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TBSアニメ『ロックは淑女の嗜みでして』はお嬢様×ロックの青春音楽譚!圧倒的演奏シーンの制作秘話をプロデューサーが明かす

TBSは、アニメ『ロックは淑女(レディ)の嗜みでして』(毎週木曜よる11時56分~)を全国28局同時放送で放送中です。原作は「ヤングアニマル」(白泉社)で連載中の福田宏氏による同名漫画。“元・庶民”かつ“元・ロック少女”の鈴ノ宮りりさが、同じ学校に通う超絶技巧のお嬢様ドラマー・黒鉄音羽(くろがね おとは)と出会い、再びロックへの思いを燃やしてギターを取り、バンド活動に興じます。音楽を通して本心をさらけ出し、仲間と切磋琢磨する“本音”がぶつかる青春ロックストーリーです。

本作にプロデューサーの一人として携わっているのは、アニメ制作会社Seven Arcs兼TBSテレビ アニメ事業部の西ヶ谷英武。制作のこだわりや裏話に加え、自身のキャリアについても話を聞きました。

お嬢様がインストでロックを奏でる、見たことのないアニメが完成

『ロックは淑女の嗜みでして』キービジュアル

まずは、『ロックは淑女の嗜みでして』の企画経緯を教えてください。

西ヶ谷 私がTBSグループのアニメ制作会社Seven Arcsに2024年7月に入社したとき、すでに企画が決まっていた作品です。TBSテレビ アニメ事業部の業務を兼任で担当することになり、この作品のプロデューサーを担当させていただくことになりました。『けいおん!』(2009年に第1期、2010年に第2期、2011年に映画)をはじめとして、ガールズバンドがテーマのアニメは、これまでも作られてきましたし、本作放送前も立て続けに他局で放送が発表されていました。

本作はインストゥルメンタル(※歌のない楽器だけで演奏された曲、以下「インスト」)のバンドを扱っていて、なおかつ登場人物はお嬢様たちです。ロックとお嬢様というギャップと、インストバンドという2つの強みで、「今まで見たことのないアニメ」を届けられるのではないかと考えました。普段はビジネスのことを真っ先に考えるタイプですが、本作は本能的にとても面白いと感じた作品です。

本作品はTBSと楽天が共同で、幹事を担う作品だそうですね。

西ヶ谷 はい。個人的に楽天さんは「商品化に強い」という印象があります。缶バッチやアクリルスタンドといった一般的なグッズだけでなく、楽器メーカーにお声がけするなど、扱う商品の幅が広い点に驚きました。大きなプラットフォームなので、企業コラボやタイアップなどで幅広く展開できそうなところもありがたいですね。
カラオケのタイアップやフィギュア化が決定…と放送前から期待値も高かったのですが、放送後もありがたいことに反響がかなりあるので、楽器メーカーとのコラボ商品などが生まれると、とても嬉しいです。

我々TBS側は放送で認知を広げていくことが使命の一つであると思っていて、楽天さんとお互いの良いところをマッチさせながら展開していけるところが強みだと思います。

また、木曜よる11時56分という放送枠で、TBSが幹事を務めることは初めてです。今回は共同幹事という形ではありますが、TBSとして非常に力を入れている作品です。

現在放送中ですが、3Dアニメーションの演奏シーンが話題です。そのこだわりを教えてください。

『ロックは淑女の嗜みでして』場面写真

西ヶ谷 各キャラクターの演奏シーンでは、楽曲の演奏とモーションキャプチャーを、世界的にも人気のメイド姿のハードロックバンド、BAND-MAID(バンドメイド)さんが担当しています。ダンスシーンなどでモーションキャプチャーが使われるのは主流になってきましたが、BAND-MAIDさんのように第一線で活躍中のアーティストに担当していただくのは非常に稀で、贅沢なことだと思います。BAND-MAIDさんには、オープニングテーマもお願いしています。

本編ではインストバンドのLITE(ライト)さんやmudy on the 昨晩(ムーディ・オン・ザ・さくばん)さんやSawagi(サワギ)さん、te'(テ)さんの楽曲をカバーしています。ご本人たちに許諾を得て、本作のためにアレンジしていただき、BAND-MAIDさんに演奏いただいております。原曲とはまた違う魅力がありますし、BAND-MAIDさんも「演奏の難易度が非常に高い」とおっしゃっていました。

モーションキャプチャーの収録では、BAND-MAIDさんは演奏に納得がいかないと「もう一度やらせてください」と何度も取り組んでくださいました。
演奏中の動きについては、『劇場版アイカツスターズ!』(2016年)なども手掛けられた綿田慎也監督が自ら要望を伝えていました。監督はドラムの経験があるそうで、特にドラムの動きにはこだわっていたように思いました。

私は収録にも参加させていただきましたが、今思い出しても鳥肌が立つくらい、かっこいいです。インストは歌がないので、演奏に合わせてキャラクターの心の声を入れられるところが他のバンドアニメとは差別化できることもあり、面白いところです。それがとてもよくハマっているんですよ。

それから、本作にはビジュアルディレクターとしてアニメ『ジョジョの奇妙な冒険』(2012~2023年)などを担当されたソエジマヤスフミさんも参加されています。ソエジマさんといえば、多彩な演出が魅力的です。今回もライブシーンのカメラワークや演出は、かなり「ソエジマ節」が出ているように感じます。

アフレコの様子はいかがでしたか?

西ヶ谷 アフレコはテストから本番まで何度か段階を踏んで行いますが、今回はキャストの皆さんがテスト段階から本番と同じように本気で挑んでくれました。お嬢様モードのときは少し高めの落ち着いた声色ですが、演奏のシーンはロックモードで実際に息が上がるほど、激しく演じています。その切り替えはとても大変そうでしたが、「頑張れ!」と応援する気持ちで見守っていました。
アフレコは2024年の夏から秋にかけて行い、暑さもあって、水のペットボトルの減りが早かったです(笑)。

メインキャストの4人はオーディションで決まったと聞いています。現場はとても和気あいあいとしていました。主人公・鈴ノ宮りりさ役を演じる関根明良さんが、インタビューなどで「みんなで作り上げた」と強調されていたのが印象的で、嬉しかったですね。

『ロックは淑女の嗜みでして』場面写真

演奏シーンをはじめ、全身全霊をかけ丁寧に制作

本作は、放送以外の展開も考えているのでしょうか。

西ヶ谷 製作委員会の中にはイベントを手掛けるパートナー企業もいらっしゃいます。ライブや2.5次元、朗読劇などいろいろな展開が考えられますが、まずは放送を見ていただくことが大事です。後についてくるビジネスは、放送が話題になってからでないと実現できませんからね。話数を重ねるにつれて、どんどん右肩上がりに話題になるように宣伝も頑張りたいです。

また、海外でも大人気のBAND-MAIDさんを起用させていただいていることもあり、本作では海外でのヒットも狙っています。人気になると嬉しいですね。

2025年3月16日(日)に行われた、先行上映会とトークショーはいかがでしたか?

西ヶ谷 会場は、満員御礼の大盛況でした。先行販売の時点で半分以上が埋まり、一般販売のときにBAND-MAIDさんの登壇を発表したら、即完売したそうです。会場でBAND-MAIDさんがモーションキャプチャーを担当することを情報解禁しましたが、歓声が上がって、とても盛り上がりましたね。

会場には、原作者の福田宏先生もいらしていました。ご自身が描かれた絵が映像に変わったことに衝撃を受けられたようで、特に演奏シーンはたくさん褒めていただいて励みになりました。アニメ用に楽曲をアレンジしたり、ライブシーンにしっかりと演出を入れたりと、とにかくこだわって作っているので、喜んでいただけて一安心です。

また、ロックを扱うので、作中には過激なセリフや身振りも登場します。放送局としてコンプライアンスに配慮すべきところではありますが、福田先生が一生懸命考え出された表現ですし、原作にリスペクトを込めて「これが彼女たちの生き方であり、音楽の伝え方なんです」と、アニメでは出来る限り原作に沿ってお届けしたいと思ってます。

Seven Arcs西ヶ谷英武

他にどんなPR施策を考えていますか?

西ヶ谷 私はいかに放送を盛り上げるかという点に集中していますが、そのために『オールスター感謝祭』にBAND-MAIDの小鳩ミクさんと、鈴ノ宮りりさ役の関根さんに出演いただいたり、朝の情報番組で取り扱っていただいたりと、各所に働きかけました。放送開始前には、TBSグループの皆さんにご協力いただきながら調整していきましたね。

また放送開始時ですが、りりさの持つギターのブランドを「PRS」としていることから、アメリカの楽器メーカーである「PRS (Paul Reed Smith)」から「番組を盛り上げるために何かお手伝いできれば」と大変嬉しいご連絡をいただきました。創業者のポール・リード・スミスさんより応援動画を送っていただき、音楽アニメ業界を震撼させた出来事になりました。

原作ファン、アーティストファン、楽器ファン…と、全方面からアニメに入っていただき、全世界での認知度を高められるよう、引き続きPRしていきたいです。

作品を楽しみに見ている視聴者に向けてメッセージをお願いします。

西ヶ谷 まずはスケジュールが厳しい中で、制作陣全員が100%の力を出してとても丁寧に作った作品なので、一話たりとも見逃さないでいただきたいと思います。特に演奏シーンがある放送回は必見です。放送ではもちろんですが、配信などで繰り返し何度もご覧いただけると嬉しいですね。

ストーリーは、「お嬢様×ロック」という、一般的には交わらないものが合わさったらどうなるのか、という点が見どころです。それに合わせた曲作りやライブシーンのカメラワークなども注目していただきたいと思います。

私も音楽をしていた経験があるのでわかりますが、歌が入っている楽曲と比べるとインストは少しマイナーな分野かもしれません。ですが、インストの良さが少しでも伝わるといいなと思っています。

Seven Arcs西ヶ谷英武

今後のSeven Arcsは「制作」のみならず、「製作」にも注力

ところで、西ヶ谷さんはどんな経緯でSeven Arcsに入社されたのでしょうか。

西ヶ谷 新卒ではエンジニアとしてプログラミングなどをしていましたが、次第に「物作りの源流」である企画の仕事に携わりたいと思うようになりました。ですので、約2年エンジニアをした後、未経験から企画職に転職。現在までに2社経験し、主にライセンスを扱う仕事をしていました。

前職ではゲーム会社に所属していました。ゲームとアニメのコラボ企画などを担当したほか、新規事業としてアニメ製作を始めることになったので、そこに参加して、アニメのプロデュースも行いました。そのときに出会った方に声を掛けていただき、2024年7月にSeven Arcsへ入社しました。

前職ではゲーム化できることを前提としてアニメを作っていましたが、しっかりと映像で魅せられる作品を作りたかったこと、アニメのプロデュースにもっとチャレンジしたいと考えたことが転職理由です。

入社から1年経っていないので、毎日が刺激と驚きの連続です。子どもの頃からアニメや特撮が好きなテレビっ子だったので、TBSグループの一員としてテレビの仕事ができることをとてもありがたく思っています。

Seven Arcsは、どんな仕事をされているのでしょうか。

西ヶ谷 Seven Arcsは、アニメを作る制作会社です。「元請け」としてアニメ作品を制作する業務がある一方で、アニメの製作委員会に協力して制作の一部を担当することもあり、大小さまざまなビジネスを行っています。
アニメの制作では、Seven Arcsだけで動くこともあれば、TBSテレビのアニメ事業部と一緒に制作することもあります。2024年7月期放送のTBSアニメ『ハズレ枠の【状態異常スキル】で最強になった俺がすべてを蹂躙するまで』は、TBSグループとしてSeven Arcsがアニメーション制作を担い、TBSとタッグを組んで2社で本格的に共同制作した初めての作品です。

私自身も現在Seven Arcsとして2作品、TBSテレビとして2作品と、アニメシリーズ・映画あわせて現在、合計4作を担当しています。

Seven Arcs西ヶ谷英武

TBSテレビやTBSスパークルのアニメ部員はプロデューサーかAP(アシスタントプロデューサー)になることが多いそうですが、Seven Arcsに所属する西ヶ谷さんは制作の実務にも関わることができますか?

西ヶ谷 Seven Arcsでは、手を動かしてアニメ制作業務に携わるクリエイター業務のスタッフが大半を占めています。Seven Arcsに所属するプロデューサーは、「作品を作るための制作面でのプロデューサー」であり、スケジュールや予算の管理をしたり、どこの絵を誰に担当してもらうのか割り振りなどアニメを作ることが主な業務です。

そんな中、私は「企画プロデューサー」として採用されました。今後制作する作品の選定から始まり、どう制作していくかスタッフの調整も行います。また、Seven Arcs自体が委員会へ参画する場合のフロント業務、権利行使する際の窓口運用を担っています。ビジネス面でのプロデューサーというイメージです。このポジションで採用されたのは、私が初めてと聞きました。

また、Seven Arcsの仕事を行いながら、TBSテレビのアニメ事業部でも働いています。担当作品のプロデューサー業務を行いながら、毎月の企画会議にも参加しています。TBSテレビのアニメ事業部は20~30人のメンバーがいるので、3つの班に分かれ、それぞれ毎月1本以上、企画を提出するシステムで進めています。前職ではマネージャー業務も担当していたので、自分がプレーヤーとして携われるのは新鮮です。

今はTBSテレビのアニメ事業部とSeven Arcsを兼務しておりますが、それぞれのミッションが近いようで離れているので、考えながら業務を進めています。TBSがある赤坂と、Seven Arcsのある三鷹を往復しながら仕事しているのは珍しい形ですが、私で終わらないように、きちんと結果を出していきたいと思っています。

アニメの制作会社は他にもたくさんありますが、Seven Arcsの強みは何ですか?

西ヶ谷 まずはTBSグループに属しているので、グループの皆さんと手を組んで業務を進められるところだと思います。Seven Arcsは制作会社ですが、「作って終わり」だと会社として経営が厳しいのが現実です。スタッフの出入りが激しい業界で、人材も育ちづらく、「何かしっかりした柱がほしい」ということで、これからは作品を作る「制作」だけではなく、作品の権利を取得するために出資していく「製作」に参加していくことが重要だと思っています。良い作品を作りながら、権利を持って製作委員会に入り、制作以外の売上も上げていくという両輪を目指しています。
私のこれまでの経験を生かせる部分がありながら、仕事は一人ではできないので、TBSグループの皆さんの力を借りながら、全体で成功させていきたいなと思っています。

また、コミュニケーションが活発なところも強みだと思います。執務室がオープンになっていて、そこでスタッフの皆さんが絵を描いたり制作したりと作業をしているのですが、自然と会話が生まれるようなオフィスの作りが良いのかもしれません。

最後に、アニメ制作の仕事を目指す就活生に向けて、メッセージをお願いします。

西ヶ谷 就職活動をしていると「好きなことを仕事にしない方がいい」と聞くかもしれませんが、そんなことはないと思います。私は今、好きなことを仕事にできているので、自分の「好き」を諦める必要はないと思うんです。

アニメ制作の仕事は、絵を描いたり編集をしたりという実務作業だけでなく、私のように企画プロデューサーというビジネス寄りのポジションもあります。絵を描けなくても、アニメの仕事に携わる道はあるので、諦めずに頑張ってください!

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Seven Arcs西ヶ谷英武

西ヶ谷英武
2009年システムエンジニアでキャリアをスタートし、2011年にエンターテインメント業界に転身。2016年グリーでゲーム事業・アニメプロデュース事業を担当。アニメでは『平穏世代の韋駄天達』(2021年)、『もののがたり』(2023年)、『便利屋斎藤さん、異世界に行く』(2023年)を担当。2024年7月Seven Arcs入社。


『ロックは淑女の嗜みでして』©福田宏・白泉社/「ロックは淑女の嗜みでして」製作委員会

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