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TBS主催「Tech Design 2025」にも尽力!選挙クラウドシステム開発者が語るテレビのITデザインの可能性

TBSでは、番組やコンテンツを視聴者に届けるまでに、現場のスタッフが運用するシステムやアプリケーションが多数作られています。なかでも、文字起こしエディタ「もじこ」や、選挙報道特番で使用する「選挙クラウドシステム」などは、現場で大いに活用され、業務効率の向上に寄与しています。
その開発や自社サービスを構築するIT分野を担うのが、TBSグロウディアのIT事業本部です。同部署の開発部デザイナー・永田六郎に、手掛けたシステムの開発裏話、自身が参加するTBSのR&D集団「TBS Tech Design Lab」の活動など、テレビ放送におけるIT分野のデザインの役割を聞きました。
文字起こしエディタ「もじこ」は少数精鋭で開発中
永田さんが所属するTBSグロウディアのIT事業本部とは、どんな部署でしょうか。
永田 IT事業本部は、「放送、制作、配信、業務系システムの開発ソリューション」を中心にさまざまなシステムやアプリケーションを作っている部署です。その中に開発部という、物を作ることに特化したチームがあり、私は「クリエイティブデザインチーム」というデザイナーが集まる部署で、チームリーダー兼 開発部副部長を務めています。
IT事業本部全体は200人ほど、そのうち開発部には40人ほど在籍しており、デザイナーは私を含めて8人です(※2025年取材時)。ユーザビリティの改善を起点に、サービス全体の満足度の向上に務めています。
ほかにサーバーサイドの開発を中心に行う「システムエンジニアリング」、Webサイトやアプリのユーザーが直接操作する部分を開発する「フロントエンドエンジニアリング」、要件定義や設計をリードしシステム開発を牽引する「システムソリューションチーム」、ITインフラの設計・構築などを担う「インフラセキュリティチーム」など、さまざまなエンジニアが5~10人ずつ在籍しています。
IT事業本部にはクライアントと密接に関わる「ソリューション営業部」もあり、開発部で専門性を身につけたのち、本人の希望や素養を考慮した上で、そちらに異動することも可能になっています。さまざまなデザインを実践しながら、IT技術やマネジメントスキル、ビジネス視点や営業スキルなど、自分が身に付けたい素養を学んでいくことで、その人だけのキャリアパスを歩んでいただくことを目指しています。
永田さんは、どんなシステムやアプリケーションを手掛けているのでしょうか。まずは「MPTE AWARD 2020」で経済産業大臣賞・日本映画テレビ技術大賞を受賞するなど、社外でも高く評価された「もじこ」について教えてください。
永田 「もじこ」はAI音声認識技術を使った文字起こしエディタです。番組作りのために欠かせない文字起こしにかかる時間と労力からの解放を目指して、TBSが独自開発しました。おかげさまでローンチ以来、多くの方にご愛用いただいています。もともと、TBSのICT局の方と、TBSグロウディアのデザイナー・エンジニアによる雑談がきっかけで開発が始まったと聞いています。
ローンチ当初はWebブラウザベースで文字を起こすツールは少なかったそうですが、同時翻訳ができるサービスはアプリで出始めた時期でした。実際に報道局の方の中には、「もじこ」と並行してそれらのサービスを使っている方もいました。
そこで「もじこ」はAIエンジン自体を開発するのではなく、放送の制作現場のニーズに特化することで差別化しようと意識しました。例えば、タイムコードを使えるようにしたり、文字起こししたテキスト内にメモをできるようにしたりと、番組制作の業務フローに合わせてこんな機能があったらいいな、という現場の声を取り入れながら作ってきました。
また、元素材とAIエンジンの相性によっては文字起こしの精度に差が出てしまうケースがあるため、元素材の音声を聞き直しながら文字起こしされたテキストを簡単に編集できるようにしているのも大きな特徴の一つです。
その後、毎年何かしらアップデートしてきましたが、2024年には大型アップデートを行い、校正、要約、翻訳機能やAIエンジンなど、文字起こしに親和性が高そうな機能を追加しました。今後もより使いやすいサービスを目指していきます。
永田さんが開発に関わるようになったのは、いつ頃でしょうか。
永田 私が「もじこ」の開発に携わるようになったのは、2021年です。当時は外販に向けてアップデートが進んでいたので、それに伴い、デザインのアップデートも求められていた時期でした。
ですので、ローンチ当初は「使ってみたいな、触ってみたいな」と興味を持っていただけるように少しポップなデザインだったところから、業務で安心感を持って使っていただくことを意識して、シックで落ち着いた印象を持っていただけるようなデザインに変更しました。
開発には何人くらい関わっているのでしょうか。
永田 現在の開発部メンバーは私を含めて5人です(※2025年5月時点)。少数精鋭で作業しているので、瞬発力が高いところが強みです。「もじこ」のチームは、各自の専門分野を尊重しながらもフラットに議論を重ねられる環境ですので、物作りのロールモデル的な現場であると感じており、若手にも携わってもらって育成も兼ねられたらと考えています。私自身、「もじこ」の開発には今後も関わっていきたいと考えています。
ユーザーの反響はいかがですか?
永田 TBSテレビの「もじこ」の担当者が制作現場へ声を拾いに行かれていますが、ローンチ以降、ポジティブな意見もあれば、改善点のご要望もいただいているようです。ご意見は今後のアップデートに役立てています。
外販も広がっており、さまざまな業界の方に使っていただいているそうで嬉しいですね。

選挙特番で使うシステムは、正確さとスピード感が必要
続いて「選挙クラウドシステム」についてうかがいます。これは、どんなシステムですか?
永田 「選挙クラウドシステム」は、選挙報道特番など選挙に関わる番組を制作・運用する現場向けのツールです。期日前投票から当日の開票速報まで、主にJNN各局の報道担当者や制作スタッフの方々が使用しています。
現場のスタッフが打ち込んださまざまなデータを集めて、誰が当選するのか、どれぐらい得票数が来ているのかなどをリアルタイムで分析し、いち早くオンエアに載せるためのシステムです。衆議院、参議院、地方議会選のほか、各自治体の首長選など日本のあらゆる選挙に対応しています。
集約されたデータに対し、最終的に報道のスタッフが当確(当選確実)を打つ分析画面があり、得票数の時系列とグラフが表示されています。
このシステムは、いつ頃から開発されていますか。
永田 もとは1994年から脈々と継ぎ足されたシステムだったようですが、2023年頃からTBSグロウディアでの内製が開始されました。私は2024年のフェーズ2開発から参加しました。選挙があるたびに少しずつ出来上がっているので、今後も部分的に乗り換えながら開発を進めていく予定です。
5年くらいかかる長期プロジェクトなので、関わる人数も多いです。デザイナーは私を含めて2人ですが、エンジニアは協力会社さんも含めて10~15人ほどいらっしゃいます。
開発には、どんな苦労があるのでしょうか。
永田 約30年間さまざまなベンダーによって増築されてきたものを作り直しているので、既存のユーザーのニーズを満たしつつ、新しいユーザーにとっても使いやすくするためのバランスを取ることに苦労しています。増築されたアプリごとに独自のルールやデザインで作られていたため、現在はそれらを全て統一し、一貫性を持たせることを大事にしています。
また、選挙報道特番は「他局よりもいかに早く確実に当確を出せるか」というのが肝要です。スピードが求められますが、もちろんミスも許されません。ですので、レアケースや想定外のオペレーションが必要となる場合には、きちんと確認画面やエラー画面を表示するといったような、ミスがおこりにくい仕組みとなることを意識しています。
それから、選挙特番の制作スタッフたちは長時間、大きなプレッシャーの中で作業することになりますし、膨大なデータを見守り続けますので、疲れにくい色合いや、シンプルでわかりやすいデザインを心掛けています。

永田さんは、「TBS Tech Design Lab」にも所属しているそうですね。
永田 TBS Tech Design Labは、TBSグループ各社のテクノロジー部門やデザイン部門のスタッフを中心とした有志のR&D集団です。2019年頃から存在していて、存在自体は知っていましたが、関わるようになったのは、2021年に開催された年に一度の活動報告会「Tech Design 2021」がきっかけです。それまでリアル開催でしたが、コロナ禍でイベントの様子を外部に配信することになり、その配信サイトをTBSグロウディアで作ってほしいという依頼があってから、現在も活動を続けています。
2024年に開催したイベント「Tech Design 2024」では、スマホを振って遊ぶゲームをTBSグロウディアのエンジニアとTBSテレビのデザインセンターのデザイナーで協力して作りました。ゲームは参加者が自分のスマホを振り、振った回数や瞬間最大速度を競うもので、参加型の機能はご好評をいただいたようです。

ほかに、どんなことをされているのでしょうか。
永田 広報まわりのお手伝いをしたり、東京・赤坂のTHE HEXAGON9階にあるイノベーションスペース「Tech Design X(テックデザインクロス)」を作る際には空間の提案や、ロゴ・Webサイトの制作などを行いました。
TBS Tech Design Labのメンバーは優秀なので、できるだけ変化球といいますか、皆さんとは少し違う方向性の意見を出せるように心掛けています。
TBS Tech Design Labに関して、現在動いているプロジェクトはありますか?
永田 今年2025年も6月4日(水)・6日(金)に「Tech Design 2025」イベントを開催しますが、その準備にも携わっています。
6月4日(水)の配信イベント(※ひる12:00~13:00開催、事前登録不要、途中入退室自由)では、視聴者の方が参加できるリアクション機能やゲームなどのエンタメ機能をパッケージ化した「Kustamie(カスタミー)」というプラットフォームを初公開する予定です。TBSテレビ、TBSグロウディア、TBSスパークルのメンバーが中心となって独自開発をしていて、より良いプロダクトを目指して改良を重ねてきました。
TBSグロウディアのもっと多くの社員の方にTBS Tech Design Labの活動に興味をもってもらい、自ら参加してもらえるように、働きかけていきたいと思っています。

TBSグロウディアなら、放送以外の技術も携わることができる
ところで、永田さんはどんな経緯でTBSグロウディアに入社されたのでしょうか。
永田 前職では、角川系列のWeb会社で働いていました。それ以前は紙媒体のデザインの仕事もしていた時期がありますが、どちらの媒体も時代の変化が激しく、今後の進路について考えていました。そんな時、当時の同期に誘われたのがきっかけでテレビ業界のデザインに興味を持ちました。その後、2007年に関連会社だったトマデジという会社に入社して今に至ります。
学生時代から、デザインの勉強をされていましたか?
永田 実は、学生時代にデザインは学んでいません。工学部で印刷にまつわる技術を学んだり、光学や素子などカメラやモニターで映像を表現するための基礎研究を行ったりしていて、新卒では印刷・デザイン会社に就職しました。
それに、もともとイラストや漫画が好きで、自分で描いたり作ったりしていました。デザインと共通する部分もあり、意外と応用が利いたところもありますが、社会人になって一からデザインの勉強をし直したので最初は苦労しました。
TBSグロウディアに所属するデザイナーの特徴を教えてください。
永田 デザインだけでなく、IT技術にも造詣が深いところだと思います。システム開発やコンテンツ開発など、エンジニアリングの知識があった上で、デザインと掛け合わせて、ユーザーにとって何が最適かを議論しながら業務を進めています。反対に、エンジニアもデザインに精通しているので、お互いの知識を持ち合わせているところが強みだと思います。
また、いろいろなことができる「フルスタック人材」を育成するために、交換留学のようにさまざまな部署を回る仕組みもあります。多ジャンルのスペシャリストと一緒に仕事できるのは、成長につながると思います。
職場の雰囲気はいかがですか?
永田 私は副部長でチームリーダーという立場ですが、その他のメンバーは特に上下関係もなく、実にフラットな関係です。若手社員からベテラン社員まで、とても会話をしやすい環境だと思います。インターンに来ていただいた学生さんの中には「TBSグロウディアさんは職場の雰囲気が良さそうだったので興味を持ちました」と言って採用試験に進んでくださる方もいらっしゃいました。
開発部のメンバーは基本的にリモートワークで、始業と終業時にチャットで連絡し合うのがデザインチーム内のルールとなっています。出社は現在、私自身も多くて月に8回くらいです。
今後はどんなことをやってみたいですか?
永田 雑談レベルの話でいうと、最近『機動戦士ガンダム』のアニメを見たので、作品に携わってエンドロールに載りたいと強く思いましたね(笑)。
社会人になってからユーザーがサービスや製品の利用において、より良い体験ができるよう操作性などをより良くする「UX(ユーザーエクスペリエンス)・UI(ユーザーインターフェース)デザイン」を本格的に学ぶようになり、その知識や経験を「もじこ」や「選挙クラウドシステム」のようなクリエイターや制作現場に向けたニッチなサービスで生かしてきましたが、今後は一般ユーザーに向けたアプリケーションやサービスにも取り組んでいきたいです。
そう思っていたタイミングで、TBS IDの業務を任されることになりました。TBS IDとは、チケット販売や見逃し配信など、TBSグループのさまざまなサービスを1本につなぐためのサービスです。ユーザー情報や体験を集約し、サービス改善や新サービスに生かしていくような仕組みなので、UX・UIの両方の知識が必要になります。今年から本格的にUI周りの改善・改修の開発部隊として参加させていただく予定なので、楽しみにしています。
あとは自社IPの開発や、若手の教育にも力を入れていきたいと思っています。
最後に、TBSグロウディアを目指す就活生に向けて、メッセージをお願いします。
永田 TBSグロウディアはTBSグループに所属していて、放送に携わることもできますし、ショッピングやイベント、ラジオなど、いろいろなジャンルの業務に関わることができるのが一番の魅力だと思います。
自分のしたいことがわからないという人でも、いろいろなジャンルの仕事があるので、興味があるものが見つかるはずです。「やってみたい」と手を挙げれば挑戦させてくれる風土があり、作り手にとっては面白い会社ではないでしょうか。
TBSグロウディアのデザインはシステムやアプリケーション、ユーザーありきなので、UXやUIに関わるデザインと真剣に向き合いたい方にぴったりです。システムを作ったらユーザーの声を聞いて改善するというように、作って終わりではないので仕事は尽きません。そこがまた魅力ですし、いろいろなユーザーに出会えるので飽きがこないですよ。
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永田六郎
2007年、現・TBSグロウディア入社。IT事業本部 開発部。
UI/UXデザイナー兼フロントエンジニアとしてインタラクティブなシステム/コンテンツ開発に携わる。