準備を進めています。

音楽の日』や『輝く!日本レコード大賞』は放送時間が長く、リハーサルだけでも数日かかるので、それより前から準備を始めています。

『音楽の日』は大体、7月の土曜日に放送されるので、その週の火曜日あたりからセットし始めますし、『輝く!日本レコード大賞』は新国立劇場・中劇場で行われ、スタジオとは勝手が違います。それも考慮しながら、12月30日の本番に向けて、毎年12月24、25日ごろから準備を進めます。そして、翌日は解体して大晦日を迎えています。

年末年始は現場をはしごしています。年末は『箱根駅伝 本選』の準備も担当しながら、12月30日に『輝く!日本レコード大賞』の本番を終えて、翌日に解体して、31日に箱根に行って。1月1日に『箱根駅伝 本選』のリハーサルを行い、2、3日に本番を迎え、ばらして解散。毎年大体このようなルーティンになっています。

『CDTV ライブ! ライブ!』でのプロンプター作業
『CDTV ライブ! ライブ!』でのプロンプター作業

担当番組はどのように割り振られていますか?

 前任者から引き継いだり、上司から依頼されたり、いろいろなパターンがあります。ご相談いただければ、中継番組ならどんなジャンルでも大体対応できると思います。部署が扱う主要な番組は、大体任せてもらえるようになってきました。

スポーツ中継や音楽番組の放送は、毎年大体同じ時期に行われるので、どれを任されることになっても対応できるように、ある意味、覚悟を決めています(笑)。

特に印象に残っている現場について、教えてください。

 2025年9月に東京ガーデンシアターで開催された「音楽の日フェス2025」での業務は印象的でした。舞台のすぐ横でオペレート業務をしていたのですが、スピーカーから出るベース音の振動を感じたり、スタジオと違ってお客さんとの距離も近いので、お客さんの熱気や大歓声が伝わってきたりと、楽しい雰囲気を全身で味わいながら業務ができました。

ライブ感がすごくて、熱狂的な盛り上がりが見られたので、とても心に残っています。

「音楽の日フェス2025」では、ステージ横でプロンプターの作業を
「音楽の日フェス2025」では、ステージ横でプロンプターの作業を

文系出身でも、未経験から「匠」に。TBSアクトには、その道筋がある

ところで、浦さんはどんな経緯でTBSアクトに入社されたのでしょうか。

 以前から、将来はテレビ業界で働きたいと考えていました。大学は社会学部メディアコミュニケーション学科に進学し、当時からお笑いやアイドル番組が好きだったので、そういった番組制作に携わりたいと思い、就職活動をしていた記憶があります。

その後、新卒で番組制作会社に入社し、ADとして働いていたのですが、当時は労働環境が過酷であったため、半年くらいで辞めてしまいました。そこから3年ほどフリーターをしていましたが、このままではいけないと思い、就職活動をスタート。テレビ業界に携わりたい気持ちが残っていたので、旧テクトの管理部門に応募して入社が決まりました。

入社後はどのようなキャリアを歩んでこられたのでしょうか。

 最初に配属されたのは、総務部です。給与計算や社会保険の手続きのほか、労働保険の更新手続きにおける算出業務なども行っていました。人事、労務、総務、経理など、業務は多岐に渡りました。

ただ、年末の繁忙期やゴルフ中継などの長期案件では、人手が足りず、総務部から現場への応援を頼まれることが度々ありました。そのため、総務部所属でありながら、一定期間現場の応援に出ていました。

ADの経験があったので、現場の仕事に対する抵抗はなかったものの、最初はケーブルの巻き方など、制作とは違う技術的な部分で戸惑いもありました。ただ、ゴルフ場など屋外での作業は体を動かすのが好きなので楽しかったですし、音楽番組の現場では、音楽好きとして生で演奏を聞けたり、間近で見られたりと、嬉しかった思い出もあります。

TBSアクトに入社してよかったと感じるのは、どんなときですか?

 まずは、『音楽の日フェス』のように、直接的にコンテンツのファンの方から熱量を感じられる瞬間です。自分も音楽が好きなので、同じような趣味の方にとって、この仕事は魅力的だと思います。

また、人から感謝されるということも、大きなやりがいです。ささいなことかもしれませんが、中継のケーブル引きでは、「大変な物量を引いてくれて、いつもありがとうございます」と感謝の言葉をいただくことがあります。感謝されるまでの過程は泥だらけになったり、汗をかいたり、日焼けをしたりと、決して楽なことばかりではありません。大変さもありますが、それ以上にやりがいを感じられます。

それに、最新の機材に触れられる機会があるのも魅力的です。私自身はまだ経験が浅いですが、自分で情報を集め、お客さんに提案したものが採用され、感謝された時は、大きなやりがいを感じられると思います。

TBSアクト浦克彰

浦さんの今後の展望を教えてください。

 現在は中継番組に関わる業務を主に担当していますが、部署として、設備やサブなど他業務の人手不足の課題があるため、今後は属人化を防ぎ、繁忙期には担当者以外もカバーできるような体制を目指しています。そのため、これからは未経験の業務を任されることが増えると思いますが、学びながら挑戦していきたいです。

また、赤坂エンタテインメント・シティ計画の一環として、2028年に新設される劇場の中継設備の新設を弊社が請け負う予定があります。劇場の新設に関わることは初めてなので、今のうちに勉強しようと思っています。今、38歳ですが、この年齢で新しいことに挑戦できる環境はとてもありがたいです。

最後に、TBSアクトを目指す就活生に向けて、メッセージをお願いします。

 学生生活は貴重な時間なので、まずは後悔のないようにしっかり楽しんでほしいと思います。楽しみ方は人それぞれですが、好きなことや興味のあることに取り組む経験は、必ず良い方向に働くはずです。それが思わぬ形で仕事のアウトプットに生かされるという例は少なくありません。技術職とはいえ、クリエイティブな要素も多いので、ぜひいろいろなことを経験してほしいと思います。

この仕事を始めるにあたって、電気の知識があった方が有利かもしれませんが、それは入社してからも学べます。実際に、私も学生時代は文系だったので、入社してから学びました。加えて、最初に担当した総務での社会保険や給与計算の仕事も全く知識がありませんでしたが、入社後に教えてもらいました。入ってから覚えることができる環境は、TBSアクトの魅力の一つと捉えています。

TBSアクトには、技術、美術、システムなど、各分野の「匠」が集結しています。そのため、予備知識がなくても心配いりません。電気やシステムへの興味があれば飲み込みは早いかもしれませんが、それ以上に大切なのは「コミュニケーション能力」です。番組制作は、たくさんの人と協力しながら進める仕事です。最初は分からなくても、積極的にコミュニケーションを取ることで、必ず仕事に慣れていきます。

少しでも興味がある方は、ぜひファシリティ事業部に来てほしいです。我々の世代が中心となり、若い人たちを歓迎する体制や雰囲気づくりをしていきたいと考えています。

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TBSアクト浦克彰

浦克彰
2013年、旧テクト(現TBSアクト)入社。総務部に所属。
2021年より、TBSアクト ファシリティ本部 ファシリティ事業部。スポーツ中継では、ゴルフの“テレビ中継線配線”で、『NEC軽井沢72ゴルフトーナメント』、『宮里藍 サントリーレディスオープン』、『ロピアフジサンケイクラシック』などに携わる。
駅伝では“臨時専用線の配線・開通試験、モニター仮設”で、TBS『クイーンズ駅伝』、『ニューイヤー駅伝』のほか、『全日本大学女子駅伝』、『箱根駅伝 予選会/本選』を担当。
スタジオ関連作業で、TBSの『CDTV ライブ! ライブ!』、『音楽の日』、『輝く!日本レコード大賞』、『テレビ×ミセス』、BS-TBS『Sound Inn S』などの音楽番組、さらに『オールスター感謝祭』を担当している。

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