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TBS磯山晶&藤井健太郎の番組作りに迫る!『不適切にもほどがある!』『水曜日のダウンタウン』制作秘話

TBSは、3月14日から開催された、国内最大級のファッションとデザインの祭典「TOKYO CREATIVE SALON 2024」に参加しました。イベント内では、TBSが誇るクリエイター陣がトークセッションを行う「Creative Talk Stage コンテンツクリエイターズセッション」を開催しました。

3月23日には、TBSの磯山晶プロデューサーと、演出家の藤井健太郎によるクロスオーバートークセッションを実施。この記事では、2024年1月期ドラマ『不適切にもほどがある!』と、『水曜日のダウンタウン』にまつわる話を中心に、イベントの内容を一部公開します。

視聴者をわくわくさせるアイディアの生み出し方

まずは、アイディアの生み出し方についてうかがいます。『水曜日のダウンタウン』の説はどうやって決めているのでしょうか?

藤井 最終的な決定はもちろん僕が行っていますが、会議で話しながらまとめていく感じが多いですかね。やっぱり誰かの気持ちがちゃんと乗ったものじゃないとおもしろくならない気はしています。

磯山 ちなみに「清春の新曲、歌詞を全て書き起こせるまで脱出できない生活」を2週連続で放送したのは、本当に予算がないからですか?

藤井 本当にそうですね。年度の予算に収めなきゃいけないんですけど、全体からちょっとずつクオリティを下げていくのが嫌だから、その前の週まではキッチリ作りきって、足りない分は各所に向けて「足りてねぇぞ」と(笑)。

磯山 すごい勇気だなと思って。もし自分があれを放送したら、視聴者にどう思われるのか…って考えてしまって怖くなると思います。

藤井 変に期待されすぎても困るんで、別にこちらからは何も煽ってないつもりだったんですけどね。ただ同じものを放送するということを予告で言っただけで。

まぁ、暗に煽っちゃってはいるんですけど(笑)。でも、2回できることじゃないし、まだ他では1度も見たことのない手法だから「まぁいいかな」という感じですかね。ただ、その放送は絶対におもしろくしなきゃいけないんで、やると決めた段階で、ちゃんと2回見るに耐えうるやつを作らなきゃというプレッシャーはありましたけど。

磯山 普通に2回見ちゃいましたからね(笑)。騙されたって思いました(笑)。

一方で磯山さんはドラマを作られていますが、『不適切にもほどがある!』はどのように生まれたのでしょうか?

磯山 『不適切にもほどがある!』は脚本を担当した宮藤官九郎さんとの雑談で盛り上がった話をもとに、約2年前から考えていました。最初は「おじさんが頑張る話をやりたい」とか「『毎度おさわがせします』みたいなのはどうか」と話していましたが、今そのまま作っても懐古趣味的に「昭和はよかった」みたいになってしまってつまらないから、「昭和の人が令和に来たらいろいろと齟齬が生まれるよね」という話を膨らませて、昭和と令和を行き来する形に落ち着きました。

タイトルも最初は『時をかけるダメおやじ』でした。でも2023年の10月期にフジテレビさんで『時をかけるな、恋人たち』というドラマを放送すると発表があったので、「時をかけるな」って言われた次のクールで「時をかける」のは嫌だなと思い、すでにポスターを発注していたものの、急遽変えることになりました。元々ストーリーが「昭和の人が令和にタイムスリップしてきて不適切な言動をする」という内容だったので、『うちの父、不適切につき』とか、「不適切」押しのタイトル代案をいろいろ考えました。宮藤さんから「うちの父は無い方がいいかも」と意見もらって、結果的に『不適切にもほどがある!』になりました。フジテレビさんのおかげで本当によかったと思います。

TBS磯山晶

「名探偵津田」というワードは編集中に閃いた

それぞれ番組作りで大切にしていることは?

藤井 基本的なことですが、なるべく他で見たことがないものにはしようとは常に思っています。個人的な好みとして、これまでにもあったパターンのものをブラッシュアップして、クオリティを上げていく作業より、カタチごと新しいものを作る方が楽しいので。

最終的にどういうカタチにするかが一番大事なので、編集は自分で行っていますが、スケジュール的なことも含めロケには基本立ち会っていないですね。その代わり、構成を詰める段階で「こう展開したら、こうしよう」などと、想定される事態への対応はある程度決めています。もちろん、その範囲に収まらないことも多々あるので、判断が必要なことがあれば、現場のディレクターから連絡をもらって指示をしたりもしますが。

磯山 私はほとんどすべてのロケやセットの現場に参加しています。特にドライリハーサル(カメラを通さずに行うリハーサルのこと)が一番楽しみです。ずっと打ち合わせして準備してきたことを、出来上がったセットで衣装・メイクが済んだ役者さんたちが初めてセリフとして声に出すところが見たいからです。ここでイメージと違うとそれ以降も全部違ってしまうので、撮影した映像だけで修正するのは難しいと思っちゃいます。

台本に全部書いてあっても不安なのに、「名探偵津田」(正式名称は「犯人を見つけるまでミステリードラマの世界から抜け出せないドッキリ、めちゃしんどい説」)とかどうやって導くんだろうと思って。意図したゴールにいつたどり着くかわからないものを撮影するなんて信じられないです。ちゃんと撮れなくても、撮り直しできないじゃないですか。

藤井 ドッキリ的なものは当然撮り直しできないですけど、あの企画に関しては、強引に元の流れに戻すこともおもしろ味のひとつだし、バラエティでは思っていたものが撮れなかったら、その部分はナレーションを入れたりして飛ばすこともできますからね。なので、そもそもの部分でのズレだけはないように気を付けていますね。

キャスティングでは何を意識されていますか?

藤井 基本的にはやりたい企画や内容が先にあって、それに誰が適しているのかという順で考えています。例えば「名探偵津田」だったら探偵役を誰にしようか考えたときに、すぐにイライラしたり、派手に驚いたりするし、ほどよく可愛げもあってバランスがいいのがダイアンの津田さんだなと思って、もう津田さん一択でした。ちなみに「名探偵津田」ってワードは編集中に思いついたんで、ロケの段階では出ていなかったりもします(笑)。

「犯人を見つけるまでミステリードラマの世界から抜け出せないドッキリ、めちゃしんどい説」の1シーン
「犯人を見つけるまでミステリードラマの世界から抜け出せないドッキリ、めちゃしんどい説」の1シーン

磯山 出来上がったものを見た今だと、津田さん以外は考えられないですね。ドラマの構想は短くても1~2年かかるので、まずは愛情が少なくとも2年半ぐらいは続く人じゃないと、と思っています(笑)。

もちろんストーリーも意識していて、『不適切にもほどがある!』の主人公は当初、VHSテープを作る工場の人にしようかと話していました。令和ではもうない職業なので、タイムスリップするという設定に合うのではないかと思いましたが、それよりも教育者の方が時代の意識の変化を表現しやすいのではないかという話になり、教師に変えました。そこから奥さんや娘など周りにいる人を徐々に決めていきました。

TBS藤井健太郎

時代とともに変化する、コンプライアンスとの向き合い方

近年度々話題になるコンプライアンスと番組作りについて、どうお考えでしょうか?

磯山 『不適切にもほどがある!』の冒頭で「この作品には不適切な表現があります」というテロップを流すことは結構前から決めていたんですが、3話ぐらいまで撮ったときに『水曜日のダウンタウン』を見ていたら、「ビートルズの日本公演で失神した人、今でもビートルズ聴き続けてなきゃウソ説」のときに「これから不適切な表現があります」とテロップが出てきて、「かぶった!」と思いました(笑)。

藤井 コンプライアンスチェックの会議があるので、そこでその映像を「使いたい」という話をして、担当のスタッフに社内規定だったりを確認してもらったら、結果、使っても大丈夫だし、なんならルールだけでいえば注意テロップなしでも大丈夫かも…という話になったんです。ただ、それはそれで見ている人もびっくりしちゃうと思って、自主的に注意テロップは入れることにしました。

昔は、こういったものって割と自主判断の部分が大きかったんですけど、今は必ず担当に見せてるんで…もちろんその判断が全て正しいとも思っていないですけど、ラインを踏み越えたものが出る可能性はだいぶ減ってますよね。

磯山 昔はネットが普及してなかったから事実確認するのが難しい部分もあったけど、今はすぐ調べることができますから、さらに気を付けないといけないですよね。

ドラマは以前から台本を審査部に出して、表現のチェックを受けるシステムでした。『不適切にもほどがある!』は、台本の準備稿、決定稿、完パケ(出来上がった映像)の3段階で考査部と編成考査からダブルチェックを受けました。事実と違うことがないように、例えば、登校拒否が不登校という表現に変わったのはいつ、誰からなのかという部分も正確に表現しなければならず、吉田羊さんのセリフが6行くらいになったりしました。

逆に、2話に出てくる「今どきバージンなんて、はやんねえし、10代のうちに遊びまくってクラリオンガールになるんだよ!」というセリフは考査的にはOKだったけど、自主的に「昭和における個人の見解です」とテロップを入れました。地上波の初回放送時はヒリヒリします。

ちなみに『不適切にもほどがある!』に出てきた表現の部分で指摘されたところはありますか?

磯山 会社から指摘された部分ではないですが、8話で、主人公が働くテレビ局のニュース番組のスポンサーがビーフンの会社という設定があり、とある事情でビーフンの不買運動が生まれたときに、阿部サダヲさん演じる市郎が「ビーフンなんか食わなくたって死なねえよ!」と言うセリフがありました。劇中に流れるビーフンのCMは架空の会社名で作り、「個人の見解です」とテロップを出したものの、ケンミンさん(国内のビーフンシェアの約50%を占めるビーフン会社)に怒られるかもと心配していたら、「ビーフンを取り上げてくださってありがとうございます。ぜひ現場に差し入れしたいです。ビーフンは食べなくても死にませんが(笑)」というお手紙をいただきました。なんて懐の深い会社なんだ!と思いました。

最後に、テレビで放映する意義や、テレビだからこそできる仕掛け、おもしろさについて教えてください。

磯山 意義を聞かれると難しいけど、『不適切にもほどがある!』の中で、「最近はドラマをネットで考察しながら見るんですよ」「そいつら見てねえじゃん」という会話をするシーンがあったんですが、放送時にネットで「これって俺たちのことじゃん」という反応があったのはおもしろかったですね。これこそリアルタイムで放送する地上波の醍醐味だなと思いました。

藤井 やっぱり、テレビの最大の強みは大勢の人が同じタイミングで見られるということなので、生放送だったり、「今見てるからおもしろい」という要素は配信コンテンツが増えはじめて、より意識するようになった気がします。

あとは、テレビって意図してない出会いがおもしろかったりするじゃないですか。アーカイブされていたり、配信で見たりするものは、最初から何となく概要がわかっているものが多いはずで、それがドキュメンタリーなのか、ドラマなのか、ジャンルすら知らずに見るということは多分ないので。テレビであれば、たまたま見ていたら「あれ?急にドラマが始まったぞ」とか、出会い方をおもしろくしてあげることはできるので、そこはテレビの良いところかなとは思いますね。

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TBS磯山晶、藤井健太郎

磯山晶
1967年生まれ、東京都出身。
『池袋ウエストゲートパーク』『木更津キャッツアイ』『恋はつづくよどこまでも』ネットフリックスシリーズ『離婚しようよ』等の作品を担当。2024年1月期ドラマ『不適切にもほどがある!』のプロデュースを手掛けた。

藤井健太郎
1980年生まれ、東京都出身。
TBSのバラエティ番組『水曜日のダウンタウン』の演出を担当。『クイズ☆正解は一年後』『オールスター後夜祭』などの演出も手がけている。

※記事の内容は3月23日開催の『Creative Talk Stage』で取り上げられた内容をまとめています。

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