- CHALLENGE REPORT
“口で描くアート”で滝川英治が子どもたちに伝えたいのは「挑戦の大切さ」、車いすラグビー金メダリストも登場したTBS SDGsイベントリポート
TBSは、2024年11月9日(土)・10日(日)、体験型SDGsイベント「地球を笑顔にする広場2024秋」を開催。今回は「“夢中になれる”を見つけよう!」をテーマに、“子どもたちのウェルビーイング”にフォーカスした「こころ」と「からだ」が元気になるスポーツやアートプログラムが展開されました。
その中から、11月10日に行われた「口で描くアートディレクター・滝川英治~トーク&ワークショップ~」の様子をリポートします。たくさんの子どもたちが集まった会場に、滝川英治さん(TBSスパークル)のほか、車いすラグビー日本代表でパリ2024パラリンピック金メダリストの池崎大輔選手・島川慎一選手が登場。TBSの篠原梨菜アナウンサーの進行で、はじめにトークショーが行われました。
「描くことで笑顔になれた」パラスポーツの絵にも挑戦
滝川英治さんのご登場です。滝川さんは、ミュージカルの舞台『テニスの王子様』や『弱虫ペダル』など、俳優としてご活躍されていましたね。
滝川 元々俳優として活動していて、2017年に自転車シーンの撮影中に事故に遭いました。ドクターヘリで運ばれ、当初は生死をさまよっていてICUにいました。1週間ぐらい目が覚めなかったようです。手術もしましたが、手足に脳から指令を与える脊髄を損傷してしまい、今も首から下が動かないような状態です。約1年間のリハビリを経て、現在は一人暮らしをしています。
リハビリなど大変な努力を重ね、絵を描かれるようになったそうですが、きっかけは?
滝川 実は、元から絵を描くことが特別好きだったわけではありません。事故に遭って約一か月は寝たきりでベッドから降りられず、ご飯を食べさせてもらうか寝ているかくらいしかできることがありませんでした。
その頃、天井をずっと眺めていたら、天井のシミが犬の顔に見えたんです。ダルメシアンが3匹いるように見えて、夢にまで出てくるようになり、彼らの冒険ストーリーを妄想するようになって…そのダルメシアンの物語が僕を笑顔にしてくれたんですね。それを具現化しようと思い、絵を描き始めたのがきっかけです。描いているうちに楽しくなってきて、他の絵も描くようになり、絵本を出版する機会を得ることができました。
本イベントではパラスポーツを題材に滝川さんが描かれた絵を、背後に展示しています。力強く躍動感のある絵ですが、どんな思いを込めていますか。
滝川 展示している絵は、今年2024年に開催された、パリパラリンピックの競技全32種目を描かせていただきました。けがをしてから、東京オリンピック・パラリンピック(2021年開催)に何らかの形で関わりたいと思うようになったんですね。退院後、ありがたいことにパラスポーツ番組のMCを担当させていただくことになり、パラスポーツの勉強を始めることになりました。それで僕はずっと絵を描いていたので、パラスポーツの絵を描くことに結びつきました。
後ろ向きになってしまった瞬間もありますが、絵やパラスポーツとの出合いが僕を支えてくれました。挫折したときにも何か夢中になれるものを見つけることで、人は前向きになれたり、笑顔になれたりするのではないでしょうか。「お母さんが作るハンバーグが美味しいから明日も作ってほしい」、そんな身近なことでいいので、皆さんも何でもいいから好きなものを見つけてほしいと思っています。
ここで、滝川さんとも縁のある特別ゲストとして、2024年のパリパラリンピックの車いすラグビーで金メダルを獲得した池崎大輔選手、島川慎一選手が登場です。お2人は滝川さんとどのようなご縁があるんですか?
池崎 僕は以前、滝川さんが出演する番組に出させていただいたのが初めての出会いでした。そこで本当に楽しいお話ができました。
島川 僕は2019年に東京体育館で行われた国際大会に出場しましたが、そこに滝川さんが観戦にいらしていて、お話する機会がありました。
滝川さんは、お2人が金メダルを持ち帰られてから会うのは初めてですか?
滝川 初めてです。金メダルおめでとうございます、すごく輝いていますね。僕もテレビで全試合観戦して、とても興奮しました。予選からずっと全勝で、一度も負けなかったんですもんね。特にオーストラリア戦は延長戦になり、緊張感があって大興奮でした。
池崎 ありがとうございます。悲願の金メダルを獲得しました。車いすラグビーは、東京・渋谷でパレードを行い、皆さんにも祝福していただきました。
せっかくお2人にお越しいただいたので、車いすラグビーをモチーフにした滝川さんの作品をご紹介したいと思います。滝川さん、どのようなイメージで描きましたか?
滝川 こちらの絵は、車いすラグビーを生で観戦した時に、ぶつかり合う迫力がすさまじかったので、その力強さを表現しました。イノシシと牛が対峙して、「猪突猛進」というイメージです。
池崎 とてもお上手ですし、メッセージが伝わってきますね。体が大きい方が宙に浮いていて、小さい方が勝っているように見えます。体の大きさと強さは関係ないんだなと改めて思いますね。いろいろな困難に向かっていく強さを感じます。
滝川 まさに今おっしゃったようなことを目指して描きました。あえて体が小さい方が大きい方に向かっていって、「体の大きさは関係ないよ」っていうところを描きました。
「まず、やってみることが大切」子どもたちにメッセージ
ここからは会場の皆さんからの質問にお答えいただきます。「口で描くのは難しいですか?」という質問が届いています。
滝川 口で描くのは、やはり難しいかな。それでも難しいことを、どう工夫すればできるか考えて、それが少しでもできたときは、とても達成感があります。
皆さんもこの先、難しいことや、つらいことにぶつかることがあると思います。つらいからやめようっていうのも、ありかもしれない。でも、それを乗り越えた先には絶対に自分にとってプラスの経験があると思います。もし、できなかったとしても、その経験は絶対に生かすことができるから、まずは諦めないでやることが大切だと思います。
池崎さんと島川さんは今のお話を聞かれて、いかがですか?
池崎 やっぱり口で絵を描いたことがないので、難しいのか想像すらできません。滝川さんの絵はメッセージ性の強いものが多く、どれもすごくお上手です。滝川さんの絵からは、今に至るまでの努力や、アートに出合ったときの喜びや衝撃も伝わってきます。簡単なことではないだろうと思いますよね。普通に手で描いてもうまく描けないのに、口でこんなに上手に描けているんですから。
島川 僕は字も絵も下手なので、口でこれだけ描けるのは本当にすごいなと思います。そして、僕たちも子どもたちに向けた車いすラグビーの体験会に参加しますが、そこで滝川さんがお話されていたのと同じような話をよくしています。競技に臨むうえで、いろいろな挫折がありました。やめるのは簡単なことですが、飛び込んでみないと何が起きるかわかりません。失敗から得られるものもたくさんあるので、まずはやってみようと伝えています。滝川さんのお話にはすごく共感できますね。
「口で描くのは楽しいですか?」という質問も寄せられています。
滝川 先ほどの回答と少し重なってしまいますが、難しいからこそ楽しいですね。首をずっと使うから肩も凝るし、タブレットをずっと見ていると目にも良くないですが、それ以上に楽しいです。それは、自分の中で思い描いているものがあるから。それと、「絵本を発売したい」「東京パラリンピックの時期に何かを絵で表現したい」など、その先の夢をある程度自分の中で思い描いてきたので、楽しくできていたのだと思います。
滝川さんは、絵の他にも取り組まれているものがあるんですよね。
滝川 はい、習字にも取り組んでいます。事故から2か月経った頃、ベッドの上で初めて「感謝」という字を描きました。それから一年に一度くらいのペースで、その年の思いを字に表現しています。
トークショーの後、ワークショップを行います。この体験を通して皆さんにどんなことを伝えたいですか?
滝川 先ほど、子どもたちからの質問にもあったように、「難しいか」「楽しいか」といったことは、実際にやってみないとわかりません。子どもたちに、まずは一度体験してほしいと思います。
子どもたちの感じ方はとてもピュアで、時に残酷な言葉をいただくこともあります。それでも彼らが感じたことは全て正しくて、今がいろいろなものを吸収する、一番大切な時間だと思います。皆さんがこの体験から何を感じるのか、僕もとても楽しみです。
ワークショップでは口で筆をくわえて習字体験
ワークショップでは、会場の子どもたちが口で筆をくわえ、“自分の好きな言葉”を描く習字に挑戦。懸命に書き上げ、自由な表現を楽しみました。
池崎選手、島川選手も参加して、池崎選手は「心」、島川選手は「挑戦」という文字を披露。滝川さん、池崎選手、島川選手は子どもたちと交流し、笑顔に包まれたイベントとなりました。