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AD時代に漫画家デビュー、TBSドラマプロデューサー磯山晶が若手だった頃
TBSのドラマプロデューサー・磯山晶は、2023年6月22日に配信がスタートしたNetflixドラマ『離婚しようよ』のプロデュースを担当しました。これまで、『池袋ウエストゲートパーク』や『俺の家の話』、『100万回 言えばよかった』といった人気ドラマを多数プロデュースしてきましたが、どんな若手時代を過ごしてきたのでしょうか。TBSのドラマ制作を志望する若者に向けたメッセージもあわせて聞きました。
憧れのドラマ部に配属されるも、ADに向いてないと気付き…
磯山さんはなぜTBSに入ろうと思ったんですか?
磯山 ドラマが好きだったからです。特にTBSのドラマは『ふぞろいの林檎たち』や『想い出づくり。』といった、大人っぽくてドキドキする作品が多くていいなと思っていました。
入社当初は何をしていましたか?
磯山 ドラマ部に配属されて、最初はドラマのADをしていました。どうやってドラマを作るのか、全然勉強しないで入ったので、実際にドラマを描いているのは脚本家だと知ってものすごくがっかりしたんですよね。脚本家との打ち合わせでプロデューサーがどんなことを話して脚本が作られているのか知らなかった。それに、ADの仕事があまりにも向いていなかったので、自信を喪失してディレクターになるまで続けられないと思っていました。
ADに向いてないと思ったのは、具体的にどういうところですか?
磯山 例えば、朝、エキストラさん分のお弁当を100個頼むのを忘れたことに気づいて、必死にコンビニで買い占めてなんとかしたのに、昼の分も忘れてることに気付かないとか…。信じられないですよね(笑)。失敗しない日もあったと思いますが、とにかく向いてなかった。
ADは「このシーンの背景に電車を通したい、そのためにはこのセリフの間に電車が通過するように調整しなきゃいけない、とすると電車がホームから発車する時には、その二つ前のセリフを喋っててもらう」というように、タイミングを測るのが仕事で、そんな離れ業を簡単にこなせる先輩を神かと思いました。最初の頃はこれが続くなら、一生プロデューサーになれないと思っていました。
でも、ものすごい倍率をかいくぐってTBSに入ったのに、仕事ができないから辞めるのはかっこ悪いと思っていて。だから、別の道に進むという理由でかっこよく辞めるために、こっそり漫画の新人賞に応募しました。漫画は高校生の頃に描いていたんです。
応募したのはどんな漫画ですか?
磯山 主人公は小説家志望の25歳くらいの男の子。同居している厳格な父親はポルノ小説家、母親は後妻で主人公よりも若くてセクシーな女性。ある日、その家に主人公が45歳の彼女を初めて連れて来た…という家族の話です。同期に見せたら「えらい作家が片手間に書いたエッセイみたいだね」と言われて(笑)。ダメじゃん!と思いましたが、とりあえず応募してみました。
新人賞を勝ち取り、漫画『プロデューサーになりたい』の連載がスタート
それで、結果はどうでしたか?
磯山 賞をいただいて担当編集者もついたんです。だから、これを足がかりに連載を手に入れて、会社を辞めようと思っていました。ところが担当さんに「絶対に辞めない方がいい。今の生活を漫画にしなさい」と言われてしまって。そこから『プロデューサーになりたい』という漫画の連載が始まりました。ただでさえ現場の才能がないのに、隔週連載で漫画を描かなきゃいけなくなってしまって当時はすごく辛かったです。でも、独自の表現媒体を持ったことで他の社員にはない強みができたのはよかったと思います。ちなみに、漫画の内容は実話の部分が多かったので、上司からは「いつまで描くの?」と言われてました(笑)。
磯山さんは発想力が豊かなので、ご自身で脚本を書けそうな気がしますが、そうしなかったのはなぜですか?
磯山 漫画を描いたことで自分の才能の限界をめちゃくちゃ感じたんです。例えば、どうしても描きたいコマがあるとして、そこに至るまでの段取りがありますよね。それを描くのが本当に苦手というか面倒くさいんですよ。でもドラマでも才能がある人は、その段取りもおもしろくしてくれるし、うまく処理してくれます。
撮影のときも同じです。撮りたいシーン以外は誰か撮ってくれないかなと思ってしまう(笑)。ディレクターに向いてないと思います。漫画もドラマもそういう説明の積み重ねで成立しているんですけどね。
ADをやっていたのはどれくらいの期間ですか?
磯山 ADは全部で3年間やっていました。でも、1年目終わりで体調不良になってしまったので、バラエティに異動になり、ドラマ部にはAPとして戻りました。
何年経っても見られるようなドラマを作りたい
現在はプロデューサーとして多数の人気ドラマを手掛けています。今後のキャリアはどう考えてますか?
磯山 『池袋ウエストゲートパーク』が、放送から20年以上経っても配信で人気だと聞いてとても嬉しかったです。これからもいつまでも見てもらえるようなドラマを作っていきたいと思います。地上波放送のドラマはもはや視聴率何%取ればいいのかわからなくなってきているし、深夜帯や配信も含めると、見切れないほどたくさんのドラマがありますよね。低予算のドラマをたくさん作っていても、そのうち淘汰されるような気もするので、企画をすごく練ってからある程度お金をかけて、確信を持って作りたいです。その方が作品のクオリティや制作能力の高さを示せるので、じっくりとIP開発していった方がいいと思います。自分がやるべきだと思うものに対しては熱くなれますし、どうせ作るなら作る意義のあるものに取り組みたいですね。
TBSでドラマ制作を志望する就活生や若者にメッセージをお願いします。
磯山 TBSは自社制作能力が高いんです。他の局の方が、系列の制作会社と外部の制作会社が作っている割合が高いと思います。TBSドラマはTBSとTBSスパークルでほぼ作っています。二つの会社はいろいろな意味で距離が近いし(私も今、スパークルに出向中です)、人材交流も盛んなので、ドラマ作りがしたいなら実際に作るポジションにつきやすい気がします。
TBSは先輩方から引き継がれた、欧米にもアジアにも負けないコンテンツ作りのノウハウを持っていると思っています。そのノウハウに加えて、若い作り手が若くて才能のある脚本家と運命的に出逢えれば、配信のドアも開いた今、今後の日本の(というか世界の)ドラマのトップランナーになれる可能性があると思います。運命の相手とタッグを組んでお互いに切磋琢磨していけば、誰にも真似の出来ない作品ができるんじゃないかと。
というか、引き継がれたノウハウなんて無視していいので、ビックリするドラマも見たいです。地上波と配信との過渡期、なんでもアリなので、ぜひ、目立ってください!
磯山晶
東京都生まれ。『池袋ウエストゲートパーク』(2000年)、『木更津キャッツアイ』(2002年)『タイガー&ドラゴン』(2005年)『空飛ぶ広報室』(2013年)『恋はつづくよどこまでも』(2020年) など数多くのテレビドラマをプロデュース。『俺の家の話』(2021年)で2021年度芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。