• People

イギリス企業との共同制作『Lovers or Liars?』で世界展開へ!TBS深谷俊介に聞く、日英バラエティ制作の違い

TBSは、2024年3月に『Lovers or Liars?~本物の夫婦はどれ?~』(以下、『Lovers or Liars?』)を放送しました。この番組は、イギリス最大級のコンテンツ制作配給会社のAll3Media International(以下、All3Media)と共同開発した、真実の愛を見抜く新感覚のバラエティです。4月にはフランス・カンヌで開催された世界的なコンテンツ見本市「MIPTV」でトレイラー動画を発表し、今後は世界展開が予定されています。

このプロジェクトを手掛けたのは、グローバルビジネス局 グローバル営業開発部の深谷俊介。海外との共同制作を行った経緯や制作中に感じたイギリスとのギャップに加え、世界における日本のバラエティの評価について話を聞きました。

世界でヒットする新しいバラエティフォーマットを目指して

まずは、『Lovers or Liars?』をAll3Mediaと共同開発することになった経緯を教えてください。

深谷 グローバル営業開発部は、主に海外の放送局や制作会社に向けて、番組のコンセプトやアイデアを売る「フォーマット販売」、ドラマの脚本を売る「リメイク販売」、そして「海外への番組販売」を行っています。そんな中、TBS制作で今も売れ続けているのが『SASUKE』(※海外では『Ninja Warrior』として展開)、『風雲!たけし城』(以下、『たけし城』)、『おもしろビデオコーナー(※『加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ』の1コーナー)』の三大フォーマットです。ただ、新作はこの13年間、なかなかヒットしていません。そこで、海外展開を前提とした新しいバラエティコンテンツを作る流れになりました。

『SASUKE』『たけし城』のような日本の大型フィジカル番組は世界的に評価され、日本はフォーマット輸出国として成果を残しています。ですが世界全体で見ると、イギリス・アメリカ・オランダといった欧米諸国が圧倒的な販売実績と知見を持っています。そうした背景もあり、今回は世界中に強力な営業部隊を持ち、近年で最も売れた世界的フォーマット『The Traitors』(※心理戦リアリティ番組)を開発したAll3Mediaと手を組むことになりました。

契約締結まで約半年をかけて話し合い、All3Mediaは全世界の営業・PRを担当。共同開発ジャンルは世界的な需要が高いという“恋愛バラエティ”となりました。恋愛は各国どこでも通用するユニバーサルなテーマですが、世界中で飽和状態にあり、新しい切り口を求めていたようです。

そこで恋愛ジャンル制作に意欲的な、制作部時代の先輩・軸原資雄さん(TBSコンテンツ制作局)に演出を依頼し、『Lovers or Liars?』の企画が立ち上がりました。

TBS『Lovers or Liars?』キービジュアル

海外との共同制作では、文化の違いが多々あったと思いますが、具体的にどんな違いを感じましたか?

深谷 お互いが「面白い」と感じることが全く違うので、そのすり合わせが大変でした。『Lovers or Liars?』は“4組の男女から本物の夫婦1組を見つける推理ショー”で、推理のヒントとして夫婦にさまざまなゲームやパフォーマンスに挑戦してもらう内容です。その一つにAll3Media側から提案されたのは“夫婦のダンス”でした。最初は日本チーム全員が、その企画内容にピンときませんでした。軸原さんからも「なんで夫婦がダンスしなきゃいけないの?」と言われてしまって(笑)。

というのも、イギリスでは学生の頃からパーティーなどで、異性とダンスする機会は度々ありますが、日本にその文化はありません。日本的な感覚では、男女のダンスが、何故本物の夫婦を見分けるヒントになるか理解できませんでした。そこでAll3Mediaに理由を細かく聞いていくと、「ダンスに触れ合う振り付けをふんだんに盛り込み、スキンシップの自然さを見ていく」という狙いがあるとわかり、日本の制作陣も納得出来ました。演出のすり合わせは大変でしたが、演出意図を細かく聞かないと双方が理解できません。

このプロジェクトでは、双方が100%納得いくまで演出内容を詰めることにこだわりました。「イギリス側・日本側が言っているからやりましょう」というのは絶対に避けたかったんです。その結果、演出の擦り合わせは1年半かかり、ようやく番組内容がまとまったのは収録約1か月前でした。しかし、日英両方が自信を持って「面白い」と言える番組ができたと思います。

TBS『Lovers or Liars?』制作の様子

やりとりは全て英語で行うんですよね。苦労されたのでは?

深谷 僕が今回、主に担当したのは、“ビジネススキームの構築・全体予算管理・企画の大方針の決定・プロジェクト進行・日英の言語の通訳、そして演出面の通訳と調整”です。中学時代をアメリカで過ごし、大学時代に1年間留学したとはいえ、イギリスサイドに演出のニュアンスを伝えることに苦労しました。

現在の部署に異動する前に、バラエティ制作を12年担当していたので、現場とのやりとりや演出面の理解をスムーズにできた点はよかったです。時に自身のアイデアを足しながら、チーム全体をまとめていきました。

この部署に来た当初はビジネス英語に慣れておらず、苦労しました。50枚くらいの英文契約書を渡されたときは、とんでもないところに来たなと(笑)。しかし先輩方に丁寧に仕事を教えていただいたおかげで、なんとか乗り越えてきました。

TBS深谷俊介

イギリスではバラエティも1クールで放送。意外と知らない日英の違い

収録は日本で行われたそうですね。セットや演出にはどんなこだわりが?

深谷 『Lovers or Liars?』はスタジオショーです。セットは一般的な日本のバラエティ番組のイメージをあえて崩し、音楽番組で使うようなレーザーを入れるなど、世界のテレビ業界で言うところの、『シャイニーフロアエンタテインメント』(※“視覚的に豪華なスタジオ番組”を意味する)を目指しました。日本のスタジオバラエティ番組では使うことがない、レーザー演出をふんだんに盛り込み、キラキラとした世界観となっています。

美術スタッフの皆さんの大変な努力、そしてカメラや音声、照明なども、音楽番組の第一線で手掛けているスタッフに依頼した結果、予算内で素晴らしい世界観を作り上げることができました。本当に感謝しています。

TBS『Lovers or Liars?』の場面写真

All3Mediaの反応はいかがでしたか?

深谷 「短期間で効率よく撮影できるプロフェッショナルなチームだ」とお褒めの言葉をいただきました。撮影はリハーサルを含めて1日で終わりましたが、イギリスなら同じ内容でも3日はかかると言っていました。というのも、イギリスは日本のドラマのように、バラエティ番組も1クール(約3か月)で7~8回分の編成で時間に余裕を持ってじっくり制作しているそうです。一週間に一回レギュラー放送を収録する日本の制作スケジュールとは全然違うんだなと感じました。

また、番組のMCを務めたバナナマンの設楽統さんに対しても「1時間程度のリハーサルにもかかわらず、すぐに場を仕切れるのが不思議でたまらない」と驚いていました。そして「パネラーのコメント力も素晴らしい」と。松原拓也さん(コンテンツ制作局)を始めとするプロデューサーチームのおかげです。

TBS『Lovers or Liars?』の場面写真

共同制作を振り返り、いかがですか?

深谷 All3Mediaもアジア企業と協業するのは初めてとのことで、お互いわからないことだらけでしたが、双方に学びや驚きがあって良い経験になったと思います。軸原さんも「最初はダンス企画がどうなるのか全然見えなかったけれど、実際に撮ってみると、一番面白いブロックになった」と話していました。

また、TBS側からの提案で夫婦にドッキリを仕掛けてリアクションを見る企画も行いました。「イギリスではドッキリをライブで行う発想はなく、怖くてできないからすごく新鮮でおもしろかった」と言っていただきました。

現在は第二弾を制作すべく共同開発中です。今回の経験でお互いの演出理解が深まったので、より速い開発スピードで、海外フォーマットヒットを目指したいと思っています。

TBS深谷俊介

世界的コンテンツ見本市では、立ち見が出るほど大反響

『Lovers or Liars?』は、2024年4月に参加した「MIPTV」でトレイラー動画を発表しましたね。これはどんなイベントで、具体的にどんなことをしたのでしょうか。

深谷 「MIPTV」は、世界中のテレビ局や制作会社の人々が集まる見本市です。日本のテレビ局は新作プレゼンイベントを開催する際、集客に苦労していた部分があったと聞いています。そこで今年はAll3Mediaを含む4社合同でプレゼンテーションを企画。導入として、世界的に知名度があるリサーチ企業から日本のバラエティ市場を説明してもらい、“客観的で学びのあるプレゼン”を目指しました。

実は“2023年に世界でもっともコンテンツ(番組フォーマット)が売れた国”として、日本はフランスと同率で4位にランクインしており、日本のフォーマットは今再注目されています。その流れで『Lovers or Liars?』を発表しました。

日本のフォーマットが再注目されているのはなぜですか?

深谷 そもそも1980年代、『わくわく動物ランド』(TBS)から日本の番組フォーマットが注目されるようになり、日本はアジアの中でも歴史のあるバラエティフォーマット輸出国として知られています。これをベースに、『SASUKE』や『たけし城』などのヒットフォーマットが続いていきました。

近年は韓国の『The Masked Singer』や『I Can See Your Voice』といった歌ゲームショーが世界的に大ヒットし、やや押されつつありました。しかし、日本従来の人気フォーマットが売れ続けていること、『HITOSHI MATSUMOTO presents ドキュメンタル』(配信番組)といった新しい大ヒットフォーマットが誕生したことが、今回の4位という結果につながったと推測しています。

日本からヒット作が出れば、世界から日本のバラエティが注目されて、TBSにもチャンスが広がります。個人的には、日本のバラエティを日本全体で盛り上げる空気感が大事だと思っています。

プレゼンの手応えはいかがでしたか?

深谷 収容人数が100人ほどの会場で、立ち見が出るくらい多くの方に見ていただきました。なぜ我々の新作のプレゼンを聞く必要があるのか、理由付けできたことがよかったようです。

また、『Lovers or Liars?』の1シーンを公開すると、食い入るように見ていただいて、笑いも度々起こりました。これは軸原さんの演出力、そしてAll3Mediaが14回も修正して制作したトレーラーのおかげです。とても良い反響をいただきました。

「MIPTV」の様子

TBS入社の決め手は「目を見てくれる放送局」だから

ところで、深谷さんはどんな経緯でTBSに入社されているのでしょうか。

深谷 就職活動を始める前、自分の人生を振り返った時に、小学生の頃は漫画執筆、中学生の頃はダンスやミュージカル、高校と大学ではバンドをやっていたので、自分は形にこだわらずに人を楽しませるエンタメが好きだと気付きました。「多様性」という意味のあるバラエティには、情報や音楽、お笑いなどを総括してさまざまなエンタメが集約されているので、自分の人生観に一致すると思い、テレビ局を目指しました。

TBSの就職試験では、1次面接からじっくりと約30分も話を聞いてくれ、面接官が真摯に対応してくれる姿勢がとても印象に残りました。あらかじめ話す内容を用意していたものの、2次以降の面接では志望動機に「目を見てくれる放送局だから」と言い続け、運良く入社して今に至ります。

結局すべての面接でじっくりと話を聞いてくれて「真面目な局なのかな」と思いましたが、その印象は実際に働き出してからも変わりません。TBSには真面目な人が多いと実感しています。

入社1年目から12年間バラエティ制作に携わっていたそうですね。

深谷 入社から4年間は、ADとしてさまざまな新バラエティ番組を転々としていました。僕自身は「音楽番組に携わりたい」とずっと希望していて、音楽番組の企画書を持って社内営業をしていました。その結果、5年目くらいから、音楽番組のディレクターを担当させてもらえるようになりました。

2016年には『Good Time Music』というレギュラー音楽番組、そして自身で企画した音楽特番『ハロウィン音楽祭』でチーフディレクターを経験させていただきました。先輩方に多大なるご迷惑をかけましたが、なんとか放送することができ、助けてくれた皆さんにはただただ感謝しております。その後、2020年にスタートした『CDTV ライブ! ライブ!』の立ち上げにも携わりました。

音楽に関わる仕事は幸せでしたが、30歳を過ぎた頃から「海外経験があるので、海外に携わる仕事がしたい」と考えるようになり、海外部のスタッフと制作側の人間として仕事をしていたところ、現在の部署に異動になりました。やりたい事を言い続けると実現できるのが、TBSの素晴らしい文化です。

最後に、就活生に向けてメッセージをお願いします。

深谷 面接官に話す小手先のテクニックを用意するよりも、熱量を持って自分をプレゼンしていくといいと思います。バラエティ制作の頃は、芸能事務所の方、出演者から「深谷さんがすごい熱量なのでやりましょう!」と言っていただいたことがあります。自分の人生をしっかりと振り返り、熱量を注げることを見つけて、臨んでみてください。

>NEXT

なぜ人は『SASUKE』に熱狂するのか?グッズ&海外番販担当者が感じた人気の高まり方

音楽の力で日本に希望を!TBS『音楽の日』総合演出・竹永典弘に聞く、今の時代にテレビができること

TBS深谷俊介

深谷俊介
2009年TBSテレビ入社。グローバルビジネス局 グローバル営業開発部。
入来以来12年間バラエティ制作。音楽番組を中心に演出を担当。『Good Time Music』、『ハロウィン音楽祭』でチーフディレクター。『CDTV ライブ! ライブ!』では演出として番組立ち上げに参加。現在は海外向け新規IP開発・営業推進を担当。

本サイトは画面を縦向きにしてお楽しみください。