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音楽の力で日本に希望を!TBS『音楽の日』総合演出・竹永典弘に聞く、今の時代にテレビができること

TBSは2024年7月13日(土)ごご2時から約8時間にわたって音楽特番『音楽の日2024』を生放送します。この番組は、「音楽のチカラで日本を元気に!」という願いを込めて2011年にスタートしました。放送14年目を迎える今年は「hope!音楽のチカラ」をテーマに、恒例の大合唱企画や全18組のアーティストによるダンス企画などをお届けします。

この大型番組には、どんな思いが込められているのでしょうか。番組の総合演出を務める、TBSテレビの竹永典弘に話を聞きました。

今年のテーマはSUPER BEAVERの『小さな革命』が決め手に

竹永さんが務める総合演出は、番組においてどんな立場でしょうか。

竹永 番組によって異なりますが、『音楽の日』においては企画を立て、制作に必要なものを決め、番組の内容に対して全ての責任を負うポジションです。生放送中は、全ての映像が集まる副調整室という場所にいて、指示を出していきます。生放送は時間も内容も想定通りに行くとは限らないので、先の先まで見越さなければなりません。飛行機でいえば無事に着陸するまで操縦かんを握っている役割、というのがわかりやすいかもしれませんね。

2016年から『音楽の日』の総合演出を務めていますが、当初はどんな思いで制作していましたか?

竹永 そもそも『音楽の日』は2011年に“東日本大震災の復興のために”と始まった番組です。僕が担当するにあたり、原点に立ち返って“音楽のチカラを届ける”、そのためには番組にテーマを立てることが必要だと思いました。

2016年は「ツナグ」をテーマに、音楽を通して何をつなぐかを考えながら作っていきました。そこで生まれたのが、全国五元中継の「大合唱」です。赤坂のスタジオと福島・宮城・岩手・熊本を中継でつなぎ、松山千春さんの『大空と大地の中で』をみんなで合唱しました。これは技術面でもかなり大変でしたが、毎年恒例の名物企画となっています。

テーマ決めなど、番組の準備はいつ頃から始めていますか?

竹永 キャスティングなどを考えると、3月頃にはテーマを決めておかなければならないので、毎年、年明け頃から一人で考え始めます。その後、テーマに沿ってどんな企画ができるか、どんなキャスティングがいいか、プロデューサーとともに考えます。ちなみに昨年は終わった瞬間、安堵よりも「来年はどうしよう…」が頭に浮かびました(笑)。

2024年は「hope!音楽のチカラ」がテーマ、その理由は?

竹永 2024年は年明けから能登半島地震、4月には台湾でも地震があったりと、いろいろなことがありました。しかし、どんな厳しい時代にも必ず流行歌が生まれていて。“音楽は希望であった、希望であってほしい”という思いを込めて、今回は「hope」を掲げることにしました。

ただ、本当に音楽は希望でありうるのか、音楽とは何なのか、考えるほどにわからなくなってきて(笑)。そんなとき、SUPER BEAVERの武道館ライブで『小さな革命』を聴いたんですよ。この曲の歌詞には「音楽で世界は変わらないとしたって 君の夜明けのきっかけになれたら」というフレーズがあります。この歌詞こそが今年の『音楽の日』のテーマ「hope」そのものだと感じました。ですから、「音楽が希望になるのかどうかはわからないけれど、この番組が誰かの“何かのきっかけ”になるといいな」という願いを込めて、番組を作ってきました。

その後、SUPER BEAVERのボーカル・渋谷龍太さんと話す機会があり、「音楽って希望だと思いますか?」と聞いてみたんです。すると「音楽自体には希望はないけれど、どうなるかは人次第。発信する側と受け取る側によって希望にも力にもなるんだ」と答えてくれました。その言葉に本当に感動しました。

今年の「大合唱」企画では『小さな革命』を200人以上の若者が歌います。「hope!音楽のチカラ」を感じてもらえると思いますので、ぜひ見ていただきたいですね。

セットや演出へのこだわりを教えてください。

竹永 『音楽の日』に限らず、音楽番組は普通のバラエティよりも技術や美術のスタッフなどいろいろな部署と密に連携を取りながら、思いを形にしていきます。チーム皆での作業はとても楽しく、音楽番組の醍醐味です。

今年は「hope」というテーマにちなみ、“未来にかける橋”をモチーフにしたセットになっています。何度もディスカッションを重ねて大変だと思いますが、TBSの美術スタッフは非常に優秀で、毎年僕たちの思いをくんだ素晴らしいものを作ってくれます。

演出やカメラ・照明などのスタッフも、一曲ごとに理解を深めながら取り組んでいるので、とてもレベルが高いと思います。それは2020年に『CDTV ライブ! ライブ!』が始まり、毎週生放送を経験していることが大きいです。昔と比べると、できることがすごく増えたと思います。スタッフには「我々が引っ張っていこう。他番組の5歩先を行け」といつも言っています。最先端の技術で新しい企画に挑戦していくことで、音楽番組全体が盛り上がっていったらと思います。

TBS竹永典弘

面白いだけじゃない、テレビの意義を感じる企画を目指す

2023年は男性グループによる芸能事務所の垣根を越えたダンスコラボ企画が大きな話題になりました。どんなきっかけで企画したのでしょうか。

竹永 2023年のテーマは「GIFT ギフト」でした。この年はWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で日本が優勝して、大谷翔平選手たちが大活躍しましたね。大谷選手は子どもの頃、イチロー選手たちがWBCで大活躍しているのをテレビで見ていた、と会見で言っていました。そして大谷選手の活躍を今の子どもたちがテレビで見ている。これこそ次世代につながっていく“夢のギフト”ですよね。

そこで昨年は、“日本のダンスエンターテインメントから未来の子どもたちへのギフト”として、ダンスコラボ企画を行いました。そんな大きな志があったから、いろいろな事務所や派閥など関係なく、皆さん協力してくれたんだと思います。単に垣根を越えたかったわけではありません。視聴率を取ることが目的だったら、実現しなかったと思います。

特に印象深いのは、ダンスのプロデュースを担当した、s**t kingzのshojiさんが、企画が終わった後に「これが当たり前になるといいですね」と言ってくれたことです。その言葉どおり、今ではさまざまなグループが垣根を越えてコラボするのが、当たり前の時代となりました。

そこで今年は「垣根は越えた!今年はバトルだ!」をテーマに全18組の人気グループが参加してのダンスバトルを行います。最後は全員で心を一つにして踊っていただきますので、圧巻のステージをぜひ楽しみにしてください!

ほかにも目玉企画がたくさんあります。ズバリ、見どころを教えてください。

竹永 まずは、三浦大知さんが“JAXAの先進レーダ衛星「だいち4号」を載せたH3ロケットの打ち上げ”とコラボしたパフォーマンスが見どころです。三浦さんは“だいち”というお名前のご縁で、地球観測を実施する「だいち」シリーズ衛星の応援アンバサダーを務めていらっしゃいます。三浦さんが歌い終わると「だいち4号」を載せたロケットが宇宙に飛び立つ、という前代未聞の夢のコラボ企画をJAXAに相談してみたところ、なんと了承していただけました。

「だいち4号」は自然災害から私たちを守る使命をもった衛星です。この打ち上げに関わる人たちの熱い想いも含め、たくさんの人に知ってもらいたいです。ただ面白いだけではなく、意義のある放送をすることも大切だと思っています。

また、日本全国7か所を結ぶ中継企画「希望のうた」にも注目してください。なかでも石川・能登の駅ではFUNKY MONKEY BΛBY'Sがパフォーマンスします。これは、のと鉄道の方からのお手紙がきっかけで実現しました。のと鉄道は震災から約3か月で全線復旧を果たし、“希望”の花言葉を持つヒマワリの種を配っているそうで、「音楽の力を通じて希望を届けたい。ぜひ能登に来てほしい」とおっしゃっていただきました。テレビを通じて、能登の皆さんにも音楽の力をお届けできれば、と番組の意義をあらためて強く意識しています。

さまざまな企画がありますが、制作で大事にしていることは何ですか?

竹永 ネットコンテンツが台頭する中、テレビで放送する意義はとても大事にしています。ただ歌えばいいということではなく、8時間の生放送を通してメッセージを伝えていきたいです。例えばロシアによるウクライナ侵攻が始まった2022年は、番組の最後にMONGOL800に『琉球愛歌』を披露していただき、“平和へのメッセージ”で締めくくりました。毎年毎年、違う番組を作っているような気持ちで臨んでいます。

また、現在TBSでは『お笑いの日』など『○○の日』とつく番組が並んでいますが、『音楽の日』はそのスタートとなった番組。TBSのブランディングに大きく関わっていると思いますし、局を代表する番組の一つだという意識と自覚を持って作っています。

TBS竹永典弘

全ての番組作りにおいてベースとなった『金スマ』の存在

そもそも、竹永さんがTBSに入社したのはなぜですか?

竹永 僕は元々マスコミ志望でしたが就職活動を始めたのが遅く、テレビ局の採用試験が全て終わっていたので、大学卒業後は就職人気ランキングの上位だったという理由だけで、深く考えずに旅行代理店に入りました。しかし旅行が本当に好きな同期と接しているうちに、やはり自分が好きなものでないと自信を持って人に勧められないと気付き、退職。TBSに入る前はアルバイトで生活していました。

ある時、電車でバイト先に向かっていたら、たまたま目に入った中吊り広告でTBSが中途募集していて、受けてみたところ、ご縁があって採用されました。あの電車に乗ってあの広告を見ていなかったら、今TBSにはいなかったと思います。

入社後はどんな仕事を?

竹永 最初に配属されたのは『はなまるマーケット』で、次に『アッコにおまかせ!』へ異動になり、一年目はずっと生放送のADをやっていました。その後、『中居正広の金曜日のスマイルたちへ』(以下、『金スマ』)のAD、ディレクターを経て、今は総合演出を担当しています。もちろん、他の番組も同時並行でやっていますが、『金スマ』は入社2年目の頃から現在まで約20年にわたり、ずっと携わっています。

放送開始から20年以上続く『金スマ』を、どんな思いで担当していますか?

竹永 『音楽の日』に通ずるものがありますが、“テレビを通して人の感情を揺さぶりたい”という思いが根本にあります。特に『金スマ』では毎週扱うテーマが変わり、毎週特番を作っているような感覚ですが、ただ面白いだけではなく、感情が動く、かつ視聴者にとって学びのある番組を目指しています。これが僕の投球フォームになっていて、どんな番組を作るにしても、『金スマ』での積み重ねがベースになっていると思います。

特に印象的な回は?

竹永 特に印象深いのは、2009年に亡くなられたアーティストの川村カオリさんの特集です。乳がんを患い、アーティストとして自分の思いを残したいという彼女を、約一年半にわたり番組で密着していました。

当時、僕はディレクターとして彼女を取材していて、治療のために一緒に海外へ行ったこともあります。生前最後に会いに行ったとき、僕は自問自答のうえカメラを回せませんでした。アーティストである彼女の弱った姿をテレビに出してはいけないと思ったんです。それでよかったのか、今でもわかりません。ただ、最後に「ありがとう」と言って握手してくださったこと、手のぬくもりは、今でも鮮明に覚えています。

彼女がテレビを通して世の中に本当に伝えたかったことを、自分は視聴者に伝えられたのか、役割を果たせたのか、ずっと答えが出ていない状態です。川村さんがよく口にされていたのが「がん検診に行ってほしい」ということ。放送を見て、検診に行こうと思ってくれた方がいたら、と思っています。

最後に、TBSテレビをはじめ、TBSグループを目指す人に向けて、メッセージをお願いします。

竹永 今回の『音楽の日』で行うロケットの打ち上げコラボ企画を筆頭に、テレビにしかできないことがまだまだたくさんあります。TBSは自分がやりたいことを実現できる自由な局だと思いますし、そこに向かって一つになれる感覚も素晴らしいです。テレビにしかできないことを一緒に追求していきましょう。

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TBS竹永典弘

竹永典弘
2000年TBS入社。コンテンツ制作局制作一部、エキスパート職。
現在は『音楽の日』『中居正広の金曜日のスマイルたちへ』『CDTV ライブ! ライブ!』で総合演出を務める。

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