• People

TBS『せっかくグルメ』、新番組『いくらかわかる金?』総合演出の平野亮一に聞く、バラエティ演出の裏側

TBSは、4月から毎週土曜よる9時に『世の中なんでもHOWマッチ いくらかわかる金(かね)?』(以下、『いくらかわかる金?』)のレギュラー放送をスタートします。この番組は、日本中の“ちょっと気になるお金事情”を独自ロケで調査するマネーリサーチバラエティです。

番組の企画・総合演出を務めるのは、『バナナマンのせっかくグルメ!!』などを手掛け、TBSで長年バラエティ制作に携わっている平野亮一。番組の企画意図や見どころに加え、これまで関わった番組についても話を聞きました。

「週末に家族で楽しめる番組」を目指して

まもなく『いくらかわかる金?』のレギュラー放送が始まります。この番組は『世界ふしぎ発見!』の後番組ですが、話がきたときはどんな心境でしたか?

平野 元々、週末のゴールデン帯に楽しく見られる番組を作りたいと思っていたので、土曜ゴールデンでやらせてもらえることはとても嬉しいです。『世界ふしぎ発見!』は偉大な番組なので後番組というプレッシャーも多少ありますが、この枠を任せてもらえた嬉しさの方が勝っています。

何から着想を得て企画したのでしょうか?

平野 週末に家族で見てもらいたい、そのためにはどんな番組にするかを逆算して考えました。僕が担当している『バナナマンのせっかくグルメ!!』は「グルメ」という誰にも関わることをテーマにしています。「グルメ」のような、どんな人も興味があり、感情が入りやすいことをテーマにしようと考え、「お金」を切り口にすることにしました。ただ、節約術や儲け話を扱うのではなく、あくまで家族で楽しめるようなオリジナリティある調査にこだわっています。

番組MCにハライチ・澤部佑さんと杉山真也アナウンサーを選んだのはなぜですか?

平野 お金が似合いすぎる人だと下品に見えてしまう可能性があるので、番組が楽しそうに見えるポップな感じの人にしたくて、最初に思い浮かんだのが澤部さんでした。澤部さんなら小気味の良い進行をしてくれるだろうなと期待しています。杉山アナウンサーは僕の同期でもあり、澤部さんと並んだらすごくポップに見えそうだと思って選びました。新しさはもちろん、帯の生放送で鍛えられた二人のライブ感ある仕切りにも注目していただきたいです。

左から:ハライチ・澤部佑さん、TBS平野亮一、杉山真也アナウンサー

番組の見どころは?

平野 お金を扱っているので、人の欲が垣間見えるところが見どころです。例えば、昨年12月に放送した特番では、芸人のノッチさんとご家族に出演していただき、「回転寿司を好きなだけ食べたらいくらかかるか?」という調査をしました。もちろんお代は番組が支払うので、ノッチさん家族は高級ネタを中心にたくさん食べていました。その様子は誰でも共感できますし、欲が出るという人間味を感じられるロケにおもしろさを感じました。情報だけでなく、どの企画も非常に人間味に溢れているので、楽しんでいただけたらいいなと思います。

また、この番組では視聴者の皆さんも全てのクイズにdボタンで参加できるようになっています。『オールスター感謝祭』の総合演出を担当していた経験上、参加性のある番組は土曜の夜に合っていると感じました。ぜひ、視聴者の皆さんにもリモコンを片手に一喜一憂しながら楽しんでいただきたいです。

TBS平野亮一

多数の番組を手掛ける中で意識していること

平野さんが総合演出を務める『バナナマンのせっかくグルメ!!』は今年で放送10周年を迎えます。そもそもどんな経緯で企画したのでしょうか?

平野 これはバナナマン・日村勇紀さんを起点に考えた番組です。2013年当時、僕は『もてもてナインティナイン』のディレクターを担当していて、レギュラー出演していた日村さんと一緒に北海道へロケに行ったのですが、そこで日村さんと一般の方との絡みを見て衝撃を受けました。多くのタレントさんは場を回そうとしますが、日村さんは一般の方と一緒に楽しむことを大事にしていたんです。そのロケの空気感はおもしろいだけでなく、温かさもあって素晴らしいなと思いました。この日村さんの能力を活かせる番組を作りたいと思ったのが全ての始まりです。

また、僕は『さんまのスーパーからくりTV』や『もてもてナインティナイン』のロケで地方に行くことが多く、ロケ先の方から「これ食べていきなさい」「これ持って行って」とよく地元のグルメをオススメしてもらうことがありました。この経験から、全国の多くの方が「地元のグルメに誇りを持っていて、他所からきたお客さんにオススメしたい!」という気持ちがあるはずだと考えたんです。なので、地元グルメをオススメしてもらうインタビューだと一般の方も前向きに参加できていいロケになりそうだなと思いました。そんな「日村さんのロケ能力」と「地元グルメへの誇り」を掛け合わせて企画したのが『バナナマンのせっかくグルメ!!』です。

『ベスコングルメ』も担当されていますが、別のグルメ系の番組を作ろうと思ったのはなぜですか?

平野 『ベスコングルメ』は日曜よる6時半という枠は決まっていたので、なんとなく「グルメ+健康」というテーマが合いそうだなと思ったところから企画を考え始めました。実は以前からプライベートであえて長い距離を歩いて仕上げてから食事に行くということをやっていたんです。歩いた後の食事とお酒は抜群においしいんですよね。どんなタレントさんでもできる内容ですし、きっと共感してくれる、そして視聴者にも分かりやすいだろうと思い、企画しました。

MCに麒麟・川島明さんとオードリー・春日俊彰さんを選んだ理由は?

平野 歩いた後にビールを飲むというロケだと一日に2本撮りは難しいと思いました。満たされた後にまた長い距離を歩くなんて誰でもテンション下がりますから。なので、最初から戦略的にMCは二人にし、隔週で担当してもらう形にした方が番組運営上いいなと思いました。

隔週ならそれぞれ違うカラーになった方が視聴者の皆さんもより楽しめるので、運動のイメージが強い春日さんと、運動のイメージが全くない川島さんという対極のお二人にオファーさせていただきました。お二人それぞれのカラーが出ることが番組のノリにも繋がっていくのでこれからも大切にしていきたいです。

2021年4月からは、毎週日曜日に『バナナマンの早起きせっかくグルメ!!』もスタートしました。『いくらかわかる金?』も含めて4つの番組の総合演出を担当するのは負担が大きくないでしょうか?

平野 総合演出の仕事は番組の大きな方針決めからディテールに関することまで多岐にわたるので確かに大変ではあります。ただ、4つ全てがやりたくて立ち上げた番組ですし、楽しくやりがいのある内容なので辛さはありません。

そして、4番組を同時進行でやりきる上で、スタッフの協力は欠かせません。一人でやりきれる仕事量でないのも事実なので。ただ、全てを任せるとスタッフも迷ってしまうので、道筋を作り方向性もしっかり示すことは心掛けています。そうすることでスタッフもフルスイングでき、番組のクオリティもどんどん上がっていきます。

あとは、番組数が増えてもちゃんと休みをとって、人間らしい生活を送ることを大事にしたいです。やはり体が資本なので休まないといい番組は作れないと思っています。そして、後輩たちに「自分もたくさんの番組の演出ができるかも!」と思ってもらえるような一つのモデルケースになれればいいですね。

TBS平野亮一

決まりきったのカラーがないのがTBSバラエティの魅力

ところで、平野さんはなぜTBSを志望したのでしょうか?

平野 テレビが好きで、バラエティ番組を作りたくて、テレビ局を志望しました。入社18年目になりますが、ずっとバラエティ制作をしています。ここまで長いのは珍しいのかもしれません。おもしろいことを考えるのは好きだったので、これを仕事にできるなんて幸せだなと思っています。

総合演出になる前、ADやディレクター時代はどんなことを経験しましたか?

平野 ADの1~2年目のときはがむしゃらに目の前の仕事をこなしていましたが、3年目の時にADの仕事は減点法だということに気付きました。当時のADの仕事はコピーをとったり資料を作ったりと、できて当然でミスすると怒られる。プラスアルファで何かをしないと加点されない環境だったんです。なので、3年目からはプロデューサーやディレクターの想定を越える何かをしようと考えるようになりました。例えば、番組の予告CMを作れと指示されたら、普通は一個を作ればいいのですが、3パターン作ってみたりとか。そうすると上司は「やる気あるな」と思って加点するわけです。この「人の想定を越える」ということはディレクターの仕事をする上でもかなり大事なことだったので、その姿勢をADの時に身につけられたことは本当に良かったです。

ディレクターになってからは、「絶対に誰よりもおもしろいVTRを作ってやる」という気持ちでやっていました。ディレクターデビューした『からくりテレビ』のディレクター陣がそういう考えの人ばかりだったことも影響したと思います。バラエティは基本的に「笑い」「おもしろい」が必要になってくるので、スタジオで出演者やお客さんから一番笑いを多く取りたいという気持ちでやっていました。

総合演出になってからは、どんなことを意識して番組制作していますか?

平野 総合演出は舵取り役として、番組内容の全てを決め、全ての責任を負うポジションです。総合演出のジャッジ次第で番組は良くも悪くもなります。基本的には出演者、スタッフに自分がおもしろいと思ったことに付き合ってもらうので、みんなが迷わない様な道筋を作ったり、分かりやすく伝えることを大事にしています。

TBS平野亮一

今、テレビ業界は変革期と言われています。番組制作者としてどう感じていますか?

平野 10年前と比べテレビの置かれている位置は変わっていて、シンプルにテレビの前から人が減っています。だから、小手先で番組を作っても通用しません。テレビを見てもらうには、制作者・出演者の熱がこもっているより骨太なものが求められているように感じています。

平野さんのようなバラエティ番組の総合演出になるには、どんなことをしておけばいいでしょうか?

平野 ありきたりですが、いろいろなことを経験しておくといいと思います。演出する上ではものを知ってる方が絶対に得だと思うので、音楽や映画、お笑い、学問などジャンルを問わず、いろいろなものに触れておくことは大事です。

また、バラエティ制作においては自分がおもしろいと思うことを常に考えておくといいと思います。多くの人の前に立って笑わせなくても、身近な友達や家族を笑わせることもいい訓練になります。

あとは、総合演出は経験値や引き出しが必要になるので、現場経験を重ねることです。例えば、MCレベルの芸人さんに、自分がやりたいことを説明するにも、ある程度自分も経験がないと、うまく伝えることができません。筋トレみたいなものなので地道にやり続ければ、誰でも実力はついてくると思います。

最後に、TBSグループを目指す人たちに向けてメッセージをお願いします。

平野 バラエティ制作の演出に限った話ではありますが、TBSの魅力は良い意味であまりカラーがないことだと思います。『CDTV ライブ! ライブ!』の竹永典弘さんや『水曜日のダウンタウン』の藤井健太郎さん、『バナナマンのせっかくグルメ!!』の僕と、作る番組のタイプが全く違いますよね。TBSバラエティの演出には似た人がいないことが強みであり、どんな趣味嗜好の人も受け入れられる環境なので、誰でもヒットメーカーになれるチャンスがあると思います。今のTBSにいない感覚の持ち主が入ってきたら、もっとTBSのバラエティも盛り上がるだろうと期待しています。

>NEXT

TBS新番組『ジョンソン』担当・高柳健人が語る、バラエティプロデューサー論

『形から入ってみた』総合演出の須藤有加に聞く、バラエティ制作の魅力

『発表!ウチの県の大事ケン』総合演出・塩谷暁充の紆余曲折を振り返る

TBS平野亮一

平野亮一
2007年入社。コンテンツ制作局バラエティ制作一部所属。入社以来、現在まで一貫してバラエティ番組の制作。入社4年目の時に『さんまのSUPERからくりTV』で晴れてADからディレクターに昇格。過去には『オールスター感謝祭』の総合演出を6年間に渡り担当。現在は自ら企画した『バナナマンのせっかくグルメ!!』、『早起きせっかくグルメ!!』、『ベスコングルメ』、新番組『いくらかわかる金?』の総合演出を担当。

本サイトは画面を縦向きにしてお楽しみください。