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芳根京子からのお揃いパーカープレゼントに感動、TBS火ドラ『まどか26歳、研修医やってます!』チーフ監督が語る演出&撮影秘話

TBSで放送中のドラマ『まどか26歳、研修医やってます!』(毎週火曜よる10時)が、2025年3月18日(火)に最終回を迎えます。原作は水谷緑氏によるお仕事コミックエッセイ「まどか26歳、研修医やってます!」「あたふた研修医やってます。」「離島で研修医やってきました。」(KADOKAWA)。芳根京子演じる研修医・若月まどか(わかつき・まどか)が働き方改革で変わりゆく医療現場に戸惑いながら、同期の仲間たちと励まし合い、医師として女子として、人生と向き合う濃厚な2年間を描いた成長物語です。

本作でチーフ監督を務めたのは、TBSスパークルの井村太一。ドラマに込めた思いや最終回の見どころのほか、自身のキャリアについて話を聞きました。

演出で意識したのは「医師も自分たちと同じ人間」ということ

ドラマ『まどか26歳、研修医やってます!』キービジュアル

まず、チーフ監督として、撮影前にどんな準備をしましたか?

井村 プロット・脚本自体は脚本家さんとプロデューサーが中心となって、医療現場に取材を重ねて作っていったんですが、その打ち合わせから参加させていただきました。原作の「まどか26歳、研修医やってます!」のモデルとなったまどか先生にもお会いして、さまざまなお話を伺いました。とても明るく気さくな方でしたね。

監督としては、「このドラマで何をしたいか」というところに焦点を当てて考えていきました。研修医を扱ったドラマは過去にも多く作られてきたので、どう違いをつけて描くのか、皆でじっくり話し合いました。

井村さんは、本作をどのように描こうとしましたか?

井村 この作品は医療がテーマですが、それだけを描くドラマではないと考えました。

医師に対して、「大きなきっかけとなる過去があって正義感に燃え、頭が良く立派で、自分とは程遠い人たち」というイメージを持っている方も多いと思います。ですが、原作を読んだり、取材を進めたりするなかで、当たり前ですが「医師も人間なんだな」と感じました。だからこそ、その人間たちが命と向き合う「医師」という職業がより尊い存在だな、と思えたんです。

本作ではスーパードクターではなく、「職場の人間関係で悩むことがあったり、ベテラン医師が弱さを見せたり…そんな等身大な姿が描けるドラマにしたい」と制作陣で話し合い、視聴者の方に「医師も自分たちと同じ人間なんだ」と感じてもらえることを一番大事にしています。ですから、医師のプライベートの部分を描くことに注力して、病院以外のシーンもなるべく描けるように意識しました。

それに、まどかたちが研修で回る各科の医師や研修医の皆さんから取材で聞いたエピソードを、内容やセリフにふんだんに盛り込んでいます。

火曜日の夜に放送するので、視聴者の方が「明日も頑張ろう」と前向きになれるような作品にしようと心掛けました。

台本は、原作「まどか26歳、研修医やってます!」のイラストが
台本は、原作「まどか26歳、研修医やってます!」のイラストが

撮影の準備段階で難しかったところは?

井村 一番難しかったのは、主人公像を作るところです。原作のまどか先生のように等身大な人物にしたいけれど、主人公をフラットに描きすぎてドラマとして面白さが失われないよう、塩梅に苦労しました。

そこで、まどかは真面目で元気すぎず、少しマイペースな部分も持ち合わせたキャラクターにしました。大きなトラウマや大きな志、特別な能力も無いのだけれど、我々の隣にいそうな、怠惰な部分もズルさもちゃんと持ち合わせた人物像を目指しました。『ちびまる子ちゃん』のまる子が持つ、楽観的でマイペースな部分を参考にしたりもしました。

演じる芳根京子さんとも話し合いを重ねました。医療ドラマでは、研修医がドジっ子のキャラクターを担う作品もありますが、本作では「ドジっ子ではなく、ドタバタコメディーにもしすぎないようにしたい」と同じ思いを確認し合えたことも大きかったです。ただ、エンターテインメントとしてコメディー要素が必要な部分もあり、まどかの成長していく過程を含め、その加減が難しかったです。

芳根さんは非常に思慮深い方で、台本を読み込んで考えに考えたうえで、素晴らしいお芝居を見せてくださいます。まどかという役は、一緒に考えながら作り上げていったような感覚があり、感謝しています。

ドラマ『まどか26歳、研修医やってます!』場面

本作は、研修医がさまざまな診療科を回って医療の基礎を学ぶ「スーパーローテーション」と呼ばれる2年間を描いています。一つの科だけを描くよりも苦労があったのではないでしょうか。

井村 脚本作りから撮影まで、医療用語など一つ一つにリサーチが必要なので、とても大変でしたね。医療シーンでは、事前に該当する科の医師に動き方を相談し、リハーサルや撮影にも立ち会って指導していただきました。

役者さんたちが参加するリハーサルより前に、代役を立てて具体的な動きを確認します。そこで台本で用意しているよりも細かいセリフややり取りが必要となることがわかり、それを全て反映したりしました。このドラマは本当に多くの方のご協力のおかげで作られているなと改めて感じます。

まどかと同期とのシーンなど、医療の現場以外のシーンはどのように描いていきましたか?

井村 こちらでも、医師の皆さんに取材した話をもとに描いています。例えば、研修が始まる前日に何をしていたか聞いたところ、「白衣が似合うかどうか、鏡の前でみんなで確認していました」とおっしゃっていたんです。前日は緊張していたり、専門書を読み返していたりすると予想していたので少し意外でしたが、親近感が湧きました。ほかに、寮でのクリスマスパーティーや、研修室には休憩グッズとしてゲーム機が置いてあった、などのエピソードも入れています。

原作に、研修期間が終わって青春が終わったというような記述がありますが、それも意外なことだったので、まどかが同期と過ごすシーンは青春を楽しんでいる様子が伝わればいいなと思いながら作っていきました。

ドラマ『まどか26歳、研修医やってます!』場面

視聴者が前向きになれるような最終回を目指して

撮影現場の様子はいかがでしたか?

井村 撮影現場はとても和気あいあいとした雰囲気でした。主演の芳根さんは、明るく現場を引っ張ってくれました。通常の火曜ドラマよりも主人公の出番が比較的多く、医療用語のセリフを覚えなくてはならないので、大変だったと思います。ですが、撮影中は控室にほとんど戻らず、主演として現場に立ってくださっていました。

ちなみに、僕が着ているパーカーは、芳根さんがキャスト・スタッフにお揃いで用意してくださったものです。胸元に「Madoka 26」の文字が入っています。クランクインして間もないうちにプレゼントしていただいて、とても嬉しかったですね。

ファスナーにカラフルなミサンガをつけて目印にしていますが、こちらも芳根さんが手作りしてくれたものです。手術シーンの練習を行うかたわらで、各スタッフに好きな色を聞き、編み方を応用して作ってくれたんですよ。

写真左:井村さんは、オレンジ&水色のミサンガ/右:背面の文字「It’ll be ok」は、まどかの口癖「なんとかなるっしょ!」から
写真左:井村さんは、オレンジ&水色のミサンガ/右:背面の文字「It’ll be ok」は、まどかの口癖「なんとかなるっしょ!」から

まどかを取り巻くキャラクターにも、魅力的なキャストの皆さんが揃っています。

井村 まどかの指導医・菅野尊(かんの・たける)を演じる鈴木伸之さんは、他の作品では強くて荒々しい役どころが多いように思いますが、本作では鈴木さんの持つ柔らかな雰囲気が菅野役にぴったりだったなと感じています。

ドラマ『まどか26歳、研修医やってます!』場面

まどかの同期・尾崎千冬(おざき・ちふゆ)役の髙橋ひかるさん、五十嵐翔(いがらし・しょう)役の大西流星さん、桃木健斗(ももき・けんと)役の吉村界人さん、横川萌(よこかわ・もえ)役の小西桜子さんは、撮影の合間にみんなでお茶会をしたりと和気あいあいと過ごしていました。まるで本当に大学の同級生のような雰囲気で楽しそうにされていましたが、その感じがシーンにも表れているのではないかな、と思います。

皆悩みながらも、すごく考えて現場に来てくれるので、僕から大きな動きは伝えますが、基本自由に演じてもらうことが多かったです。

ドラマ『まどか26歳、研修医やってます!』場面

それから、まどかの先輩医師である角田茂司(かくた・しげじ)役の奥田瑛二さん、手塚冴子(てづか・さえこ)役の木村多江さん、城崎智也(しろさき・ともや)役の佐藤隆太さんをはじめとしたベテランの方々のお芝居を間近で見られるのは、とても贅沢でした。

奥田さんは空気を変えるほどのお芝居をされながらも、合間には最近聴いている音楽を教えてくれたりと、とてもフランクに接してくださいました。ですのでお芝居の相談もしやすく、非常に尊い時間を過ごすことができました。

ドラマ『まどか26歳、研修医やってます!』場面

監督として演出する上で、どんなことを意識しましたか?

井村 偉そうなことは言えませんが、強いていえば、お芝居のアンサンブルが上手くいくように調整することでしょうか。例えば、役者さんの芝居がかみ合っていないと感じたとき、セリフが出づらそうな時、それを解決するのは監督の役目でなければいけないと思うので。

以前は「(自身の演出に対して)細かい方だね」と言われることもありました。ですが役者さんが一番感情をのせられる芝居や動きができて、それをカメラマン、照明などのスタッフが最大限の力を発揮して一つの作品にまとめることが大切なので、今は自身のイメージする範囲を広げるように意識しています。

特に、本作は出演者の方が多いので、皆さんがお芝居をしやすいようにと心掛けました。たくさんの登場人物それぞれの人格を際立たせることは難しかったですが、「抜け感」を大切にしながら考えていきました。役者さんやスタッフにたくさん助けてもらいながら作りました。

登場人物だけでなく、医療ドラマではセットも多かったのではないでしょうか。

井村 舞台が病院なので、入院病棟や医局、手術室など、セットの数は通常のドラマの倍くらいあるかもしれません。入院患者のいる病室のセットは、美術のスタッフさんに小道具などを少しずつ飾り替えしてもらって、使っています。

ドラマ『まどか26歳、研修医やってます!』場面

ただし、セットを建てるスタジオのスペースにも限りがあります。病院の廊下や診察室、ロビー、主人公の部屋などセットに入りきらなかった部分はロケを行いました。

それから、まどかが横浜DeNAベイスターズのファンであることから試合を観戦するシーンでは、横浜スタジアムを一日お借りして撮影しました。撮影では横浜DeNAベイスターズのファンクラブの皆さんのご協力によって、リアルな空気感を作っていただけました。

ドラマ『まどか26歳、研修医やってます!』場面

まもなく最終回が放送されます。ズバリ、見どころを教えてください。

井村 取材を通してわかったのですが、日本は救急医療が充実していて、いつでも患者さんを受け入れられる体制が整っている分、医師や医療従事者の方の負担が増えているそうです。「医師は命と向き合うために自分の人生を犠牲にするのが当然」という考えもあるかもしれませんが、どんな仕事に就く方にも自分の人生を大事にしてほしい、と思っています。

最終回では、「まどかたちが、どんな風に仕事と向き合って生きていくのか?はじめは思いがバラバラだった登場人物たちがたくさんの出会いや経験を通してどう変化したのか?」を是非見届けてほしいです。

「明日も頑張って働こう」と前を向くきっかけになれたら、と願っています。ご期待ください。

TBSスパークル井村太一

「総合エンターテインメント」であるドラマ作りの魅力

ところで、井村さんがドラマ制作の仕事を目指したきっかけや、入社した経緯を教えてください。

井村 僕は学生時代にJAZZをしていたのですが、ダンスサークルの人たちと一緒に活動したときに、「視覚と音楽を合わせて生まれたものの持つパワー」に驚いた経験があります。もともとドラマが好きだったこともあり、ドラマであれば音楽だけでは伝えきれない部分も表現できると考え、この業界を志望しました。

ですが、はじめからドラマ制作の仕事を目指していたわけではありません。当初は別の業界の就活をしていましたが、途中で「本当にやりたいことをしよう」と考えが変わり、ドラマ制作へ舵を切りました。

そのときには、すでにテレビ局の就職試験はほとんど終わっていて…唯一間に合ったテレビ局の採用試験で「ドラマの仕事をしたい」と話したところ、スパークルの前身会社を教えていただきました。そうしたご縁があって今があると思います。

ちなみに入社後はバラエティやドキュメンタリーを扱う部署に異動したこともあります。それが悔しくて、ドラマを一切見られなくなった時期がありました。ですが、代わりに映画や舞台をたくさん見て、視野を広げられたと感じています。

転機になった作品は何ですか?

井村 全ての作品が転機だったようにも思いますが、火曜ドラマ『オー!マイ・ボス!恋は別冊で』(2021年)は特に転機になった作品だと思います。地上波のゴールデン帯連続ドラマで、初めて監督を務めました。先輩の監督やプロデューサーが、僕に自由に考えさせてくれながらも、皆さんとにかくずっと現場に張り付いて、さまざまなことを教えてくれ、担当回の7話を撮りました。とても大きな経験になりました。

金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』(2024年)も転機の一つです。この作品では若手ディレクターにも機会をいただいて、僕は8話を担当しました。脚本家の宮藤官九郎さん、プロデューサーの磯山晶さん、ディレクター陣との台本の打ち合わせから参加しましたが、僕の意見にも耳を傾けてくれて、「じゃあこうした方がいいね」とどんどんアイデアが広がっていきます。もちろん違うところははっきり伝えてくれて、終わってから見返すと気付きがあり、とても勉強になりました。

撮影中は、キャストの皆さんのアンサンブルが素晴らしくて、僕が演出として一言伝えるだけで、波が広がるように反応し合って変わっていきます。皆で一つのものを作り上げる実感に、感動しました。

ドラマ制作の魅力と、大変なことは何でしょうか。

井村 ドラマはお芝居や映像や音楽など、さまざまな要素から成る「総合エンターテインメント」であることが魅力だと思います。役者さん、カメラマン、技術スタッフなど、大勢で作り上げていくところが楽しいですし、いろいろな人のアイデアが加わることで、一人で作るよりも新しい発見があって面白いです。

大変なことは、魅力と表裏一体ですが、ドラマは一人で作るものではないので、コミュニケーションが求められるところだと思います。僕はそんなに得意な方ではありませんが、何気ないコミュニケーションから生まれることがあるので、大事にしていきたいです。

最後に、井村さんのようなドラマの監督を目指す就活生にメッセージをお願いします。

井村 作品をたくさん見ることよりも、いろいろな経験をしておくのがいいのではないかな、と思います。知識が豊富な方がドラマ作りに役に立ちますし、台本を読んだときに登場人物の気持ちを理解できた方が作りやすいと感じたからです。

僕も台本を読んで「このシーンの感情は、あのときの自分の感情に似ているな」と感じることもあれば、「このシーンの感情は、よく理解できないな」と思うこともあります。さまざまな感情を自身で経験しておいた方がドラマ作りに役に立つのではないでしょうか。
 
そして、TBSスパークルのドラマ映画部は、仲が良いところが魅力です。TBSスパークルではドラマ以外にも映画やアニメ、スポーツ、ドキュメンタリーなど多様なジャンルに挑戦できます。チャンスはたくさんありますよ!

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TBSスパークル井村太一

井村太一
2009年、現TBSスパークル入社。エンタテインメント本部 ドラマ映画部。これまでに『オー!マイ・ボス!恋は別冊で』『婚姻届に判を捺しただけですが』(ともに2021年)、『村井の恋』(2022年)、『ペンディングトレインー8時23分、明日 君と』(2023年)、『不適切にもほどがある!』『西園寺さんは家事をしない』(ともに2024年)などで演出を手掛ける。

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