• People

パリ五輪チーフディレクター・TBSスパークル前野亮太に聞く、五輪の裏側と見どころ

2024年7月26日(金)、フランス・パリで夏季オリンピックが開幕します。TBSは「その壁を“超”えていこう」をテーマに、多数の競技を放送する予定です。スペシャルキャスターの高橋尚子さん、総合司会の安住紳一郎アナウンサーとともに、現地から熱い戦いを届けます。

今回の放送のチーフディレクターを務めるのは、TBSスパークルの前野亮太。放送に向けた意気込みや、制作の裏側について話を聞きました。

パリは有観客!東京大会との演出の違いに注目

今大会のチーフディレクターを任された心境は?

前野 任せてもらえることはとても嬉しかったです。過去のオリンピックではサッカーの国際映像などを担当してきましたが、今回のような大役は初めて。「大丈夫かな?」という気持ちもありますが、わからないことを前任者に聞きながら準備を進めています。選手からすれば4年に一度のオリンピック。選手たちのコメントを聞いて彼らの熱量をどう伝えていくか、あらためて気を引き締めています。

チーフディレクターとして開幕前に、現地での中継や取材等の細かいルールの確認作業を進め、東京の本社で各枠を担当するディレクター陣と各競技の演出プランをチェックしてからパリに向かいます。
オリンピックは中継でも細かい制限があるため、放送する1枠につき3~4回程度、構成のチェックを行っています。
TBSは地上波での放送枠が合計50時間以上もあり、会議にも時間がかかります。

前回の東京大会との違いはどう感じていますか?

前野 無観客の東京大会では、皆さんがリモート応援する様子をテレビでどう放送するかに力を入れましたが、今回は久々に有観客で行われます。選手のご家族も現地で観戦しますので、その様子をどう表現するのかが腕の見せ所です。各ディレクターが選手に取材を続け、関係性を築いてきてくれたので、事前にご家族が来るのか教えてもらったり、当日のインタビューを依頼したりと交渉しています。

パリオリンピックの放送枠は2024年1月に決まりましたが、それまでスポーツニュース部を中心とした各取材ディレクターは、自分の担当競技が放送するのか、放送がTBSなのか、という点はわかりませんでした。そんな状況でもしっかり準備してくれたので助かっています。

オリンピックの放送にはどれぐらいの人数が携わっているのでしょうか?

前野 日本で作業するスタッフを含め、全体で150人ほどになります。そのうち、現地に行くのは制作の中継チームとニュースの取材ディレクター、アナウンサーなど約70人です。これは、前々回のリオや、海外開催の夏のオリンピックと比べてかなり少なくなっています。その理由は予算の都合もありますが、アクレディテーション(会場に入るためのパス)の枚数が限られていることが大きいです。

少数精鋭ですが、放送競技の数はあまり変わりません。どんな工夫をする予定ですか?

前野 今回は大きなLED画面を設置し、その場で出演者がルール紹介などを説明しながら放送する予定です。LED用のCGを作る必要はありますが、VTRを多く作るよりも作業コストを軽減できますので、この方針で準備を進めています。
また、事前にスタッフのシフトを日ごとに細かく設定することで、少人数ながら勤務時間も減らそうと努力しています。

ちなみに、現地ではエッフェル塔近くのバルコニーがある場所(一般のマンションの屋上)を借り、そこにセットを組んでスタジオとして使わせていただきます。日本だけでなく、他国も同じようにしているそうです。

TBSスパークル前野亮太

スポーツの良さをシンプルに伝える放送を目指して

オリンピック中継は他局でも放送されますが、そもそも放送する局はどうやって決めていますか?

前野 各局の編成が抽選や話し合いで決めていく感じです。取材スタッフにリサーチして「上位まで勝ち進むのではないか」と聞いた競技を第一優先でとりにいくなど、事前にこちら側で優先順位を決めてから臨んでいます。

いろいろな局が放送する中、TBSらしさをどうやって出していきますか?

前野 総合司会を務める安住紳一郎アナウンサーも話していましたが、TBSは“スポーツの良さをシンプルに見せていこう”と考えています。
番組として、視聴者ファーストに徹して、丁寧に選手やレギュレーションを説明するところが強みだと思います。ですから大会の日程やルール・選手の紹介から、「この競技は何人が出場し、決勝に進むには何回勝てばいいのか」まで、TBSでは丁寧に視聴者に寄り添って説明していきます。
こうした姿勢はオリンピックに限らず、『世界陸上』などTBSのスポーツ放送では心掛けていることです。

放送に向けて、どんな準備を進めていますか?

前野 これも独自の方針だと思いますが、TBSのスポーツ放送では、データ放送で各競技に出てくる用語解説を準備しています。
オリンピックは、NHKと在京民放キー局で構成する「JC」のチームとして放送します。各局から集まったアナウンサーは自局で放送するかは関係なく、各放送枠に振り分けられます。そのため、TBSの放送競技の実況者が、必ずしもTBSのアナウンサーとは限りません。そうすると難しい専門用語の説明をしないまま放送が続くことも予想されます。

そこでTBSでは担当ディレクターが事前にルールを勉強しながら、数百枚のテロップを作っています。オリンピックは種目の数が多い上に、あまりテレビで見る機会のない競技もありますので、事前の準備をしっかりして臨みたいです。

TBSは自転車競技やスケートボードなども放送予定ですね。

前野 「自転車競技」〈8月11日(日)〉や「スケートボード」〈8月7日(水)〉はゴールデンタイムに放送するので、どれだけ視聴者の方に興味を持って見てもらえるかという点が課題です。そこで、スポーツが好きで自転車にも関心を持っているという伊沢拓司さんに競技の見どころを語っていただくことになりました。伊沢さんのプレゼンスタイルにより競技の面白さが伝わればと考えています。伊沢さんは『news23』でもオリンピックコーナーを担当されるので、あわせてご覧ください。

今回の放送テーマは「その壁を“超”えていこう」、どんな風に意識していますか?

前野 オリンピックに出場する選手の全員がメダルを目指しているわけではありません。数年ぶりに出場権を得られた種目もあり、メダル獲得ではなく入賞を目指す選手もいます。そんな各選手の成績や目標とする“壁”を丁寧に伝え、視聴者がそれを理解して応援できるように、と思っています。
例えばVTRで安易に「悲願のメダルへ」というテロップを出すのは非常に危険で、選手との信頼関係が一気に崩れてしまいます。ネットのインタビュー記事などで勝手に推測するのではなく、普段から取材して、選手が何を目指しているのかしっかりと確認しています。その方が視聴者にとっても感情移入しやすくなると思います。

VTRを作るディレクターは、普段からその種目に向き合っている人ばかりではありません。ですから、この目線付けを意識してもらうために、VTRの統括ディレクターを立てて確認を怠らないようにしています。

ズバリ、今回のオリンピックの見どころは?

前野 TBSの放送では、まず開会式の翌日7月27日(土)に行われる「柔道」女子48キロ級・男子60キロ級の予選・決勝です。民放の中で一番最初にオンエアする競技であり、女子48キロ級の角田夏実選手は金メダルが期待されています。この日は柔道に続いて「サッカー」男子予選  日本VSマリ戦を放送しますので、ぜひ注目してほしいと思います。

また、「卓球」女子シングルスは3位決定戦と決勝の放送〈8月3日(土)〉があり、早田ひな選手がどこまでいってくれるか期待が高まります。ほかに、『バレーボール ネーションズリーグ』での日本の強さも記憶に新しいですが、TBSは「バレーボール」で女子の準々決勝〈8月6日(火)〉、男子の3位決定戦〈8月9日(金)〉と決勝戦〈8月10日(土)〉をお送りしますので、注目してください。

TBSスパークル前野亮太

スポーツ部はコミュニケーションが活発!オープンな雰囲気が魅力

ところで、前野さんはなぜこの仕事をしようと思ったのでしょうか?

前野 学生時代はずっとサッカーをやっていました。サッカーに携わりたいという思いと、周りにプロになる選手がたくさんいて、彼らを取材したり、テレビに出したりしたい、と考えたのがきっかけです。ちょうどスポーツディレクターを募集していた東通(TBSスパークルの前身企業)に入社し、まずは「ワールドカップ」の仕事を目標にしていました。2018年のロシア大会では中継や取材を担当することができ、さまざまなことを勉強しました。

今ではチーフディレクターなどを任されるようになりましたが、ここまでステップアップできたポイントは何だと思いますか?

前野 部署内の業務以外の仕事もやっていたのがよかったです。例えば、サッカー情報番組『スーパーサッカー』を制作するニュースの部署にいた頃、中継から数年離れるとそのスキルがなくなってしまうと思ったので「サッカーの代表戦だけは中継に参加させてほしいです」と希望しました。制作を担当しながら、中継や選手へのインタビューなどいろいろなことに挑戦させてもらいましたね。上司がそれを容認してくれたのもありがたかったです。

スポーツの担当部署といえば上下関係が厳しいイメージがありますが、実際はいかがでしょうか。

前野 学生時代に部活でスポーツをしていた人が多い部署ですが、あまり上下関係を感じることはありません。僕が若手の頃も社内の雰囲気はコミュニケーションが活発でしたし、今の若手はさらに積極的だと感じています。
僕自身はサッカーのクラブチームに所属していて、先輩を君付けで呼ぶ文化で育ってきたので、今もその名残があるかもしれません。

前野さんのような仕事を目指す就活生にアドバイスするとしたら?

前野 この仕事で一番大事なのは、コミュニケーション能力かなと思います。例えばオリンピックのような大きな大会の放送では、技術担当やアナウンサー、解説者などさまざまなスタッフに自分の思いを正確に伝えるために、話したり聞いたりする力は必要不可欠です。テレビの仕事に限ったことではありませんが、頼りになる人はみんなコミュニケーション能力に長けているように感じています。

最後に、TBSグループを目指す人にメッセージをお願いします。

前野 スポーツに関しては、TBSではオリンピックや『世界陸上』、WBCといった大きなイベントに携わり、間近で伝えられることが魅力です。なかなか味わえない大きなやりがいを感じられると思います。

また、最近ではコンテンツの価値最大化を目指し、一つのコンテンツをどう二次利用していくのかという視点で話し合いも進めていて、これもTBSのスポーツに携わる魅力の一つだと思います。放送以外にもいろいろなことに挑戦したい方にぜひ来てほしいです。

>NEXT

スポーツ中継は準備が9割!TBSスパークル林沙織に聞く、「バレーボールネーションズリーグ」の裏側

五輪種目に正式決定!『SASUKE』チーフプロデューサー七澤徹の挑戦

TBSで体操界をもっと盛り上げたい! スポーツ局・村松麟太郎の挑戦

TBSスパークル前野亮太

前野亮太
TBSスパークル スポーツ・ビジネス戦略本部 中継制作部所属
2005年、東通(現TBSスパークル)入社。『スーパーサッカー』等の制作を担当したのち、『世界陸上』ディレクター(2022・2023年)、「サッカー日本代表戦」チーフディレクター、『マスターズゴルフ』チーフディレクターを歴任。

本サイトは画面を縦向きにしてお楽しみください。