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TBSラジオ橋本吉史が語る、体験型アプリやVTuber企画の裏側

TBSラジオは、Podcastをはじめ、放送にとどまらない挑戦を続けています。そこでラジオ界のキーマンの一人、「橋P」こと橋本吉史プロデューサーに、最近手掛けた街歩き体験型アプリとVtuber企画の裏側、そして自身のラジオ人生について聞きました。

「EAR WE GO!」は『タマフル』のとあるコーナーから着想


2023年5月、TBSラジオは三井不動産、株式会社バスキュールと3社合同で、新しい街歩き体験の創出を目指す、音声AR技術を活用した体験型ラジオアプリ「EAR WE GO!」の実証実験を行いました。TBSラジオ側でこちらを手掛けたのが橋本さん。

「EAR WE GO!」は、パーソナリティが街を歩きながら収録した音声を、リスナーの位置情報に応じて自動再生することで、一緒に街歩きを楽しんでいるような体験を提供する、新しい音声サービスです。

「EAR WE GO!」ビジュアル

「EAR WE GO!」の開発経緯を教えてください。

橋本 このプロジェクトは、日本橋で街づくりを推進されている三井不動産さんのスマートシティ検討の一環として始まりました。打ち合わせが始まったのは、去年の10月頃です。こちらのスマートシティプロジェクトのサポートをされていたバスキュールさんから、彼らが有している音声で現実世界を拡張するデジタル技術「音声AR」とラジオの知見を掛け合わせた、新しい街歩き体験を一緒に創りませんか?と、TBSラジオにお声がけをいただきました。

パーソナリティの音声を聴きながら、実際にパーソナリティが通ったルートを歩くという、この仕組みは何から発想を得たんですか?

橋本 話を聞いて、僕が立ち上げを担当した『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』(『アフター6ジャンクション』の前身番組、通称『タマフル』)の「俺の黄金コース」という企画がぴったりだと思いました。このコーナーでは、「この街に行ったら、このコンビニに寄って、この公園に行く」みたいに、出掛けるときに通る自分なりのコースを募集していたのですが、これを実際の街に当てはめて音声コンテンツを作れば、その人なりの街の楽しみ方を体験できるので、街を歩くときの視点が様々にあることがわかり、行き慣れた街も無限に楽しめる。また、それをきっかけにコミュニティが生まれ、街の活性化につながっていくだろうなというイメージも湧きました。

他の音声ARとの違いは?

橋本 「EAR WE GO!」は、アプリをスタートすると、リスナーの歩く場所がリアルタイムで検知されて音声が流れるシステムです。歩くだけで音声が切り替わるので、体験者はボタンを操作することなく、パーソナリティと一緒に散歩しているような感覚を味わえます。また、今回は特別な仕組みを使って位置測位の精度を高め、かなり小さな範囲の中で音声コンテンツを出し分けることに成功しています。そのため「点=スポット」で音を聞くというこれまでのアプローチとは異なり、「線=道」で、歩く風景とシンクロした音声を聞くことができるという体験を生み出せました。こうした体験は意外とありそうでないんです。

それと、これは他サービスとの差別化とは異なる点かもしれませんが、音声のみだからこその没入感があるのも特徴かと思います。「この場所にこの人がいたんだな」という残留思念のようなものも体感できるので、普通のラジオとも異なり、音声コンテンツとしても新しいと思います。

苦労した点は?

橋本 ガイドをしながら街ブラトークをするのは結構大変でした。音声のみでルートを伝えたかったので、うまく誘う必要があるし、無機質なガイドだとおもしろくないので、仲のいいスーパー・ササダンゴ・マシンさんに協力してもらってラジオっぽい喋りにこだわりました。あとは、音声をどこにどんな順番で置けば途切れずに聞かせられるのか、など、悩みどころは多かったです。

ラジオでは、外で収録した音声を編集してオンエアすることはありますが、実際に街を歩きながら収録した音声を聞きながら追体験してもらうのは初の試みだったので、作り方を作るような感覚でした。でも、やったことないことをやるのは好きなので、ワクワクしながら作りました。

実証実験の結果はいかがでしたか?

橋本 『アフター6ジャンクション』のリスナーに体験してもらったら、満足度が90%以上というすごい数字が出ました。実装に向けて前向きに進むのではないかと期待しています。音声ARを使ったサービス自体はよくありますが、ラジオらしさを盛り込んだ街歩き体験というのが珍しかったようで、体験会でもすごく反響がありました。

橋本吉史プロデューサー

『⾦曜ワイドラジオTOKYO えんがわ』では、VTuber配信がスタート

7月7日から、『⾦曜ワイドラジオTOKYO えんがわ』(以下『えんがわ』)のVTuber配信が始まりました。この施策が始まった経緯は?

橋本 VTuberはアニメや声優さんの文脈で語られがちなジャンルですが、顔を出さずに視聴者とコミュニケーションをとるという意味ではラジオに近いコンテンツだと思っていました。

また、TBSラジオでは、すでにラジオの音声をYouTubeで配信していますが、リスナーに音声だけの止め絵の画像を流すことに若干の申し訳なさと、もったいなさを感じていました。そんなとき、ちょうど参加していた「カラーパレット推進室」という社内横断プロジェクトで提案したら、みんながおもしろがってくれて、トントン拍子で実施に至りました。

VTuber施策の第一弾に『えんがわ』を選んだのはなぜですか?

橋本 いかにもVTuberが出てきそうな番組よりも、一番縁がなさそうな番組の方がギャップがあっておもしろそうだったからです。『えんがわ』は、「今聞いたら新しい「ラジオ東京」を次の世代に受け継ぐ、懐かしいを新しいものにしていく」というコンセプトなので、一見かけ離れているようでいて、実はやるべき理由もあるという。

アバターも、なるべくご本人のイメージとは違うように意識しました。だから、玉袋筋太郎さんのアバターは美少年にしたんです。玉さんのガラガラ声ですごい美少年だったらおもしろいなって。「にじさんじ」の葛葉さんみたいな、美少年なのに親しみやすい感じにしたら人気になりそうだなと思いました。

リスナーの反響はいかがでしたか?

橋本 YouTubeのコメント欄を見る限りでは、戸惑う人もいましたが、「これは化けそうだな」と書いてあったのは嬉しかったですね。ちゃんと明確なビジョンを持ってやってるので、わかってくれたんだなと思いました。

橋本吉史プロデューサー

今後は視覚障害者との番組制作や、ゲームや映画とのコラボにも意欲

橋本さんは番組制作だけでなく、音声を起点としたさまざまなプロジェクトに携わってますが、企画はどんなときに思いつきますか?

橋本 企画は常に考えていますが、インプットがあるときや、誰かと会話してるときなど、何か刺激があるときに思いつくことが多いですね。僕はどちらかというとラジオ以外のインプットが多くて、映画や音楽、本、YouTubeや生配信なども含めてありとあらゆるものを見ています。デスクにじっと座っていて思い付くことはほぼないです。

いろいろなプロジェクトを手掛けるようになるまで、下積み時代はどう過ごしていましたか?

橋本 どのポジションにいたとしても、言われたことだけをやるのではなく、自分なりの考えやスタンスを持つようにしていました。「自分だったらこうするのに、なぜそうなってないのか」というのがわかると、自分の言葉や考え方で、ビジョンを持ってコンテンツをよりおもしろくするための動き方も見えてくるので、すごく大事な作業だと思います。

企画書も若手の頃からどんどん出していましたか?

橋本 出していましたが、よっぽどすごい内容じゃないと企画書だけ出しても伝わらないことが多いので、企画をジャッジする人に直接プレゼンするとか、採用されやすい環境を作るように意識していました。

あとは、何かやりたいことがあるなら、自分に裁量がある領域でできる限り実験的なことをやっていくのが一番の近道だと思います。例えば、僕がRHYMESTERの宇多丸さんと番組を立ち上げられたのも、当時僕が担当していた『ストリーム』という番組にメインパーソナリティの代打やゲストとして宇多丸さんに出てもらったのがきっかけです。まずは自分ができる範疇でトライアルをはじめ、小さく失敗してノウハウを積んでいくと、大きな企画の成功につなげられるので、常に何かを実験していることが大事だと思います。

今後はどんなことをやりたいですか?

橋本 視覚障害のある方と一緒にラジオを作ってみたいです。というのも、ラジオは音声がアウトプットなのに、作り手である僕らは、原稿のテキストができた段階で安心したり、どうしても見えることを前提に話してしまったりする傾向があるように思います。

例えば、誰が話しているのか伝えるなら、「私は」ではなく「橋本は」と言った方がわかりやすいですし、服装について話せば見えてなくても音声だけで人となりが想像できる。そんな風に、ラジオにはどんな情報が必要なのか、視覚障害者の方々と組むことで気付きが得られると思うんです。

また、ラジオや雑談を文字に起こした文字コンテンツはおそらく需要があると思っていて、そういった「見えるラジオ」のようなものを消費するのも、ラジオを楽しんでいることになるのなら、ラジオは音声コンテンツだと思い込むことすら実は違うのかもしれない。なので、もっと言えば、「ラジオは聴こえない人たちにも楽しんでもらえる」。もっとできることはたくさんあると思うので、いろいろなことを試していきたいです。

ほかにも、ゲームや映画など、世界規模で予算が大きいエンターテイメントと、どローカルな規模が魅力なラジオのコラボレーションで新しいものが生み出せるのではないか、と思っていたりします。

最後に、就活生にアドバイスをお願いします。

橋本 好きなものを突き詰める経験は絶対に役に立つので、好きなものがある人はそれに徹底して時間を使った方がいいです。学生時代は自分が好きなものがわかってる人は勝ち組で、それが見つからない人が迷うんだと思います。でも、僕は見つからなくてもいいと思うんです。その中でも何かしら「これをやっているときは時間を忘れる」「この瞬間が心地よい」など、何かヒントがあるはずなので、それが何かを冷静に分析すると、自ずと何か見えてくると思います。そのためにはインプットが必要なので、とにかくいろいろなことを試してみる。その中にラジオが入ってたら嬉しいですね。

TBSラジオは本当にいろいろなことができるので、チャレンジ精神のある人にはすごく向いています。もはやオールドメディアではないので、新しいことを考えられる人に来てほしいです。

橋本吉史プロデューサー

橋本吉史
2004年TBSラジオ入社。「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」「ザ・トップ5」「ジェーン・スー 相談は踊る」「ジェーン・スー 生活は踊る」「都市型生活情報ラジオ 興味R」「アフター6ジャンクション」を立ち上げる。2020年開始のPodcast番組「ジェーン・スーと堀井美香のOVER THE SUN」コンビを「ザ・トップ5」時代に結成。本格音声コンテンツ制作プロジェクト「Audio Movie®」プロデューサーとしても活動し「JAPAN PODCAST AWARD2020エンタメ部門大賞」受賞。現在は番組編成および新規事業プロデュースなどを担当。ACC TOKYO CREATIVITY AWARDSラジオ&オーディオ広告部門・審査員もつとめる。

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