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テレビ局とメーカーはどう違う?TBSアニメプロデューサー須藤孝太郎&田中潤一朗が語る、テレビアニメ制作の裏側
TBSは、3月14日から開催された、国内最大級のファッションとデザインの祭典「TOKYO CREATIVE SALON 2024」に参加しました。イベント内では、TBSが誇るクリエイター陣がトークセッションを行う「Creative Talk Stage コンテンツクリエイターズセッション」を開催しました。
3月17日には、TBSテレビ所属の須藤孝太郎プロデューサーと、TBSスパークル所属の田中潤一朗プロデューサーによるクロストークを実施。「アニメ×テレビ局 ~アニメプロデューサーのクリエイティブ論~」をテーマに語り合いました。この記事では、イベントの内容を一部公開します。
製作費を回収できるのか…意外とシビアな原作選び
まずは、お二人がアニメプロデューサーになった経緯を教えてください。
田中 アニメとネットゲームに10時間くらい費やす日々を過ごしていましたが、ある日このままではダメだと思いダックスプロダクション(※TBSスパークルの前身企業)の入社試験を受けて、気付いたら入社して3年経たないうちにプロデューサーになってました。
普段から漫画やラノベ、ゲームなど、普通の人よりはいろいろな作品に触れていたし、作画が好きだったのでアニメスタッフのことは頭に入っていましたが、お金まわりのことは何も分からなかったので、当時の上司にいろいろと教えてもらいながらやってきました。
須藤 僕は前職でキングレコードというレコード会社に所属していて、10年くらいアニメに関わる仕事をしていました。最初は宣伝や販売促進に携わっていて、プロデューサーになったのは2013年です。
元々ジャズが好きで、アニメやアニソンは未知の世界でしたし、レコード会社に入ったのに音楽に関わる業務ができないのか…と思っていましたが、結果的にアニメの部署でもやれることはたくさんあることに気付きました。例えば、オープニング、エンディング、BGMを含めて音楽を作れる環境ではあったので、アニメの枠組みの中で自分の好きな音楽を作れるのは結果的によかったと思っています。その後、2022年にTBSテレビへ転職し、今に至ります。
アニメ制作はまず企画からスタートすると思います。最初にアニメ化を考えるとき、どんな視点で原作を選んでいるのでしょうか?
田中 僕はリクープするかどうかを一番大事にしています。やっぱり儲からないと次につながらないし、ビジネスパートナーの方たちにも納得してもらえません。それに、赤字の場合は放送枠がなくなってしまうかもしれません。もちろん、作品のおもしろさも大事ですが、キャッシュの見えるものを選んでいます。
ずっとテレビ局でアニメを作ってきたので、放送枠を埋めるというのが優先課題でしたが、枠にとらわれないメーカーさんだと大きな作品を2年に1本仕込むという考え方もあると思います。
須藤 僕も田中さんのようにできたらいいなと思いつつ、自分はそこまで漫画やゲームに詳しくないし、アニメもそんなに見てこなかったので、ジャンルレスでおもしろいものを探すようにしています。あまり最初からビジネス的な考え方はしていなくて、「この作品をアニメにするなら、どれくらいやりようがあるか」という視点で、良い原作を見つけたら問い合わせ先に電話して話を進めていくことが多いです。
プロデューサーは作品にどこまで踏み込めるのでしょうか?
田中 予算を通す力があった上での話ですが、放送時間以外は全部決められるんじゃないかと思います。僕の場合、映像に関しては監督・アニメ会社さんにお任せすることが多いですが、「選んでいいですよ」と言われたら自分で決めます。あとはどこかで衝突することがあったらうまく調整する感じです。
須藤 ケースバイケースですが、プロデューサーの裁量はかなり広いですよね。ただ、自分は声優さんやアニメーターさんと違って、実務作業は何もできないので、とにかく出しゃばらない。それで回っていくのであれば頭をきちんと下げるし、ちゃんと企画が進むためにどうしたらいいかを一番に考えています。
『ポプテピピック』は隙間産業から生まれた
製作段階ではどんなことを意識していますか?
田中 あくまでもプロデューサーであってディレクターではないから、フィルムは基本的に監督とかに任せるべきで、大枠を作って監督やアニメ会社の方たちが働きやすい環境を作るのがプロデューサーの仕事だと捉えています。
ただ、監督や脚本家などメインスタッフで最初に打ち合わせするときは、「こういう方向性がいいと思ってあなたに発注してるんです」「できたらこういう方向で作ってほしいんですけど、どうですか?」みたいに伝えています。企画が走り出してからは、「赤字だったらそのときは僕が怒られるだけです」というスタンスです。
須藤 僕は最初に監督や現場のクリエイターの方とお会いするとき、「他ではできないことや他でNGになったものを極力僕のところに持ってきてもらえませんか」と必ず話しています。自分とご一緒させていただくからには、他ではできなかったことを実現できるよう全力で応援したいし、そうすることで信頼関係も生まれてくるんじゃないかと思うからです。
また、前職で言われてすごく頭に残ってるのは、とにかく隙間で考えることです。他でやってないことを自ら探し、それを売ってヒットさせれば、それがちゃんと王道になると。要は隙間産業です。だから企画を立てるときに、まずは「この作品はなんで映像化されていないんだろう」とか「やるんだったらどんな風になるんだろう」ということを時間をかけて考えています。他の人がやっていない作品は大抵がめんどくさかったり、実現性が低かったりすることが多いんですが、これはチャンスだと捉えています。
田中 ちなみにキングレコード時代で具体例を挙げるとしたら何かありますか?
須藤 例えば『ポプテピピック』も、映像化しようとしてた人が他にもいたかもしませんが、業界的に「あれをどうやってアニメ化するの?」「やるんだったらショートアニメでしょ」みたいな雰囲気があったんです。だから、自分はあえてその真逆で30分アニメでやってみようと提案しました。
自分についてきてくれた原作者の先生やクリエイターの思いも全部背負っているので、ちょっとやそっとじゃ「やっぱりできません」なんて絶対に言えないし、無理してでも頑張りますみたいな感じでやってましたね。
なかなか超えられない壁もあると思いますが、どんなモチベーションで乗り越えているのでしょうか?
須藤 越えるべきハードルはたくさんありますけど、やってて楽しいなという思いが根底にあるので、そんなに苦ではありません。これが成立できたらすごいことになるだろうなとなんとなく見えた状態で進めているので、そのモチベーションだけでやっていますね。「これだ!」と思った作品はとことん突き詰めてやっていくと最終的にいい結果になると思います。
田中 基本はそうですよね。お金とかいろいろ言いましたけど、なんだかんだ自分がやりたい作品を選ぶのは大事かなと思います。
放送以外の展開もできるのがTBSアニメの強み
今、アニメはテレビ以外に配信や映画も含めていろいろなところで見ることができますが、作品を出す場所はどう決めていますか?
田中 僕は放送を主体に働いてきたので、放送メインで考えています。プロデューサーによっては最初から映画や配信で考えている人もいますが、回収のスキームがテレビとはちょっと違ってくるので、僕は配信と映画があまり得意ではないのが正直なところです。グッズ展開などを考えたら放送かなとなんとなく思っています。
須藤 僕も地上波放送をベースに考えつつも、作品によって何が一番良いか考えた上で決めています。例えば、「この作品は家で一人で見るより、映画館でみんなとその空間を共有しながら観た方がより良いものになるのでは?」というように、ユーザーの感情を視点に考えることもあるので、どこで配信するかの正解は全くないですね。
ただ、全部が密接に結びついていると思っていて、田中さんがやられていた『五等分の花嫁』も、放送という下地がきちんとあってから映画化したという流れがすごく良いモデルケースだなと思います。
アニメの企画・制作会社が増えてきている中で、テレビ局でアニメを作る意義はどうお考えですか?
須藤 アニメの企画・プロデュースの部分では、テレビ局とメーカーでそんなに違いはないように感じていますが、テレビ局として公共の電波を使った発信ができるのは大きな強みだと思います。「この枠だからこそ、この作品が成立するんです」という打ち出し方ができるのは、メーカーとは違うところですね。
田中 テレビ局の立場は年々弱くなってきていると感じつつも、やっぱり地上波放送なのでより多くの人に見てもらえる機会があるのは強みだと思います。TBSならブランチパークとコラボしてプロモーションできたり、自社が運営するショップでグッズを販売できたりと、いろいろな展開が考えられるので、頑張っていきたいですね。
最後に、今まさにアニメ事業に力を入れているTBSの今後の展望をお聞かせください。
須藤 TBSには得意なジャンルが異なるアニメプロデューサーが揃っているので、全員がきちんと結果を出していけばTBSアニメがブランド化していくと思います。
例えば、東宝さんは『呪術廻戦』や『SPY×FAMILY』を手掛けていて、すごくテレビアニメが強い印象があると思いますが、「TOHO animation」というアニメの部署ができてからはまだ10年くらいしか経っていません。この10年で業界の流れが随分変わったように感じます。TBSアニメも将来的に業界の第一線を走っている可能性は十二分にあると思うので、しっかりビジョンを意識しながらやっていきたいです。
田中 TBSグループにはウェブトゥーン制作会社の「Studio TooN」やアニメ制作会社の「Seven Arcs」があるので、協力しながらやっていけば、グループシナジーを発揮できてすごく素敵ですよね。
あとは、TBSには『ドラえもん』や『アンパンマン』のような、長く続けられる作品がまだないので、本当はそういうものがあったら素敵だなとは思います。
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須藤孝太郎
1985年生まれ、北海道出身。
2008年キングレコード入社。福岡営業所を経て、音楽・アニメ部門であるスターチャイルドレコードに2010年から配属。アーティストやアニメ作品の宣伝・販促を担当し、2013年からプロデューサーとなる。2022年にTBSテレビに転職。
田中潤一朗
1985年生まれ、兵庫県出身。
2019年TBSスパークル入社。2005年から主にTBS木曜深夜枠のアニメを担当。最近の担当は『五等分の花嫁シリーズ』、『まちカドまぞくシリーズ』、『魔女と野獣』、『七つの大罪 黙示録の四騎士』など。