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映画『ラストマイル』、TBSスパークル若手スタッフが明かす撮影現場の裏側
2024年8月23日(金)、映画『ラストマイル』の全国上映がスタートします。本作は、TBSドラマ『アンナチュラル』(2018年)、『MIU404』(2020年)の世界とつながるシェアード・ユニバース・ムービー。TBSスパークルの塚原あゆ子監督と新井順子プロデューサー、そして脚本家の野木亜紀子さんが再びタッグを組んだ、完全オリジナル映画です。
制作には多くのスタッフが関わっていますが、その中から今回は入社4~5年目の若手スタッフに注目。助監督を務めたTBSスパークルの松井郁貴と高橋周平、アシスタントプロデューサーの大坪彩音に、撮影現場の裏側について話を聞きました(※写真左より、大坪・松井・高橋)。
撮影は2年前にもかかわらず、2024年の今こそ観るべき作品に
まずは、映画『ラストマイル』での皆さんの役割を教えてください。
松井 監督の下にチーフ助監督がいて、その下に助監督はセカンドからフォースまでいて役割を分担しています。『ラストマイル』では、僕と高橋はサード助監督を務めていました。サード助監督は、美術部と協力し、劇中で使われる小道具や撮影現場の飾りなど美術品全般の演出に携わっています。
大坪 私はアシスタントプロデューサーとして、現場での役者さんのケア、台本の入稿やマネージャーさんに連絡をするのが主な仕事で、一部のキャストの出演交渉も行いました。基本的に2人体制のことが多いですが、今回は私一人だけ。大変でしたが、プロデューサーの2人のサポートもあり、なんとかやりきることができました。
本作は巨大物流倉庫を主な舞台に、トラックドライバー不足や長時間労働などさまざまな問題を抱える物流業界を描いています。台本を読んだときの印象は?
高橋 僕はこの台本を読むまで物流の問題についてよく知りませんでした。配達物を受け取れなくても、不在届から連絡してまた届けてもらえばいいと思っていたくらい。けれども、撮影を終えた今では気軽に再配達を頼むなんてできなくなりました。何か“気付き”がある作品だと思います。
松井 僕たちが作品に合流したのが2022年9月から約6か月間です。それから約2年が経ち2024年に入ってから、実際にいたるところで「物流の2024年問題」というワードを耳にするようになり、作品内の出来事が現実でも起きています。まるで予言していたかのようで、脚本家の野木亜紀子さんは本当にすごいと思いました。まさに今観てほしい作品になっていますし、これを機に、みんなでこの問題について考えることができると思います。
大坪 私も、この作品を撮る前後で配達に対する意識が変わりました。物流が舞台の作品は珍しく、誰もが身近に感じる題材なので、若い世代の方も面白いと感じていただけると思います。
撮影はいかがでしたか?それぞれ印象に残っているシーンを教えてください。
大坪 まず、主演の満島ひかりさん(舟渡エレナ役)が登場する冒頭のシーンは、多摩モノレールさんのご協力のもと、実際の車両とレールをお借りして撮影しました。借りられる時間が限られていたので、ミスなく確実に撮り切らなければならず、何度も打ち合わせをしてから本番に挑みました。本編では1分程度のシーンですが、撮影にかかったのは約3時間。かなり良いシーンに仕上がりました。この日がクランクインだったこともあり、とても印象に残っています。
高橋 エレナが倉庫にタクシーで出勤するシーンでは、ドローンを使っています。500人くらいのエキストラさんと車の動きに対して助監督全員で指示を出しながら、ワンカット(※カメラを回し続けて一つのカットに収める手法)で撮りました。全員が間違いを許されない状況ですごく緊張感がありましたが、一体感が生まれた瞬間でもあったと思います。
集めた段ボールは1000個⁉ゼロからセットを組んだ巨大倉庫
ティザー動画にも映っている巨大物流倉庫のセットには、どんなこだわりが?
松井 舞台となる巨大物流倉庫は、何もない広い倉庫の中に棚などを入れてセットを組み、約1か月かけて作りました。撮影は、倉庫のシーンだけで10日ほどかかったと思います。冬だったので屋内に日光が当たらず、とにかく寒くて大変だった記憶があります。
高橋 倉庫のコントロール室のモニター画面を作るのもすごく大変でした。この部屋には倉庫内の状況すべてを可視化する10台以上のモニターを設置しています。そのモニターの画面を通して倉庫の稼働状況やベルトコンベヤーの状況、従業員の勤怠管理など倉庫内の様子を把握することができます。本編で度々登場します。
大坪 倉庫のシーンは1000個以上の段ボールが必要でした。美術さんだけでなく、他部署のスタッフの力も借りて、冬の寒い中、みんなで段ボールをひたすら探して組み立てました。この作品ならではの思い出です。
皆さんは、普段はテレビドラマの仕事をされているそうですが、映画とはどんな違いを感じましたか?
松井 今回に関しては、おそらく映画のスタッフよりも普段テレビドラマを作っているスタッフが多く、基本的に現場にあまり違いは感じませんでした。
ただ、映画は画面の切り替わりが多いとチカチカしてしまうから、テレビドラマと比べてカット割りが少なくて、その分、ワンカットに入れる情報や、各スタッフの込める思いが違うと感じました。また、テレビドラマは2台のカメラで撮ることが多いですが、今回は1台です。ですからスピード感も違うと思います。
高橋 台本が1冊しかないのは新鮮でした。テレビドラマは基本10話あり、先がどうなるかわからないまま撮影を進めるため、あとで振り返って「このシーンはもっとこうすればよかった」と思うこともありました。その点、映画はあらかじめ全ての展開と、どれだけ準備すればいいかがわかるので、やりやすかったです。
その代わり、今回の台本は208ページ。これはテレビドラマ2時間分の台本の2倍ぐらいあります。239シーンもあるなんて初めてでした。
大坪 でも、残念ながら編集の段階で仕方なくカットしたシーンもあるんです。ただ、撮影を全て終えてから編集スケジュールを組めたことで、監督も頭の中を整理して編集に取り組めるのは、映画ならではと思いました。
アシスタントプロデューサーとしての仕事内容にそこまで違いはありませんが、放送しながら裏で撮影と編集が同時に動いているテレビドラマと違い、映画は全て撮り終えてから編集に入るので、追われている感覚が少なかったです。
ズバリ、映画『ラストマイル』の見どころは?
松井 爆発のシーンですね。今回、サード助監督として一番力を入れたところでもあります。予告映像の中でも数々の爆発するシーンが流れていると思いますが、台本に書かれた程度の被害に収める爆弾を作るために、爆弾監修の方と何度も打ち合わせを重ねて作りました。
もともと設定していた爆弾の燃料が日本では手に入りづらいと指摘してくださって、その燃料を、既成の製品から抽出していたという設定に変更しました。それは、飾りの小道具の細部にも表現されています。また、爆風の出方や炎の色はCGの編集にも関わる部分なので、細かいところまでリアルにこだわりましたね。
高橋 爆弾にはとても細かい裏設定があったので、感慨深いですね。僕は、親子役の火野正平さん(佐野昭役)と宇野祥平さん(佐野亘役)のやりとりがとても印象に残っています。本物の親子にしか見えなくて、すごいなと思いました。待ち時間から役作りされているのかなと思ったり。2人のやりとりがすごく好きでした。
大坪 私が注目してほしいのは、満島さんと阿部サダヲさん(八木竜平役)のシーン。この2人は敵対していて、直接会わずに電話などでやりとりする関係ですが、終盤の対峙するシーンはとてもかっこよかったです。撮影時は寒い時期でしたが、寒さを忘れるくらいお芝居に引き込まれました。
塚原あゆ子監督&新井順子プロデューサーの撮影現場を終えて
ところで、皆さんが映像業界を目指したのはなぜですか?
松井 高校生の頃、自分の将来について考えた時に、当時は学校という場が好きだったので、学校の先生を目指していました。ですが…よく考えたら自分が学校を好きなのは『ROOKIES』や『ウォーターボーイズ』といった学園ドラマの影響が大きく、理想の恋愛や青春を教えてくれる学園ドラマこそが自分の教科書でした。それで、自分も“子どもたちの青春の後押しができるような学園ドラマ”を作るために、映像業界を志望しました。
塚原さん・新井さんの『下剋上球児』には志願して球児役オーディションから携わることができ、かけがえのない経験になりました。
高橋 僕はやりたいことが一つに絞れていたのではなく、興味がある職業はたくさんありました。でも、そう思わせてくれたのはドラマや映画があったからこそ。それに、周りにいる友人が「このドラマに支えられた!」と言うのをよく耳にして、僕自身も“誰かを支えられる作品を作れたらいいな”と思ってこの業界に入りました。
特に好きな作品は、『Nのために』。これも塚原さんと新井さんが制作に携わっています。今、自分が見ていた作品を作った人と一緒に仕事をしていて本当に光栄です。入社したばかりの頃は、歩いている塚原さんの姿を見て感激したことも(笑)。
大坪 私は好きなことをして楽しみながら働きたかったので、興味のあるエンタメ業界に絞って就職活動をしました。父がテレビ関係の仕事をしていたので、どれくらい大変なのか想像できていたし、すごく生き生きとしている姿を見て、好きなことなら耐えられるかなと思ったんです。テレビ番組全般が好きですが、仕事として携わるならドラマがいいと思っていたので、入社後はドラマ部に配属されました。
『ラストマイル』の撮影では、TBSスパークルの塚原あゆ子さんが監督、新井順子さんがプロデューサーを務めています。おふたりとご一緒して、いかがでしたか?
松井 塚原さんはとにかく新しいことをどんどん取り入れようとする人です。例えばアングルにしても、「これ見たことあるよ」「もっと違うアングルないの?」と今までにないものを常に模索しています。美術品について相談するときも、僕たちのはるか先のことまで考えて話しているので、ついていくだけで精一杯でした。新井さんはとにかく現場の全員のことを考えてくれていて、本当に懐の広い方です。
おふたりは入社当初から憧れの存在で、ご一緒するのはこの映画が初めてでした。さらに、今回『アンナチュラル』は6年ぶり、『MIU404』は4年ぶりに復活しますが、こんなに月日が経っても撮影が始まったら一瞬で作品の空気感を作り出していたことに感動しましたし、当時見ていた作品の作り手として参加できて嬉しかったです。
高橋 僕はこの映画で2回目でした。塚原さんは役者さんだけでなく、スタッフに対しても、とても丁寧にわかりやすく伝えてくれます。例えば「自分がこの立場だったら?」「自分のお母さんに対してだったらどう思う?」というように、自分に置き換えて想像させるような声がけをしてくれるので、役者さんも演技に生かしやすいだろうなと感じました。
大坪 塚原さんはどんなときでも役者ファーストで、役者さんに対してものすごく配慮がある方だと思います。新井さんはスタッフ全員のことを気にかけてくださいます。厳しいときももちろんありますが(笑)、いらっしゃるだけで場が明るくなる憧れの存在です。私は『最愛』の制作に携わっていたので、新井さん・塚原さんの組に入るのは2回目でしたが、やっぱりおふたりの作品ならではの緊張感がありました。おふたりがタッグを組んだ初めての映画にスタッフとして入れてよかったです。
最後に、映像業界を目指す就活生にアドバイスをお願いします。
大坪 好きなものをどれだけ好きか言えることが大事です。「何となく好き」ではなく、「こういう理由でこの作品が好き」と具体的に話せるようにしておくといいと思います。
高橋 社会人になる前に、もっとドラマや映画をたくさん観ておけばよかったなと少し後悔しています。観た作品が多ければ多いほど、制作のヒントとなりうるので、時間がある学生のうちにいろいろな作品に触れることをおすすめします。
松井 ドラマが好きだからドラマの仕事をしたいという人は多いと思いますが、“自分は映像を通して何を伝えたいのか、見た人にどうなってほしいのか”、視聴者のその先の行動までちゃんと考えられるといいんじゃないかと思います。
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日曜劇場『下剋上球児』担当TBSスパークル・新井順子に聞く、ドラマプロデューサーの魅力
松井郁貴
TBSスパークル エンタテインメント本部 ドラマ映画部。2020年入社。
『恋する母たち』『ドラゴン桜』でフォース助監督。『婚姻届に判を捺しただけですが』『インビジブル』『ユニコーンに乗って』でサード助監督。『埼玉のホスト』『下剋上球児』、2024年10月期金曜ドラマ『ライオンの隠れ家』でセカンド助監督を務める。
高橋周平
TBSスパークル エンタテインメント本部 ドラマ映画部。2021年入社。
『婚姻届に判を捺しただけですが』『ユニコーンに乗って』、映画『わたしの幸せな結婚』などでフォース助監督。『ペンディングトレインー8時23分、明日 君と』『下剋上球児』、2024年10月期金曜ドラマ『ライオンの隠れ家』などでサード助監督を務める。
大坪彩音
TBSスパークル エンタテインメント本部 ドラマ映画部。2021年入社。
『最愛』『ユニコーンに乗って』のフォース助監督、『トリリオンゲーム』『恋愛のすゝめ』のサード助監督。2024年冬公開の映画『グランメゾン・パリ』のアシスタントプロデューサーなどを担当。