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『世界陸上』総合司会に初挑戦、TBS江藤愛アナウンサーの仕事観に迫る
2023年8月19日から、TBS系列にて『世界陸上2023 ブダペスト』の放送がスタート。今年はハンガリー・ブダペストを舞台に、全人類80億人の頂点を争います。
今回は新たにTBSアナウンサーの江藤愛と石井大裕が総合司会を担当し、高橋尚子さんがスペシャルキャスターを務めることになりました。そこで、江藤さんの『世界陸上』への意気込みや、アナウンサーとしての仕事観について聞きました。
『世界陸上』総合司会の抜擢は、アナウンサー人生で一番の衝撃だった
『世界陸上』の総合司会に決まったとき、率直にどんな心境でしたか?
江藤 とても驚きました。今年1月頃、当時のアナウンスセンター長に言われて「えっ!」と声が出たのをはっきりと覚えています。14年間アナウンサーを務めてきて一番驚いたことでした。どんな仕事がくるのか、普段はなんとなく想像がつきますが、今回は完全に想像を越えていましたね。
これまでも『世界陸上』の仕事には関わっていたんですか?
江藤 関わったことはありませんでした。年に一度のドラフトの特番や、WBCの事前番組に参加したことはありましたが、スポーツ中継にはほとんど携わったことがないんです。
今回、一緒に総合司会を務める石井大裕アナウンサーは世界中の陸上選手を取材してきているし、スペシャルキャスターの高橋尚子さんは陸上界のレジェンドです。それに対して私は陸上のプロではないので、視聴者に一番近い立場として、より『世界陸上』を身近に感じてもらえたらいいなと思います。
あまり経験のない分野を任されるのは苦労も多いと思います。どんな準備をしていますか?
江藤 毎週勉強会を開いてもらって、最初は「陸上の100 mとは」というところから始めました。ほかにも、資料を読み込んだり、大会へ取材へ行ったり、『TBS陸上ちゃんねる』を見たりしています。
これまで『世界陸上』の総合司会は織田裕二さんと中井美穂さんが担当されてきましたが、引き継ぐことにプレッシャーはありませんか?
江藤 もはやプレッシャーというものを飛び越えているような気がします。自分もずっと『世界陸上』を見ていて、織田さんと中井さん以外を想像していなかったし、きっと視聴者の皆さんも同じ気持ちじゃないでしょうか。
ですが、中井さんも「楽しんでね。すごく楽しいから」とおっしゃってくれましたし、今までテレビで見ていた世界中の超人が集まる大会を、目の前で見られるという貴重な機会を楽しみたいと思います。
今大会で注目している選手は?
江藤 まずは、今大会でメダル獲得が期待されている、やり投げの北口榛花選手です。北口選手は私が初めてお会いした陸上選手なんです。ものすごく表情豊かな方なので、北口選手が笑ってくれたらいいなと心から思っています。
また、3000メートル障害の三浦龍司選手にも注目しています。3000メートル障害はハードルなど4つの障害物と水濠(すいごう)という水たまりを越える陸上競技です。調べていくうちに、実は陸上の中でもおもしろい競技だと初めて知りました。実際に三浦選手を近くで見て、軽々と跳んでいく姿がすごくかっこよかったんです。どんな風に活躍するのか期待しています。
放送に向けて、視聴者にどんなことを伝えたいですか?
江藤 『世界陸上』にはたくさんの超人が集まりますが、選手と話してみると私たちと一緒だと感じる部分があるんですよ。例えば、コーヒーが大好きだけど、試合まで我慢していて、当日の朝飲むという選手がいたり、競技の前に毎回好きなアニメのポーズをとる選手がいたりと、こんなに肉体を極めているのにすごく人間味を感じます。
視聴者の方が『世界陸上』を通して陸上を好きになったり、こんな選手になりたいと思ったり、私たちのようにスポーツの大会を作る側になりたいと思ってくれたら嬉しいです。
仕事で一番意識するのは、“視聴者の気持ち“
アナウンサーという仕事のどんなところに魅力を感じていますか?
江藤 この仕事の醍醐味は「いろいろな人に会える」とか「歴史的な瞬間に立ち会える」とよく聞くかもしれませんが、何年アナウンサーをやっても、うまくいったことよりも失敗したときの記憶ばかり残るので、まだ私にはアナウンサーの魅力を語れないかなと思います。
でも、家にテレビがある人なら、朝起きたらニュースを見るためにテレビをつけるし、地震が起きたときにテレビをつけて確認する人が多いですよね。だから、アナウンサーの仕事はいかに視聴者の日常に寄り添って情報を伝えられるか、そういうところが私の考える『魅力』かなと思っています。
情報を伝える上で、心掛けていることは何ですか?
江藤 一番意識しているのは視聴者の気持ちです。わかりやすく伝えたいので、自分が視聴者になったときに、「これで伝わるかな?」といつも考えています。
ほかにも、自分が意図していなくても、自分の発言が誰かを傷つけてしまう可能性があるので、一言一言を簡単に発してはいけないなと思っています。例えば、たった一つの商品を紹介するのにも、その商品を企業の人がものすごく頑張って作ったと考えると、私も一生懸命紹介しようと思っています。また、番組制作にはたくさんの人が関わっているので、自分の一言で台無しにしたくないし、紹介したものは視聴者に興味を持ってもらいたい。そのお手伝いができればいいなと思います。
江藤さんは視聴者に対する愛情が深く、謙虚だなと感じました。なぜそう考えるようになったのでしょうか?
江藤 それはやっぱり視聴者の皆さんのおかげですね。自分が伝えていることで誰かが喜んでくれたら嬉しいですし、「わかりやすかった」「元気が出た」といった声が届くと私もものすごく元気が出ます。
それに、私はニュースを読むのも喋るのも苦手で、これまでたくさん失敗した経験があります。今でもあまり喋るのは得意ではないから、ずっと受験生のように一生懸命学び続けています。苦手だから、よかったのかもしれません。
将来を考えるよりも、目の前の仕事に全力で打ち込みたい
そもそもなぜアナウンサーになろうと思ったんですか?
江藤 一言で言うと、とても元気な姉の存在がきっかけです。姉は人前で喋ったりスポーツをしたりすることが得意で、2歳年上なので小学校から高校までずっと一緒でした。だから私が入学すると、姉のことを知る人から「あなたもお姉ちゃんみたいに元気なんだろうね」と言われてきました。でも私は、人前でリーダーシップをとるようなタイプではなく、いざ人前に出てもうまく喋れない。そんな自分が小学生の頃からずっと嫌でした。
そのまま中学生になり、あるとき、テレビでアナウンサーを見て「こんな風に人前で笑顔で喋れたらかっこいいな」と思い、アナウンサーを目指すようになりました。
学生時代はどんな風に過ごしていましたか?
江藤 私は大分出身で方言を使っていたので、両親から「アナウンサーになるには標準語を喋れないと無理だよ」と言われていたんです。だからまず東京の大学に進学しました。ほかにも、アナウンススクールに通ったり、テレビ局でアルバイトをしたり、一途にアナウンサーになるために大学4年間を過ごしたかなと思います。
アナウンサーを目指す人がやっておいた方がいいことは何でしょうか?
江藤 私もアナウンサーの先輩訪問で同じ質問をしたことがあるような気がしますが、「『やっておいた方がいいですか』って聞く暇があったら、もうやった方がいいよ」と言われたことがあります。たしかにその通りで、自分が後悔しないためにも、やりたいことがあるなら、悩む前に思いついたことをできる範囲で、まずは何でもやった方がいいと思います。
アナウンサーとして、将来はどう考えていますか?
江藤 将来のことを考えるより、今は目の前のことを大切にしています。若手の頃は担当してみたい番組や憧れのアナウンサー像もありましたが、自分は自分でしかないことに気づきました。理想を追うよりも、目の前にある仕事を心を込めてやっていくことが、自然と将来に繋がっていくと思います。アナウンサーの仕事が、私はとっても大好きです。
江藤愛
大分県出身、2009年TBSテレビ入社。『CDTV ライブ! ライブ!』『ひるおび』『THE TIME,』などを担当。8月19日開幕の『世界陸上2023ブダペスト』、9月23日開幕の『アジア大会 中国・杭州』の総合司会をつとめる。