• People

オリジナルドラマはどう作る?TBS4月ドラマ『9ボーダー』『アンチヒーロー』誕生秘話

TBSは、3月14日から開催された、国内最大級のファッションとデザインの祭典「TOKYO CREATIVE SALON 2024」に参加しました。イベント内では、TBSが誇るクリエイター陣がトークセッションを行う「Creative Talk Stage コンテンツクリエイターズセッション」を開催しました。

3月16日には、TBSスパークル所属の新井順子プロデューサーと、TBSテレビ所属の飯田和孝プロデューサーによる対談を実施。「ドラマづくりにおけるクリエイティブの“核”」をテーマに語り合いました。

この記事では、新井プロデューサーが担当する新・金曜ドラマ『9ボーダー』と、飯田プロデューサーが担当する新・日曜劇場『アンチヒーロー』にまつわる話を中心に、イベントの内容を一部公開します。

ドラマプロデューサーは、現場監督のような存在 

左から:新・金曜ドラマ『9ボーダー』、新・日曜劇場『アンチヒーロー』のビジュアル

ドラマプロデューサーという仕事は、どんな流れで進めていくのでしょうか?

飯田 まずは企画書を作って編成部(いつ何を放送するのか決める部署)に持っていき、そこでOKが出たら制作が始まります。

まずは企画書ということですが、4月から放送開始の『9ボーダー』と『アンチヒーロー』の企画はいつ頃から考えられていましたか?

新井 『9ボーダー』は、5年くらい前から考えていました。最初は火曜ドラマとして企画書を出したのですが、なかなか企画が成立せず、何度もブラッシュアップし、数年のときを経て、金曜ドラマでGOがでました。脚本担当の金子ありささんと企画を作っていたので、2024年4月放送なら金子さんが書ける!ということになり、その時期にスケジュールがハマる29歳の女優さんを探す流れになりました。

飯田 『アンチヒーロー』も2020年にプロトタイプの企画書を作りましたが、そこから世の中でいろいろなことが起こり、社会も少しずつ変化して、2024年4月がタイミングとしても『アンチヒーロー』を放送するのに良いタイミングだと会社が判断してくれたのだと思っています。企画当初から主人公は長谷川博己さんに演じてほしいと考えていたので、今回、想いが届きました。

撮影が始まったら、終わるまで一つの作品に集中しているのでしょうか?

新井 集中してやる方もいるし、何作も同時に動かしている人もいると思います。私が所属するTBSスパークルは制作会社なので、TBS以外にも他局や映画、配信作品も手掛けることができるんです。だから、TBSで通らなかった企画を別のところで出してみたり。

飯田 作品を兼任する数は、全局の中でもトップじゃないですか?でも新井さんは一つ一つがしっかりしていて、すごいなと思います。

新井 だから現場が始まるとちょっと大変です。現場に行って、台本を作って、編集して、予告を作って、番宣に行って…。

飯田 現場にはよく行かれますか?僕は行きますけど、俳優さんやマネージャーさんから「やけに現場来ますね」って言われるんですよ(笑)。他局のプロデューサーはあまりいらっしゃらないそうで。

新井 私も結構行きますね。人によると思いますが、TBSは行く人が多いのかな。現場では、例えば1話を撮っているときに5話の準備稿が上がってきたら、それを配って感想を聞いたりしています。

あと、連続ドラマは監督が3~4人いるので、前後の話とバランスが取れているかを客観的に確認しています。

飯田 「この人、前回こんなことしてないんだけど…」みたいになることはありますね。あとは、「このセリフがカットされたら次に繋がらないから切らないでほしい」と伝えたり。

新井 そういうこともありますね。

飯田 ドラマプロデューサーは、現場監督みたいなイメージを持ってもらえればいいと思います。

TBSテレビ・飯田和孝プロデューサー

ドラマ作りのやりがいは、作品を通して誰かの人生に関われること

ドラマ制作にはたくさんのスタッフが関わっていますが、チーム作りにおいてどんなことを意識していますか?

飯田 僕はとにかく性格の良さを重視する傾向があると思います。例えば『VIVANT』では2ヶ月半のモンゴルロケがあったので、砂漠で揉めるともう取り返しがつかないと思い、慎重でした。

美術さん、メイクさん、衣装さん、カメラマンなど、チームを固定するプロデューサーと、あえて変える人がいますよね。新井さんは塚原あゆ子監督と組むことが多いですが、その他は固定ですか?

新井 結構違いますね。例えば『下剋上球児』はスケジュールがタイトになると思ったので、塚原さんとツーカーなスタッフに集まってもらいました。『石子と羽男-そんなコトで訴えます?-』では、新しい方とやってみたいと思い、映画を主にやっている技術スタッフにお願いしました。やっぱりずっと同じチームでやっていると、お互いに成長しなくなってしまう可能性があるので、時には離れてみると新しい発見がありますね。

『9ボーダー』は、初めて一緒に仕事する人が多いですが、呼んだからにはその方の良さを最大限引き上げたいので、たくさん会話してその方を知ることから始めました。チームワークを向上するには、話すことが大事だなと思います。

仕事のやりがいを感じるのは、どんなときですか?

飯田 世の中に出して反応を受け取るまでは、そう感じちゃいけないなと思っていながらも、一昨日、1話の撮影中に思い描いていたシーンを撮れたときは、満足感がありました。よく、「昔から好きだった俳優さんに会えたりしますか?」と聞かれますが、僕はあまりそういうのがないんですよね。

新井 私は監督が繋いだ編集上がりを見るときですね。まだその段階で完成はしていませんが、一度落ちた企画だったり、うまくいかなかったことがあればあるほど達成感があります。

あとは、誰かの記憶に残る作品になれたとき。自分が作った作品を機に人生が変わった人に巡り合えると嬉しいですね。

飯田 僕は時々、採用試験の面接官をやってますけど、『Nのために』、『最愛』、『アンナチュラル』、『夜行観覧車』など、新井さんの作品を挙げる学生しかいないですよ。記憶に刺さりまくってるんだろうなと思います。

僕も『アンナチュラル』の一話を見たときの衝撃は忘れられません。市川実日子さんと石原さとみさんがロッカーで会話するシーンから始まるんですが、何気ない会話で、何の説明もしてないのに、2人のキャラクターがわかるんです。あれは改めて見るとすごいシーンだなと思います。

あと、『最愛』は1話を見るまではあんなドラマだと思わなくて。やられた!と思いました。まずタイトルの付け方が凄まじく上手いなと思って。

新井 『最愛』は、多くのドラマファンが好きだと思われる、ラブとサスペンスの2大要素を入れようと思って作りました。でも、タイトルは「2文字だとXのハッシュタグに引っかからない」って相当反対されましたよ(笑)。

TBSスパークル・新井順子プロデューサー

想定外のおもしろさに出会える、オリジナルドラマを作る魅力

『9ボーダー』と『アンチヒーロー』はオリジナルドラマという共通点があります。オリジナルドラマの企画はどうやって作っていくのでしょうか?

飯田 僕は考えてもなかなか出てくるタイプではないので、普通に日常生活を送りつつ、ニュースや海外ドラマなどいろいろ見て、自分が興味を持つポイントと取り入れられそうな要素を組み合わせながら作っています。

『アンチヒーロー』は、初期の段階で脚本家とディスカッションしながら作りました。今回の脚本はハリウッド方式で、4人の脚本家で書いています。最初に1話を全員に書いてもらって、その中から良いところを採用して作っていきました。4人いるとセリフの感じも変わってしまうので、構成とストーリーをそれぞれ作ってから、直す人は1人と決めていました。

同じストーリーを4つ読むのは大変でしたけど、男女2人ずついるので、幅広い視点を取り入れられたのはよかったと思います。例えば女性の脚本家が「このセリフ気持ち悪いです」と指摘したところを直したり、その繰り返しでした。

新井さんの作品はすごくメッセージ性を感じますが、視聴者に届けたいメッセージから作っていくのか、ストーリーが先なのか、どう作っていますか?ジャンルも幅広いし、いつ考えてるんだろうって。

新井 企画を考えるのは、移動中ですかね。最初は「サスペンスやりたいからやろうか」みたいにざっくり考えています。ずっと同じジャンルを作るのは飽きるし、ネタが出なくなってくるので、いろいろなジャンルをやるようにしています。

『9ボーダー』はあるドキュメンタリーを見て、自分がこの立場になったらどうするかというところを取り入れたりしました。それと、自分が19、29、39歳のとき、「これまでの人生、これでよかったのだろうか?」と考えていたので、その部分も入れてみました。主人公の女3人は、最初は姉妹という設定ではなかったのですが、家族という要素を入れるために姉妹に変えたんです。

あと、今回は準備稿ができたらスタッフに感想文を送って​​もらっています。例えば30代後半の人が「キュンとしました」と言ったシーンを、20代前半の人は「意味がわかりません」と言っていたり、感じ方が全然違うんだなと勉強になりました。みんなの意見を取捨選択して作っていったのはおもしろかったですね。

最後に、『9ボーダー』と『アンチヒーロー』の見どころをお願いします。

新井 『9ボーダー』は10代、20代、30代のラストイヤーを生きる3姉妹が、ラブ、ライフ、リミットなどを感じながら奮闘するドラマです。三者三様のラブストーリーがありながら、少しサスペンスの部分もあって、いろいろな要素が詰まっている作品です。日常のシーンが多く、気楽に見れるドラマなので、ビール片手にぜひご覧ください。

飯田 TBSを代表する弁護士ドラマ『99.9-刑事専門弁護士』では、冤罪をかけられた人を助けていましたが、『アンチヒーロー』は本当に犯罪を犯している人間を助けてしまう弁護士の話です。果たして何を目的としてやっているのかというところが見どころなので、ぜひご覧いただければと思います。

>NEXT

日曜劇場『下剋上球児』担当TBSスパークル・新井順子に聞く、ドラマプロデューサーの魅力

ドラマプロデューサーがマンガ作りに初挑戦!TBS×マンガボックスのオリジナルIP「私がヒモを飼うなんて」の全貌が明らかに

新井順子
TBSスパークル エンタテインメント本部 ドラマ映画​​副本部長
2001年入社。これまで手掛けた作品は『わたし、定時で帰ります。』、『MIU404』、『着飾る恋には理由があって』、『最愛』など多数。2024年4月放送開始の『9ボーダー』のプロデューサーを務める。

飯田和孝
TBSテレビ・制作局ドラマ制作部所属のテレビドラマのプロデューサー。早稲田大学教育学部英語英文学科卒業後、2005年入社。TBSでは『義母と娘のブルース』、『ドラゴン桜(2021)』)、『マイファミリー』、『VIVANT』などのドラマプロデュースを担当。また、2024年4月放送開始の『アンチヒーロー』のプロデューサーを務める。


※記事の内容は3月16日開催の『Creative Talk Stage ドラマづくりにおけるクリエイティブの“核”』で取り上げられた内容をまとめています。

本サイトは画面を縦向きにしてお楽しみください。