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TBSアニメ『地縛少年花子くん』がアメリカで大人気!ヒットの秘けつを海外セールス担当に聞く
TBSは、2023~2024年に2つのレギュラーの全国放送枠を新設し、アニメ事業を拡大しています。その勢いは国内にとどまらず、海外でもTBSアニメが放送・配信されて盛り上がりを見せています。特にアメリカでは日本のアニメが人気で、TBSアニメ『地縛少年花子くん』も大ヒットしています。
〈2024年10月7日(月)~ショートアニメ『放課後少年花子くん』(続編4話を4週連続)、2025年1月~『地縛少年花子くん』第2期を放送〉
海外に向けてTBSアニメのライセンス販売を行っているのは、TBSグロウディアのコンテンツ事業本部グローバル事業部です。主に欧米圏を担当している戒能大樹に、アメリカのアニメ市場の現状や『地縛少年花子くん』の成功例などを聞きました。
アニメライセンスの仕事は地道な作業の積み重ね
まずは、戒能さんの仕事内容を具体的に教えてください。
戒能 アニメ化が決まった段階から、海外のお客様と「アニメのライセンス契約を結ぶ交渉」をスタートします。お客様はグローバル配信プラットフォーム・ローカルプラットフォーム・テレビ局・配給会社などさまざまです。
一言で契約といっても、放映権や配信権、商品化権などの「作品にひも付くさまざまな権利のハンドリング」や、「販売先ごとの地域、言語の切り分け」など、いろいろなパターンがあります。
契約時には法務部のサポートもありますが、自身も満遍なく海外ビジネスやアニメビジネスについての知識を持っていないと、お客様と向き合うことができないので、日々勉強しながら進めています。この契約は、一番時間がかかり、苦労するところです。海外に向けたビジネスと聞くと、スマートなイメージをお持ちかもしれませんが、実際は地道な作業がほとんどです。
業務は何から始めますか?
戒能 どの段階で携わるかは作品によって異なりますが、基本的にアニメの企画段階から私の業務は始まり、企画会議にも参加しています。漫画原作の作品を扱うことが多いので、毎回事前に漫画を読ませていただいています。読んだ漫画の数は数えきれません。プロデューサーに、作品の感想や世界配信にあたっての懸念点があれば伝えています。
懸念点とは、具体的にどんなところですか?
戒能 例えば自殺の描写や児童虐待を連想させる要素は日本よりも厳しい印象があります。また、性的マイノリティーの方の誤った印象付けに繋がるようなキャラクターの言動にも注意が必要です。国によって受け取られ方が大きく違いますし、アニメ作品は自分たちが思っている以上に影響力が大きいので、わからないことは現地のお客様に聞きながら一つ一つ精査しています。
ここまでする理由は、良くも悪くも近年は「海外でヒットするか」という点が作品選定の重要な要素の一つとなっているからです。2024年現在、アニメ関連売上は日本国内よりも海外の方が上回っていると言われており、中でも特に大きい市場がアメリカです。
アニメ作品は一つの企画にかかる予算がとても大きいので、失敗したら莫大な損失です。軽い気持ちで「海外でもヒットしますよ!」なんて言えません。とはいえ、海外市場ばかり見てアニメを作るわけではないですし、慎重になりすぎるのもよくないので、バランスを大事にして海外視点の意見を伝えるようにしています。
海外にセールスするにあたって、どんな準備をしていますか?
戒能 まずは「情報収集」が必要です。我々は海外を拠点にビジネスをしているわけではないので、各地の流行をリアルタイムで知るのは難しい部分もあります。そこで日々お客様とのコミュニケーションを密に図り、情報をアップデートするように心掛けています。お客様も日本のアニメをかなり細かく分析していて、アメリカではネット上の情報や口コミ、原作販売のデータを集約して作品の点数を算出するAIシステムを導入しているところもあるそうです。
ちなみに、人気のジャンルは「少年アクション系」。これはどこの国でも外しません。ただ、それだけではファンの数は頭打ちになってしまうので、今までアニメを見ていなかった人にも見てもらえるような作品のアニメ化も、海外からは求められています。具体的には、強い女性を主人公にした作品やマイノリティーの方にスポットをあてた作品を求める話はよく聞きます。
海外のお客様はどんな基準でアニメを買っているのでしょうか。
戒能 ストーリーや原作の売れ行き、制作会社などいろいろあります。制作会社までこだわるのは意外に思われるかもしれませんが…アニメではセールス交渉の段階で映像ができていないことがほとんどです。原作の漫画があってストーリーは売り込めても、実際に映像のクオリティーを担保できるものがないんです。
ですから、実績のある制作会社さんの名前を出して納得していただくことが多々あります。「ヒット作品を作った制作会社が手掛けます」と伝えれば、安心していただけます。
その後、商談が成立した場合はどんな業務が発生しますか?
戒能 リリースに向けた「プロモーション」や「監修」などを行います。例えば、海外で独自に作ったプロモーション素材をチェックしたり、そのプロモーション素材を実際に使用する海外のイベントに赴いたりもします。
また、最近は「サイマル配信」といって、日本国内の放送とほぼ同時に配信することが多いのですが、お客様の方で吹き替え版や字幕版を作るのにも時間がかかってしまいます。そこでローカライズに必要な素材をなるべく早く送れるようにプロデューサーと調整を行います。日本の声優さんは海外でも人気があるので「オリジナルの声を聞きたい」という視聴者も多くいらっしゃるんですよ。
『地縛少年花子くん』はアメリカで大人気!現地限定グッズの展開も
セールスの担当者から見て、欧米圏のアニメ市場が盛り上がっている理由はどう考えていますか?
戒能 各国ではNetflixやAmazonのような全世界で配信しているプラットフォーム以外にもアニメに特化したローカルプラットフォームが存在しています。さらに定額見放題以外の新たなサービスもどんどん生まれていて、アニメファンではない人たちがアニメに接する機会が日々増えてきているように感じています。
また、アニメを見て終わりではなく、グッズを購入したり、イベントで他のアニメファンと交流したりと、一つの作品を長く楽しむための環境が整備されつつあるということも海外市場でアニメが盛り上がりを見せている一因のように思います。
そもそも、海外では「アニメ」と、ディズニー・ピクサーなどの「アニメーション」が明確に区別されています。「アニメ」は固定ファンがしっかりいて、日本の題材を扱っていても、人種や文化、宗教など関係なく楽しめるユニバーサルなメディアになっているからこそ、受け入れられるのだと思います。
近年では『地縛少年花子くん』がアメリカで大ヒットしました。その理由は何でしょうか。
戒能 まずは海外での原作の人気が高かったことが大きいと思います。実際に、アメリカの大きなスーパーマーケットで『地縛少年花子くん』の漫画が売られていましたから。
その上で、成功の一番の要因は原作が持つ「キャラクターの魅力」をアニメ化によって、より多くのファンに届けることができたからかなと思います。少なくともアニメ第1期放送のときは、いわゆる「少年アクション系」作品ではない中で「ここまで海外、特にアメリカで商品化が動くことはほぼ前例を見ない」と言われるほどでした。アニメ化による可能性を強く実感した作品となりましたね。
『地縛少年花子くん』のセールスにあたって、どんな施策を行いましたか?
戒能 策を綿密に練ってということはしていないのですが…(笑)、『地縛少年花子くん』の成功にはアメリカのパートナー企業の支援が非常に大きいです。純粋に本作品が大好きで、作品に携わってくれている方が多くて、中には好きが高じて花子くんのタトゥーを入れてしまった人もいるほどです!
そんな方たちの作品への思いをくみ、「やりたい」ということを少しでも実現してあげたいという気持ちで、普段から各所とコミュニケーションを取ることを心掛けています。
プロデューサーの協力もあったおかげで、今年2024年7月にはロサンゼルスで『放課後少年花子くん』のプレミア上映会を開催するなど、パートナー企業の意見も取り入れながら、どんどん海外施策を進めてきました。
海外ファンの方の印象的だったエピソードは?
戒能 以前、海外の方も含めて公式「X」でプレゼント企画を実施した際、当選者の中には中南米の辺地のようなところにお住いの方がいて、どうやって発送するのかを相談された記憶があります。
ほかにも、公式Xでアナウンスをすると、英語だけでなくスペイン語や韓国語など、さまざまな言語でコメントをいただいています。匂わせのような発言があると、外国語で考察が展開されることも。「こんなに広がっているんだな」と驚きましたね。
グッズにはどんなこだわりがありますか?
戒能 日本で作ったグッズを海外に輸出することもありますが、海外のメーカーさんが独自で企画を立ててデザインされたものもあります。こちらのフィギュアやTシャツ、靴下などは海外オリジナルです。
グッズの種類は国によって全然違います。日本やアジア圏では雑貨類が人気ですが、アメリカでは「自己表現」を重視する傾向が強く、Tシャツを着て「この作品が好き」とアピールするためなど、アパレル商品の需要が高いです。
日本の「コミックマーケット」や「AnimeJapan」のようなイベントも多く、ロサンゼルスで開催された「Anime Expo 2024」(※2024年は約40万人が訪れた全米最大級のアニメイベント)へ行ったときも、花子くんや寧々ちゃんのコスプレをして来てくれた方が多かったです。イベントでは現地のファンの方の黄色い声を聞き、圧倒されました。
今後もアメリカで『地縛少年花子くん』の関連イベントはありますか?
戒能 2024年の年末はニューヨークなどアメリカ各地で行われるアニメのイベントに参加したり、上映会を企画したりしています。あるイベントでは入場パスに『放課後少年花子くん』の画像を印刷する予定です。2025年は満を持してアニメ2期の放送がスタートしますので、プロデューサーといろいろな施策を練っています。
世界中のアニメファンのために、新たな施策を模索中
ところで、戒能さんがTBSグロウディアに入社したのはなぜですか?
戒能 「日本と海外を繋ぐような仕事がしたい」と思って就職活動をしていました。私は大学生の頃、一年間海外留学していたのですが、当時は配信サービスがなく、海外で日本の番組を見ることができなかったことが記憶に残っていて、「海外にテレビ番組を販売するような仕事ができたらいいな」と思ってTBSサービス(※TBSグロウディアの前身会社)に入社を決めました。
入社当初からアニメの仕事をされていたのでしょうか。
戒能 2014年に入社してから2020年に今の部署へ異動するまではずっとJNN系列各社に向けてTBSのローカル番組を販売する仕事をしていました。ですから、制作者の思いを汲みながら番組を売る、という基本姿勢をある程度身に付けることができたのかなと思います。
またJNN各局の皆様には本当に良くしていただき、テレビ業界の仕事についてはこの時の経験を通して学ぶことができました。銀座の喫茶店で話し込んだり、週末はゴルフをご一緒したり、時には雷を落とされたりと、楽しい思い出でいっぱいです。
一見、国内のビジネスと海外のビジネスは全く別物のように思われそうですが、この時の経験があったからこそ、今海外のお客様にも誠実に向き合うことができるのかなと思っています。アニメは現在2枠が全国同時放送枠となっているため、JNN全局で同じ時間に番組が放送されています。JNNの皆さんのためにも、海外からアニメ枠を盛り上げられるように頑張らなくては、と思いながらいつも仕事をしています。
海外向けのアニメライセンス担当者として、今後の目標を教えてください。
戒能 この仕事は自分で汗をかいて契約先を探し、作品を世界の人に届けられることにやりがいを感じています。現状では海外でのプロモーションや商品化は現地の企業に任せている部分が大きいですが、今後は自分たちからも積極的に何か仕掛けて、新しいことをやっていきたいと日々考えています。もちろん、作品を高い値段で販売することも大事ではありますが、海外でもサイマル配信が増えてきた今、配信時には店舗にグッズを並べられるように、など、海外ファンの期待に応え、作品の可能性を最大限に高めるための施策を積極的に進めていきたいです。
戒能さんのような仕事に憧れる学生にアドバイスするとしたら?
戒能 海外とのやりとりは基本的に英語で行うので、どうしてもある程度の語学力は求められてしまうと思います。ただ、私は一年間の留学経験があるだけで、英語が特別得意だったわけではありません。今でも毎日英会話の勉強を続けています。
それと、業務を進めているうちにわからないことがたくさん出てきますが、素直に質問すること。TBSグループで働く皆さんはとても優しいので、質問すれば何でも教えてくれます。しっかりコミュニケーションを取って学ぶ姿勢を持つことが大事かなと思います。
最後にTBSグループを目指す学生に向けてメッセージをお願いします。
戒能 以前は一つしかなかったアニメの放送枠が増え、TBSグループではさらにアニメに力を入れていくので、アニメが好きな方やアニメを通して海外にものを売っていきたい方にぴったりです。各分野のエキスパートが揃っているので、学びながらいろいろなことに挑戦できる素晴らしい環境だと思います。決して楽な仕事ではありませんが、作品に深く関われるという点でもやりがいがある仕事です!
そして、TBSグロウディアなら若いうちからある程度自分の裁量を持ってプロジェクトに関わることができます。実際に、今の自分は若手の中堅といった立ち位置ですが、アニメのセールスに関してはリーダーという立場でやらせていただいており、とてもやりがいを感じています。アニメだけでなく、映画やイベント、ラジオなど多種多様な部署があるので、エンターテインメントに幅広く携わりたい人におすすめです。
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戒能大樹
TBSグロウディア コンテンツ事業本部 グローバル事業部。2014年入社。
関東ローカル枠の作品を地方局へ販売する番販業務に従事後、コロナ禍真っただ中に現グローバル事業部に異動。映画・ドラマなどのTBSグロウディア出資作品の海外セールス経験を経て、TBSアニメの海外セールス担当に。