• People

主演・原菜乃華の等身大の演技に思わず涙…劇場アニメ『不思議の国でアリスと -Dive in Wonderland-』制作秘話

2025年8月29日(金)に劇場アニメ『不思議の国でアリスと -Dive in Wonderland-』が全国公開されます。本作は、ルイス・キャロルの世界的名作『不思議の国のアリス』を日本で初めて劇場アニメーション化した作品です。主人公の大学生・安曇野りせが、ある日“不思議の国”に迷い込み、アリスと出会うことで物語が動き出します。

りせ役を原 菜乃華、アリス役をマイカ ピュが務めるほか、山本 耕史、八嶋 智人、小杉 竜一(ブラックマヨネーズ)、山口 勝平、森川 智之、山本 高広、松岡 茉優、間宮 祥太朗、戸田 恵子ら豪華キャストが集結することでも話題です。

本作のアソシエイトプロデューサーを務めるTBSテレビの山田唯莉子に、制作の裏側のほか、自身のキャリアについて話を聞きました。

テーマはアリスの世界への没入体験。こだわりのタイトルにも注目

まずは、『不思議の国でアリスと -Dive in Wonderland-』の企画経緯を教えてください。

山田 この映画は、私の入社前に制作がスタートしていました。企画は「現代の若者が抱える悩みや課題を描きたい」という思いから始まったそうです。ですが暗いストーリーではなく、一つの映像作品としてエンターテインメントにするために、『不思議の国のアリス』の世界観が良い受け皿になったと聞いています。

作中、主人公のりせはワンダーランドの個性豊かな住人たちに出会いますが、それが現代の私たちが社会に出ていろいろな人に出会うのとリンクしています。脚本作りには一年以上かかったと聞いています。

ちなみに、『不思議の国のアリス』というタイトルの方がわかりやすいのではないかという意見もありましたが、アリスの世界に没入することがメインテーマなので『不思議の国でアリスと』というタイトルになりました。「りせがアリスの世界に飛び込む」のを表すために、「-Dive in Wonderland-」と付け加えています。これはTBSと、共同幹事の松竹さんとで考えて、監督の篠原俊哉さんに提案しました。

『不思議の国でアリスと -Dive in Wonderland-』台本
『不思議の国でアリスと -Dive in Wonderland-』台本

山田さんは本作にアソシエイトプロデューサーとして携わっていますが、具体的にどんな業務をしていますか?

山田 作品を立ち上げ、全体を見るのがプロデューサー、プロデューサーと一緒に実際に物事を動かすのがアソシエイトプロデューサーの仕事です。

アソシエイトプロデューサーは、TBSテレビで4名。映画の制作のコアなところに立ち会ってプロデューサーをサポートする担当、製作委員会の運営担当、宣伝担当、というように分かれていて、私は宣伝を担当しています。

私が本作に携わっているのは、2024年の入社当初から。前職で『ポケットモンスター』や『アイカツ!』、『妖怪ウォッチ』といったアニメ映画作品に携わってきたので、そのスキルを見込んで任せていただいたのだと思います。

宣伝担当として、どんな業務をされていますか?

山田 主務はテレビ放送を使った宣伝です。例えば、バラエティ番組に、この作品や声の出演のキャストさんを取り上げていただけるよう相談したり、完成披露試写会などのイベントや主題歌が解禁になったタイミングで情報番組に取り上げていただけるよう頼んだり、テレビスポットを作ったりします。

映画公開記念特番『原菜乃華&マイカピュの不思議なティーパーティー!』の制作では、番組のプロデューサーとして映画の雰囲気を伝えられるように努めました。また、アニメーション制作のP.A.WORKSさんの取材で富山県まで行ったり、MBSさんやCBCさんの番組出演のために原菜乃華さんとマイカ ピュさんを大阪・名古屋までお連れしたりすることもありました。

ほかにも、TBSラジオの番組に取り上げてもらったり、コミカライズ・ノベライズや製作委員会の各社が提案してくださる宣伝メニューの監修業務など、作品全体の宣伝に関わる仕事も担っています。

宣伝業務で特に苦労した点は?

山田 本作は作中に明確な答えを提示していないため、ご覧になる方によって解釈が変わる作品だと思います。実際に、完成披露試写会の後に来場者にインタビューをさせていただくと、りせに共感する方もいれば、「自分とは違うけど考えさせられた」という方もいらっしゃいました。

この場合、例えば予告動画やキャッチコピーをどのように作ったらいいのか。答えを押し付けたくないし、説教臭くもしたくないので、松竹の宣伝チームの皆さんとともに悩みながら考えました。キービジュアルやポスターに入る「冒険の途中 道に迷ったら、 楽しい方へ」というキャッチコピーもその一つです。

アニメの宣伝は独特なので、TBSテレビのプロモーション部のサポートを受けつつも、基本的にはアニメ事業部が主となって進めています。作業が多くて大変ではありますが、主体的にやらせていただけるのはありがたいです。

TBSテレビ山田唯莉子

制作陣のものづくりに対する妥協しない姿勢に感服

本作のスタッフはどのように決められたのでしょうか。

山田 スタッフは篠原監督が過去にお付き合いがあった方が多いと聞いています。篠原監督は情熱を内に秘めて作品に向き合われ、妥協せず、理想に向けてこだわりを貫く方です。舞台挨拶にはお願いして登壇いただきました。

キャラクターデザインのこだわりを教えてください。

山田 『不思議の国のアリス』といえば、さまざまな企業やクリエイターが着手しており、クリエイターさんが挑戦してみたい世界観の一つだそうです。ですから、オリジナルを踏襲しつつ、『不思議の国でアリスと -Dive in Wonderland-』のクリエイターさんのアイデアがふんだんに取り入れられています。

例えば、ワンダーランドの白ウサギは、原作では遅刻を気にしながら走るシーンがあり、どちらかというと時間にルーズな印象がありました。ところが、本作ではタイムパフォーマンス重視のキャラクターで、スマホなどいろいろなガジェットを使いこなしています。また、青虫はインフルエンサーという設定です。スマホを使うのかと思いきや、手鏡でSNSを見ています。そういった細かな工夫が面白いですよね。

白ウサギ
白ウサギ

制作陣には「現実の世界と地続きの物語にしたい」というこだわりがありました。アニメ作品なので、りせが突然不思議の国に行くというストーリーでもすんなり見られると思いますが、フィクションではあるものの現実と乖離させすぎないのもスタッフ陣が大事にしたことです。りせが不思議の国に行く経緯も、現実世界からどのように“不思議の国”に迷い込むのかが面白いので映画の見どころの一つです。

優しい色味の世界観は、篠原監督とP.A.WORKSさんならでは。音響作業の仕上げの際にはほぼ完成の状態の映像を見せていただきましたが、音響作業の後でも非常にたくさんのカットをさらにブラッシュアップして仕上げてくださいました。その妥協しない姿勢は驚きです。非常に繊細に作られているので、作品世界の隅々までぜひ注目してください。

もちろん、現実世界のキャラクター描写も抜かりなしです。主人公のりせは就職活動がうまくいかず悩んでいますが、実際に20代の女性たちの思いをたくさんヒアリングして完成されたキャラクター像になっています。

安曇野りせ
安曇野りせ

キャスティングには、どのようなこだわりがありましたか?

山田 まず、りせを演じた原菜乃華さんは、音響監督の山田陽さんのご提案がきっかけです。山田音響監督は、映画『すずめの戸締まり』(2022年)でも音響監督を務め、ヒロイン・鈴芽役の原さんの演技を高く評価していたそうです。

原さんは『すずめの戸締まり』で鈴芽を演じた時は役と同じ高校生で、今回もりせとほぼ同年代。そこで原さんの素を引き出しながら、りせのキャラクターを作り上げるようなディレクションをされていました。それに応え、原さんはアフレコでも等身大のままに、りせを演じてくださったと思います。特に、りせの感情がダムの決壊のようにあふれてくるシーンでは、演技を聞いて泣きそうになりました。

また、劇中でご自身初めてのラップに挑戦されているのも注目です。りせはどちらかというとラップを苦手とするキャラクターなので、その慣れていない感じを良いバランスで表現してくださったと思います。

実は、私が社会人になったばかりの頃、『劇場版ポケットモンスター』を担当していたときに、10代前半だった原さんが「おはガール」(※テレビ東京の『おはスタ』の日替わり女子アシスタント)として宣伝に携わってくださっていました。当時を思い出して勝手に感慨深い気持ちになっていました。

アリス役のマイカ ピュさんは、オーディションで選ばれました。マイカさんはとても天真らんまんで、今作のアリスのイメージそのものです。例えば、アフレコ中も1シーン終わったら漫画を読みに戻ったり(笑)。自由でいながらお仕事になったら切り替えが早いところに、感心してしまいました。でも、舞台挨拶などのイベントでは初々しくて等身大のかわいらしさを見せてくれて、応援したくなりますね。

アリス
アリス

浦井洸役の間宮祥太朗さんは、原さんと同じ事務所で、「菜乃華が出るなら協力するよ」と出演を決めてくれたそうです。浦井はりせを幼い頃から知っているお兄さん的な存在です。その関係性が間宮さんと原さんの関係性とリンクしていて、それが作品にも反映されているように感じます。

浦井洸
浦井洸

ハンプティダンプティ役の小杉竜一さん(ブラックマヨネーズ)は、『モニタリング』をはじめ、TBSに馴染み深い存在です。演技もばっちりでダンディーな魅力を発揮してくださいました。実は宣伝隊長になってくれるのではないかという期待も込めてお願いしましたが、完成披露試写会ではしっかり場を盛り上げてくださって感謝しています。

冒頭のシーンに登場する、りせの同級生の女子大生たちは、篠原監督の過去作品で主演を務めた方々に集合していただきました。皆さん、とても有名な声優さんたちで、アニメファンの方ならどこかで声を聞いたことがあると思います。「篠原監督の作品なら出演したいです」と言ってくださったので、篠原監督の人望を感じました。

白ウサギ役の山口勝平さんや、チェシャ猫役の森川智之さんらは映画のプロデューサーを務める斎藤朋之さん(TBSテレビ)が昔から深いお付き合いがある方で、アリスの世界観を彩る魅力的なキャラクターを演じてくださっています。

チェシャ猫
チェシャ猫

ほかにも、マッドハッター役を山本耕史さん、三月ウサギ役を八嶋智人さん、ハートの女王役を松岡茉優さんが務めるなど、本作はそうそうたる声優や俳優の皆さんが制作陣のために集まってくださいました。こんなに豪華な面々が一堂に会することはなかなかありません。この作品のスタッフたちとキャストの皆さんとの信頼関係を築くことができた作品になったと実感しています。

マッドハッター、三月ウサギ
マッドハッター、三月ウサギ
ハートの女王
ハートの女王

主題歌はSEKAI NO OWARIが担当しますね。

山田 ワンダーランドを舞台にした本作の世界観をうまく表現してくれる方を松竹さんと一緒に考えたときに、最初に思い浮かんだのがSEKAI NO OWARIさんでした。直接お会いして楽曲制作を依頼した際にかなり熱く映画の制作にかけた思いを語ったのですが、デモで作品の意図をしっかり捉えてくださっていました。

制作時には完成前の映画もお送りして見ていただきました。たくさん試行錯誤してくださったと思いますが、素晴らしい楽曲を期日までに完成してくださって、さすがプロだなと感動しました。

主題歌の『図鑑』はSEKAI NO OWARIさんの世界観を残しながら作品にぴったりの曲になっていて、ファンの方にも喜ばれると思いますし、エンドロールで曲が流れたら心にぐっとくるものがあるはずです。

映画を楽しみにしているファンに向けて、メッセージをお願いします。

山田 タイトル通り、この作品を見た方には「アリスの世界に没入してほしい」と制作陣一同願っています。見る方によっていろいろな感想があると思いますが、劇場を出るときに何か一つ心に残るものがあると嬉しいです。

りせのように就職活動を経験したことがある方には、特に心に響くかもしれません。私もこの作品を初めて見たときは、「就職活動に苦しんでいた頃の自分に見せてあげたいな」と思いました。当時、私が抱えていたモヤモヤ、やるせなさをりせも感じていて、その様子を見ることで心が軽くなった気がしました。

『不思議の国のアリス』の世界が好きという人ももちろん楽しく見られますので、世代を問わずいろいろな人に楽しんでいただきたいと思います。

前職でアニメ業務を経験後、EDGE戦略に共感しTBSへ

ところで、山田さんはどんな経緯でTBSに入社されましたか?

山田 30歳を過ぎて、「このままでいいのだろうか」と漠然と思うようになりました。新卒で入社以来、テレビ局のアニメ部門で働いていましたが、放送以外にさまざまなメディアが登場している昨今、この先テレビ局はどうなっていくのだろうと考えていました。

そこで他局の戦略を調べていく中で、TBSが掲げるEDGE戦略に興味が湧きました。テレビ局でありながら放送事業以外の収益を拡大してコンテンツカンパニーを目指すという攻めの姿勢に共感し、2024年7月にTBSに入社しました。

学生時代はどんなことをされていましたか?

山田 大学ではジャーナリズムを専攻していました。といっても、最初からジャーナリズムに興味があったわけではありません。大学受験のとき、将来なりたい職業で大学を選べと言われても何を選べばいいか悩んでしまって…サイコロを振って学部を決めたんです(笑)。進路に悩む当時の自分は、りせと同じだと思っています。

大学に入って初めてジャーナリズムに触れてからは、その面白さに魅了され、より深く学ぶために別の大学へ編入学しました。新聞に関するゼミに所属し、それとは別にドキュメンタリーを撮っていました。一番時間をかけたのは、護憲運動をされている女性弁護士さんの取材です。取材対象を見つけるところから撮影、編集まで一人で手掛けました。とても楽しくて、こんなことをお仕事にできたらいいなと思い、テレビ局を中心に就職活動を行いました。

もちろん、アニメも好きでよく見ていました。前職のテレビ局では『ポケットモンスター』や『NARUTO-ナルト-』といった人気アニメを放送していて、それらを手掛けた優秀な方たちが現役で働いていました。ここで働くならアニメ部門がいいなと希望していましたが、配属が思い通りにいかない可能性もあるので、自分がやりたいことを多く手掛けている会社が良いと思いました。振り返ると、アニメ業界を選んだというよりも、ここまでこられたのは巡り合わせでしかないなと思います。

前職での経験が生かされていると感じる部分は?

山田 前職では、アニメの企画立ち上げから契約や金銭面の管理、宣伝、制作に携わって放送で送り届けるところまで全ての過程を経験させていただけたので、俯瞰でいろいろなことが見られるようになったと思います。

特に印象的な作品は、『ミュウツーの逆襲 EVOLUTION』(2019年)です。これは『ポケットモンスター』シリーズの映画1作目『劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲』(1998年)をフル3DCGでリメークした作品です。1作目の上映時に映画館で鑑賞し、私が人生で初めて見た映画です。そんな思い出深い映画のリメーク作のクレジットに、約20年越しで自分の名前が載ったのは、恐縮しつつも嬉しかったです。同級生からもたくさん連絡をもらいました。

ほかにも特撮や、ゲームのIPを使ったバラエティ番組の制作に関わったこともあり、いろいろな経験をさせていただけたと思います。

TBSテレビ山田唯莉子

TBSのアニメ事業部にはどんな印象がありますか?

山田 アニメの仕事は作品ごとに担当がつき、いわゆる個人商店になりやすいものですが、TBSのアニメ事業部は社内のコミュニケーションが活発で、各作品の進捗や悩みが全体に共有されていて、非常に良い環境だと感じています。

また、テレビ局以外の会社から転職されてきた方も多く、新鮮です。私はずっとテレビ局で働いてきたので、放送局以外でアニメに携わってきた同僚の話を聞くと、「自分の考えは凝り固まっていたな」と感じることも。反対に、私が学んできたことをお伝えして、自分が役に立てるところは貢献する。それぞれの経験がかみ合って良いチームだなと思います。

ご自身の今後の展望を教えてください。

山田 アニメの仕事を全力で頑張りたいと思うのはもちろんですが、会社の一員として幅広いスキルを身につけて花を咲かせられる人材でありたいと思っています。新卒の就職活動のときから選択肢の多い会社を目指していました。TBSにもいろいろな仕事があるので、さまざまな部署の皆さんと連携しながら自分らしく頑張りたいです。

最後に、アニメ制作の仕事を目指す就活生に向けて、メッセージをお願いします。

山田 学生時代にドキュメンタリーを撮っていたとき、同じコンクールに出展した他の作品を見て、圧倒的なセンスの違いを感じました。実際、入賞はできませんでしたが、見てくださった方から「よくここまで取材できたね」と褒められたことがあります。

アニメの仕事はパートナー企業などチームに対して向き合う機会が多く、いかに信頼関係を築けるかという点が重要です。ドキュメンタリー撮影で培った信頼関係の築き方は、今の仕事にとても生きていると思います。クリエイターでなくても、一会社員としてアニメに関わることもできます。ぜひ挑戦してみてください。

>NEXT

国民的お菓子が世界を救う大冒険『たべっ子どうぶつ THE MOVIE』映画の企画・プロデューサーに聞く制作秘話

大ヒットTBSアニメ『五等分の花嫁』プロデューサーが語るヒットの理由

TBSテレビ山田唯莉子

山田唯莉子
TBSテレビ アニメ映画ビジネス局 アニメ事業部所属。
テレビ東京 アニメ局を経て、2024年にTBSテレビにキャリア入社。
映画『たべっ子どうぶつ THE MOVIE』(2025年)などを担当。

『不思議の国でアリスと -Dive in Wonderland-』©「不思議の国でアリスと」製作委員会

<TBSアニメの仕事に興味がある方はこちら>

TBSテレビ新卒採用 / TBSテレビキャリア採用

TBSスパークル新卒採用 / TBSスパークルキャリア採用

TBSグロウディア新卒・キャリア採用

Seven Arcs新卒・キャリア採用

本サイトは画面を縦向きにしてお楽しみください。