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「コロナ禍を経験した学生を励ましたい」、青春を瑞々しく繊細に描くTBSアニメ『どうせ、恋してしまうんだ。』プロデューサーが語る制作秘話
TBSは、2025年1月9日(木)から、アニメ『どうせ、恋してしまうんだ。』の放送をスタートします(毎週木曜深夜1:28~)。原作は月刊「なかよし」(講談社)で連載中の満井春香氏による同名漫画で、現在9巻まで刊行(※2025年1月時点)。主人公の高校生・西野水帆と、家族のように育った4人の幼なじみの男の子との恋愛模様を描いた学園青春ストーリーです。
本作のプロデューサーを担当するのは、TBSスパークルの白石容子。アニメ化決定から放送に至るまでの経緯やこだわった点について話を聞きました。
「コロナ禍を経験した学生を励ましたい」、原作者の思いに感銘を受ける
白石さんは、どんな経緯で『どうせ、恋してしまうんだ。』のプロデューサーを担当することになったのでしょうか。
白石 2022年にTBSスパークルへ転職してきたばかりの頃、部内でアニメ化したいという話が出ていて、私も原作を読ませていただきました。「なかよし」に掲載されているので、どちらかといえば小学生向けの漫画なのかなと思っていましたが、読み始めると高校時代のシーンと、その10年後の社会人のシーンがリンクした展開で、大人もとても楽しめる内容でした。そんな作品に魅力を感じたことから、私がプロデューサーを務めることになりました。
プロデューサーとしての仕事内容を教えてください。
白石 主に原作サイドと製作委員会、アニメスタジオの間に入って調整していくのが仕事です。まず、原作サイドにアニメ化の許諾をいただくために交渉し、決まったらアニメの製作委員会を構成する各社様への打診を行いました。話がまとまると、あとはひたすらアニメを作っていく作業になります。基本的にシナリオ打ち合わせやアフレコなど、制作のラインにはすべて立ち合います。
原作者の方とのやり取りで印象に残っていることは?
白石 脚本の打ち合わせに入る前、原作者の満井春香先生、今作の山元隼一監督をはじめとしたアニメスタッフでリモートで打ち合わせをさせていただいたときに、先生がこの作品を描き始めたきっかけをお話されたことが印象に残っています。
先生が今作を書き始めた頃はちょうどコロナ禍の時期でした。学生たちが学校行事を何もできなかったことを知り、「学生たちを励ましたい、勇気付けたい」という思いがあったそうです。
物語は、2020年の高校時代から描かれ、未知の感染症の流行で部活の大会や修学旅行が中止になってしまいます。それでも先生は、「経験できなかったことがあったとしても、それもある意味では経験になりうる。それを大人になるための糧にしてほしい」とおっしゃっていました。
脚本はどんな風に作っていきましたか?
白石 まずは「原作ファンに向けて、原作を大事にすること」を一番大切にしました。また、高校時代とその10年後の社会人時代がリンクした作品なので、どちらの時代のシーンを描いているのかわかりやすく見えるように調整しました。例えば冒頭で社会人時代から始まり、本編で高校時代、最後に社会人時代に戻るというように各話を構成しています。さらに各話の中で一つのテーマを描き、繋がるようにも工夫しました。
脚本の打ち合わせに満井先生が参加されることもありました。もちろん、脚本は全て先生にチェックしていただいています。
脚本作りの期間は半年から9か月くらい。余談ですが、学生時代は心理学を専攻していたこともあり、キャラクターの感情の繋がりを強く意識しながら作っていきました。
監督は原作コミックス表紙の瑞々しいブルーを強く意識
キャストはどのように決めましたか?
白石 キャストはオーディションで決めさせていただきました。水帆と幼なじみ4人のメインキャスト5人を決める際はテープオーディションを経て、通った方にはスタジオに来てもらってお芝居していただきました。審査には私のほかに山元監督、原作者の満井先生も参加されましたが、意見が比較的一致して、すんなり決まりました。
そんな中、一番難しかったのは浦和希さん演じる羽沢輝月の役。原作では、ヒロインの西野水帆のことがひたすら好きなキャラクターなんですが、それ以外のパーソナルな部分が見えにくいキャラクターで、監督含めてみんな悩んでしまって……そうしたら満井先生から「輝月は大型犬みたいに素直な性格」とアドバイスをいただけたので、そこを軸にして選考した結果、浦さんにお願いすることになりました。
アフレコの様子はいかがでしたか?
白石 高校生から大人まで演じるメインキャスト5人は年齢が若く、年の近い方にお願いしました。それもあってか、皆さんとても仲が良く、アフレコ時も和気あいあいとしていました。1話録るのに大体4~5時間かかるので、休憩中にみんなでお菓子を食べたりと楽しそうに過ごしていらしたようです。
アフレコが終わったら、どんな作業があるのでしょうか。
白石 アフレコで声を入れた映像に効果音や音楽をつける「ダビング」という作業が発生します。最初にテストとして音が入ったものを一通り確認するのですが、大事なセリフはボリュームを上げるなど、調整を重ねていきます。
それと並行して、アニメの絵を作る作業も動いています。アフレコ時に絵が間に合わないときは、キャストが声を出すタイミングがわかりやすいよう、「ボールド」というキャラクター名が入ったマークを使って指示しながら声を録っています。
音と絵の作業が終わったら、最後に「V編(ビデオ編集)」です。放送物になるように仕上げます。TVアニメの制作期間は、大体2~3年、長いもので10年くらいのものもあり、時間をかけて作っています。
スタッフの中には音響監督・撮影監督・美術監督…というように、監督が細かく分かれていますね。
白石 それぞれの分野で先導役となる監督をアサインするのが、アニメ制作ではスタンダードです。各スタッフさんには私が声を掛ける場合もありますし、制作スタジオさんから候補をあげていただくこともあります。
ちなみに、全体の監督を務める山元さん、制作スタジオの颱風グラフィックスさんは過去に別作品でお仕事をした経験があるので、私からお声掛けさせていただきました。
山元監督とのやり取りで印象に残っていることは?
白石 山元監督は原作コミックスの表紙の、瑞々しいイメージをとても大事にしているとおっしゃっていました。特に「表紙のブルーを、アニメでもリアルに表現したい」と、空と海の描き方には相当なこだわりを持って臨まれています。具体的には「海に光を当てたらどう反射するのか」といったところまで計算して作り込んでいます。
また、キャラクターの心情も光の加減で表現していて、例えば明るいシーンでないときは日が落ちていく背景にしています。異世界ものとはまた違う、現代を舞台にした作品ならではの描写の細やかさが見どころの一つだと思います。
それから、これは偶然ですが、監督が元々水泳をなさっていたので、プールの用具や設定などはとてもリアルに再現されています。ぜひ注目していただきたいですね。
プロがスタイリングしたキャラクター衣装にも注目
制作時、白石さんが一番こだわったところは?
白石 登場人物たちの服装です。基本的にアニメはあまり衣装を変えないと思いますが、この作品ではシーンごとに私服をすべて変えています。一部原作の衣装を使っていますが、スタイリストさんがコーディネートしてくださった服をアニメの設定に起こし、描いているものもあります。
そうした理由は、「アニメだけれども、実写作品のようなリアルさが出るように」という山元監督はじめ制作陣のこだわりからです。また、もともと原作の服装がどれもおしゃれですし、特にメインキャラクターの一人の和泉藍は人気読者モデルでインフルエンサーという設定なので、格好悪い服は着せられないなと(笑)。
ただ、衣装が変わると制作作業は大変でしたね。アニメ制作は集団作業なので、毎回同じスタッフが絵を描くわけではありません。設定が細かく変わるとミスが起こりやすくなってしまうものですが、作画監督が一貫してチェックしてくれています。
TBSのアニメは少年漫画原作の作品が多いイメージがありますが、何か違いを感じたことはありますか?
白石 私も今まではどちらかというと男性キャラクターが中心の作品を手掛けることが多かったので、少女漫画を担当するのは実は今回が初めてです。今作ではキャラクターの感情の細かな機微が求められるので、そこは大きな違いかなと思います。
テレビ放送前には先行上映会を行ったそうですね。反響はいかがでしたか?
白石 2024年11月に行った先行上映会には、メインキャストの5人にも登場していただきました。反響はかなり良かったと思います。お客さんもたくさん入ってくださいましたし、XなどSNSでも満足していただけたような投稿が並んでいて安心しました。
驚いたのは、男性のファンがたくさんいらっしゃったこと。男性にも原作ファンの方が多かったようです。
ほかに、2024年7月にはアメリカの「Anime Expo 2024」(※2024年は約40万人が訪れた全米最大級のアニメイベント)でも『どうせ、恋してしまうんだ。』を紹介させていただきました。海外では、少年冒険ものの漫画やアニメが鉄板だと言われていますが、今作のような青春ものも熱狂していらっしゃる方が多かったように感じました。アメリカでも配信が決まっているので、どんな反響をいただけるのか今から楽しみです。
まもなく放送がスタートします。一話の見どころを教えてください。
白石 メインキャラクターは女の子が1人に男の子が4人という、女性からすると夢のような設定です(笑)。そんな5人の幼馴染が、恋や進路で悩みながら、高校生から大人に成長するまでの過程をリアルに感じられる作品だと思います。
高校生にもなれば「幼馴染だからといって、いつまでも一緒にいられないんだ」と、だんだんとわかり始める時期。そんなところに一石を投じるのが、輝月の行動です。そこから5人の関係がどのように変わっていくのかが、1話のポイントだと思います。
心の機微を細やかに描いているので、実写の恋愛ドラマを見ているような感覚で、大人の方にも楽しんでいただけると思います。もちろん、現役の高校生は共感していただけるポイントがあるでしょうし、大人は高校時代を懐かしむことができるはず。深夜帯の放送ではありますが、各配信サイトでも配信予定なので、幅広い世代の方にご覧いただきたいですね。
2025年以降のTBSアニメはラインナップの幅広さに期待
ところで、白石さんはどんな経緯でTBSスパークルに入社されたのでしょうか。
白石 新卒から10年ほど、別の会社でアニメプロデューサーの仕事をしていたのですが、男性キャラクター中心の女性向けジャンルに偏っていまして、「もう少しいろいろなジャンルの作品を手掛けてみたい、違う景色も見てみたい」と思い、2022年に転職してきました。
入って驚いたのは、各アニメプロデューサーの好みがバラバラなところです。好きなジャンルが重なっていないからこそ、作るアニメのジャンルも広がっていくので、魅力を感じています。特に2025年以降はラインナップの層が厚くなると思うので、いろいろなジャンルの作品を楽しんでいただきたいです。
アニメ事業部はどんな雰囲気ですか?
白石 TBSスパークルのアニメプロデューサーはTBSテレビのアニメ事業部で働いていますが、所属は関係なく、作品ごとに動くことが多いので、皆さん分け隔てなく和気あいあいとしていると思います。別の作品のプロデューサーに意見を求めたり、相談したりと良い関係性ができています。
TBSはアニメ部員を増員し、私を含めて半分以上が転職してきたスタッフですが、居心地よく過ごせるような雰囲気を作ってくださっているのでありがたく感じています。それは部長をはじめ、元からいらっしゃる皆さんのおかげです。これからTBSとしてアニメを盛り上げていこう、という意思統一もされていると感じます。
白石さんが今後、手掛けてみたいジャンルはありますか?
白石 今回の『どうせ、恋してしまうんだ。』に水泳のシーンがありますが、私は『SLAM DUNK』や『ハイキュー!!』といった、学生のスポーツ漫画がすごく好きなので、スポーツがテーマの作品を手掛けてみたいと思っています。漫画やアニメの試合シーンには、一つ一つにすごくドラマがありますよね。
WBCやオリンピックを見たときにも思いましたが、ルールがよくわからない人でも感動してしまうのがすごいですよね。そんな、スポーツならではの強みを生かしたアニメの制作を目指していきたいです。
最後に、アニメ制作の仕事を目指す学生にメッセージをお願いします。
白石 アニメを作る技術や演出は日々進歩していますが、それは実写作品からヒントを得ることも多々あります。『どうせ、恋してしまうんだ。』もまさにそうです。
アニメ制作の仕事を目指す方は、アニメと漫画だけではなく、実写作品やVTuber、書籍などいろいろなメディアを見ておくといいのではないかなと思います。
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白石容子
アニメイトグループのフロンティアワークスにて、ドラマCDやラジオの制作を経て、2011年よりアニメプロデューサーとして『最遊記』シリーズ、『SERVAMP-サーヴァンプ-』などを担当したのち、2022年TBSスパークル入社。以降、アニメプロデューサーとして『どうせ、恋してしまうんだ。』などを担当。
『どうせ、恋してしまうんだ』 ©満井春香・講談社/アニメ「どうせ、恋してしまうんだ。」製作委員会