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鈴木亮平がけん引する劇場版『TOKYO MER~走る緊急救命室~南海ミッション』松木彩監督が制作秘話を語る

2025年8月1日(金)、劇場版『TOKYO MER~走る緊急救命室~南海ミッション』の全国上映が始まります。今作は、2021年に日曜劇場で放送された連続ドラマ『TOKYO MER~走る緊急救命室~』の劇場版2作目です。

「TOKYO MER」とは、オペ室を搭載した大型車両=ERカーで事故や災害現場に駆け付け、患者の命を救うため自らの危険を顧みずに戦う、東京都知事直轄の救命医療チームです。今作では鹿児島と沖縄にまたがる海に浮かぶ島々を巡る「南海MER」が誕生。TOKYO MERチーフドクターの喜多見幸太(きたみ・こうた、演:鈴木亮平)と看護師の蔵前夏梅(くらまえ・なつめ、演:菜々緒)が、指導スタッフとして出向中に、南のとある島で噴火が発生。南海MERが島民全員の救出に奮闘します。

連続ドラマ・スペシャルドラマの演出、2023年公開の劇場版1作目に続き、今作で監督を務めたのは、TBSテレビの松木彩。作品に込めた思いや撮影の裏話に加え、自身のキャリアについて話を聞きました。

離島医療に従事する「南海MER」誕生、困難な救出劇に立ち向かう

劇場版『TOKYO MER~走る緊急救命室~南海ミッション』キービジュアル

まずは、松木さんが今作に携わることになった経緯を教えてください。

松木 もともと連続ドラマの際に、企画を立ち上げた高橋正尚さん(TBSテレビ)と脚本家の黒岩勉先生、大映テレビの渡邉良介さん、八木亜未さんたちによる話し合いの中で演出担当にと声をかけていただき、映画の制作にも引き続き呼んでいただきました。

映画初監督を務めた劇場版『TOKYO MER~走る緊急救命室~』(2023年)ではシリーズ完結のつもりで臨みましたが、ありがたいことに多くの方に見ていただいたという結果を受けて、同年末頃から続編に向けて動き始めました。

今作では「南海MER」が誕生し、離島医療に従事する様子が描かれています。脚本作りはいかがでしたか?

松木 プロットは黒岩先生と高橋さんを中心に制作が進み、私はある程度形になってから参加しました。今回のテーマは黒岩先生のお考えです。もともとMERの新しいチームが出てくるストーリーを作る構想があった中で、東京では描けないような作品を、というコンセプトで作られたのだと伺っています。

ただ、それが南の島が舞台で、噴火が起きて…という内容になるとは思わず、初めて企画書を読んだときは驚きました。

劇場版『TOKYO MER~走る緊急救命室~南海ミッション』場面写真

撮影前には、どのような準備をしましたか?

松木 まずは、南海MER専用のフェリー「NK0」とオペ室を搭載した特殊車両「NK1」の準備です。台本を読んだとき、今作の核になるNK0をリアリティをもって描けるかが特に重要だと思いましたが、スタッフが大変苦労しながら準備してくれました。喜多見たちが船内で暮らせて、離島を巡るスペックを持ち、かつ地に足のついた大きすぎない船を探し出し、改造を行いました。

劇場版『TOKYO MER~走る緊急救命室~南海ミッション』メイキング

医療に関しては離島だけではなく、雪国のへき地医療に関するドキュメントを見たり、取材を行ったりしました。へき地では、一度の出動要請で的確な診断ができないと、気候条件によって次は駆けつけることすら不可能になったり、たとえ到着しても判断が数分遅れると天気が変わって搬送ができなくなったりと、その土地特有の緊張感がありました。そんな雰囲気を表現しつつ、離島という舞台をどう描くかという点を意識しました。

噴火シーンではイメージを共有しリアルな演技を追求

撮影はいかがでしたか?

松木 今作の舞台となる諏訪之瀬島(鹿児島)では実景を撮らせていただきましたが、主な撮影は沖縄本島で行いました。これまで「TOKYO MER」の活動に合う場所を探してきたので、離島のように見える場所を探す作業は初めてでとても新鮮でした。

また、『TOKYO MER』シリーズはセットなど室内で撮ることが多かったのですが、今回は大自然の中で天候に振り回されました。台風や大雨で船を動かせなかったり、天候が急変してテントが飛ばされそうになってみんなで押さえたり…今までにない苦労があって想定より時間がかかりましたが、スタッフ・キャスト一丸となって撮り切りました。自然の中で活動する南海MERの苦労を身をもって実感できたと思います(笑)。

それと、カメラを載せる船、事故が起きないよう周囲を警戒する船など、とにかく船がたくさん必要でしたので、地元の漁師の皆さんにご協力いただきました。当日は夜明けとともに撮影を始めようと暗いうちから準備していましたが、朝から皆さん、とても元気に参加してくださって。撮影で自分たちよりも朝が強い方たちとご一緒したのは初めてで感動してしまいましたね。

劇場版『TOKYO MER~走る緊急救命室~南海ミッション』メイキング

特に苦労したシーンはどこですか?

松木 自然災害が起きるシーンの撮影です。劇場版第1作の火災のシーンは「実際に小さめの火を起こして撮影し、VFXで大きくする」というやり方をとっていましたので、キャストの皆さんはある程度完成図のイメージがしやすかったと思います。しかし今回は、噴火したり溶岩が迫ってきたりする様子を全くゼロから想像しながら演じていただく必要がありました。

口頭で説明するだけでは伝えきれないと考え、実際の火山の映像を皆さんにお見せしたり、簡易的な絵を描いて説明したりと、自分のイメージの共有を大事にしました。ほかにも、溶岩が迫ってくるシーンは、今どの位置まで溶岩が流れているかをロープを張って説明したり。同じ温度の危機感を全員で共有できたからこそ、リアルな恐怖の演技が撮れたと思います。

また、今回はかなり限られた時間で制作しました。2024年10月にクランクインしてから約8か月で撮影と編集を終えましたが、この規模のVFXを使用する作品なら本来もう少し時間がかかると思います。数々のプロフェッショナルたちが集結してくれたおかげで、望む形で完成させることができました。

劇場版『TOKYO MER~走る緊急救命室~南海ミッション』メイキング

『TOKYO MER』シリーズは、医療シーンで代役を立てずにキャストが演じることが魅力の一つだと思います。なぜそこまでこだわっているのでしょうか。

松木 通常、例えばメスで切るシーンなら、手元に寄ったカットを代演で撮って編集でつなげる場合が多いですが、本シリーズは病院内の手術室ではなく、過酷な状況や体勢で医療行為を行うシーンが非常に多いのが特徴です。本人のカットで手元をうつさないようにごまかそうとすると、その様を描ききれないと思いました。

また、実際の手術は単純に切ったり縫ったりするだけでなく、動かすと血が飛ぶこともありますし、至る所に前の動きの名残があります。役者さん自身に全工程を演じていただくことで、そういうライブ感や「人を助けている」というリアリティーが生まれるし、チームの連携感も表現できるのだと思っています。エンタメ性を追求しつつも、日曜劇場のドラマとして医療のリアルさを追求したかったので、一つ一つの所作にこだわりました。

かなり大変な要求でしたが、鈴木亮平さんをはじめ、キャストの皆さんもこだわって面白がって演じてくださって、本当に素晴らしいチームです。役者さんからは「今までで一番大変な現場だ」という声が聞こえることもありますが(笑)、私も本当に挑戦が多い作品だなと思います。

劇場版『TOKYO MER~走る緊急救命室~南海ミッション』メイキング

対立も描きつつ、全員を魅力的なキャラクターに演出

キャストの皆さんについてもうかがいます。主演の鈴木亮平さんは現場でどんな様子でしたか?

松木 亮平さんは本当に優しい方で、常に「一緒に作っている」と感じさせてくださる素晴らしい役者さんです。『TOKYO MER』の世界を深く理解してくださっているので、今回もたくさん助けていただきました。例えばシリーズにはお約束の劇伴がいくつかあるのですが、撮影時に「このシーンはどの曲をかけますか?」と尋ねられ、私がお聞かせすると、その場にいた皆さんに「こんな感じだよ!」と共有してくださったり。医療についてもとても勉強されているので、新キャストの方から「医療の先生が2人いるみたい」と言われたりしていましたね。

今回はあらゆる場面で、亮平さんと菜々緒さんが現場を盛り上げてくださって。その姿は新メンバーを率いる喜多見と夏梅そのものという感じで、たくさん助けていただきました。

劇場版『TOKYO MER~走る緊急救命室~南海ミッション』場面写真

南海MERで新しく登場するキャストの方々の演出はどのように行いましたか?

松木 まず、南海MERチーフドクター候補の牧志秀実(まきし・ひでみ)は、これまでのMERにいない新しいタイプのスーパードクターだと台本から感じました。一見、牧志は腕の良い医者かどうかわかりません。頼りない、信念も感じられない「ように見える」牧志をどうやって表現するか、江口洋介さんに度々相談させていただきました。

特に、牧志だからできる診断を下すシーンには思い入れがあります。あのお芝居を見たとき、このシーンに向けて演技を積み上げてきてくださったんだなと感じました。江口さんといえば、別ドラマでもすてきな医師役をされていますが、今回は全く異なるキャラクターです。魅力的な医師に見えるのは、江口さんのお力だと思います。

劇場版『TOKYO MER~走る緊急救命室~南海ミッション』場面写真

南海MER看護師兼臨床工学技士の常盤拓(ときわ・たく)と知花青空(ちばな・そら)は、TOKYO MERに憧れて入ってきた一番若くて青いキャラクターです。高杉真宙さんと生見愛瑠さんはイメージにぴったりだと思いました。

2人は実力も情熱もあるのに緊急出動要請がないためくすぶっている設定です。一歩間違うとすごく嫌なキャラクターになってしまいそうな役柄ですが、「人を助けたい」という情熱故にイライラしてしまったり、牧志に不満を持ってしまったりする。そんな青く熱い思いを素直に表現して、共感できるキャラクターに育ててくださいました。

劇場版『TOKYO MER~走る緊急救命室~南海ミッション』場面写真

宮澤エマさんが演じる南海MER麻酔科医の武美幸(たけ・みゆき)は、サバサバしていて思ったことをそのまま言ってしまうキャラクター。「キツすぎるかも」と少しドキッとしてしまうセリフもあったのですが、宮澤さんが演じると嫌みがなく男前にすら聞こえてくるという。そんな武の魅力を宮澤さんが引き出してくださいました。

対立もするけれど、それは全員に「人を助けたい」という思いがあるから。ですから全員を魅力的に見せたいという、その思いを皆さんが汲み取って演じてくださいました。

劇場版『TOKYO MER~走る緊急救命室~南海ミッション』場面写真

玉山鉄二さんが演じる麦生伸(むぎお・しん)は、島の漁師です。漁師のリアリティーを出すために肌を焼いてきてくださったり、頭に巻いているタオルをどれくらい使い古すか話し合ったりと、島に生きている人の雰囲気を大事に演じてくださいました。

今回、島の人々のシーンがとても大切になってくるのですが、彼らのバックボーンを描くシーンが非常に少なく、限られた中で島民たちの関係性やつながりをどう表現するのか、とても真摯に考えてくださいましたし、撮影では沖縄で募集した役者さんやエキストラさんを引っ張ってくださったので、とても助かりました。

ちなみに、麦生が着ているTシャツは、諏訪之瀬島のオリジナルTシャツという設定です。今作で作ったもので、デザインは高橋正尚プロデューサーです(笑)。

劇場版『TOKYO MER~走る緊急救命室~南海ミッション』場面写真

特に印象に残っているシーンは?

松木 島民たちが立ち上がるシーンはとても思い入れがあります。今作では医療従事者が出てこないシーンも多く、これはシリーズとして初の試みでした。これまでは救助される側の人たちの名前や人となりがわからない状態で医療行為をするケースが基本でしたが、今回は救助される側のキャラクターに名前がついて、救助する側とお互い知り合いであるというのも印象的でした。

医療従事者だけでは乗り越えられないほどの自然災害において、一人ひとりが立ち上がり、協力し合うことの大切さは、今作の大きなテーマでもあると思いますので、ぜひ注目していただきたいです。

映画を楽しみにしている『TOKYO MER』ファンに向けて、メッセージをお願いします。

松木 ドラマシリーズからずっと見てくださっている方にしか気付けない、楽しめるポイントがたくさん入っていると思います。『TOKYO MER』シリーズでは日常的なシーンをほとんど描いてきませんでしたが、今作で初めて喜多見がちゃんと食事するシーンを撮ったりしました。ずっと応援してくださっている方には、ぜひ日常ブロックにも注目していただきたいです。

また、赤塚梓(あかつか・あずさ、演:石田ゆり子)や久我山秋晴(くがやま・しゅうせい、演:鶴見辰吾)など、医療従事者以外のキャラクターも、今作では新しい一面が見られると思います。もちろん、音羽尚(おとわ・なお、演:賀来賢人)と喜多見の新しい関係性も。シリーズが長く続くと変化球を取り入れてみようと思うこともありますが、それは誰も期待していないなと思い直し、今作もこれまで積み上げてきたことの集大成のつもりで作りました。

もちろん、今作で初めて『TOKYO MER』に触れる方は、その方にしかできない楽しみ方ができると思います。ハラハラするシーンも満載なので、ぜひスクリーンで見ていただきたいですね。

劇場版『TOKYO MER~走る緊急救命室~南海ミッション』場面写真

日曜劇場『オレンジデイズ』に憧れ、TBSへ

ところで、松木さんはどんな経緯でTBSに入社されたのでしょうか。

松木 学生時代はずっと演劇に取り組んできましたが、学校の先生や学者さんに憧れていたこともあり、大学卒業後は趣味で演劇に関わっていくんだろうなと思っていました。母校からテレビ局に就職した先輩も少なく、あまり演劇を仕事にするイメージもなかったんです。

ですが、大学3年生くらいから演出という仕事に興味が出てきて、ふとテレビ局の就職試験を受けることに。私の家族はあまりドラマを見ませんが、TBSの日曜劇場だけは見ていたので、自分が作ったものを家族に見てもらうためにも「日曜劇場を作っているTBSに入りたい」と思いました。

日曜劇場では『オレンジデイズ』(2004年)が好きで、「大学生になったらオレンジデイズしたいよね」と友人と話していたことも。そんな風に「共通言語になるほどみんなが見ている素敵なドラマを作りたい」という思いのもと、ドラマの演出を志望してTBSに入社しました。

転機になった作品は何ですか?

松木 ディレクターとしては『TOKYO MER』シリーズで間違いないですが、まずバラエティ制作部時代に深夜番組の企画でミニドラマを撮ったことが最初の転機だったと思います。どうしてもドラマ制作部に入りたかったので、このアピールが認められて異動のきっかけになり、より一層頑張ろうと励みになりました。

ドラマ制作部に異動してからは精神的にきついこともありましたが、助監督(AD)時代に関わった『下町ロケット』(2015年)や『陸王』(2017年)は、心の支えになった作品です。チームで作品を作っていく過程の喜びや、家族も含めいろいろな人に喜んでもらえた感覚を味わえたので「ドラマっていいな、もう少し頑張ってみよう」と思いました。

劇場版『TOKYO MER~走る緊急救命室~南海ミッション』メイキング

TBSのドラマ制作部の魅力は何でしょうか。

松木 助監督(AD)をしっかり経験できることです。他局の方とお話ししていると、局員はいきなりプロデューサーやディレクターの能力を求められることが多いように感じます。TBSでは助監督を経験しながら、各セクションがどのように動いているのか学んで「自分が監督やプロデューサーになったらどんなことをしたいのか、誰と仕事をしたいのか」をイメージしていく時間がしっかりいただけます。そのおかげで成長できましたし、必要な時間だったと思います。

福澤克雄さんや土井裕泰さん、石井康晴さんといったレジェンドクラスの演出家の先輩方がいらっしゃるのも魅力です。自分が見てきたドラマを作った人が今でも現役で活躍されていて、その方々のもとで学べたことは本当に恵まれていたなと思います。

TBSテレビ松木彩

松木さんの今後の展望を教えてください。

松木 実はあまり自分の展望は考えておらず、「任せていただけるなら何でも挑戦したい」というスタンスです。ラブコメを作りたくてTBSに入社したので、『TOKYO MER』のような真逆の作品に携わらせていただけるとは考えもしませんでした。ですが、もともと『ダイ・ハード』(1988年)などの1980~90年代のハリウッド映画が大好きだったので、「本当はこういう作品を撮りたかったのかもしれない」と思いながら『TOKYO MER』シリーズを撮っていました。自分が思ってもいなかったところで面白がれるポイントが見つかったので、この先も一本でも多くの作品に関わっていきたいです。

劇場版『TOKYO MER~走る緊急救命室~南海ミッション』メイキング

最後に、松木さんのようなドラマ監督を目指す就活生にメッセージをお願いします。

松木 ドラマ作りが仕事になると、ドラマや映画を純粋に楽しむことが難しくなってしまうかもしれません。ですから、今のうちにとにかくいろいろな作品を見て、作品そのものでも、キャラクターや映像や音楽でも、「これ、私好きだな」と思えるものをできるだけ増やすことをお勧めします。

この業界ですごいと思うのは、引き出しをたくさん持っている人です。そういう方はやはりたくさんの作品を見ていて、自分の好きなものをしっかりと把握しています。「あの作品のああいうシーンをやりたいんです」という「好きな作品や場面」が共通言語になることも多いです。

この仕事をしていると、自分が小さい頃好きだったものは一生の指標になるように感じています。自分が夢中になって見ていたドラマの「ときめくとき」が、将来のヒントになるはずです。うまいこと言いました(笑)。

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TBSテレビ松木彩

松木彩
2011年TBSテレビ入社。バラエティ制作部を経て、現在はドラマ制作部所属。
これまでに『下町ロケット』(2015年)、『カルテット』、『陸王』(ともに2017年)などで助監督を務め、『わにとかげぎす』(2017年)で監督デビュー。その後、『テセウスの船』、『半沢直樹』(ともに2020年)などで演出を務める。

劇場版『TOKYO MER~走る緊急救命室~南海ミッション』©2025 劇場版『TOKYO MER』製作委員会

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