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なぜ少子化時代に教育事業に挑むのか?TBS×やる気スイッチ社長対談で語り合う

2023年6月、TBSホールディングスがやる気スイッチグループホールディングスに出資し、連結子会社化することが発表されました。今後、両社が培ってきたノウハウを掛け合わせ、新たな知育・教育事業の共創を目指していきます。

それに伴い、TBSのグループ内大学「TBSグループユニバーシティ」で、佐々木卓TBSホールディングス社長と、高橋直司やる気スイッチグループホールディングス社長の対談を行いました。やる気スイッチグループはどんな企業なのか、なぜTBSはこの少子化時代に教育分野に乗り出していくのか、率直な意見を語り合いました。(聞き手:山内あゆアナウンサー)

お互いが深く共感できたのは、企業理念の根底にある社会貢献への意識

やる気スイッチグループはCMの影響もあり、個別指導塾が主という印象があると思います。教室数の割合に関するデータでは、2012年は個別指導塾スクールIEが9割近くを占めますが、2022年には幼児教育ジャンルが5割以上を占めています。この少子化の中で、なぜ幼児教育の割合を増やしたのでしょうか?

高橋 学習塾を運営する中で、小学校高学年から中学生くらいになると、覇気のないお子さんが多いと感じるようになりました。それは、ご両親の子育ての仕方にも原因があるかもしれないと思い、もっと早いタイミングでご家庭と接点を持ちたかったことが一つ。

もう一つは、多くのお子さんを見てきて、9歳頃までに自分で考える癖が身に付いているお子さんは、その後の人生もうまくいっている人が多いとわかりました。なので、お子さんたちにより良い影響を与えるために、幼児教育分野の事業を拡大してきました。

一方、TBSとして教育分野に乗り出そうと思ったきっかけは何ですか?

佐々木 いろいろな要因がありますが、決め手となったのは、若手社員とのランチミーティングで提案されたことです。TBSは2030年に向けてEDGE戦略と称して放送以外のいろいろな事業に取り組んでいるのですが、どんな事業をやりたいのか若手社員に聞いてみたら、「TBSは子どもたちへのアプローチが弱すぎる。教育に関わる事業をやりたい」という意見がありました。言われてみたら、TBSはアニメ番組も少ないし、子どもにもっとアプローチしないといけないと感じました。

それに、我々は職業柄、教えることが好きなんです。例えば僕は報道の記者だったので、特ダネをみんなに教えると胸がすっきりするんですよ。クイズ番組を作っている人なら、クイズを通して何かを教えてあげることが好きだし、特に子どもをときめかせることが大好きなんです。ほかにも多くの社員も教育事業に興味を示してくれたので、参入を決めました。ただ、僕らは教育事業はやったことがないので、プロのもとで勉強したいと思いました。

佐々木卓(株)TBSホールディングス、(株)TBSテレビ 代表取締役社長

数ある教育事業者の中でやる気スイッチを選んだのはなぜですか?

佐々木 僭越ながら、企業理念にすごく共感したからです。子どもたちは誰しもが「神様がくれた宝石」を持っていて、それを見つけて磨いていくということ。そこから「やる気」と「自信」を引き出していき、社会に貢献できる子どもたちを育てていく。この社会に貢献するという言葉に特に惹かれました。仕事ってお金儲けだけじゃないですよね。僕は社会に貢献、奉仕したいという思いがベースにあるので、やる気スイッチさんの理念やスタイルが大好きになり、こちらからアプローチしていきました。

高橋さんとしてはTBSという全く違うジャンルの企業からアプローチを受けて、第一印象はどうでしたか?

高橋 こちらも僭越ながら、TBSさんの企業理念はやる気スイッチとすごく似ていると感じました。また、YouTubeで佐々木さんとお子さんたちがSDGsについて対談する動画を見たら、佐々木さんがすごく優しい笑顔でお子さんたちを受け入れている姿が印象的でした。実際にお会いしたときも、お人柄が素晴らしかった。誰と働くかというのもすごく大事だと考えているので、ご一緒させていただきたいという気持ちになりました。

(左から)佐々木卓TBSホールディングス社長、高橋直司やる気スイッチグループホールディングス社長

ただ教えるだけじゃない、子どもと一緒に成長できるのが教育事業の醍醐味

ところで、高橋さんはどんなお子さんだったのでしょうか?

高橋 私の実家は静岡で洋服屋を営んでいて、父方の親族は全員事業者でしたが、母方は全員教師でしたね。だから、なんだかんだで教育に触れるような環境ではあったと思います。

私自身は3人兄弟で、幼少期は2人の兄を真似して生きていました。スイッチが入ったのは、中学1年生のとき。成績が良い兄から「おまえは絶対にこんな成績をとれないだろ」と言われたのをきっかけに、勉強するようになって成績が伸びたという経験があります。ちなみにその兄は高校で教師をやっています。

20代の頃は、何をしていいのかわからなくて、資格浪人をしていた時期があります。浪人している間も稼ぐ必要があったので、午前中は勉強して、午後から働けるところを探していたら、その条件に合うのが学習塾だったので、塾の現場で働くようになりました。自分が一生懸命教えると子どもが変わってどんどん成績が伸びていく。子どもだけでなく、親御さんも感謝してくれる。自分は仕事としてやってるだけなのに、こんなに感謝されることはなかなかないんじゃないかと思い、だんだん教育の仕事が好きになりました。

佐々木 そうでしたか。僕は教育者になろうと思ったことは一瞬もないんです。自分の間違った教えによって、子どもたちが変な方向に進んだら大変だと思ってしまって。でも、子どもと触れ合って変化していく様子を見るのは、やっぱり楽しいんですね。

高橋 そうですね。私も人様に教えることはすごく責任があるなと感じていますが、ただ教えるというよりも、子どもから教わる部分もあるんですよ。人として向き合うと、子どもって急にスイッチが入って一生懸命になってくれることがあります。だから、教えるという感覚よりも、一緒に成長する感じが心地よかったです。

高橋 直司(株)やる気スイッチグループホールディングス 、(株)やる気スイッチグループ、(株)YPスイッチ 代表取締役社長

佐々木 自分の話で恐縮ですが、僕のスイッチが入ったのは中学生の頃でした。小学生の頃は週6日塾に通って死ぬほど受験勉強をしていましたが、受験に失敗してしまって、まったく勉強しなくなってしまったんです。そんなとき、新聞でラグビーの宿澤広朗選手を見かけました。

僕は運動が好きだったけど、体が小さかったのですが、宿澤さんを見て、小さくてもラグビー選手になれるんだと思いました。そしたらスイッチが入って、ラグビーをできる学校に入るために勉強しなくちゃと思い、そこから急に勉強するようになったのです。今考えればその「神様がくれた宝石」は運動好きってことだったのかもしれません。僕はたまたま新聞を見てスイッチが入りましたが、普通はなかなか自分でスイッチを見つけるのは難しいですよね。

高橋 そうですね。スイッチは結果的に自分で入れるものだと思うので、やる気スイッチグループでは、なるべくお子さんが気付きやすい環境を用意するように意識しています。

山内あゆアナウンサー

両社の社員の共通点は、ゼロからものづくりをしているところ

TBSグループの一員となり、やる気スイッチさんの社内でもいろいろな反響があったと思いますが、いかがでしょうか?

高橋 もう期待の声だらけですよ。TBSグループの皆さんがお持ちのクリエイティブの力や、JNNネットワークによって日本全国を網羅する力はもちろんですが、何よりも、TBSの皆さんは本当にクリエイティブ能力に長けていて、優秀な社員の方ばかりだと感じています。

やる気スイッチグループは今まで自分たちで商品を作ったり、広告宣伝を考えたりと、ゼロイチでいろいろなメソッドを作ってきたので、社員同士の親和性もすごく高いんじゃないかと感じています。

ゼロからものづくりをするという点は共通していますよね。TBS側としてやる気スイッチグループに期待していることは何ですか?

佐々木 まずは、教育事業のプロの方々から教育の根源的なところから勉強したいと思っています。教育の現場では何が起きているのか、子どもたちはどんなことを思っているのか、今の子どもたちにはどんな傾向があるのか、聞きたいことはたくさんあります。

それと、TBSグループは100年続く企業になりたいと考えています。企業だから当然、競合との競争に勝たなければならないですが、ただ視聴率や売上などで語るのではなく、100年、200年と社会に貢献できる企業でありたい。それが本当の価値だと思うので、そんなグループであってほしいと考えています。そのために大事なのは、ぶれない信念を持つこと。企業形態などは多様性があっていいと思うので、変革を続けながら一緒にやっていきたいと思います。巨大教育産業になってほしいなんて思っていないので、長く社会に貢献できるグループでありたいです。

最後に今後に向けて一言お願いします。

高橋 社員一同、TBSグループに入れたことを本当に喜んでおります。我々も頑張っていきますので、いろいろなコラボレーションをさせていただきたいです。

佐々木 僕も同じ気持ちです。それと、僕らがやる気スイッチさんと仲間になったことで、実は経済界からいろいろなリアクションがあるんですよ。その中でも「一緒にできることないか」という声もあって、どんどん輪が広がっていきそうな予感がします。なので、いろいろと教えていただきながら、発展させていきたいと思っています。

(左から)山内あゆアナウンサー、佐々木卓TBSホールディングス社長、高橋直司やる気スイッチグループホールディングス社長

高橋 直司 (たかはし・なおし)(株)やる気スイッチグループホールディングス 、(株)やる気スイッチグループ、(株)YPスイッチ 代表取締役社長
横浜国立大学経営学部卒業後の1998年に入社。2018年に株式会社やる気スイッチグループホールディングス(現・株式会社やる気スイッチグループ)の代表取締役社長に就任。以来、同グループの「第二創業」を標榜し、組織改革と事業拡大を進める。

佐々木卓(ささき たかし) (株)TBSホールディングス、(株)TBSテレビ 代表取締役社長
早稲田大学法学部卒業後の1982年、東京放送(現TBSテレビ)入社。北京支局長、「筑紫哲也ニュース23」プロデューサー、経理局長、グループ経営企画局長、編成局長などを経て、2015年TBSテレビ取締役。16年常務取締役、17年専務取締役。2018年6月から現職。一般社団法人日本民間放送連盟副会長。東京都出身。

■株式会社やる気スイッチグループホールディングス 会社概要
設立:2020年1月  ※株式会社やる気スイッチグループの創業は1973年3月
代表者:代表取締役社長 高橋直司
所在地:東京都中央区八丁堀二丁目24-2 八丁堀第一生命ビル
会社HP:https://yarukiswitch-holdings.co.jp

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