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「初期衝動ですごいものが生まれる」風とロック・箭内道彦×サンボマスター・山口隆のクリエイティブ論

TBSは、3月14日から開催された、国内最大級のファッションとデザインの祭典「TOKYO CREATIVE SALON 2024」に初参加。イベント内では、TBSが誇るクリエイター陣がトークセッションを行う「Creative Talk Stage」を開催しました。

3月15日には、クリエイティブディレクターで東京藝術大学教授の箭内道彦さんと、サンボマスターの山口隆さんによる対談を実施。「ふるさとに風が吹く~今、クリエイティブにできること~」をテーマに語り合いました。この記事では、イベントの内容を一部公開します。

テレビはいつの時代も赤坂のクリエイティブを担っている

赤坂の街にまつわる思い出はありますか?

山口 赤坂BLITZには出演させていただいたこともありますし、行ったこともあります。ジェームス・ブラウンの来日公演に行ったときは、ライブが終わった後、ギタリストの方がピックをくれたんですよ。それで「日本はお前に任せた!」って言われたんだと勝手に勘違いしました(笑)。

昔の赤坂にはムゲンやニューラテンクォーターといったディスコやナイトクラブがあって、社交場だったんですよ。ムゲンにはアイク&ティナ・ターナーが来日したりしてたから、その文脈で言うと、赤坂BLITZにジェーム・スブラウンが来たのは実は地続きになってると思ったりして、そこでピックをもらったからなおさら嬉しかったですね。

TBSさんでいうと「TBSチャンネル2」で昔来日したセロニアス・モンク、フランク・シナトラとかの秘蔵映像が流れていて、録画してよく見ています。

箭内 赤坂は夜の街というイメージがある一方で、表現の場所だと思うね。僕は学生時代、TBSの報道局でニュース番組で使う絵を描くバイトをしてたんだけど、やっぱり『ザ・ベストテン』がやってる木曜日が一番嬉しかった。報道局の上の階で生放送をやっていたようで、わざと9:15頃にジュースを買いに行くわけ(笑)。そうすると出演者の方とすれ違ったりするの。

それと、TBSは良いドラマがたくさんありますよね。やっぱりドラマも表現作品じゃない?

山口 テレビはクリエイティブの最たるものですよね。僕は福島にいたとき『ありがとう』や『ふぞろいの林檎たち』の再放送を見てたし、リアルタイムで見てた『ボクの就職』も大好きでした。

箭内 昨日、吉田拓郎さんの『流星』を聴きたくなって急遽自分のラジオ番組でかけたんですけど、それもTBSドラマ『男なら!』の主題歌でした。ドラマはある種、ディープなミュージックビデオじゃないですか。ドラマがいろいろな音楽に出会わせてくれたなと思いますね。

山口 名曲がいっぱいありますよね。『ボクの就職』の主題歌である忌野清志郎さんの『サラリーマン』を聞いて、上京して初めて満員電車を体験したときに、まだ大学生なのに「俺はこういうサラリーマンになるんだな」って思ったら、こんなになってしまいました(笑)。

地上波だけでなく、僕は『吉田類の酒場放浪記』や『町中華で飲ろうぜ』も、お酒飲めないのにずっと見てますからね。そうなると昭和から平成、令和にかけて、赤坂のクリエイティブはやっぱりテレビってことになりますか?

箭内 テレビは一つ大きいんじゃないかな。テレビを批判するのは簡単だけど、やっぱり僕らはテレビの中にあったもので育ってきたじゃない?TBSはこうして「TOKYO CREATIVE SALON」も始めていて、すごく可能性を感じます。

今回は「ふるさと」がテーマで、僕らが福島出身ってこともあるかもしれないけど、意外と気も弱いし真面目だから、気が付くとすでに結構長い時間、TBSを褒めちゃってた(笑)。

山口 本当に気を遣いましたね(笑)。でも僕は『ラヴィット!』でもお世話になってますからね。3月11日の放送では、CMをぶち抜いて20分やらせてくれました。フル尺でしたからね。本当に熱いスタッフの方々で、ありがたかったですよ。

サンボマスター・山口隆氏

“初期衝動”から生まれた作品の数々

ここからは箭内さんが手掛けたサンボマスターのアートワークを振り返り、クリエイティブの核を紐解いていきます。

山口 『月に咲く花のようになるの』のMVは羽田の方にある、潮が引いたときに島になるところで撮りたいと言われて、今だったらドローンで空中撮影できるけど、当時はなかったからヘリで撮影したんだよね。撮ってる間にどんどん潮が満ちてきて、借りてるドラムが水没して、結局買い取ることになったけど、僕はめちゃくちゃ燃えました。

でも、クリエイティブって大人たちとちゃんと話し合わないと最終的に成立しないじゃない?箭内さんがすごいのは、大人たちとやりとりしつつ、僕らみたいなロックンロールバンドとも話せるところ。間に立つって大変でしょ?しかも、このMVは良くないからって全部ボツにしたのにも驚きました。

箭内 いや、それ聞いて思い出したけど、僕は福山雅治さんに「箭内さんはシジミですね」と言われたことがあるの。「僕とも仲が良いし、サンボマスターや銀杏BOYZとも仲が良い。メジャーとインディーズの間にいるから、海水と淡水が交わるところに生息してるシジミみたいだ」と言われたのがすごく嬉しくて、自分の飼った犬の名前をシジミにしました(笑)。

山口 『ラブソング』は、箭内さんが僕らの曲を聴いて、こちらから頼んでないのに撮ってくれたんです。「俺、MV作っちゃったから」って。そしたらこれだもんな。この絵の力で泣いてしまったな。長澤まさみさんもよく出てくれたと思いますよ。

箭内 これは完全自主制作です。「俺は頼まれなきゃ仕事をしたり、ものを作ったりしないんだっけ?」と深く反省して、作りたいなら作らなきゃダメだなと思ったの。そのことを長澤まさみちゃんに言ったら、「自主制作っておもしろいから手伝ってあげるよ」と言ってくれて。8ミリフィルムのカメラで撮ったからプロが作ったものって感じではなくて、「別れた彼女の思い出フィルムを夜一人で見てる男」をイメージしながら編集しました。

山口 その過程からもう泣きそうなのよ。クリエイティブは自分の生活から離れたところにあると思ってたけど、箭内さんと出会ってからは自分から湧き出るものがクリエイティブになり得るんだと気付きました。初期衝動ですごいものができると思うの。クリエイティブってそういうことですか?

箭内 そう思うよ。デザインはかっこよくて美しくてバランスが良いものじゃなきゃいけないと思って10年くらいモヤモヤしてたけど、日常とクリエイティブを繋げればいいんだってある日突然気が付いたの。だから僕のクリエイティブはNO初期衝動NOクリエイティブというか、自分の中で初期衝動をうまく設定してくことが一番大事だと思います。「みんなこういうのが好きでしょ」って思いながら作るのって一番つまらないじゃない。自分がどう感じたか怖がらずに作ればいい。音楽だってそうでしょ?

山口 そうやって箭内さんは言葉にできるのがすごいですよね。僕らは何がクリエイティブかわからなくて、曲にするしかないけど。

箭内 あとは、年とってくるとイマイチなものでも失敗でも、それが人間らしくてどれも好きになっちゃうよね。若いうちは怒りでなんぼでも作れたけど、年をとると「みんなそれぞれ事情があるんだな」とかつい考えちゃうから、違うところで薪をくべないといけないとは思うよね。

山口 たしかに、約20年前にリリースした『世界はそれを愛と呼ぶんだぜ』は怒り成分が多いですけど、今はラブ成分が強いと思います。

ラブと言えば、箭内さんが菓子折りを持って「風とロック さいしょでさいごのスーパーアリーナ」の出演オファーをしてきたとき、「最近は怒られてばっかりなんだ」と言ってたのは本当に愛しくなりました(笑)。

クリエイティブディレクター・箭内道彦氏

時を経て怒りから愛へと変わる、クリエイティブの方向性

箭内 『青春狂騒曲』は僕が今まで作ったジャケットの中でNo.1。一番好きなのは草の切り抜き方。はさみで切ったみたいに綺麗なの。こんちゃん(近藤洋一さん)はこっち見てないし、木内(泰史)くんの顔がわからないし、普通はNGだけど。

サンボマスター『青春狂騒曲』のジャケット

山口 当時はレコード会社の方が僕らのバンドをなんとかしようとしていて、出来上がったジャケットがこれだったんですよ。メンバー3人はもう大喜びでした。「風とロック、やっぱやべえよ」と。

箭内 「風とロックの写真集」も、山口隆を表紙にしたね。例えばこれが長澤まさみさんだったら、売上が10万部は違うってわかるけど、そう言われると絶対これにしたくなっちゃうわけ(笑)。止められたことをやるのもクリエイティブだね。

僕が東京藝大を3浪したのも同じで、田舎って「やめとけ」「親に迷惑かけて何年浪人してんだ」って言われちゃうじゃん。でも、そう言われると、よっしゃやったるわって思えるじゃない。逆に「みんなが応援してるから何年でも浪人しなよ」って言われたら、1浪目でやめてたと思って。

山口 そこは逆境パワーだね。僕と箭内さんは福島にいられなくなって出てきちゃったという思いがあるけど、「風とロックと福島民報」のコピーを見ると、この頃から2人とも福島愛があると感じますよね。

「風とロックと福島民報」のコピー

箭内 これは一番問題になった写真で、「このピンボケは載せられない」って言われたの。「マフラーを外さなきゃダメなんだ」というコピーも意味がわからないから説明してくれって東京まで偉い人たちが来たんです。それで「これはピントが合ってないから、見た人が自分を投影できるんですよ」と言ったら、偉い人が「素晴らしい」って言ってくれて。これが新聞の一面になりました。

山口 これはすごく覚えてます。2人とも福島出身でしょ?上京してきて、自分たちの素が結局出ちゃうんだけど、そこを踏ん切るってやっぱりちょっとパワーがいるんだと思うんですよ。

箭内 だだ漏れないように栓してるんだよね。それがマフラーなんだよな。

山口 そうそう。みんな多分ライブでの僕の方が、今の僕より見たいと思うけど、それは本当は架空というか。この写真には、ビビってる気持ちとか、何者でもない自分みたいなものがすごく表現されていると思います。

箭内 2011年の「LIVE福島 風とロックSUPER野馬追」は、YouTubeでライブ配信もしたんだけど、「お客さんの表情をたくさん撮ってください」ってディレクションしたの。やっぱり音楽って鳴らしてる人だけじゃなくて聴いてる人も表現の一部だと思うんだよね。

「LIVE福島 風とロックSUPER野馬追」の様子

このイベントは6日間会場を変えてやったんだけど、そんなの採算とれないし、大変だからやるもんじゃないって大人たちに注意されたのね。でもそれで絶対やるぞって思っちゃった。山口くんは6日間全部出てくれたよね。

震災直後は「音楽は無力」と言われていたけど、やっぱりクリエイティブというか、エンターテイメントは絶対必要なものだと思っていて、こうやって笑顔になったり、涙を流したり、大きい声で歌ったりしないと生きていけない人ってたくさんいるんだよね。

山口 やっぱりクリエイティブには力がありますね。あと、6日間必ず地元の伝統芸能とか催し物をするのがマストで、そうやって地元の人と一緒に作っていく感じがラブだったね。結局、若い頃の怒りもラブに向かってくるもんね。

箭内 やっぱりラブに尽きると思いますよ。愛しい心はクリエイティブだね。

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箭内道彦
1964年福島県郡山市生まれ。東京藝術大学美術学部デザイン科卒業後、株式会社博報堂を経て2003年に独立し、風とロック有限会社を設立、現在に至る。NHK「トップランナー」、NHK Eテレ「福島をずっと見ているTV」、TOKYO FM/JFN「風とロック」、ラジオ福島「風とロック CARAVAN福島」等、各番組のレギュラーパーソナリティーとしても活動。創刊100号を数えたフリーペーパー「月刊 風とロック」の発行人・編集長でもある。東京藝術大学教授、福島県クリエイティブディレクター、渋谷のラジオ名誉局長、ロックバンド 猪苗代湖ズ ギタリスト、風とロック芋煮会実行委員長、LIVE福島 風とロックSUPER野馬追(2011年)実行委員長。

山口隆
1976年2月8日福島県生まれ。サンボマスターの唄とギター担当。2000年2月にサンボマスターを結成。メッセージ性の強いストレートな日本語詞と、ファンクやソウルの影響を感じさせる激しいロックサウンドが特徴。2023年にデビュー20周年を記念し、『全員優勝計画』と銘打った大型プロジェクトを進行中。「Future is Yours」(『しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 ~とべとべ手巻き寿司~』主題歌)、「笑っておくれ」(Netflix「トークサバイバー!~トークが面白いと生き残れるドラマ~」シーズン2主題歌)と大型タイアップの新曲を連続して発表。11月15日には10作目のNEW ALBUM「ラブ&ピース!マスターピース!」リリース、さらに11月19日には横浜アリーナで「全員優勝フェスティバル ~ゴールデンLIVE'it !~」開催と精力的な活動を行っている。

※記事の内容は3月15日開催の『Creative Talk Stage ふるさとに風が吹く~今、クリエイティブにできること~』で取り上げられた内容をまとめています。

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