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TBSアナウンサー・出水麻衣がMBA取得や黒柳徹子らとの出会いで学んだこと、『Nスタ』で視聴者が安心できるパートナーを目指す

TBSテレビで放送中の夕方の報道・情報番組『Nスタ』(毎週月~金曜、ごご3時49分~よる7時 ※一部地域を除く)が、2025年3月31日(月)の放送から新体制となりました。新たに月~木曜のメインキャスターとして活躍しているのは、出水麻衣アナウンサーです。
2006年の入社からさまざまな番組に携わってきた出水アナウンサーに、『Nスタ』での展望から、これまでのキャリア、さらに2023年にMBA(経営学修士)を取得したことでの変化について話を聞きました。
『Nスタ』では約20年のキャリアで培ったスキルを発揮
『Nスタ』のメインキャスターに就任して約3か月が経過しました。今の心境をお聞かせください。
出水 悲喜こもごもさまざまなニュースを扱っていますので「楽しい」と一概に言ってはいけないとは思いつつ、私にとっては新たなチャレンジで、やりがいを感じています。
2026年で入社20年目を迎えますが、この年次にして毎日会社に来るのがさらに楽しくなりました。ニュースをただ文字として追うのではなく、その事象の裏側まで限られた時間の中で効率的に深掘りしていくスキルを身に付けてこられたかなと思う今だからこそ、できることもあると実感しています。
『Nスタ』は長年続いている番組なので、屋台骨がしっかりしています。同じくメインキャスターを務める井上貴博さんは番組9年目で、とても頼もしいパートナーです。アナウンサーは「情報」を伝えることが役割なので、記者の皆さんが取材で得た情報や原稿に込められた思いを視聴者の皆さんにお届けできるよう、「与えられた役割をしっかりと務めていこう」と気持ちを引き締めています。
オンエアに向けて、日々どんな準備をされていますか?
出水 ニュースをいろいろな角度から勉強しています。例えば、お米の価格がなぜ下がらないのかというニュースは、小売り業者・JA・農家の皆さんといった、さまざまな視点からその理由を考えています。
また、報道フロアにいる同僚の記者に質問に行くこともあります。通常のストレートニュースは30秒、長くても90秒程度で収めなければならないので、取材の成果は1割も出せないのではないかと思うんです。彼らには伝えたいことがもっとたくさんあるはずで、コミュニケーションを通じて思いをくみ取ることを大事にしています。
それができるのは、TBSとして良質な情報をお届けできるように同じ方向を向いている仲間だからこそです。心強い仲間がたくさんいて本当に恵まれているなと思います。
『Nスタ』を担当するようになってから、どんな変化がありましたか?
出水 週5日、朝から晩まで会社で仕事するという意味ではあまり変わりませんが、今年2025年3月まで担当していたBS-TBS『報道1930』(毎週月~金曜、よる7時30分~8時54分)は一つの事柄を約1時間30分かけて深掘りする番組なので、取り上げるテーマについて一点突破で勉強していたところ、『Nスタ』では3時間10分ほどのオンエアでさまざまなニュースを扱うので、多岐にわたり情報を深掘りし、事象を理解しなければなりません。
例えば、「ペットボトル飲料が何十円値上がりする」というニュースについて、今までは自販機を前に「高いな」と思うくらいで、なぜ値上げが行われたのかその理由まで考えてはいませんでしたが、『Nスタ』では価格改定の裏側も取材をし解説しています。番組の性質上、より世間一般の目線に立って考えることが増えたので、スーパーを巡って買い物に行くのも楽しくなりましたし、日頃の小さな発見から知的好奇心が満たされているような気がします。

大学受験の面接を機に、アナウンサーを目指す
ところで、出水さんはどんな経緯でアナウンサーになったのでしょうか。
出水 大学受験の面接のとき、面接官の教授に「良い声ですね。アナウンサー志望ですか?」と声をかけていただいたのが一番最初のきっかけです。それまでは私のような普通の学生がアナウンサーというテレビで発信するような立場を目指せるなんて思ってもいませんでしたが、声を褒めていただいたことによって視界が開けました。
大学生の頃は、ご縁があってフジテレビさんのCS番組のキャスターを務めていました。幼少期海外で暮らしていたため英語が話せたことから、主に総合格闘技の中継番組で海外からの選手のインタビューに立ち会わせていただきました。
リングで戦う姿を最前列で見届けたり、実況アナウンサーの方が入念に取材や準備をされている背中を間近で見られたりして感銘を受けました。そういった皆さんの陰の努力に心を打たれたのと、真剣勝負のスポーツの面白さを知り、将来は「オリンピックの中継を任されるようなアナウンサーになりたい」と思い、就職活動では各局のアナウンサー試験を受けました。唯一拾ってくれたTBSと出会えたことは財産で、縁と運がこの局とつながって良かったと思います。
これまでの転機を教えてください。
出水 一つに絞るのは難しいですが、まず報道においては『筑紫哲也NEWS23』(1989~2008年)です。入社当初はお天気コーナーを担当し、のちにスポーツコーナーなども務めました。30代から報道へと軸足を移すことになりましたが、筑紫哲也さんが醸し出す雰囲気やスタジオで紡ぐ言葉を近くで見聞きした経験が生かされていると思います。
『報道1930』で松原耕二さんとご一緒できたことも大きな転機です。松原さんは記者としても経験が豊富で「ニュースの切り口」を探すのがお上手。視聴者を代弁して「それが知りたかった!」という情報をゲストの皆さんから軽やかな口調で引き出していく手腕は秀逸です。松原さんをはじめ『報道1930』で学んだことが報道アナウンサーとしての礎になっています。
それから、入社2年目に大阪の『世界陸上』(2007年)で、競技を終えたばかりの選手へのインタビューを任せてもらったことも忘れられません。国際大会の舞台で選手たちの心の内を聞くことができるのは、TBSの看板があるからこそ。TBSのアナウンサーになってよかったと心から思う出来事でした。おかげで今も陸上競技が大好きです。
ほかにも、約13年携わった『日立 世界ふしぎ発見!』(1986~2024年)は、日本全国どこに行っても「見たことあります」と言ってもらえるので、私にとって「名刺」になるような番組です。アナウンサーとしてキャリアを重ねる中、自分の仕事ぶりに納得がいかず私なりにもがいていた時期もありました。そんなとき、「時間があるならロケに行きませんか?」と誰もが憧れるミステリーハンターをやらせてくれたんです。タンザニアのキリマンジャロに登ったり、世界一透明度が高いというロシアのバイカル湖を見に行ったりと、個人では行けないような場所、のべ9か所に行かせていただきました。広い世界へ飛び出すと自分の悩みがちっぽけに思えて…単純ですが、また踏み出すパワーをもらえた番組です。
テレビのほか、TBSラジオでも活躍されていますね。
出水 ラジオは2番組、担当しています。『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』(毎週土曜、あさ9時~ひる0時45分)は2025年の秋で10年目。ナイツのお二人が毎週新作漫才を披露しています。ラジオは媒体の性質上、言葉の端々から人柄がダイレクトに伝わるので「こう見せよう」「こういう自分でありたい」というのが通用しません。テレビではきれいな衣装にメイクを施していただいているおかげか、しっかりしているように見られやすいのですが、素の私はどうかというと…お恥ずかしい限り。ラジオでは自分のおっちょこちょいな部分も多々出ていますが、温かいリスナーさんにはそんなところも面白がっていただけて、本当にありがたく思っています。
もう一つは『コシノジュンコ MASACA』(毎週日曜、ごご5時~5時30分)です。こちらも10年携わっており、コシノジュンコさんのおかげで普段なかなか会えないような各界のフロントランナーの方にゲストにお越しいただいています。例えば、プロのバイオリニストにスタジオでバイオリンの名器・ストラディバリウスを弾いていただいたり、国宝のような能面を顔に当てさせてもらったり、ラジオだからリスナーの皆さんにお見せできないのがもったいないなと思いつつ、毎回贅沢な気持ちで過ごしています。
どちらの番組もリスナーさんからメッセージを送っていただき一緒に番組を作り上げているという実感があります。人柄含め、「喋り手」として応援してもらえるラジオに携われるのは、本当に幸せなことです。こういった体験をできるのも、テレビとラジオの両方があるTBSならではだと思います。
人生の先輩といえるような方とご一緒する機会が多い印象がありますが、刺激を受けたエピソードを教えてください。
出水 『日立 世界ふしぎ発見!』でご一緒した黒柳徹子さんが「100歳になったらジャーナリストになるのが夢なの。100年も生きた人だったら、政治家の皆さんも素直に答えてくださると思うんだ」とおっしゃっていたのが印象的でした。100歳の目標を設定するなど、徹子さんの常に前向きで、夢を追ってらっしゃる姿が非常に素敵ですよね。
ジュンコさんも非常にパワフルな方で、常に2~3年先のプロジェクトをキラキラとした目で語られています。ジュンコさんは「運動って何て書くか知ってる?“運を動かす”って書くでしょ。だからこれからも運を引き付けるためには体を動かすことが大事」とよくおっしゃっていますが、その言葉の裏付けは生き方で証明されていると思います。ジュンコさんは歩くパワースポットのようです。一緒にお仕事すると「さっきまで頭痛がしたのに、いつの間にか治っている!」という不思議な出来事もあります。
こういった素敵な人生の先輩方とお仕事できているので、少しでも吸収して次の世代につないでいけたらいいなと思います。

MBAはコミュニケーションのきっかけとして使っていきたい
出水さんは2023年にMBAを取得されましたが、どんなきっかけがあったのでしょうか。
出水 30代前半のとき「時間があるなら勉強してみたら?」と言われたことがずっと心に引っかかっていました。ありがたいことにアナウンサーはいろいろな情報ソースに触れられるので、一見、世の中の事象を網羅しているように思われますが、引き出しはあってもそれぞれの引き出しがとても小さく、一つずつ語るとなると途端に自信がなくなってしまう実感がありました。ですから、何か自分の武器を見つけなければならないという思いがずっとくすぶっていました。
30代中盤には、どこか行き詰まりを感じるようになりました。なんとかしなければと思い、以前から興味のあった経済・経営管理を学ぶため、夜間に通えるMBAコースを見つけて受験しました。
アナウンサーの仕事をしながら勉強するのは、大変だったのでは?
出水 当時の直属の上司が非常にリカレント教育に理解がある方で、相談したらすぐに「いいね、やりなよ!アナウンサーもこれからは自分で学び取って切り開いていく時代だよ」と後押ししてもらいました。『報道1930』に週3~4日出演していましたが、夜の時間の仕事を快く調整してくれた上司、番組には感謝しています。
MBAを取得したことでどんな変化がありましたか?
出水 まずは、メンタル面の変化です。それまではアナウンサーとして一通りの仕事はできていたように感じていましたが、大学院には勉強熱心で仕事ができる方ばかり集まっていたので、自分がTBSから放り出されたら通用しないなと初心に帰ることができました。
それと、当初はMBA取得のために大学院に通っていることを大々的に公言していませんでしたが、卒業時にInstagramで発信したところ、取材の依頼をいただいて、そのインタビュー記事がきっかけで、事業投資戦略部を兼務しないかと声がかかりました。アナウンサーとの兼務はあまり前例がありませんでしたが、周囲が後押ししてくれてありがたかったです。新しい挑戦に対して思い切り背中を押してくれる土壌があるのがTBSの素晴らしいところだと思います。
こうやってチャレンジしていると、後輩たちも興味を持って話を聞きに来てくれたり、社内留学に挑戦してみたりする動きがありました。学び続けるという姿勢がいかに大切なのかを知ることができたのは、30代で一番大きな収穫だったと思います。
事業投資戦略部では、イベント「AKASAKA あそび!学び!フェスタ」の運営に携わったそうですね。
出水 2024年は『アナウンサー「伝え方」教室」』というコンテンツをゼロから企画しました。バラエティ番組でもおなじみの「箱の中身はなんだろな?」ゲームを通して、いろいろな言葉を使った表現方法を身に付けるという内容です。イベント当日にお子さんたちの楽しそうな笑顔を見られたことは嬉しかったですし、担当してくれた先輩のアナウンサーが「これがアナウンサーの原点だよね」とおっしゃっていて、やってよかったなと思いました。
2025年はイベントプロデューサーの久我雄三さんとともに、赤坂の街の飲食店さんに働きかけて、ミールクーポンを設計するなど協力させていただきました。
今は放送に注力していますが、落ち着いたらまた兼務したいと思います。放送業務にだけ没頭していると、社内でどんな方々が尽力して稼いできてくれたお金で放送しているのか見えないことも多かったのですが、事業投資戦略部での経験を通してTBS全体が目指すべき方向が見えてきて愛社精神がさらに育まれました。今後は新規事業や新しいプロジェクトのアイデアを出したり、必要に応じて番組でコーナーを企画したりと協力していけたらいいなと思います。
今後、MBAで得た見識を使ってどんなことをしたいですか?
出水 立ち上げ当初に少し携わっていた、配信サービスの「TBS CROSS DIG with Bloomberg」が、経済や経営をテーマとしたコンテンツを中心に扱っているので、有識者の方へのインタビューなどを担当できたらいいなと思います。アナウンサーの経験から、ざっくばらんに話を聞くこともできますし、最低限の知識は身に付いているので、取材対象者の方にとっても安心材料になるかと思います。コミュニケーションの武器として使っていきたいですね。

困った人に手を差し伸べられるようなパートナーを目指して
多方面で活躍されてこられましたが、どんなことを根拠に決断してきましたか?
出水 「行動できるかどうか」を判断基準の一つとしています。行動と言葉は一致していることに越したことはないですが、言葉でいくら言っても足が動かないときがあります。それは、自分が納得していないから。一歩踏み出した先にしか見えない世界があると思います。
もちろん葛藤もありましたが、今まで自分の前に提示されてきた選択肢に対しては掴み取る努力をしてきたという自負はあります。あとは、何事も面白がることが大事だと思います。
疲労やストレス解消のために何をされていますか?
出水 心の疲れは体の疲れからくると考えているので、お風呂で体をほぐし、血流を良くしてしっかり寝るということに尽きると思います。あとは少し強引かもしれませんが、モヤモヤしてどうしてもプラスに考えられないときはホルモンのせいにしています(笑)。自分がコントロールできない何かのせいにすると、少し気が楽になりますよ。
それから人と話すことが好きなので、友人とお食事に行くなど、楽しむ時間も設けています。あまり悩みを相談することはないかもしれません。悩んでいても大抵は次に取り組まなければならない仕事や楽しい予定がきて忘れてしまいます。
出水さんが働く中で感じる、TBSの魅力を教えてください。
出水 働いている人が朗らかで真面目であることです。一般的に生放送が迫っている報道フロアといえば「スタッフの声が飛び交ってスピード感ある空間」のイメージをお持ちの方もいらっしゃると思いますが、TBSに見学にいらした方からは、「報道フロアなのに、こんなに穏やかに進行しているんですね」と驚かれたことがあります。
また、毎年社内のいろいろな部署と向き合って知り合いが増え、人脈がどんどん広がっていくので、年々働きやすくなっていると感じています。私がいろいろなことにチャレンジできているのも、周りの皆さんがやりたいことを尊重してくれて、そのレールを敷いてくれるおかげです。
ご自身の今後の展望は?
出水 『Nスタ』に加入したばかりなので、ホラン千秋さんが8年間つないできてくださったバトンをきちんと受け継ぎ、TBSの報道がより多くの方に信頼される番組になるように尽力していきたいです。新体制から掲げている「あなたのパートナーに、Nスタ」というキャッチコピーの通り、困っているとき、不安なときに適切な情報で手を差し伸べられるような存在を目指したいと思います。
そう思うのは、東日本大震災(2011年)がきっかけです。当時の私はスポーツやバラエティを主に担当しており、災害報道にはほぼ携わることがなく、スタンバイする日々が続きました。それまでの仕事は楽しくてやりがいもあったのですが、「本当の意味でアナウンサーが役に立つのはやはり災害報道だ」と感じたのです。
今は『Nスタ』を週に4日担当しているので、日々オンエアに向き合い、有事の際には「この人が言うなら避難所に行こう」と信頼していただけるよう積み重ねをしていきたいです。もちろん、災害は起きてほしくありませんが、そういったときに少しでも視聴者の方に安心感や役に立つ情報を届けることが、パートナーではないかと考えています。
あとは、どの場所でも「きちんと咲ける」ビジネスパーソンでありたいと思います。
最後に、就活生に向けてメッセージをお願いします。
出水 まずは、テレビやラジオをぜひ見て聞いていただき、私たちの仕事を知っていただきたいと思います。そこに圧倒的に足りないのは、若い感性です。こちらに合わせるのではなく、私たちが思いつかなかったようなアイデアを求めていますし、そこからイノベーションが生まれると思うので、テレビやラジオに何を感じるのか、そこで自分をどう生かせるのかを大胆に発想し、自信を持ってプレゼンしてくれたら、良い結果につながると思います。
昨今は昔からあるメディアに馴染みがない人が増えてきているように感じます。その責任は私たちメディア側にあるのですが、ぜひメディアを愛してくれている人と一緒に働きたいですし、今後はそういう方たちと手を携えて乗り越えていかなければならない時代だと思います。コンテンツが好きな方をお待ちしています。
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出水麻衣
2006年TBSテレビ入社。『筑紫哲也NEWS23』、『王様のブランチ』、『日立 世界ふしぎ発見!』などを歴任。
現在、『Nスタ』メインキャスター(月~木曜)のほか、TBSラジオ『土曜ワイド ラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』、『コシノジュンコMASACA』パーソナリティを務める。