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奈緒と玉森裕太の“クズきゅん”ボクシングラブコメ『あのクズを殴ってやりたいんだ』、若手プロデューサーが明かすドラマ誕生秘話
2024年10月8日(火)より、10月期の火曜ドラマ枠(毎週火曜よる10時)にて『あのクズを殴ってやりたいんだ』の放送がスタートします。本作は、恋愛とボクシングを通した一人の女性の成長を、オリジナル脚本で描く“ガチンコボクシングラブコメディ”です。主人公の佐藤ほこ美(さとう・ほこみ)をTBSドラマ初主演となる奈緒さん、ほこ美と関わっていく金髪の謎の男、葛谷海里(くずや・かいり)を玉森裕太さんが演じます。
本作のプロデュースを務めるのは、入社6年目のTBSテレビ・戸村光来。企画の発端から撮影の裏側について、話を聞きました。
企画成立のカギとなったのは、若手脚本家との意見交換
『あのクズを殴ってやりたいんだ』は戸村さんが発案したオリジナルドラマです。まずは、企画の成り立ちを教えてください。
戸村 発端は、ドラマ部内でクローズドで作られた「ライターズルーム」です。ドラマ部員約30人がそれぞれ企画を提案した中から数を絞ったあと、数名の若手脚本家が合流し、全員で一緒にブラッシュアップしていきました。脚本家さんとの意見交換がなければ生まれなかった企画だと思います。
僕がこの企画を出したのは、2023年の3月頃。企画が着地したのは、ちょうどドラマ『VIVANT』(2023年)の撮影でモンゴルにいたときです。福澤克雄監督から企画が通ったと教えていただきました。
企画書の段階ではどんな内容だったのでしょうか。
戸村 元々、映画『百円の恋』や『ミリオンダラー・ベイビー』のような、女性ボクサーが主人公のドラマをいつか作りたいと考えていました。加えて、取材していく中で出会ったプロボクサーの存在は、大きかったです。その方はお子さんがいて、プロなのにバイトを3つ掛け持ちしているんです。ボクサーに華やかなイメージを持っていましたが、実はボクシングだけで稼げる人ってほんの一握りで、本当はとても厳しいスポーツだと知りました。
女性ボクサーはもっと大変で、試合でお金が稼げない方が多くいらっしゃるそうです。それでもボクシングに熱中する人がたくさんいるのは、このスポーツにとても魅力があるということで、すごいことですよね。また、男性ボクサーが主人公の作品は「勝利」や「友情」がテーマになりやすいですが、女性ボクサーなら「成長」や「周囲の支え」をテーマに人間ドラマを描けると思ったのも大きいです。
今回、初めてメインのプロデューサーを担当されます。どんな心境ですか?
戸村 僕は入社6年目でまだ経験が少なく、わからないことも多いです。ですから、とにかく対話するように意識して、いろいろな方とできるだけコミュニケーションを取るようにしています。
幸い、TBSにはディレクターやプロデューサーの先輩がたくさんいます。たくさんの方にアドバイスをいただきながら台本作成などを進めてきました。
キャストはどのように決めましたか?
戸村 最初に主人公・佐藤ほこ美、葛谷海里のキャスティングと、台本作りを同時進行で行いました。ほこ美役の奈緒さんは、とても人間味のあるお芝居をされる方。最初から「奈緒さんに演じていただきたい」と思っていたので、無事引き受けていただけて嬉しいです。その後、奈緒さんとのバランスを見ながら他のキャストの方を考えていきました。
海里は台本のキャラクターを立体化するうえで、演じていただく方の説得力がとても重要な役でした。台本を作っていくなかで「玉森裕太さんならば」と思い、お願いしました。玉森さんは、監督と一つ一つ話し合いながら撮影に臨まれ、魅力的に演じてくれています。
ほこ美の市役所の同僚・大葉奏斗役の小関裕太さんは、「まっすぐでかわいらしい先輩」の役がぴったりだと思いオファー。ボクシングジムのトレーナー・羽根木ゆい役の岡崎紗絵さんは、普段は女性らしい役柄を演じられる印象があったので、今回はあえて体育会系女子のような役柄をお願いしました。
さらに、プロボクサーの那須川天心さんも出演します。天心さんは「新しいことに挑戦したい」とおっしゃって、オファーを引き受けてくださいました。毎回違う役柄で登場するので、ぜひ注目してください。
こだわりが詰まったボクシングシーンに注目
脚本作りはいかがでしたか?
戸村 登場人物のキャラクターを大事に作りました。1話でキャラクターの印象が固まるので、どんなキャラクターならストーリーが転がっていくのか…1話だけで半年以上の時間をかけ、何十回も修正を重ねました。
特に難しかったのは、ほこ美です。ラブコメの主人公は少し天然だったり、鈍感だったりの要素が必要ですが、奈緒さんにどんな風に表現していただくか、すごく悩みました。企画書に「地味で真面目」と書いても、性格が地味なのか、選ぶものが地味なのか、脚本を作るときはかなり細かく設定しなければなりません。難しかったですが、先輩方の意見を頼りに作っていきました。
作中にはボクシングシーンも登場。どんな準備をしましたか?
戸村 都内のボクシングジムを十数か所回り、プロテストを受ける直前の方や、プロテストに受かった方、トップランカーとして世界で戦う方など、約40~50人に取材しました。皆さん、とても熱中されていて、強いボクシング愛を感じましたね。
また、ボクシングシーンのセットでは、実際にボクシングジムから譲っていただいたリングを使用するなど「年季が入った」感じを大切にしました。ボクシングは継続していくことでしか強くなれないスポーツと聞き、その継続感を表現するために、シミや擦り切れた感じを出したかったんです。ほかにもサンドバッグやパンチングボールもお借りした古いものを使い、こだわりました。
奈緒さんもトレーニングされているのでしょうか。
戸村 奈緒さんは元々、1年前から趣味でキックボクシングをされていたそうですが、2024年5月後半から撮影に向けてボクシングのトレーニングを始められました。ボクシング監修の方によると、奈緒さんは淡々と地道な練習ができるタイプで、レベルアップが早いそうです。
ドラマでは、初心者からプロになるまでの成長を描きます。奈緒さん自身は本当は上達しているのに、物語の序盤では初心者も演じなければいけません。始めたての頃の動画を見たり、思い出したりしながらお芝居をされていて、すっかり初心者のように見えますので、本当にすごい方だなと思います。
「恋愛っていいな」と思えるようなドラマを目指して
現在、撮影真っ只中。現場の様子はいかがですか?
戸村 奈緒さんはいつも笑顔で周りの人たちを楽しませてくださって、とても助かっています。撮影が長時間に及んでしまっても、常に元気でムードメーカーとしていてくださって、本当に素晴らしい方です。
玉森さんもスタッフ・キャストいろんな方とたくさん言葉を交わしコミュニケーションを取られていて、現場の雰囲気はとても良いです。
実は、奈緒さんと玉森さんはカメラがご趣味で、たまたま同じカメラを持っていたことが判明しました。待ち時間にはお二人とも、いろいろな人をカメラで撮っていますよ。これがカメラマンの海里の役柄にもつながってくるのかなと思いながら見守っています。
火曜ドラマはファッションも話題になります。スタイリングにはどんなこだわりが?
戸村 普段の火曜ドラマに対して、おしゃれに着飾るイメージを持つ方が多いと思います。しかし今回は熱量の高いボクシングを描きながら、都心から少し離れた場所が舞台のラブストーリーなので、「ぎこちないかわいさ」を意識しました。手に入りやすいアイテムを組み合わせで面白くして、「手が届きやすいけれど新鮮なファッション」を狙っています。
ほこ美はちょっと丈が足りなかったり、組み合わせや色使いが変わっていたり…独特なファッションを楽しんでいただけると嬉しいです。例えば、古着のシャツにジャケットとスラックスを着て襟や袖を長めにしたり、前髪はオン眉だったりしています。
玉森さん演じる海里はクズ男だけど人たらしでモテる役柄。クズって嫌だと思っても、惹かれてしまう存在だと思うんです。そんな風に「この人なら恋に落ちちゃうよね」という納得感のあるファッションを目指しています。そこでチャラチャラしすぎないように、色みはモノトーン。ナチュラルな印象も大切だと思ったので、アクセサリーはあえてつけていません。
あとは、カメラマンとしてどの現場でも行けるように、カジュアルでありながらフォーマルでもあるような合理的な側面も意識しています。髪型は目にかかったり風になびかせたり、かき上げるお芝居ができるように、ほぼノーセットです。髪色もドラマのために変え、根元だけ黒染めしてもらったりしています。玉森さんが演じることでモテそうなイメージは担保されているものの、ビジュアルを作り込んでさらに説得力をつけてもらいました。
ちなみにポスターやキービジュアルは、2人の空気感を出せるよう、一枚の生写真みたいなテイストを大事に制作しています。
ドラマを通して視聴者にどんなことを伝えたいですか?
戸村 奈緒さんともお話したのですが、白馬の王子様が現れて驚くようなことが次々と起き、シンデレラ的に結ばれる…という恋愛ドラマは、現実離れしすぎていて、かえって恋愛をしたくなくなることもあるのではないかなと。
そうではなく、人と人がお互いにぶつかり合ったり嫌いになったりする瞬間もありながら、長い時間をかけて形成されていくラブストーリー、全10話見終わったときに「恋愛っていいな」「恋愛によって人は変わることができるんだな」とじんわり思えるようなドラマにできたらと思います。
『VIVANT』で身に付いた、妥協しないものづくりへの姿勢
ところで、戸村さんがTBSに入社した理由は?
戸村 小学生の頃からずっとテニスに打ち込んでいたこともあり、テレビはあまり見る時間がありませんでした。学生の頃は美術系の大学に行ってデザインを学びたい気持ちもありましたが、実際は大学でマクロ経済学を学び、今振り返るとドラマ作りとは離れたことをしていたように思います。
就活では、ミュージックビデオの映像制作やコピーライティングに興味があり、広告業界を志望していました。ところが、よく相談にのっていただく先輩が実際に広告の仕事に就かれているので、話を聞いたら「映像表現に興味があるならドラマ制作とかが面白いんじゃない?」と。それでテレビ局のインターンに参加してみたところ、実際に面白くて…それがきっかけです。
入社から6年。これまでいろいろなドラマに携わられていますが、今まで一番大変だった現場は?
戸村 圧倒的に『VIVANT』ですね。僕はADとして、皆より先にモンゴルに行き、どうすればモンゴルロケを成立させられるか、現地のプロダクションや制作チームに向き合いながら試行錯誤していました。
現地にいたのは約3か月半です。砂漠までの道がないので、実際に機材のトラックやスタッフ用のバスで行ってみて道を作ったり、移動時間を計算したり。あとは、福澤監督が「羊を3000頭走らせたい」とおっしゃって、羊を探して調教したり。本当に何もない場所で、全てを一から作っていくのは大変でしたが、本当に良い経験になりました。
それに、『VIVANT』が社会現象になっていくのをリアルタイムで体感できたのは印象深いです。福澤監督の脚本の作り方や演出、ドラマ作りへの姿勢などがとても勉強になって、今回の作品に生かされている部分もたくさんあります。特に、教えていただいた「妥協しないものづくりへの姿勢」はずっと意識しています。
最後に、就活生に向けてメッセージをお願いします。
戸村 刑事ドラマや医療ドラマなど、ドラマには毎回テーマがありますが、その時その時に集中して専門知識を学んで楽しむことが大事な気がします。学生のうちから「いろいろなことに興味を持って深掘りする力」を鍛えておくと、企画や演出に生きてくるのではないでしょうか。もちろん作品を見ることも大事ですが、それよりも学生時代にしかできない経験を大切にしてほしいと思います。
今回、特に感じていることでもありますが、ドラマ制作は本当に小さな発想から、いろいろな人のアイデアを持ち寄って、皆で一つの作品に仕上げていくところが魅力です。テレビドラマは3か月間、週に一度オンエアがあるので、見ている人たちの生活の一部になり得る。辛いときはそれを思って乗り越えています。
そして、TBSは素晴らしい先輩がたくさんいらっしゃるので、学べることがとても多いです。ドラマを作りたい人にぴったりな環境だと思います。
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戸村光来
TBSテレビ コンテンツ制作局 ドラマ制作部。2019年入社。
これまでに『VIVANT』ADなどを務める。『あのクズを殴ってやりたいんだ』では初めてメインのプロデューサーに。