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新卒入社1年目でTBS番組3Dキャラクターを制作!デジタル開発部門で活躍する若手クリエイターの挑戦

ドラマやバラエティなど数々の番組を作る制作会社・TBSスパークル。実は「デジタルクリエーションラボ」という開発部門を創設し、テレビの枠を超えた新規分野の開拓、IP開発を目指しています。
こちらの部署に所属して、新卒入社1年目から活躍しているのが、白井かれん。健康雑学を伝えるTBSの情報ミニ番組『Gヘルスケア』(毎週 月曜~木曜:深夜0時55分~0時58分/金曜:深夜0時43分~0時48分)の番組キャラクター「クリッくん」の開発や、TBS赤坂BLITZスタジオのデジタルサイネージに展開するCG動画の制作を手掛け、TBSグループの内製化に貢献しています。
自身が担当したコンテンツの制作過程やこだわり、さらに就職活動の際の話も聞きました。
デザインからシステム開発まで全てを手掛け「クリッくん」誕生
白井さんが所属されているデジタルクリエーションラボとは、どんな部署でしょうか。
白井 デジタルクリエーションラボは、SNS事業とXR事業、展示空間制作を中心に手掛けている部署です。
SNS事業は、TBSの『世界遺産』のSNSコンテンツ制作、『THE TIME,』のインスタライブの配信技術、BS-TBS『報道1930』のSNSコンサルティングなど番組まわりのほか、TBSのグループキャラクター・ワクティのSNSで使用するコンテンツ制作・投稿などを行っています。
XR事業は、ARやVR、メタバースや、VRゴーグルを使用したコンテンツといった、デジタルソリューション的なコンテンツの企画・制作が中心です。
最近は、これら2つの事業のほかにデジタルサイネージ事業が加わりました。
私は、SNS・XR事業で使うCGでキャラクターやテロップを作ったり、SNS担当の方から依頼された動画を制作したりするほか、デジタルサイネージ事業では公共案件のイメージパース(※完成予想図を3DCGなどで立体的に再現すること)作成、企画書に載せるための実験的なコンテンツ制作など、さまざまな案件を同時進行で手掛けています。
CG制作においては、私は実際に制作するオペレーター業務だけでなく、動きの提案やストーリーラインなど、アニメーションやCGのグラフィック面でのディレクションも担当しています。演出面を他のスタッフが担い、部署全体で最初から最後まで一貫して携われるのが魅力です。
部員は全部で8名です(※2025年9月取材時)。2022年4月の部署開設当初はプロデューサー、ディレクター、カメラマン、編集マンと多種多様な人材が各部署から集められ、プロデュースを中心に業務を行ってきました。私が入社した2024年度からCGなどを制作する技術スタッフが加わりました。若手も多く活躍しています。
続いて、白井さんが手掛けたコンテンツについてうかがいます。まずは、入社1年目で担当したというキャラクター開発について教えてください。

白井 私は『Gヘルスケア』(※2024年9月に放送開始)で、健康ナビゲーターと一緒に番組を進行する3Dキャラクター「クリッくん」の開発を手掛けました。この番組は同じTBSスパークル制作で、「キャラクターと出演者とで会話しながら番組を進行させたい。VTuberのように制作スタッフの身ぶりを反映させられるようなキャラクターを作ってほしい」という依頼があり、私が部署に配属して間もなく開発がスタートしました。
キャラクターのデザイン、モデリング(※CGで立体的な3Dモデルを制作すること)、使用ソフトの選定、実際に映像の中で動かすシステムやフローの開発、と制作全般を私が担わせてもらえることになりました。
「クリッくん」は、どんな思いを込めてデザインしたのでしょうか。
白井 「クリッくん」のコンセプトは、「白衣の妖精」です。『Gヘルスケア』は健康番組なので、健康について教えてくれる身近なお医者さんのようなキャラクターが良いと考えましたが、リサーチを進めていくと医療系モチーフの利用・キャラクター活用にはさまざまな制約があると知りました。
ルールの範囲内で、お医者さんらしさを出すために色を白に、かわいらしさを演出するために形を丸くしました。「おばけみたいだね」という指摘があったので、下部に切り込みを入れて白衣のようにデザインしました。

ちなみに、「クリッくん」が眼鏡をかけているのは、番組の医療監修を担当され、「Dr.もりたくん」として出演もされていた、医師でジャーナリストの森田豊先生が眼鏡をかけていたからです。実際にお会いしたときに、眼鏡をかけてニコニコと笑顔でいらしたのが印象的でした。現在は川村優希先生が医療監修を担当されていますが、番組内やHPで紹介するおふたりのイラストも私が担当しています。

制作中、特にこだわった点を教えてください。
白井 現場では手が空いたスタッフが「クリッくん」の操作をするので、誰が操作しても同じ動きが出せるようにしたところです。簡単なシステムを使用し、あえて可動部分を少なくしました。
ちなみに、当初は編集時間を短縮するため、番組収録で出演者を撮影する際に、ディレクターやADの方に同時に「クリッくん」を操作してもらい、身ぶりで動かせるキャラクターにしようと思っていました。しかし撮影現場に帯同したところ、ADさんが複数いるわけではなく、一人でさまざまな業務を行っていたので、負担を少なくするために、収録とは別で「クリッくん」を録画し、編集作業で合成してもらっています。

いきいきとしたキャラクターにするために、表情にもこだわりました。ですがパーツをたくさん作るとキャラクターの動作が重くなってしまい、遅延が出てしまうので、なるべく軽く済むように表情のパターンを設定しました。現状は10通りの基本表情を作り、組み合わせてさまざまな表情にできるようにしています。表情はボタンで変えられますが、瞬きや口を開ける動作は操作する人と連動できるようになっています。
動かす際に使用するソフトも、商業利用可能で、安価かつ誰でも簡単に使えるものを調べて決めました。

また、「白衣の妖精」がコンセプトですので、性別を感じさせないことも方針の一つでした。男らしい・女らしいといった性別を感じさせる動きが出ないように配慮しました。
声も性別が特定できないように意識しているそうです。「クリッくん」の声は実は合成音声を使ってADさんが作っています。少し高めでありながら、中性的な声になっていると思います。
どんな点に苦労しましたか?
白井 キャラクターを動かす仕組みをどうするか決めるところです。当初は手だけで動かすパペットのような3Dキャラクターを採用することも検討しましたが、人が体を使って動かす直感的な操作が可能な方が良いという結論に至りました。決定まで多くの方に協力いただき、何度か作り直したのでとても苦労しました。
デザインから完成まで約2か月だったので、通常のキャラクター開発と比べると早かったように思います。大変なこともありましたが、思い返すと、とても楽しかったです。

視聴者の方からの反響はいかがですか?
白井 出演者のファンの方々が番組のハッシュタグを使ってたくさんSNSに投稿してくださっています。番組のYouTubeでは、「クリッくん」が出演者の方にむちゃぶりする展開を面白がってくださったり、たまたま番組を見た方が「かわいい!」、「グッズ化してほしい!」と言ってくださったりと、さまざまな反響をいただき、大変ありがたく感じています。
白井さんは「クリッくん」の開発によって、社内で表彰されたそうですね。
白井 TBSスパークルでは、これまでキャラクター開発をするときは外注していたそうですが、内製化できたところを評価していただけたようで嬉しいです。同じTBSスパークルが制作する番組のキャラクターであり、全て社内で制作しているので、撮影現場で細かい打ち合わせができたり、ちょっとした調整をすぐにできたりと、ミーティングの数が減ったのはとてもよかったです。撮影現場で働くスタッフは忙しいので、キャラクターの運用では時間短縮して負担を軽減できるように力を入れました。
最近は「クリッくん」の開発を機に、社内で別のキャラクター開発依頼の声をかけてもらえるようになりました。

サイネージのCG動画は、キャラクターの魅力と工夫を詰め込む
白井さんはTBS赤坂BLITZスタジオのデジタルサイネージに展開中のワクティのCG動画も担当されているそうですね。これは、どんな経緯で手掛けることになったのでしょうか。

白井 もともとは、TBS赤坂BLITZスタジオ2階窓のデジタルサイネージ部分に「新宿東口の猫」(※新宿東口の「クロス新宿ビジョン」に映し出される3D映像の巨大な三毛猫)のようなものを作りたいという構想から始まりました。
ですが窓枠があるので3Dにするのは難しく、シースルーのLEDフィルムを貼ってサイネージを作り、そこにワクティのCG動画を流すことに決まりました。
CG動画のテーマは何ですか?
白井 サイネージに流すCG動画の第1弾なので、まずはTBSのグループキャラクターであるワクティをPRできればと思いました。ワクティの「ワクワクの素でなんでも作り出せる」という特性をアピールしつつ、約1分の動画でキャラクターを紹介できるように、いろいろな工夫を凝らしました。
カメラワークがなく、一つの画面でさまざまなことを同時進行で起こすのは難しかったです。そのため、プロデューサーも普段とは違う感覚だったようです。「舞台を作っているような感覚だった」と話していました。

どんなところに苦労しましたか?
白井 CGは通常、モデリング・映像制作・アニメーション・演出と分業するのが一般的ですが、今回は全ての工程を一人で任せていただきました。学生時代に個人で制作していたときは「全工程を一人でできても、どこで役に立つんだろう?需要はあるのかな?」と思うこともありましたが、経験を生かすことができて良かったです。
また、サイネージのような大型画面を使った制作は初めてだったので、想像よりもくっきり鮮明に見えやすいことや、納品サイズが小さくてもLEDにしたら良い感じに見えることなど、いろいろな発見がありました。制作期間は約2か月半で困難なこともありましたが、学ぶことが多かったです。
私が勉強させてもらった技術やコツも含め、部内のメンバーでお互いの情報・経験を共有する勉強会を開いたりして、今後の案件にも生かせていけたらいいなと思います。
2025年11月にはワクティをテーマにした新作のCG動画が第2弾で流れる予定ですので、こちらも楽しみにしていてください。
ワクティCG動画第2弾
創作の原点は、幼い頃にテレビで見た人形劇やキャラクター
ところで、白井さんはどんな経緯でTBSスパークルに入社されたのでしょうか。
白井 高校生の頃から将来は映像系の仕事に就きたいと思っていましたが、さまざまな業界を検討する中で、自分が一番親しんできた「テレビ番組に関わる仕事をしたい」という思いを軸に就職活動をしました。
というのも、子どもの頃から人形劇『ひょっこりひょうたん島』(NHK)などのキャラクターや、ガチャピンとムック(※フジテレビ『ひらけ!ポンキッキ』で登場したキャラクター)といった、番組に登場するキャラクターやパペットが大好きだからです。大学時代は『Nスタ』のお天気コーナーに登場するブーナちゃんを見て、かわいらしい動きに癒やされていました。人形劇、ぬいぐるみ劇やキャラクターは、私にとって創作の原点だと思います。
中でも、番組に登場するキャラクターやCGの制作を通してブランディングに携わりたかったので、「CG制作会社よりも、テレビ局と近い制作会社の方がキャラクターの成り立ちから関われるのではないか」とアドバイスを受けて、たどり着いたのがTBSスパークルです。TBSスパークルの就職試験では、当初からデジタルクリエーションラボを志望しました。多岐にわたる事業を手掛けている点でも自分ができることが多そうと思い、決め手になりました。
学生時代は何をされていましたか?
白井 大学では芸術学部デザイン工芸学科に所属し、映像系の研究室でCG制作に取り組んでいました。VTuberのようなCGキャラクターやCGアニメーションを自主制作しましたが、一人で作っていたのでシナリオも自分で書かなければならないのは大変でした。ですがいろいろな挫折がありつつも、自分の得意分野を深く考えることができたのは、就職活動において大いに役に立ったと思います。
また、デザイン科と工芸科が融合した学科だったので、CG以外にも漆工芸や金属工芸、彫刻など幅広いジャンルに触れる機会がありました。得難い経験ができてよかったですし、実際に制作経験があることは就職面接で話す際の説得力につながり、話題に困ることがありませんでした(笑)。

TBSスパークルに入社してよかったことは何でしょうか。
白井 一般的なCG制作会社ではオペレーター業務が多くなると思いますが、TBSスパークルでは、“制作全体を管理・進行する業務”と、“簡単なストーリーラインを作らせていただくなどのディレクター業務”と両方の作業を担当できるところです。プロデューサーがいるので、いろいろと勉強させていただいています。企画の上流工程から一貫して携われるのは、とてもありがたい環境だと感じています。
普段の制作では、どんなこだわりを持っていますか?
白井 やはり私の原点となった、人形劇やぬいぐるみ劇の持つ「あたたかさ」を意識しています。テレビの現場は緊迫したイメージがあるかもしれませんが、キャラクターに関わる方々からは「あたたかみを伝えよう」という気持ちが感じられるので、そういった「あたたかくなれるもの」を作りたいという思いを込めて制作しています。
特に、ワクティのSNS用動画では、ワクティが現実世界でみんなと同じように暮らしているような「実在感」を出すことでキャラクターのあたたかみや親近感を演出しようと意識しています。例えば、夏向けの投稿では、ワクティが扇風機の前で涼んでいるところに、撮影者が扇風機の強ボタンを押して、ワクティが吹き飛んでしまうといった演出をつけました。ワクティがその場にいるような説得力を持たせるよう注力しています。
TBSには、『ラヴィット!』でキャラクターたちが競争したり、『THE TIME,』で安住紳一郎アナウンサーがシマエナガちゃんと会話したりと、キャラクターと触れ合える番組がいくつかあります。人間とキャラクターが触れ合う様子は面白いですし、視覚的にもインパクトがあるので、こういった演出は多くの人にリーチして、SNSでもよく話題に上がるんです。
白井さんの今後の展望を教えてください。
白井 ブランディングやプロデュースなどにも興味はありますが、自分が若手として働いているからこそ、全体を見て引っ張ってくれる方がいてくれることにありがたみを感じています。ですので、メンバーにヒアリングをしながら調整を行い、作品のクオリティーを上げていけるような人材を目指しています。具体的には、技術面での全体の制作を進行・管理する役割を担うチームリーダーやスーパーバイザーのように1チームをまとめる役割を務められたらと思っています。
CGにおける、そういった人材は社内にはまだ少ないのが現状です。きちんと業務の道筋を引いてあげられる存在になれたら、余計な工数がより減って楽しく仕事ができると思います。手を動かすことは楽しいですが、自分一人でできることには限界があるので、多様な人材が揃うこの会社だからこそ、皆で仕事をしたいです。
それと、ワクティを地上波や動画にたくさん出してあげたいと思っています。バレーボール ネーションズリーグの提供画面で、一生懸命ボールを打っているワクティが流れていたのですが、かわいいのに意外と力強くて、そのギャップが面白かったんです。そういった魅力ももっと広めていきたいと思います。
最後に、白井さんのようなお仕事を目指している学生に向けてメッセージをお願いします。
白井 就職活動では得意分野を重視しがちですが、自分のできることというより、「したいこと」を大事にして心の声を聞きながら、仕事を選んでほしいと思います。例えば、今は絵を描いているけれど、将来的にプロデューサーを目指したいと思ったら、プロデューサーとしての経験を積める会社に入ってみるのも一つの選択肢です。
就職活動中は目の前のことで精一杯になってしまうと思いますが、自分とマッチする会社は意外とたくさんあるんだなと就職活動を通して実感しました。いろいろな選択肢があることを、皆さんにも知ってほしいです。
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白井かれん
2024年TBSスパークル入社。デジタルクリエーションラボ所属。
XR作品の制作業務、展示映像の制作に携わる。
