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TBSグループキャラクター「ワクティ」、かわいいデザインにTBSの理念を込めて…デザイナーが明かす誕生秘話

2024年7月、TBS初のグループキャラクター「ワクティ」が誕生しました。コンセプトは「一人一人のときめきから生まれた、みんなの“ワクワク粒子”が世界中から集まって誕生したキャラクター」。一般公募された名前は67,564件の応募の中から決定し、今後TBSグループの番組や配信、イベント、グッズ展開など、さまざまな場面で活躍していく予定です。

デザインを手掛けたのは、TBSテレビのインハウスデザイン部門である「デザインセンター」に所属する若尾陸利、郡司毬子と、桝本瑠璃。ワクティに込めた思いやデザインのこだわりなどを聞きました。

(※写真左より、桝本・若尾・郡司。桝本は2024年現在、TBSホールディングス ブランドコミュニケーション戦略部に所属)

企業理念と「かわいらしさ」が両立したキャラクターを目指して

TBSグループキャラクター「ワクティ」キービジュアル

まずは、皆さんがキャラクター開発に携わることになった経緯を教えてください。

桝本 私は2020年の夏に発足した「キャラクターワーキンググループ」にアサインされたのがきっかけです。TBSにコーポレートキャラクターが必要か、というところから議論を始めました。そして、「堅い」「無味無臭」というTBSのイメージを払拭し、「親しみ」を持ってもらえるよう、お客様とTBSグループを繋ぐコミュニケーションツールとして、キャラクターを開発することが決まりました。

その後、ワーキンググループ内で方針や作り方について議論をしつつ、キャラクターは社内外から公募で決めることになったので、社内のデザインセンターからも若尾さん、郡司さんを中心にデザイン案を出してもらいました。

若尾 桝本さんにお話をいただいて、郡司と私で大量にアイデアを出しました。手描きの概略図からちゃんと描き込んだものまで、数百案出したと思います。

郡司 キャラクターのモチーフとして、動物は片っ端から試しましたね。そこから、動物じゃないなら地球、星…と考えながら、幅広く案を出していきました。

アイデア出しの際、意識したことは?

桝本 そもそも、私たちはキャラクター開発をしたことがなかったので、企業キャラクターの研究から始めました。その結果、シンボルマークとは異なり、キャラクターは「友達になれて寄り添ってくれる存在」を目指すべきだと気付きました。また、世界に向けて発信できるよう、宗教的にNGなモチーフや、差別を連想させるものは除外し、類似キャラクターがいないことを確認しながら慎重に進めました。

郡司 TBSの顔として機能するだけでなく、直観的な「かわいらしさ」も大事だと思ったので、その二つが両立するように意識しました。かわいいと感じるかどうかは年齢や性別によって異なるので、みんなから愛されるにはどうすればいいのか、メンバーと部活のように話していた時期があったのですが、そこでいろいろな意見を聞けたのがよかったと思います。苦労しつつも楽しかったですね。最終的に、デザインセンターからは3案提出しました。

TBSテレビ郡司毬子

ブラッシュアップを重ね、末永く愛されるキャラクターに

ワクティのデザイン案を出したのは若尾さんだと聞いています。どのように思いついたのでしょうか。

若尾 まずTBSの企業理念の要素を内包させるため、「時代や国境に左右されず世界中の人々に、ときめきを届けられるようなキャラクターにしなければいけない」と考えました。さらにTBSが力を入れている「SDGs」を連想させるようなデザインを自然に取り入れようと思いました。

喫茶店で弟と話しているとき、SDGsにまつわるキーワードを出してもらい、ピンと来たのが「雪」でした。雪が降ると、やがて溶けて水になり、川を下る。この循環はSDGsにも欠かせない要素です。さらに、この水は世界中を巡っていくことから、世界で展開していくキャラクターにふさわしいと思いました。
そこから雪をモチーフにしたイラストを描いて見せたところ、メンバーから「雪よりも雲に見えるね」と言われ、雲も雪と同様に世界中を旅することができ、世界中の人々が知っているモチーフでもあると考え、雲をモチーフに選びました。さらに雲は上がり下がりはしても決して地に落ちない縁起の良いモチーフでもあります。また、「TBSブルー」(※TBSのブランドカラーである青色)と合わせると、青空のようなポジティブなイメージを持たせられそう、という狙いもあります。

桝本 柔軟に形を変える雲は、いろいろな場面に合わせられるところがいいなと思ったんです。時代を問わず活躍するキャラクターにしたかったので「変化する」という点は大事なポイントとして最初の段階から考えていました。

デザインのこだわりを教えてください。

桝本 TBSグループが目指す姿を体現した存在になるといいなと思っていたので、キャラクターのコンセプトもTBSの企業理念から要素を抽出し、戦略的にデザインしていきました。なおかつ、隙があって完璧ではない、みんなで育てたくなるところもポイントの一つです。

ワクティは白くてシンプルな見た目なので、当初は「印象が弱い」と言われることもありましたが、あえてのデザインでした。普遍的で末永く愛されるキャラクターを目指したため、流行やパッと見のインパクトに頼らず、普遍的なデザインを追求した結果、今のデザインに仕上がりました。

若尾 シンプルだからこそ、どんな時代にも合わせられるし、TBSのコンテンツを引き立てることができる。それに、番組セットはいろいろな色を使うので、その中にいたら、かえってワクティは目立つはず。良いバランスになったと思います。

あとはブラッシュアップする中で特徴を出すために、TBSロゴの『T』同様に23.4度の角度のスカーフをつけました。また、はじめはリアルな雲をイメージして顔の形をランダムなモコモコにしていましたが、シンプルなキャラクターですのでモコモコの部分を整えていきました。

特に難しかったところは?

若尾 立体を成立させるところです。二次元でかわいく成立していたものをどうやって立体でも印象を変えずに可愛く成立させるか、粘土をこねながら悩みました。本当はCGで作れたらよかったのですが、全くCGソフトに触れたことがなかったので、まずは粘土で形を検証し、その粘土を参考にTBSアクトのCGチームの方にCGモデルを作成していただきました。社会人になって、まさか粘土をこねるタイミングがあるなんて、と思いながら考えました(笑)。

桝本 着ぐるみの制作が決まっていたので、立体化するのは必須だったんですよね。立体化するにあたり、特に難しかったのが頭の形と横顔。何度も立体検証する過程で「餃子期」と「大仏期」を経て、ようやくこのデザインにたどり着きました。誰もが親しみを持てるよう、小動物感のある横顔にしています。

左より、若尾作の粘土作品 → CG餃子期 → CG大仏期
左より、若尾作の粘土作品 → CG餃子期 → CG大仏期

若尾 これはTBSアクトのCGチームが何度も修正しながら作ってくれたものです。一番最初のCGを見ると、横顔が平面ですが、今は鼻が出ています。これは桝本さんに提案していただいたアイデアです。鼻を立体的にした瞬間、しっくりきました。

 ワクティ完成版
ワクティ完成版

その後、TBSグループ全体の投票でワクティが採用されました。結果を聞いて、どんな心境でしたか?

若尾 嬉しかったのはもちろん、長期プロジェクトだったので、一仕事終えたという安心感がありました。それと、自分たちが作ったものなので、デザイナーとしてはこれからいろいろな展開をするうえで、運用もしやすいと思いました。個人的には、開票日の数日後に沖縄旅行へ行く予定があったので、沖縄を心の底から楽しめてよかったです(笑)。

郡司 ずっと不安でしたよね。TBSグループのキャラクターなのに、社外のデザイナーの案が採用されたら、インハウスのデザイナーの存在意義が薄れてしまいそうで…。ですから、社内で作り出したものが会社の顔に選ばれたことに、すごく達成感を得られました。

桝本 投票は、制作者が誰なのかを伏せたまま行われました。私たちは普段デザインをする上で、判断に迷ったときには一旦「企業理念」に立ち返ることが身についています。そうやって日々デザインを考えているので、作ったものにも自然とTBSらしさが滲み出る。今回、自社のキャラクターデザインでも、そういったインハウスデザイナーならではの強みが出たのかなと思いました。

TBSテレビ若尾陸利

海外からも「かわいい」と絶賛!今後は知名度向上を目指す

現在、地上波の連動スポットやTBSグループ各社のウェブサイト、イベントなどでワクティが展開されています。反響はいかがですか?

若尾 先日、デザインセンターが主催するTBSの美術協力会社を労うイベントで、ワクティの着ぐるみをお披露目したのですが、皆さんとても喜んでくださいました。ワクティが人と触れ合うところを初めて目の当たりにして、すごく嬉しかったです。かわいがってもらえているなと。

桝本 まずはTBSグループや関連会社の方といった内部の皆さんに愛されることが目標だったので、嬉しかったですね。「グッズがほしい」という声も大量に寄せられていて、今一つずつ作っています。

運用を開始してから、ワクティの市場調査をしたそうですね。どんな結果が出ましたか?

桝本 ネガティブチェックも兼ねて、海外にも「日本のある企業がこんなキャラクターを出そうとしています」という調査をかけたところ、アンケート対象者の100%が「かわいい」と感じたという結果が出て、これなら世界に出していけると確信しました。やはり、マスメディアとして性別を問わず、幅広い世代が「かわいい」と感じるキャラクターデザインを目指していたため、結果が出てよかったです。キャラクターは作って終わりではなく、育てていくことがとても大事なので、今後はより認知度を高めて、愛されるよう運用を進めていきます。

そして、2024年11月28日(木)にTBSグループの取り組みと共に、ワクティの魅力を伝えるワクティスペシャルムービー『ワクワクのはじまり』篇を公開しました。それにあわせて、「みんなでおどろう!ワクティダンスキャンペーン」を実施中です。ワクティのオリジナルダンスを踊った動画を募集していますので、ぜひご応募ください〈※応募期間:2025年4月13日(日)23:59まで〉。

TBSテレビ桝本瑠璃

ブランディングやドラマなど、TBSのデザインを幅広く手掛ける

ところで、TBSテレビのデザインセンターは、どんな部署ですか?

郡司 TBSグループのあらゆるコンテンツとコーポレートに関わるデザインを幅広く手掛けている部署です。以前は番組のセットを作る美術スタッフのような位置付けでしたが、私が入社した2020年から現在までの間に業務内容の幅が広がり、セット以外のコンテンツや新規事業なども含めて手掛けています。

例えば、私は「ラヴィット!ロック」のグッズのデザインや販売促進の仕方、プロモーションなどを担当しました。ほかに関わって3年目になる『輝く!日本レコード大賞』では、コンテンツの価値をどのように届けるのかを考え、ロゴなどを手掛けています。

郡司作品「ラヴィット!ロック」、『輝く!日本レコード大賞』
郡司作品「ラヴィット!ロック」、『輝く!日本レコード大賞』

若尾 グラフィックデザインなら番組のキービジュアルやロゴ制作だったり、空間デザインなら社内のカフェスペースやオフィスフロアのデザインだったり、業務は多岐に渡ります。

若尾作品「DigiCon6」、映画『たべっ子どうぶつ THE MOVIE』
若尾作品「DigiCon6」、映画『たべっ子どうぶつ THE MOVIE』

直近では、ドラマの企画段階から関わっていて、企画書をもとにコンセプトアートを作っています。これは新しいドラマ作りの一環で、今までは文章だけで制作チームに情報共有していたところを、ビジュアルで共有する施策です。映画の現場では行われているそうで、ドラマの映像的なクオリティーを上げるために新しい試みとして取り組んでいます。

桝本 あとはブランディングに関わるデザインですね。TBSのロゴも、デザインセンターとブランドコミュニケーション戦略部が協力して作りました。

いろいろなジャンルのデザイナーが在籍しているんですね。

郡司 デザインセンターのデザイナーはそれぞれ得意分野が違うので、とても刺激になりますし、仕事も見ていて楽しいです。バックグラウンドも多様で、美術大学とその他の大学は3:2の割合です。文系の方、理系でCGを独学で学んだデザイナーもいます。

桝本 デザインセンターは色んな種類のデザインのプロが集まる、一つの小さな会社みたいな感じです。幅広くデザインをしてみたい人にとって、すごく良い環境かもしれません。

ちなみに、皆さんが入社した経緯は?

桝本 私は知人から「TBSで美術セットデザイナーを採用しているよ」と教えてもらったのがきっかけです。映像にはずっと興味があり、映画業界に入りたいと考えていましたが、下積みに何年もかかると聞いて…テレビ局なら若いうちから仕事を任せてもらえそうだったので、自分に合っていると思い志望しました。

美術大学のプロダクトデザイン出身なので、空間デザインは未経験でしたが、先輩達から仕事を学び、14年ほど番組の美術セットやイベントの空間プロデュースとデザインを担当しました。2023年7月に総合プロモーションセンターブランドコミュニケーション戦略部に異動し、現在はクリエイティブディレクター兼アートディレクターとしてTBSグループのブランディングを担当しています。キャラクター戦略もその一つです。

若尾 自分はもともとテレビが好きで、映像に興味があったのと、テレビ画面に映っているものは楽しそうなものが多いので惹かれていったのがきっかけです。他の企業にもポートフォリオを出しましたが、テレビ局の採用試験は他の業界よりも早く、最初にTBSから内定が出たので、実は他の企業は受けていないんです。あれよあれよという間に今に至ります。

郡司 私はテレビ局の他にデザイン事務所も視野に入れて就職活動していました。他の企業の多くはデザインできるものの幅が狭いのですが、飽き性な自分はいろいろなことをやりたいという思いが根底にあったので、番組以外にも幅広くいろいろなデザインを手掛けられるTBSに魅力を感じ、第一志望で受けました。

ワクティ誕生を機に、TBSグループを目指すデザイナーの方が増えるかもしれません。最後に、就活生に向けてアドバイスをお願いします。

郡司 就職試験は自分をアピールする場なので、企業に合わせて何かをするというよりも、自分の好きなものや得意なこと、したいことなどを理解しておくのが大事だと思います。学生のうちに経験したことは無駄だと思っていても、仕事で活きてくることが沢山あったので、遊びながら色んな経験を積んでおくと良いかなと思いました。

若尾 デザインセンターは、その人の趣味や好きなものを大切に見てくれる部署なのかなと思っています。例えば、私は映画が好きで、学生時代はたくさんの作品を観てきました。それが今の仕事にも生かされていますし、就職面接のときはずっと映画『ロッキー』の話をしていました(笑)。自分の好きなものを主観で楽しみつつ、客観的に「なんで、これがこんなに好きなんだろう」と考えておくといいと思います。

桝本 学生のうちに興味や体験の幅を広げておくことが大事だと思います。私の場合、好きなものはとことん追求する一方、これまで興味を持たなかったものにも、意識的に触れるようにしていました。自分自身の幅を広げておくことで、変化する時代にも柔軟に太刀打ちできると思います。

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桝本・若尾・郡司

若尾陸利
2020年TBSテレビ入社。デザインセンター デザイン部。
「DigiCon6」のキービジュアル、セットデザイン、映画『たべっ子どうぶつ THE MOVIE』(2025年5月1日公開)、『櫻井・有吉THE夜会』などグラフィックデザインを中心に制作。

郡司毬子
2020年TBSテレビ入社。デザインセンター デザイン部。
『輝く!日本レコード大賞』第64~66回のグラフィック領域、「ラヴィット!ロック」、「あそび!学び!フェスタ」などを制作。

桝本瑠璃
2009年TBSテレビ入社。『音楽の日』『サンデージャポン』『櫻井・有吉THE夜会』などの美術プロデューサー、デザイナーを経て、 2023年TBSホールディングス 総合プロモーションセンター ブランドコミュニケーション戦略部に異動。TBSグループのブランディングに携わっている。

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