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TBSスパークル塚原あゆ子監督に聞く、日曜劇場『下剋上球児』での新たな挑戦
2023年10月15日より、10月期の日曜劇場『下剋上球児』の放送がスタートします。本作は高校野球を通して、現代社会の教育や地域、家族が抱える問題やさまざまな愛を描くドリームヒューマンエンターテインメントです。
本作の演出を務めるのは、TBSスパークルの塚原あゆ子監督。撮影の裏側やこだわりに加え、これまでのキャリアや仕事のやりがいなどを聞きました。
『下剋上球児』では、アニメと実写の融合に初挑戦
現在、『下剋上球児』の撮影真っ只中ですが、どんな現状ですか?
塚原 今回は、野球をやってる子たちのベースにお邪魔している感覚なので、普段の撮影とは違って圧倒されながら撮っています。暑い中、毎日朝から晩までずっと野球場にいるので、皆さん真っ黒になって頑張っています。早く涼しくなってほしいですね。
本作はどんなところにこだわりましたか?
塚原 今回は、アニメチームにお願いして、役者さんたちの動きに合わせたアニメを映像に入れようとしています。映像にエモさを足したいんですよ。いわゆるスポ根のマンガやアニメには、実写では撮れないエモい部分がうまく描かれていますよね。野球で例えるなら、ボールを打ち返すとき、力が入る瞬間がわかるように、少したわんでいるじゃないですか。マンガやアニメの影響で、私たちはそのイメージを持っているけど、実際に映像にしようとすると、案外できないんですよ。
ほかにも、土埃や髪の毛の揺らぎなどは、映像で撮ろうとするとスポーツ特番の映像みたいになってしまうんです。もう少しいろいろな味わいがあってもいいのかなと思ったので、今回挑戦することにしました。
その手法をドラマで使うのは今回が初めてですか?
塚原 そうですね。アニメと実写では、やり方が全然違うのでおもしろいですよ。実写の1カットは、1回で撮ったものが1カットになりますが、アニメだと1カットに12枚くらいの絵コンテが必要になるそうです。だから、ちょっとした気持ちで頼んだものが、すごく大変だった…ということが乱発していて申し訳なさがありつつも、完成が楽しみです。アニメチームは今の日本のアニメーションを引っ張っている石浜真史さんたちなので、お互い学べればいいなと思います。
(石浜 真史:アニメ監督。アニメーター、キャラクターデザイナー、オープニング&エンディングディレクターとしても数多くの作品に参加しており、『進撃の巨人』『BLEACH』『SPY x FAMILY』などでも絵コンテや演出、作画を担当している。)
一話の放送が楽しみですね。高校球児役の役者さんたちは、演技初心者の方も多いですか?
塚原 結構いらっしゃいますね。でも、高校球児の皆さんは素のままで十分なので、あまり余計なセリフを言わせずに、必要なセリフだけ決めてくれればいいかなと思っています。
今回もご一緒されるプロデューサーの新井順子さんとは、これまでさまざまな作品を手掛けられてきましたね。タッグを組んでだいぶ長いのでは?
塚原 と思ったけど、そうでもないんですよね。監督とプロデューサーという立場で仕事するのは、ちょうど今年で10年です。もっと長くやってると思っていました。
視聴者からのリアクションが最大のやりがい
今回、塚原さんはチーフ監督として作品に携わっていますが、監督が3人いらっしゃる中で、チーフ監督というのはどんな仕事ですか?
塚原 作品の方向性を作るのがチーフ監督だと思います。例えば、サスペンスだとしたら色味はどうするのか、今回の『下剋上球児』だったらアニメを使ってみるとか、作品の味わいみたいな部分を決めるのが仕事です。ほかにもセットを作ったり、ロケ地を決めたりと、最初に線路を作って、あとはそれに沿って進めてもらいます。
チーフ監督とセカンド・サード監督は別の仕事と言えるくらい違いがあると思います。チーフ監督は、作家の先生と台本を一緒に作るので、作品を生むような感覚があります。今回はオリジナルドラマなので、特にそう感じますね。
監督の仕事という意味では、他の監督は違うかもしれませんが、私は現場のワークも含めて、役者さんがやりやすいような現場作りをするのが監督の仕事だと思っています。
役者さんには演技の具体的なアドバイスもしていますか?
塚原 するときもあるし、現場で考えてもらった方がいいときはあえてしません。タイミングと内容、役者さんによって対応は異なります。やっぱり、演じるのは私ではないので、本人に考えてもらうことを大事にしています。
後輩の助監督さんにも同じ対応をしています。彼らは将来の監督やプロデューサーなので、最後は自分でやってもらわないと困りますよね。だから、自分で考えてもらいたいんです。
良い上司ですね。どんなときに仕事のやりがいを感じますか?
塚原 ドラマを見てもらって、リアクションがあることです。楽しんでくれるだけで十分なのに、「あれおもしろかったよ」とか「犯人誰なの?」と言われたり、ストーリーに対する文句が送られてくることもあったり(笑)。世の中、褒められない仕事の方が多いと思うので、褒めていただけるのは本当に嬉しいですね。
これまでいろいろな作品を世に出してきましたが、今後やってみたいことは?
塚原 まずは、やりたいことと視聴者の方との距離感を忘れずに作っていきたいです。ちょっとふわっとしてしまいますが、映画や配信会社への展開を念頭に置いた作品作りに興味があります。今の時代はテレビ放映だけではないので、たくさんの人に楽しんでもらえるコンテンツをどう売っていくのか、やりたいことというよりも、どうしたら自分の作品を見てくれる可能性が広がるのかということを含めて考えていけたらなと思います。
ちなみに、今の段階でドラマの企画案はありますか?企画は常にあるのでしょうか?
塚原 ない人はいないと思いますよ。作品を作る人ではなくても、「こんなドラマ見てみたい!」というのはありますよね。そういう感じですよ。それと、好きなことがあれば、もうそれが企画の種になります。
ちなみに今回の『下剋上球児』は、新井プロデューサーの「高校野球が好き」というのが種でした。好きなことがない人はいないから大丈夫ですよ。パンが好きならパンのドラマをやればいいじゃない、ということです。
TBSスパークルなら、他局の番組や映画、CMなど幅広く活躍できる
ところで、塚原さんがドラマ業界を目指したのはなぜですか?
塚原 実は、大学4年間であまりやりたいことが見つからなかったので、一番最初に内定をいただけたスパークルの前身企業を選んだだけなんです。具体的なプランは考えずに就職活動をしていて、ほかにも出版や新聞などいろいろな業種を受けました。最初から自分がやりたいことをわかってる人なんているのかな。
就職活動していると、何が自分に向いてるのか悩むことがありますよね。
塚原 実際に働き始めてからでもおもしろいと思うところがきっと見つかるし、別の仕事が向いてると思えば変えればいい。スパークルには、マスコミ業界全体に興味があるというふわっとした感じで入ってくる人もいるので、そんなに固く考えなくていいと思います。なんとなく入ってきてのちに天職になるというパターンもかなり多いです。
それを塚原さんから聞けるのは心強いと思います。どんな学生でしたか?
塚原 私は普通の大学生でした。文学部だったので、周りにはマスコミ系を受ける子が結構多く、自分もなんとなく受けてみました。今の仕事につながるような映像系の何かをやってたわけでもないんです。
TBSスパークルで働く強みは何だと思いますか?
塚原 制作会社なので、他局の番組や映画、CMなどいろいろな仕事ができるところでしょうか。これはテレビ局ではなかなか難しいと思います。例えば、オリンピックの馬術のCMを撮ったことがあるのですが、作り方が全然違うので、刺激になりました。時代に関われた感じもおもしろかったです。
最後に、ドラマ業界を目指す若者に向けて、アドバイスをお願いします。
塚原 就職活動をしていると、どこを選べばいいのか、本当に自分に向いてるのか、悩みは尽きないと思いますが、始めてみるとまた違う世界が見えてくるので、怯えずにまずは飛び込むことをおすすめします。働き始めてから別の世界が見えた場合は、その道を選んでもいい。気軽な気持ちでおやりになられたらいいかと思います。
塚原あゆ子
TBSスパークル エンタテインメント本部 ドラマ映画部 プロデューサー・ディレクター エグゼクティブクリエイター職
1997年入社。これまで手掛けた作品は『グランメゾン東京』、『MIU404』、『着飾る恋には理由があって』、『最愛』など多数。
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