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『発表!ウチの県の大事ケン』総合演出・塩谷暁充の紆余曲折を振り返る

TBSでは、7月17日から、『発表!ウチの県の大事ケン』の放送がスタートします。この番組は、47都道府県のうち1つの県に密着取材を行い、県民が全国に伝えたい“大事ケン”(=大事件)を発表する地域密着型バラエティ。今年2月に一部地域限定で放送しましたが、6月27日の特番を経て、期間限定でレギュラー番組に昇格しました。

番組の総合演出を手掛ける塩谷暁充に、番組へのこだわりや番組を任せられるまでの経緯などを聞きました。

『発表!ウチの県の大事ケン』は物語調にこだわり、他局との差別化を意識

塩谷さんが『発表!ウチの県の大事ケン』の総合演出を頼まれた時の心境は?

塩谷 都道府県にまつわる番組というと、他局の番組と差別化するのは難しそうだったし、自分がこれまでやってきた番組とは違うタイプなので、最初は引き受けるのが怖かったです。でも、社内的にご支持をいただける形となり、プライム帯での放送もさせていただけてよかったと思います。

番組へのこだわりは?

塩谷 ディレクターの皆さんが撮ってきた街行く人たちのインタビュー(以降、街録)をただ並べていくのではなく、一人一人が手にしてきた「証言」として物語調にして、ときにその答えにたどり着くという作り方にしたことです。いろいろな街録を聞いてメモしながら順番を並び替えていく作業はすごく大変でした。普通のことを言ってる人もたくさんいましたが、ちゃんとおもしろくなるように、点をつないで線にする作業を頑張りました。視聴者の方にはあまり見たことのないタイプの番組だと思っていただけたようです。

その甲斐あってか、先日、雑誌「日経エンタテインメント!」の次世代ヒットメーカー100人という企画に塩谷さんも選ばれていましたね。

塩谷 仲良くしている放送作家さんが選んでくれたみたいです。『アイ・アム・冒険少年』の作家さんなので、日々の業務を見て評価してくれてたんだなと思います。

『冒険少年』といえば、「脱出島」という企画でケンドーコバヤシさんを担当したら、その後のラジオで「久々に骨のあるディレクターだった」と僕のことを褒めてくれたんです。それがネット記事になったときは、もう辞めてもいいと思ったくらい嬉しかったですね。ちょうどその頃、『発表!ウチの県の大事ケン』の特番の話をいただけたんです。そうやって少しずつ自信をつけてきた感じですね。でも、ここに来るまでは制作者として全然、順風満帆ではありませんでした。

TBS塩谷暁充

入社後はバラエティと報道局で悩むも、配属先は…

塩谷さんはプロボクサーとして活動されていた時期があったと聞きました。なぜTBSに入ろうと思ったんですか?

塩谷 TBSに入りたかったというよりも、「テレビ局って楽しいんだろうな」と思って受けたら受かっちゃった感じです。自分は普通の仕事を淡々とこなせるタイプではないと思っていたし、テレビは普段から見てたので。ボクシングを始めたのも、TBSの『ガチンコ!』を見たのがきっかけです。

TBS塩谷暁充・プロボクサー時代
プロボクサー時代


入社当初からバラエティを志望していたんですか?

塩谷 そうですね。バラエティやお笑いが好きというよりも、単純に何でもできそうだなと思って。でも、入ってからは、バラエティと報道で悩んでました。結果的に、最初の配属先はスポーツ局でしたが。

最初は希望が通らなかったんですね。

塩谷 プロボクサーだったからか、最初の配属先はスポーツ局の格闘技班でした。ただ、スポーツをするのは好きだけど、見る方はあまり興味がなかったので、周りとの温度差を感じていました。

でも、東日本大震災の影響でスポーツ局の仕事が動かなくなったとき、報道のお手伝いとして取材に同行させていただけたのはよかったと思います。現場での仕事にすごくやりがいを感じたし、当時の上司には「今なら報道に行けるよ」と言っていただきました。ただ、自信がなかったので正式なお達しが来るまでは行かないでおこうと思っていました。

TBS塩谷暁充


限界集落での出来事を機に、仕事に対する意識改革が起きる

バラエティ制作部に行ってから、ADの仕事はいかがでしたか?

塩谷 気が利かないのでADの仕事が本当にできませんでした。いろいろな方にご迷惑をかけたので、誰からもかわいがられず、なぜ異動させられないのかわからない状態でした。辞めようか悩んでいたというより、辞めたつもりでいたくらいです。

そこからどうやって意識が変わったんですか?

塩谷 実は、わけあって限界集落に住んでいた時期があったんです。そこにはエアコンがないので夏は室温40度超え、冬は0度で自然が容赦なく襲い掛かってくるところでした。

そんな生活の中で、ある日、猫が爪を使ってねずみが死ぬまで遊んでいる様子が目に入りました。それを見て、人間は勝手に「動物は無駄な殺生しない」と思い込んでいるけど、そんなの嘘。自然界の中では「命」なんて使い捨てだと思いました。

でも、なぜ人間は命を大事にしようと思い始めたのか、仮説を立てました。太古の時代、人間も他人の命なんて何とも思っていなかった。気に入らなければ強い者が弱い者を殺してたんだろうなと。だけど、殺されることが怖い人が「命って大事だよね?」と気付いた。

そこから、命を大事にしようというルールができ、そのルールを「信用」するなかで助け合いが始まり、助け合うために物々交換が始まった。だんだん物々交換が面倒になり、紙や石などに「同等の価値があると信用」し、お金が使われるようになる。「命が大事だって信用しよう」という考えから、みんなで助け合い、「価値が同じだと信用」して物々交換をするようになる。その「信用の度合いを絶対値化」したものが「お金」だと気付きました。稼いでいるのはお金じゃなくて信用で、信用を稼ぐことが働くことだとわかってから、働き方が変わったんです。

思わぬところから意識改革が起きたんですね。

塩谷 それで、信用を稼ぐ方向に人生をシフトチェンジしようと決めました。

僕はものづくりが好きで、人の心に刺さるものを作るのはすごく楽しんでやっていました。だから、「ものを作ることにおいて人から信用してもらえる人」になろうと。Photoshopを独学で勉強したり、4~500万円かけてドローンやシネマカメラを買って試したりと、良い画を作るために一生懸命努力しました。その様子をフリーの人たちが評価してくれるようになったんです。

徐々に信用されるようになってきたんですね。

塩谷 VTRは少しずつ作れるようになったけど、相変わらず局内ではうまくやっていけませんでした。さすがにもう辞めようと思いましたが、当時の部長に「もうちょっとやってみたら」と言われて、何となく頑張らせてもらっていました。

そんなある日、『東大王』の制作に関わることになりました。今までの積み重ねがあったので、編集に苦労することは特になかったですし、一番大きいのは、この番組で初めて総合演出の方にハマったことです。企画提案したら喜んでくれて、こうやって総合演出の方と会話していいんだと知りました。その後、『冒険少年』を担当することになります。

TBS塩谷暁充


『冒険少年』の現場で急激に編集力が身に付き、人生が変わる

『冒険少年』に関わるようになった当初の様子はいかがでしたか?

塩谷 そもそもこの番組に興味がありました。僕は趣味でよく釣りをしているし、農業経験もあるし、親の実家が漁師で、小さい頃から海に潜っていたからアウトドアの知識はほぼ身に付いています。それに『東大王』での経験をあわせて企画を提案してみたら、総合演出の方に「やる気あるね」と言ってもらえました。

この時期から急に編集力が上がったという実感もあります。当時、作る人間として信用を得たいのに、編集ができなくて悩んでいました。合コンでするエピソードトークは盛り上がるのに、VTRでは盛り上がらない理由がわからなくて。考えてみたら、合コンでのトークにも頭の中に台本があると気付きました。それなら、ロケ現場で見てきたものを合コンでのおもしろ話にしてみようと、しゃべり言葉をそのまま台本化したんです。そしたら、そこに「構成」があると気付きました。

「構成」と言われると難しく捉えてしまいますが、「笑い話」にすると作れるんですよね。これに気付いてからは急に評価してもらえるようになり、いろいろな企画を任されるようになりました。

人生が変わったんですね。

塩谷 過去には異動の話もあったようですが、周りの方々のおかげでここまで来れました。会社に入ってから今が一番楽しいかもしれないですね。制作の人たちに愛されてるなと感じます。

最後に、就活生にアドバイスをお願いします。

塩谷 よく後輩たちにも言っていますが、誰かに気に入られようとせず、自分なりのやり方でいけるとこまでいって、だめならそれは仕方ないと思います。自分なりのやり方で人に信用してもらうための努力をしてるなら、あとはなるようにしかならない。本当にLet It Be状態です。

TBSは、ちゃんと頑張ればなんとかなる会社なので、夢を持って入ってきてほしいです。肩肘張らず、やりたいことをまっすぐにやればいいと思います。

TBS塩谷暁充

塩谷暁充
北海道出身
札幌手稲高校を卒業後、法政大学へ
2010年 TBSに入社し現在は『アイ・アム・冒険少年』『ラヴィット!』『発表!ウチの県の大事ケン』で演出・ディレクターを務める

発表!ウチの県の大事ケン

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