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ドローン空撮で現場の情報をいち早く視聴者へ、TBS報道カメラマンに聞く取材の裏側
TBSテレビの報道局映像取材部では、日々さまざまなニュースやドキュメンタリーの映像取材を手掛けています。2024年には、特殊詐欺犯の強制送還や能登半島地震といった重大ニュースにも携わってきました。
これらの映像取材はどのように行われたのでしょうか。映像取材の裏側について、報道局映像取材部に所属する、TBSスパークルの長谷川雄大、佐藤未麻奈、TBSテレビの倉上僚太郎に話を聞きました。(※写真左から、倉上・佐藤・長谷川)
能登半島地震では、ドローンで被害の状況を伝える
まずは、2024年元日に発生した能登半島地震について聞かせてください。長谷川さんが映像取材を担当されたそうですが、どんな経緯があったのでしょうか。
長谷川 映像取材部には、特殊な映像取材を担当するチームがあるのですが、僕は当時「TBS・JNNドローンチーム」として能登半島地震の映像取材を担当しました。
基本的に災害や事件事故が起きたとき、第一報として報道ヘリコプターに乗って向かい空撮を行う「ヘリ番」というチームがあります。しかし、地震でヘリポートにも被害が及んでいる可能性があったこと、現地の天候が悪くてヘリを飛ばすことができないことを想定し、ドローンチームも取材へ行くことになりました。ヘリが飛べないとき、雨でも雪でも、空から広くわかりやすい映像を撮れるのがドローンだからです。
年末年始は政治や経済もそこまで動いておらず、報道局自体はのんびりとした雰囲気でした。元日は出勤していた報道局みんなで集まり、デスクの方が「今年は何事も起きないといいね」と話していた矢先、16時10分頃に地震が発生しました…フロア中に警報が鳴り響き、怖かったですね。それから準備を始め、新幹線は止まっていたので道路状況を確認し、17時にはドローンチームが車に乗り、出発しました。
現地に到着した際の様子はいかがでしたか?
長谷川 震度7が観測された石川県志賀町に入ったのは、翌1月2日の深夜3時頃。停電で真っ暗ですし、ドライバーさんの休息も必要です。海の位置を確認し、安全を確保できる場所を探して車内で3時間だけ寝ました。ですが、被害の状況を伝えなければならないという使命があるので、ガタガタの道を行っては戻りながら、穴水町まで走り続けました。
ただ、到着した1月2日はドローンを飛ばすことはできませんでした。ドローンを上げるには、どのエリアでどのくらいの時間飛ばすのか国交省に申請しなければなりません。それに加え、今回は被災地でのドローン飛行を制限する「緊急用務空域」が設定され、ドローンを含む無人航空機の飛行は禁止になりました。
しかし、災害時の報道取材は新たに国土交通大臣の飛行許可を得れば、飛行可能との事でしたので、チームで丸一日かけて調べ、先輩が粘り強く申請・交渉をしてくれました。
その結果、1月3日未明に飛行許可が下り、地震発生から3日目にドローンでの映像取材を行いました。輪島市と珠洲市の被災状況をその日の『Nスタ』で放送し、地上からの撮影では伝えきれない被害の状況を伝えました。
実は「緊急用務空域(ドローン飛行制限)の除外申請」は、国内外のメディアを含めTBSが初めて許可を取得し、いち早く被災地の俯瞰映像を放送できました。被害の状況を伝えなければならない、という気持ちであきらめずに取り組んだからこそと思います。
被災地での撮影はどのように行いましたか?
長谷川 一つの市につき事前に申請した2~3か所をまわり、地上からの撮影ではわからない、津波や土砂の被害の状況を俯瞰で撮影しました。
僕は操縦・撮影を担当しましたが、被災地で、しかも雪が降る中で飛ばすのは初めてだったので、とても緊張感がありました。プロペラの音や距離感などドローンの存在が救助活動や復興活動の妨げにならないよう、最大限配慮しながら撮影しました。
地上のカメラで被災地に入らせていただいた際は「人」の声や想いに寄り添う事がカメラマンとして大切であると思っていますが、能登の震災ではドローン撮影を通して、災害規模そのものと向き合う時間が多かったです。「町があった、人が暮らしていた」当たり前の景色を一瞬にして奪っていく自然に脅威を感じたのを今でも覚えています。
機体を飛ばせるのは約20分ですが、その時間を最大限使うのは危険です。強風や悪天候など状況によって変わりますし、ドローンは電波が切れたり、不具合があったりすると地上に落ちてしまいます。そこで、一回の撮影で大体10分程度におさめるようにしています。
必要最低限のカットが撮れたら終了できるように、ドローン撮影では操縦者のほかに安全管理やサポート役の存在が重要になります。現場では「もっと撮れるのではないか」といったバイアスがかかりやすいものですが、見極める人がいたからこそ、事故なく安全に撮り終えられたのだと思います。
ちなみに、こういった地震、豪雨、大雪など現場環境の厳しい取材には、映像取材部の「山岳班」に所属するメンバーが行くことも多いです。
「山岳班」は、どのような活動をしていますか?
長谷川 山岳班は2010年に創設されました。山に対する知識や撮影スキルを身に付け、ひいては安全管理の知識を学ぶために訓練しているチームです。ロープを使って垂直に崖を下りて撮影するなどのトレーニングをしています。
山での訓練を経験したことで、自分の発言に説得力がついたと思います。例えば、同行するスタッフが大先輩だとしても、どんな理由があって危険なのか、経験をもって提案できるようになりました。
もちろん、災害時の取材だけではありません。ドローンで紅葉を撮るなど山をテーマにした企画映像を撮ることもあります。山というステージで自分の思い通りに撮れることはやっぱり魅力的で、山岳班に入っていたからこそ見ることができた景色はたくさんあります。
特殊詐欺班“ルフィ”強制送還の撮影に尽力
海外にも取材へ行かれることがあるのでしょうか。
倉上 もちろんです。僕は2024年パリオリンピックの取材へ行きました。TBSからは取材パスの都合上、スポーツのカメラマンが主で、報道カメラマンは僕一人だけでした。『Nスタ』のキャスター取材や中継を一人で行い、大体一か月くらい現地で取材しました。
2023年はフィリピンの入国管理施設内部から行われた特殊詐欺犯の強制送還を巡る現地取材に行かれたそうですね。
倉上 この事件の詳細が明らかになる前に、先発組として2023年1月頃からフィリピンに行きました。現地で様々な取材活動を行った結果、日本メディアとして唯一“ルフィ”と呼ばれていた男に会い、その様子を撮影することに成功しました。一旦帰国しましたが、記者の方が日本への強制送還の情報を掴んだため再度現地へ向かい、特殊詐欺グループの強制送還の様子を撮影することができました。合計で約3週間。当時は社会人2年目だったので、無我夢中でした。
倉上さんは、2025年1月からタイのバンコク支局に赴任されるそうですね。支局ではどんな仕事をするのでしょうか。
倉上 海外支局では、ウクライナ侵攻やイスラエル・ガザの紛争といった大きな出来事が発生したときに、どこよりも早く現場に駆けつけ映像を出すことが使命です。日本のように日々オンエアするニュースがない分、集中すべきときに全力を注ぐ、メリハリが大事な仕事になります。
バンコク支局はタイ国内だけではなく、中央アジアからオセアニアの一部地域までを幅広く対象としています。このエリアで何か大きな事件や事故が起きたら第一陣として赴きます。
ニューヨークやワシントン、北京といった、駐在する国自体を主に取材する支局とは異なり、バンコク支局は守備範囲が広いところに、やりがいを感じています。
バンコク支局の赴任を控え、どんな心境ですか?
倉上 TBS報道局では配属時に、記者とカメラマンのどちらかを選ぶことができ、どちらを選んでも海外支局へ行くチャンスはあります。僕は元々国際ニュースに関心があったこと、研修を通してカメラの面白さを知ったことから、ずっと報道カメラマンとして海外支局への赴任を希望していました。バンコクは初めての海外出張先で何かと縁がある場所ですので、よい取材ができたらと思っています。
照明や音声技術を身に付け、ワンランク上の映像に仕上げる
佐藤さんは、どんな業務を担当しているのでしょうか。
佐藤 私は入社当初からVE(ビデオエンジニア)といって、音声や照明といったカメラのアシスタントなどを担当してきました。2023年からはVEの仕事と交互に、カメラマンの研修も行っています。
元々報道の仕事を希望して入社しましたが、研修で自民党へ取材に行ったとき、他局のカメラマンは全員男性だったところ、TBSだけ女性だったんです。その方が男性と肩を並べて撮っている姿がすごくかっこよくて、私もカメラマンを目指すようになりました。
研修中はどんなことをしていますか?
佐藤 『JNNニュース』や『Nスタ』などで使われる事件・事故をはじめ政治や経済など幅広くニュースの映像取材を行っています。地震発生やミサイル発射など有事の際には、官邸まで行くこともあります。
実は研修期間は特に決まっておらず、技量次第です。カメラマン研修を受けている人はたくさんいて、「現場を任せられる」と判断されてから独り立ちできます。
VEの経験が取材に生かされていると感じるのは、どんなときですか?
佐藤 照明の当て方や音声の録り方によって、撮れる映像のクオリティーが全く変わってきます。例えば、照明の当て方一つで取材対象者の肌のしわを消せたり、彫りを深く見せたりすることができますし、物撮りするなら余計な影を消して対象物を引き立たせることができます。光量や光の色、光の当て方次第で対象の印象を作ることもできます。
また、どんなにきれいな絵が撮れても、雑音が混じっていたら台無しです。今録るべき音が何なのか考えながら撮影できているのは、VEの経験があったからこそだと思います。
チームプレーできるのが、報道カメラマンの強み
報道カメラマンには男性が多く、産休や育休などを取得するのも難しそうなイメージがあります。佐藤さんは育休を経て復帰されたそうですが、実際はいかがですか?
佐藤 割合としては男性の方が多いですが、最近は少しずつ女性が増えてきました。部署全体で約80人、そのうち女性は10人くらい在籍しています。
育休に関しては、女性の先輩で育休から戻ってきた方がいなかったので、働き方は手探り状態です。まだ子どもが小さく、災害系の取材に行くことは難しいですが、ニュースになる出来事は日々生まれ、できることはたくさんあります。
また保育園の送迎に間に合うように、早朝や遅い時間の取材にならないように配慮していただいています。
長谷川 部署のフォローは手厚いですよね。僕も、今は家族の体調ケアをさせてもらうために、基本的には土日休みの国会勤務に異動させていただき、主に官邸と国会議事堂の中で議員や委員会など政治の映像取材を担当しています。
育休も取得する予定です。報道の仕事は休みがとれないイメージがあるかもしれませんが、一年を振り返るとしっかり休みはいただいています。働くときは働いて、休むときは休むのが映像取材部の伝統です。
ただ、報道の人間なので、大災害が起きたら絶対に現場に向かいます。そこは一気に切り替えますね。熊本地震(2016年)のときも、休みで岐阜にいましたが、一度東京に戻って熊本まで行きました。
倉上 映像取材部はチームプレーで動いていて、カバーをし合っていけるのが特徴の一つだと思います。僕もそうですが、急に誰かが行けなくなったときは代わりに行ける人がいます。
それに、カメラそのものが6~7kg、レンズや三脚を合わせると10kg近くあるので、毎日カメラを持つと肉体的にも疲れますし、現場によって動き方が全然違うので、頭も疲れてしまう。無理をしないことが、いい取材に繋がると思います。
報道カメラマンを目指す学生に向けて、メッセージをお願いします。
長谷川 報道カメラマンの魅力は、自分が見て感じたものを映像にのせられるところだと思います。映像取材部のカメラマンは、ニュースにしろドキュメンタリーにしろ、ディレクターに指示されたものだけを撮っているのではなく、カメラマンが自ら考えて撮っています。ニュースでは必要な映像がある程度決まってきますが、ドキュメンタリーでは例えば悲しみなどを表現するために何か1カットが必要だな、といったところは経験から感覚的に撮影しています。
ですから、一つのネタでもカメラマンによって全然違う映像表現になります。大先輩のカメラマンが撮った映像の表現は素晴らしく、見ただけで誰が撮ったかわかるものです。その「自分らしさ」をどう出すのかはなかなか難しいですが、一生懸命考えながら撮影しています。
倉上 撮る内容によって撮り方を変えられるのは、魅力的ですよね。普通の番組におけるカメラマンとディレクターとの関係性は違うと思います。
昨今、メディアは批判をいただくことも多いです。もちろん、事故や災害の現場には被害者・被災者の方がいるので最大限配慮しなければなりません。その上で最大限撮れるものを撮り、伝える。報道カメラマンを目指すなら、そういった自主性を養っておかれるといいと思います。
佐藤 映像取材部では、政治経済や事件事故などジャンルの幅が広いので、関心の幅が広いことが大事だと思います。入社までカメラの経験がなかった人も多く、映像のことは入って来てから学べるので、ニュースを掘り下げたいという気持ちさえあればできる仕事だと思います。
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長谷川雄大
2015年TBSスパークル入社。
TBSテレビの報道局映像取材部にて、VE業務、報道ヘリ業務、SNG業務、ドローンチーム、選挙特番渉外担当、東京オリンピック担当カメラマン(報道)、各報道番組カメラマンなどを歴任。現在は国会カメラマンとして勤務。山岳班にも所属。
佐藤未麻奈
2018年TBSスパークル入社。
TBSテレビの報道局映像取材部所属。VE業務従事後、2021~2022年に産休・育休を取得。2023年に職場復帰。現在は、カメラ研修中。
倉上僚太郎
2021年TBSテレビ入社。
1年目より報道局映像取材部所属。これまでにイスラエル・ガザの紛争(2023年)、パリオリンピック(2024年)などを取材。宿直のデスク、選挙中継責任者も担当。2025年1月からJNNバンコク支局へ赴任。