- People
劇場版『トリリオンゲーム』関連作・『Eye Love You』などを無料配信「TBS ファンサタ」スタート、懐かしの番組が届くまでにはどんな苦労が?運用担当が語る配信の裏側

TBSは、2025年1月18日(土)から約2か月にわたり、「TBS ファンサタ(Fantastic Saturday)キャンペーン」を行います。毎週末に名作ドラマや人気のバラエティ番組を、TVer・TBS FREEにて期間限定で無料配信します。
番組配信は、TBSグロウディアの「コンテンツ事業本部デジタルコンテンツセンター」が運用・権利処理を担っています。いまや「映像配信」はTV番組の視聴スタイルとして広く受け入れられていますが、配信番組が各視聴者に届くまでに、どんな過程を経ているのでしょうか。配信運用部の池脇達弥と、権利処理部の山田加奈子に話を聞きました。
番組ジャンルによって異なる、配信処理の仕方
まずは、おふたりが手掛けている仕事内容を教えてください。
池脇 配信運用部は、放送した番組をその直後から配信する見逃し配信(キャッチアップ配信)や過去作品の配信(PR配信・アーカイブ配信)の仕事を中心に行っています。また、放送の同時配信(リアルタイム配信)、スポーツ中継やイベント等の生配信(ライブ配信)の仕事も一部携わっています。
僕は現場リーダーとして全体を見ながら業務にあたっています。
山田 権利処理部では「配信・CS放送・海外番組販売・DVD部門の権利処理業務」を一元管理しています。放送番組の二次使用にあたり、「各番組に関わる権利者や著作物の使用許諾を得ること」と、「対価の二次使用料をお支払いすること」が部署の主な業務ですが、丁寧に確認や申請を進めることが重要です。配信部門には複数のチームがあり、私はチームリーダーを担当しています。
デジタルコンテンツセンター全体で、地上波放送以外の収入事業の根幹を支える大切な役割を担っています。
見逃し配信に関する業務はどのような内容ですか?
池脇 まず、配信する番組は決まっていて、権利面で難しい番組がありつつも、基本的に配信できるものは全て配信できるように取り組んでいます。生放送のニュース番組は現在見逃し配信をしていませんが、同じ生放送の『CDTV ライブ! ライブ!』や『ラヴィット!』、『オールスター感謝祭』などは放送後、準備が整い次第、見逃し配信しています。
各配信プラットフォームに載せるサムネイル画像や文章の準備も担当しています。バラエティ番組は基本的に制作の方にご用意いただいたものを登録していますが、ドラマのサムネイル画像やあらすじの文章は配信運用部で作っているものもあります。古い作品の場合はあらすじなどのデータが残っていないことがあるので、映像を見ながら作成しています。これは、権利処理部でも似たような作業が発生していると思います。
山田 見逃し配信の初手の権利処理は基本的に番組の制作チームが担っており、我々は制作チームと連携を取りながら権利者への二次使用料のお支払いに向けて動いています。
配信に伴う権利処理は番組のジャンルごとに違いもあります。
まず、ドラマの場合は原作者や脚本家という「著作者」がいらっしゃるので、その方々に二次利用の許諾をいただいております。
一方、バラエティや音楽番組の場合、例えば本編の中に新聞記事や写真など、どこかからお借りした著作物を使っている場合は、その使用許諾を得る必要があります。配信における使用許諾が得られなかったり、使用料金が高額など、何らかの理由により使用できない場合は、TVerなどで「都合によりお見せできません」というテロップを表示するなど著作物を使用しないようにする編集作業が必要になります。
見逃し配信はTVerなどの無料配信サービスだけでなく、有料プラットフォームでも行われていますが、配信先によって作業内容に違いがあるのでしょうか。
池脇 使える素材に少し違いがあります。無料配信では使えるけれど、有料配信では使えない素材があるので、配信先に合わせた素材を納品しています。
山田 無料配信の場合、配信期間は大体数週間以内なので、初手の段階で権利処理を行えばいいのですが、有料配信は何年も配信を継続していくので、配信を延長するタイミングに改めて許諾を取り直したり、継続的なお支払いの作業が必要になったりしてきます。

キャンペーン対応は総力戦で挑む
続いて、キャンペーンについてうかがいます。まもなく「TBS ファンサタ キャンペーン」が始まりますが、これに向けてどのような準備を行いましたか。
池脇 プロモーションを中心に考える部署がキャンペーンを企画するので、それに合わせた過去の作品をピックアップし、権利の確認をしてから配信作を決めて、配信準備を進めていきます。
例えば、今回の「TBS ファンサタ キャンペーン」では、すでに発表されている、ドラマ『トリリオンゲーム』(2023年)をはじめとした、2025年2月公開の『劇場版「トリリオンゲーム」』出演キャストの過去ドラマのほか、『Eye Love You』『西園寺さんは家事をしない』(ともに2024年)、『恋はつづくよどこまでも』(2020年)、『大恋愛~僕を忘れる君と』(2018年)などの人気ドラマ、BS-TBSで放送中のバラエティ番組人気回を続々と配信予定です。
山田 キャンペーン企画は準備期間が短い中、数十作品の権利処理を進めなければならず、スピード感が求められます。というのも、例えば地上波新ドラマ出演者の過去の出演作を配信したい場合、まずはそのドラマの出演者が決まらないと動けません。そのため、ラインナップが最終確定するのは大体配信開始の1~2か月前。中には初配信の作品もあり、そうなると準備が本当にギリギリなので、毎回総力戦体制で乗り切っています。
特に昔の作品、とりわけ2000年代以前は「配信」という概念がなかった時代なので、資料がないものも多く、著作者や著作物の洗い出しから始める必要があります。作品を見直したり、テロップをチェックしたりと、どうしてもアナログな作業が多くなり、時間がかかってしまうんです。

報道特別番組放送の際は緊急対応も
配信する番組数は膨大な量があるかと思いますが、どのようなチーム体制なのでしょうか。
池脇 配信運用部ではドラマ・バラエティ・系列番組というようなチームに分けられて、それぞれ番組ごとに制作側と向き合う人が一人、設定を担当する人が一人と、一つの番組につき少なくとも2人以上が関わっていて、皆で掛け持ちしています。
山田 権利処理部は、番組ごとに担当者を割り当てており、見逃し配信の音楽番組やバラエティなどは一人につき5番組前後を担当しています。見逃し配信のドラマは1つの作品につき2人体制です。ドラマの有料配信は基本的にずっと配信に出していることと、地上波での放送後すぐに見逃し配信に出していることから、チェック体制を強化するためにダブルチェックをしています。
ちなみに、デジタルコンテンツセンター全体では約80人在籍しています。この数年で配信番組数が増えたので、10年前には想像もつかない規模感の組織となりました。私は2023年に育休から復帰しましたが、配信権利部門だけで10人くらい増員していたので驚きました。
配信が予定されていた番組が、自然災害などで急きょ中止になることがあるかと思います。その場合はどのような作業が発生するのでしょうか。
池脇 基本的に、配信コンテンツは放送より前に配信されてはならないので、なんらかの理由で予定していた番組が放送されなかった場合、配信を止める必要があります。
例えば、2024年の元日、能登半島地震が起きた際には、急きょ報道特別番組を放送しました。このときも、放送後に見逃し配信する予定だった番組が放送前に配信されないように、集まることができたメンバーで作業しました。
ただ、予定していた配信を止める作業には意外と時間がかかります。YouTubeではボタン一つで止められると思いますが、他社で配信される番組は、先方の方々にも配信を止めるための作業をしていただく必要があります。
しかも設定した番組の配信時間をずらす作業は、1番組ごとに手作業で設定を変えていかなければなりません。もう少しシステム化できればいいなと思いつつ、うまくいかないところもあります。このような緊急時には、いつもハラハラドキドキしながら対応しています…。
山田 その点、権利処理部では、今ではありとあらゆるシステムが導入されています。といっても、10年前はエクセルを使うなど手作業がすごく多かったです。そこからコロナ禍でテレワーク中心の働き方になり、様々な作業がシステムで完結するようになりました。今も慣例の見直しに力を入れていて、どんどん変わっていくのでついていくのが大変な部分もありますが、人数を増やすばかりでなく、作業の効率化も必要です。ここ数年はまさに過渡期だなと感じています。

配信運用は縁の下の力持ち!映像配信において欠かせない存在
ところで、おふたりはなぜTBSグロウディアに入社されたのでしょうか。
池脇 僕はもともとテレビが好きだったことがきっかけで就職試験を受けました。今も番組に近いところで仕事ができているので嬉しいです。やっぱり、部員にもテレビが好きな人が多いですよ。
山田 私もテレビが好きということが、最初のきっかけでした。それと、学生時代にアメリカへ留学していたのですが、寮のテレビで『風雲!たけし城』(1986~1989年)などが流れていたのを見て、日本のコンテンツの力を実感し、TBSグロウディアの前身企業を志望しました。日本が誇る魅力的なコンテンツを国内外問わず配信で楽しんでいただくためのお仕事をしているので、学生時代の夢が繋がっているなと感じています。
部署の雰囲気はいかがですか?
池脇 配信運用チームは出社して業務する人、テレワークが中心の人、バランスよく使い分ける人等、各々の業務や役割によって働き方がさまざまです。それぞれ得意な分野が違うので、知識を寄せ集めて良い方向に進むように日々会話しながら業務をしています。
配信運用の仕事はここ数年で急速に増えてきたので、配信しか担当したことがないという人は意外と少ないです。特別な資格が必要というわけではなく、文系出身の方も多くいます。仕事をしながら覚えていけると思います。
山田 権利処理チームも、法律系学部の出身でないとできない仕事のように思われるかもしれませんが、私自身も権利に関する知識はゼロの状態で入ってきました。ほかにも未経験から入ってきた人もいます。
働き方はテレワークが中心ですが、チャットや電話、オンラインミーティング等でのコミュニケーションが活発で、風通しはとてもよいと感じています。わからないことがあったらすぐに教えてもらえるのもありがたいです。育休も取得しやすく私は2回取らせていただいて、時短で勤務していたこともあります。決して生ぬるい業務ではありませんが、工夫しながら子育てと両立しているメンバーも多数在籍しています。
今後、配信運用に関わる仕事を志す人も増えるかと思います。最後に、就活生に向けてメッセージをお願いします。
池脇 TBSグロウディアは、アットホームな雰囲気が魅力です。もともと7社が合併してできた会社で、いろいろなジャンルに精通してる人が大勢揃っています。そこが面白いですし、仕事で初めて挨拶した人が実はグロウディアの社員だった、ということも多々あります。これは、グロウディアのあるあるです(笑)。横のつながりを強化するイベントも度々行っています。
配信運用部の仕事は、映像配信においてなくてはならない存在だと私は思っています。配信サイトのランキング上位にTBS番組がランクインしたときは、とてもやりがいを感じます。テレビや映像が好きな人なら、楽しく働ける環境かなと思います。
山田 権利処理の担当としては、過去の番組を初めて配信に出せたとき、SNS等で「この番組が配信されている!うれしい!」というような、視聴者の皆様からの喜びのコメントを見るととても嬉しいです。例えば、ザ・ドリフターズのお笑い番組『8時だョ!全員集合』(1969~1985年)や人形劇『飛べ!孫悟空』(1977~1979年)は、当時の映像のクオリティーに合わせてテロップを作るなど、大変なことも多かったですが、大きなやりがいを感じました。
グロウディアを含め、TBSグループにはチャレンジできる環境があります。変化し続ける配信業務の中でも、慣例を見直し、新しいことに挑戦する重要性を日々感じておりますので、就活生の皆さんにも、自分がやりたいことや、できそうなものを見つけてチャレンジしたり、視点や習慣を常にアップデートしていける柔軟性を持っていただけるといいんじゃないかと思います。
>NEXT
「日常の楽しみになるものを作りたい」TBS GLOWDIA・長屋美有が挑むテレビショッピングの世界
TBSアニメ『地縛少年花子くん』がアメリカで大人気!ヒットの秘けつを海外セールス担当に聞く

池脇達弥
2009年現TBSグロウディア入社。コンテンツ事業本部デジタルコンテンツセンター 配信運用部。
地上波の国内番組販売の業務に約14年携わった後、2023年に配信運用部へ。まだまだ動画配信について日々勉強中。
山田 加奈子
2006年現TBSグロウディア入社。コンテンツ事業本部デジタルコンテンツセンター 権利処理部。
海外番組販売や総務を経て2011年よりCS放送/マルチユース/配信事業の権利処理を担当。2020年より配信事業の権利処理専任。2児の母(長男7歳・長女2歳、※年齢は2024年取材時)。