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TBS『ラヴィット!』辻有一プロデューサーに聞く、バラエティ制作の裏側

今年5月24日に放送800回を迎えた、TBSの朝の帯番組『ラヴィット!』(毎週月~金、あさ8時)。これまでの朝の情報番組とは一味違い、「日本でいちばん明るい朝番組」をテーマに、笑いに振り切った内容で人気を呼んでいます。

『ラヴィット!』で放送された数々の企画は、どのように作られているのでしょうか。番組作りで意識していることや、バラエティ制作の魅力ついて、辻有一プロデューサーに話を聞きました。

放送は週10時間、飽きられない企画作りを目指して

『ラヴィット!』ではこれまでさまざまな企画が放送されてきましたが、どんな風に企画を立てているのでしょうか?

 まず、オープニングに関しては、出演者の方からのアンケートをもとに企画を立てていきます。出演者からその日のテーマに沿った「おススメ」をもらったら、それが企画の種になるので、まずはその中から「やる」「やらない」を決めて構成していきます。そこからグルメだったら取材OKの店か、視聴者に伝わりやすいグルメなのかを調べたり、ゲームならどうやったらテレビとしておもしろくなるかを検討したりと、テレビならではの「何か」を加えてよりおもしろくするのが僕たちの役割です。例えば劇場でやっているゲームやSNSで流行っているゲームでも、ルールを多少変えたり、特別ゲストを呼んだり、チーム戦にしてみたり、工夫の余地は無限にあります。MCの川島明さんにプレイヤーになってもらうか、仕切り役になってもらうかも重要な要素です。そしてスタッフ総動員で何度もシミュレーションし、テレビ的に最適な方法を探ります。だから『ラヴィット!』のスタッフルームでは、いつもいろいろなところであらゆるゲームをやっています。僕も含めてプロデューサー陣もオンエアしているゲームは、「利き○○選手権」や「ビリビリ椅子取りゲーム」も含め、ほぼ100%シミュレーションをし、最後は川島さんと相談しながらオンエアギリギリまで最適を探ります。アンケートには「昔ながらの遊び」や「好きな歌」など、本当にいろいろな答えが返ってくるので、こちらもできる限り柔軟な発想で考え、たとえ前例がなくても、誰かの「何かをやりたい」をテレビの力を使って最大限実現するためにありとあらゆる可能性を探ります。あとは勇気と覚悟を決めて、やってみる、です(笑)。それでも生放送なので、おもしろくなるかは常に不安だし、自分のその選択が正しかったのかは毎日自問自答をしています。最後の一押しが出来るのは僕らには川島さんという最強の武器があるからだと思います。

VTRブロックは「視聴者が気になるであろう情報を、こんな芸人さんでロケをしたらおもしろくなるかも」と仮説を考えて企画を立てています。例えば、不動産のリアルドキュメントをニューヨークが仕切ったらおもしろくなりそうだから「ニューヨーク不動産」をやろうとか。他にもスイーツやショッピングモール×ぼる塾、最新ファッション×なすなかにし、最新グルメ×すゑひろがりず、商店街×モグライダー、喫茶店×ビビる大木さん、写真旅×かが屋…など挙げたらキリがないですが、全て同じ考え方で企画を立てています。芸人さんの趣味や興味が企画に繋がっているのもそのためです。「夜明けのラヴィット!」入れて週6日、12時間のバラエティの企画を作り続けるのは本当に大変で、冗談抜きでこの3年間は24時間、この番組のことが頭から離れることは一瞬もありません。

ただ、昔は自分でひたすら企画書を作って自分で採用してを繰り返してましたが、最近では「モルックのドキュメント」や「ギャルルのオーディション」のように各曜日スタッフが考えてやりたいという新企画にもチャレンジできるようになってきています。『ラヴィット!』がこの先もずっと続いていくには、こうやって徐々に変化をしながら飽きられないように努力していく必要もあると考えています。

TBS辻有一

制作過程では「他では見られない番組」を強く意識

番組作りで大事にしていることは?

 毎日バカバカしいことばっかりやっているので、偉そうに語るほど高尚な番組を作っているつもりは全くないのですが、「他では見られない番組」にしたいという思いは常にあります。ここでしか見られない番組にしないと僕らは勝てないからです。だからキャスティングも、立ち上げ当初から『ラヴィット!』ならではを大切にしてきました。各曜日のキーキャストとしてレギュラーをお願いした芸人さんたちも、当時はまだ東京に進出していなかったり、レギュラーはまだ持っていない方がほとんどでした。MCの川島さんも、もちろん当時から実力のある方でしたし、業界でも評価は抜群に高かったですが、4年前はまだそこまでMCをやられていなかったのも大きかったと思います。なすなかにしさんやタイムマシーン3号さんのように、ロケをお願いしていた芸人さんも基本的には同じ考えです。スケジュール的にも内容的にも負荷がかかる番組なのはわかっていたので、「この番組に賭けてくれる」という思いを持った方と仕事をしたいと思っていました。その代わり、僕らも彼らに絶対に損はさせないという強い思いで応える。今や皆さん超売れっ子になってしまったのであまり説得力がないですけど。でも、今も各局で既に引っ張りだこの人気者を「後追い」したり、そこに頼るような企画はなるべくしないようにしているつもりです。

内容に関しては、一つは生放送ならではのサプライズ感を大事にしていて、特に「リアルタイムで見てくれている人」が得したなと感じてもらえるような仕掛けは強く意識しています。事前予告をあえてしなかったり、サプライズにこだわったり、いい意味で生放送ならではのハプニングが起こるかもしれない要素をあえて残す演出にするのもそのためです。

もう一つは、帯番組という特性を活かしたストーリーです。「番組をずっと見続けてくれている人」をとても大切に作っています。ずっと継続的に見ているからこそ楽しめる歴史や伏線回収を作ったり、各曜日をまたぐゲストやドッキリ、チャレンジ企画を積極的に取り入れているのもそのためです。さらば青春の光の森田哲矢さんの買い物企画もまさにそうで、歴史を知っていたら、なおさら楽しく見られる。だから曜日をまたいで歴史を背負ってもらっています(笑)。

あとは、出演者、スタッフが楽しんでテレビを作れるような前向きな内容を心掛けています。『ラヴィット!』は、番組名の由来でもありますが、いろいろな人の「好き」が集まって成り立っている番組です。人が「好きなこと」をして楽しんでいる姿に、何よりパワーがあると思って作っています。いろいろなインタビューで答えていますが、ぼる塾の田辺智加さんが「推し」について語っている姿は、周りを幸せな気持ちにさせてくれる不思議なパワーがあります。それがこの番組の原点なんです。誰かが好きだからこのグルメを食べてみたい、誰かが好きだからこのゲームやってみたい、誰かが好きだからこの歌を聴いてみたい、誰かが好きだから皆でやってみよう、というようなワクワク感を作れるかがこの番組の生命線であり、誰かの「好き」のためなら、とことん実現に向けて努力するのがこの番組の精神です。それで喜んでくれる出演者の姿が結果的に視聴者を明るくする。そしてそのためにはスタッフが楽しんで作らないと伝わらない。もちろん仕事なので楽しいことばかりでないし、こういう番組だからこそ、気を付ける一定の緊張感や距離感などは必要だとは思っています。「くだらないことを真剣に」、これはずっと肝に命じています。

『ラヴィット!』の今後の展望を教えてください。

 今の時代は、家でテレビがずっとついているから、たまたま見てくれるなんてことはほとんどなく、能動的にわざわざ見てもらえるような番組じゃないと、生き残れないと思います。だからこそ視聴者の方の番組への「好き」の深度を大事にしています。「なんとなく好き」ではなく、明確な「好き」でいてもらわないといけない。そのためにも「他にはない番組」を目指さないといけない。そして今『ラヴィット!』を好きでいてくれる人を、もっと好きになってもらえるように、とことん大切にしないといけないと思っています。

一方で多くの人は今まで『ラヴィット!』を「朝の帯番組なのに」「情報番組なのに」のような枠の常識や、「生放送なのに」「オープニングなのに」のような内容の固定概念がフリになって、それを超えることでおもしろがってくれていました。でも、帯番組のようなペースで放送していると、当初は普通じゃなかったことも、あっという間に当たり前になってしまうんです。その「前提」というフリはやればやるほどなくなっていくし、すぐに番組が飽きられてしまうのではという危機感は常にあります。目標としてきたFコアという視聴率も、ダントツの最下位から始まって1年目、2年目、3年目とありがたいことに右肩上がりで順調に上がってきて、今では常に2位争いができるくらいまでになり、ついには数日ですが同時間帯で1位になった日もありました。だけどこれも同じで、数字も落ち着いてくると、すぐにこれが当たり前になってしまう。この踊り場を抜けてもう一段階上に行くには、これからも何か変わり続けないといけない。もしかしたら別の人が全く新しい発想をもってやる必要があるのかもしれないなとも思っています。

TBS辻有一

番組制作は人の心を動かすことができる素敵な仕事

ここからは、辻さんが入社してから制作に至るまでの経緯を教えてください。入社当初はどんな仕事をしていましたか?

 1年目は営業局CM部、2年目に編成部に異動してトラフィックという業務を約2年半担当しました。4年目から2年間は入社当初に志望していたスポーツ局に異動して世界陸上や世界バレーなどに携わらせてもらいましたが、全然活躍できなかったですね(笑)。その後、28歳で再度編成部に異動し、今度は企画班というバラエティやドラマの企画開発を担当する班に所属することになりました。それまでバラエティを作りたいなんて思ったこともなかったし、バラエティ番組の企画書なんて見たことも書いたこともないのに、その日から否が応でもバラエティ番組の企画を立てなければならなくなってしまい、めちゃくちゃ苦労しました。何よりバラエティのディレクターやADの経験がないというのはものすごくコンプレックスで、企画書にもどこか遠慮があり、全然企画が通らなかったですね。

その苦労をどんな風に乗り越えましたか?

 ある時、編成部の先輩が遠慮している僕を見て「バラエティ経験がないという負い目なんてこの仕事に何の意味もないよ」と言ってくれたんです。それを聞いた時に、確かにな、と突然スッと納得できました。考えてみればヒット番組の作り方なんて、誰も正解を持ってないんですよ。それがわかっていたら全員ヒットメーカーなんで。でもみんなひたすらチャレンジして、それでもほとんどの人がヒット番組なんて作れないまま終わる世界なんです。そんな中、自分は恥ずかしがって何もしないでいることがとても恥ずかしくなり、そこから仕事のスタンスが変わって、まずは企画を通すためにはどうすればいいかを真剣に考えるようになりました。

当時はTBSが全体的に視聴率が低迷していた時期でもあったので、とにかく他局のテレビ番組を徹底的に見て、どんな特番をやっていて、どんな傾向があって、どんな企画で視聴率が上がっているのかを研究しました。エンドロールを見ては、どの制作会社が作っていて、放送作家は誰かまでとことん調べました。恐らくその約2年間は、ほぼ全局の全特番を見たと思います。そうしている内に自分なりのロジックができてきて、ちゃんと企画書が書けるようになり、データをもとにほかの人を説得することができるようになりました。そしてだんだん企画が通るようになったんです。誰もやっていなかったことをやることで自分にしかない武器を手に入れたことはとても大きかったと思います。ありがたいことにTBSの編成の企画班は、ものすごく平等な組織で、上下関係や今までの実績は関係なく、おもしろい企画を作れば番組が作れる実力主義だったので、その風土にはとても助けられました。もちろん企画書の段階では、どんなにおもしろい企画でもあくまで机上の空論なので、本当におもしろい番組を作れるかは、また別の努力が必要ですが、ようやくスタートラインに立つことができました。

バラエティ制作の仕事にどんな魅力を感じますか?

 この仕事の魅力は、自分が作ったものに大きな反響があることです。そして『ラヴィット!』は僕が今までやってきた番組と比べても、圧倒的に反響があります。立ち上げの思いが届いているのかはわかりませんが、本当に辛い思いをしている人たちから直接手紙やメールをいただくことが多く、「不登校だったけど、番組見て学校に行く勇気をもらいました」「闘病中に助けられました」「育児に悩んでたけど明るくなれました」といった声もあり、いろいろな思いを持った方たちがいつも見てくれているんだなというのを改めて感じています。

他にも、毎年、『ラヴィット!』を卒論や自由研究のテーマにしたいという学生さんが手紙をくれて、僕に取材したいと会いに来てくれています。去年も夏休みに「『ラヴィット!』をテーマに卒論を書きたいから」とお母さんと一緒に大阪からわざわざ来てくれた中学生の子がいました。取材やメールのやり取りを経て、今年卒業と同時に立派なレポートを送ってくれたんですが、とてもテレビや番組のことを愛してくれているんだなというのが伝わってきて、本当に嬉しかったですね。こんなことは正直今までなかったですし、これこそテレビマン冥利に尽きるというか、この仕事の幸せなことだと思います。

『ラヴィット!』をきっかけに、TBSグループに興味を持った人も多いはず。最後に、就活生に向けてメッセージをお願いします。

 僕も自分の就活生の時を思い出すと、偉そうなことを言えた立場ではないのですが、この年齢になってようやく、自分が作ったもので多くの人の心を動かせることってすごいことなんだなと思うようになりました。そして今はいろいろなコンテンツがありますが、そのツールとしてテレビ以上のものはないんじゃないかなと、僕はいまだに思っています。決して楽な仕事ではないと思いますが、人を楽しませるためにひたすら一生懸命考える。どうやったら笑ってくれるか、何をしたら喜んでくれるかと朝から夜遅くまで皆で知恵を出し合う。それが仕事になるなんてめちゃくちゃ素敵だと思うんです。そんな思いを共有できる人はぜひテレビの現場にきてほしいと思います。

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TBS辻有一

辻有一
2006年にTBS入社。営業や編成を経てスポーツ局を2年間経験。その後、編成に戻り、2018年『坂上&指原のつぶれない店』の立ち上げと共にバラエティ制作に異動、プロデューサーとして2020年に『それSnow Manにやらせて下さい』、2021年に『ラヴィット!』を立ち上げ、現在はコンテンツ制作局にて『坂上&指原のつぶれない店』、『それSnow Manにやらせて下さい』ではチーフプロデューサー、『ラヴィット!』ではプロデューサーを担当。 

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