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世界マスターズ水泳で現役復帰へ、元オリンピアン藤丸真世の挑戦
2023年8月に開催される世界マスターズ水泳に、2004年アテネオリンピック・アーティスティックスイミング競技(旧名:シンクロナイズドスイミング)で銀メダルを獲得した藤丸真世が出場します。彼女は2006年からTBS社員として働いていますが、なぜこのタイミングで現役復帰するのでしょうか。その理由や、大会への意気込みについて話を聞きました。
現役復帰を決めた、小谷実可子さんの存在
今回の世界マスターズ水泳で復帰を決めたのはなぜですか?
藤丸 引退後は会社員と家庭の2つを軸に生活をしていましたが、泳ぐことは好きなので、常に泳ぎたいという気持ちはずっとありました。そんな中、復帰をしようと思った一番の理由は、今回デュエット(※2人で演技を行う種目)を組むことになった小谷実可子さんの存在です。
小谷さんとの出会いは?
藤丸 小谷さんとは同じ東京出身ということもあり(当時は大阪出身の日本代表選手ばかりで)、現役時代は可愛がっていただきましたが、引退後はなかなかお会いする機会はありませんでした。そんな中、スポーツニュースの仕事で小谷さんがプロデュースするカウントダウンシンクロショーの取材を頼まれ、再会することになりました。
ショーで泳ぐ小谷さんを見て、思わず「私も泳ぎたいなぁ…」と湧き出る思いを言ってしまったら、「真世ちゃんも次は一緒に泳ごうよ」と言ってくださって。当時は、仕事と子育てで手一杯。「じゃあ、練習だけでもどう?」とあたたかい言葉をもらって練習だけ参加することにしました。久しぶりの練習は選手の時と違って、すごく楽しくて。水に入って生き生きした私を見て、小谷さんが小さなショーを開催することを考えてくれたんです。引退してから初めて自分で曲を決めて、演技を作り、小谷さんに覚えてもらって一緒に泳いだら、最高に楽しかった。
その後、コロナの影響で水泳界も観客入りの試合ができなくなり、大きな打撃を受けました。すると、小谷さんから「水泳界を盛り上げたいんだけど、何かできない?」と相談されたんです。何か新しいことをして注目を集めたいと思い、「元シンクロ選手と元競泳のオリンピアンと一緒に泳ぐのはどうでしょう?」と提案しました。これが大盛況で、新聞やニュースでも取り上げていただき、OB・OGも含めて水泳界が盛り上がりました。
これを機に、毎年8月の「東京都水泳の日」や「Kosuke Kitajima cup」でエキシビションをさせていただいてます。マスターズ大会があると知ったのもこの頃です。当初はデュエットではなく、チームメンバーに入って練習をしていました。でも、コロナで大会自体が延期になったことで、お互い年齢が1つ上がり、2人合わせたら平均50代の部で出場できると判明したんです。それで、他のメンバーから「2人のデュエットなら金メダル狙えるんじゃない?」と言われました。
それでデュエットで出ることになったんですね。
藤丸 はい。最初は小谷さんから「エキシビションもしてるし、この流れで真世ちゃん、デュエット組んじゃおうか」と言われ、「え!こんなにお互い時間がない中で無理ですよー」と咄嗟に返したんです。でも、小谷さんと組めるなんてもう一生ないよな…と思い、だんだん私の方がやる気になってしまって。「冗談半分、本気半分ですけど、やっぱり組んでみませんか?」と連絡したら、「私、やる。今年は夢見る1年にしよう」と返信がありました。小谷さんからOKの返事をいただいたときは、感動しましたね。
出場を決めたのはいつ頃ですか?
藤丸 昨年12月に出場を決めましたが、本番が翌年だから準備が足りないねという話になって。小谷さんはたくさんの委員を務めていらっしゃって物凄く忙しい方ですが、「お互いお母さんだし、仕事もあるし、自分たちのできる範囲で精一杯やって、できてもできなくても恨みっこなしね」と約束して始めました。
TBSの秘書部で働きながら、仕事終わりや土日に練習に打ち込む
出場を決めてから大会まで1年もないとは驚きです。平日は普通にTBSで働いてらっしゃるんですよね。
藤丸 はい。平日はもちろん毎日フルタイムで働いています。土日は練習時間から逆算して子どもの用事や家事をします。最初はやりくりが下手でへロヘロになっていましたが、今は「ここの掃除は後でいいや」と思ったりして、少し手を抜くことも覚えました(笑)。時間の使い方が前より上手くなったと思います。
現在、TBSでは秘書部に所属しています。どんな仕事をされていますか?
藤丸 主に役員のスケジュール管理や調整です。私は常務担当で、社内外の方との連絡や調整、車の手配、会議室の予約や、会食の手土産、慶弔関係や御礼状や御案内状を作ったり、庶務業務全般をやっています。この仕事は楽しいという表現は変かもしれませんが、自分が役に立ってると感じられるのは嬉しいですね。「ありがとう」と言っていただけますし、やりがいがある良い仕事だなと思います。
その合間に練習をしているんですよね。どんな練習をしてるんですか?
藤丸 選曲から始めて振り付けを作り、それを小谷さんに動画で送って、覚えてきてもらって週末に2人で練習するという流れを繰り返しやってきました。演技が出来上がってからは、細かく合わせながら、苦しすぎるところを短くしたり、技術点を上げるために少し速い動きを入れてみたりと修正を重ねました。さらに、本番に向けて泳ぎこみ、泳ぎ慣れる練習を進めていきます。
練習時間はどれくらい確保できましたか?
藤丸 現役時は10時間以上練習してましたが、今はスケジュールやプールの都合上、水中の練習時間は最長でも2、3時間。その他は陸上で音楽合わせをしたり、練習後にごはんを食べながら自分たちの演技を見ながらミーティングしたり、それでも長くて4時間くらいでしょうか。2人で練習できるのは多くても週2日なので、それ以外は個人トレーニングです。私は朝早く起きてランニングしたり、会社から帰宅して夕飯を作って子どもたちに「食べてね!」と言い残してから泳ぎにいくこともあります。でも、さすがに現役時代のようには身体が動かないので、2人で「背中痛いね、腰痛いね」とか言いながら、湿布を貼ったりマッサージに行ったりと、ケアをしながら頑張っています。
この大会は予選会がなく、ぶっつけ本番なのは少し不安ですが、できる限りのことをやっていきたいと思います。
仕事と子育てを両立させつつ、練習もあると大変そうですね。
藤丸 小谷さんの行動力に引っ張られている感じですね。年齢が10歳以上離れているので、体力的にはつらいはずなんです。でも、私が「もう一度ここを練習しましょう」と言ったら、どんなときも前向きに取り組んでくださいます。さすがだな、と思うことばかりです。私が引っ張らないと行けない立場なのに、と思うと弱音は吐けません。
競技会出場は2004年以来、再び頂点を目指す
そもそも藤丸さんがシンクロを始めたきっかけは?
藤丸 3歳からスイミングスクールに通い始めたのですが、そこに競泳とシンクロクラスがありました。私は当時から泳ぐのが好きだったし、一緒に習い始めた兄よりも泳ぎが速かったようなので、選手コースに誘われたんです。母が「女の子だしシンクロがいいな」と思ったそうで、競泳ではなくシンクロクラスの方へ入会することになりました。
それが今まで続いてるのはすごいですね。
藤丸 そうですね。ずっと好きで続けていたと思っていたのですが、当時の日記を見返すと、何回も「つらい」と書いてありました(笑)。小学6年生の文集には、「オリンピック選手になれなかったら私はどうやって生きていけばいいんだろう」と書いてあったんですよ。当時は当時で悩んでいたんだろうなと。オリンピックまで諦めずによく頑張ったなと思います。
子どもの頃はどれくらい練習していましたか?
藤丸 最初は習い事として週2~3日、3時間くらいでしたが、クラスが上るごとに増えていき、高校からは毎日練習していました。高校1年の時からは海外の試合にも選ばれるようになり、長期の合宿にも参加するなど、シンクロはが生活の一部になっていました。平日は朝練して学校に行って学校が終わったら練習に行くのが毎日のルーティンで、帰宅は23時頃でしたね。
どんなところにシンクロの楽しさを感じますか?
藤丸 水中で自由自在に動けるところだと思います。泳ぐだけではなくて、逆さになって足を回すことは、すごく楽しいんですよ。それと、水の中だと「無」になれるのもすごくいいと思います。ストレスが溜まったときも、泳いだら忘れちゃうんです。
最後に、世界マスターズ水泳の意気込みをお願いします。
藤丸 現役復帰というと少し大袈裟ですが、点数をつけられる競技会に出るのは2004年以来なので、仕事と子育てを両立させながら一歩踏み出しました。子育てが落ち着いてきたこのタイミングに世界マスターズ水泳が日本で開催されるのも運がいいですし、まだ泳げる状態でこのチャンスを掴めたのはよかったと思います。
小谷さんとは、「とにかく頂点を狙おう」と約束しました。メダルは後からついてくるから、私たちが今持ってる力を全部発揮したいです。
藤丸真世
2004年アテネオリンピック・アーティスティックスイミングで銀メダルを獲得。2006年にTBSテレビ入社。スポーツ局12年、その後広報部を経て現在は秘書部にて勤務。仕事と子育てをしながら、オリンピアンとしても多方面にて活躍。今年は世界マスターズにも挑戦。
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