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TBSドラマプロデューサー磯山晶に聞く、Netflixドラマ『離婚しようよ』誕生秘話
TBSスパークルは、初のNetflixオリジナルドラマ作品として『離婚しようよ』を制作(制作著作:TBSテレビ)。2023年6月22日から全世界配信がスタートしました。同作のプロデューサーを務めたのは、TBSのドラマプロデューサー・磯山晶。ドラマの制作の裏側について聞きました。
宮藤官九郎の一言で離婚をテーマに決めた
『離婚しようよ』の企画は、いつ頃から始まりましたか?
磯山 2019~2020年頃です。配信ビジネス等を担当するうちのDXビジネス局がNetflixとTBSの共同で作品を作る計画を立てていて、「今度社内で企画を募集するから応募してほしい」と言われました。直接頼まれたので「落ちたら恥ずかしい…絶対に通さなきゃ」と思って企画書を出しました。
ストーリーはどうやって生まれましたか?
磯山 今Netflixに並んでるドラマって、復讐をテーマにしたものなどどちらかというと暗い作品が多いですよね。笑えるドラマはすごく少ない。だからコメディを作りたかったのと、ラブストーリーも絡めたいなと思い、最初に宮藤官九郎さんに相談しました。そしたら、Netflixに『マリッジ・ストーリー』という夫婦の離婚のプロセスを描いた映画があるんですが、そういう仲の悪い夫婦のドラマなら書きたいと言われて。その瞬間、離婚をテーマにしようと決めました。夫婦の話は世界共通の興味の対象であり、悩みでもある。離婚した方が幸せな人も絶対いるはずだし、もはや離婚したら失格なんて風潮はないと思うので、作中では離婚をマイナスな方向だけでは捉えていません。
タイトルは『結婚しようよ』という吉田拓郎さんの名曲からいただいて(拓郎さんに許可も取りました)、『離婚しようよ』になりました。
今回は宮藤さんと大石静さんの共同脚本ですね。
磯山 宮藤さんと話していて、女性のシニカルでクールで現実的な目線が必要なんじゃないかという話になり、大石さんにお声がけしました。お二人にはそれぞれ違った強みがあるし、素晴らしい才能の持ち主だから「もっとこうしたら面白くなるんじゃないですか?」といった応酬はすごく楽しかったです。
一話の豆まきシーンは大三島の大山祇神社で盛大に
地上波の連続ドラマとNetflixで作り方に違いがありましたか?
磯山 4K、HDR、5.1chと納品形態や技術的な部分がすごく違いました。Netflixには、地上波では問題にならない程度の、バグや画素値などクオリティコントロールを細かくチェックしている人が世界中にいるので、その審査に通らないとダメだと最初にかなり脅かされたので(笑)不安な部分もありましたが、撮影や編集など現場的にはあまり違いはありませんでした。話数は、こちらは慣習的に10話がいいと主張したのですが、先方は8話が見やすいと。折衝の結果、全9話となりました。まあ、正解は無いと思うのですが…。尺にはまったく制限が無いと言われました。単純に視聴者に負荷がかからないようにと考えて、60分前後に落ち着きました。オンエア尺にはめるという地上波の編集の苦しみはなかったですね。
撮影の様子はいかがでしたか?
磯山 2022年3月1日から7月の1週目くらいまで、約4ヶ月間撮影していました。ロケ地は東京と愛媛、千葉ですね。脚本をすべてあげてから撮影に入る、というのがNetflixの決まりなので、途中で本打ちも無い、地上波ドラマと違って番宣も無い、並行して手掛けていた作品もなかったので、集中して撮影に立ち会えました。
物語の舞台を愛媛県にしたのはなぜですか?
磯山 まず選挙がドラマの大きな要素のひとつなので、自転車で走り回るようなドブ板選挙の様子が絵になる地方がいいなあと思っていました。また、仲里依紗さん演じる黒澤ゆいの出世作を『巫女ちゃん』というドラマに決めたので、神社の存在が大きなところがいいなあと。そこで中国・山陰地方などでいろいろ考えていたところ、愛媛の良いところをたくさん聞く機会がありまして…。これもご縁かと思いました。松坂桃李さん演じる東海林大志の地元は、愛媛5区という架空の選挙区の設定で、松山、宇和島、今治と…それこそ愛媛の綺麗な風景を全部いいとこ取りしたような謎の地域となっています(笑)。
特に印象的なシーンは?
磯山 一話の最後の方にある豆まきのシーンです。このシーンは大三島の大山祇神社(おおやまずみじんじゃ)というところをお借りして撮影しました。国指定の重要文化財の建物も多く、樹齢2600年のご神木もあって、本当にいるだけですごく良い気持ちになるパワースポットなのです。そこに雨を降らすために散水車やバケットクレーンを境内に入れて、豆まきのための舞台を美術さんが建てて、何百人ものエキストラさんとともに撮影させていただきました。本当によく許可してくださったと、しみじみ感謝しています。
非常に大変でしたが、とても良いシーンが撮れました。このシーンがうまくいったことは、私たちにとってすごく自信になりました。しまなみ街道の途中にある大三島にある神社なので、行くのに少々時間がかかりますが、ドラマを見てここに来る方が増えたら少しは恩返しになるのかもしれないと思います。
見どころは登場人物たちの悲喜こもごもな人間模様
設定やキャラクターはどうやって作っていきましたか?
磯山 いまどき、離婚したいのに世間体を気にして出来ないっていう夫婦はそんなにいないですよね。特に、海外は日本よりも離婚に抵抗がないと思うので、海外の視聴者の目線も考えると、簡単に離婚できない理由を作る必要がありました。それで主人公夫婦を政治家と女優にしたんです。夫は選挙のために地元で人気のある妻と別れられない、妻は「奥さんCM」を何社も抱えているから良い妻イメージを崩せない、仲が悪くてお互いに好きな人がいても簡単に別れられない。この理由なら世界共通で理解してもらえるだろうし、こういった枷があると人間って変な行動に走りがちなので、見てて面白いかなと。それに「なんで別れちゃいけないの?絶対別れようね!」と、一致団結するところも矛盾していていいなと思いました。
愛媛の三世議員・東海林大志を松坂桃李さん、その妻で女優の黒澤ゆいを仲里依紗さんが演じます。この2人をキャスティングした狙いは?
磯山 松坂さんは失言が多いけど悪気がない、脇が甘いお坊ちゃま議員の役を嫌味なく可愛げたっぷりにやってくれそうだなと思いました。シュッとしててかっこいいのに頼りない、それがだんだん頼れる人に変化していきます。
仲さんには絶大な信頼を置いているので、絶対に仲さんがいいなと思っていました。女優役を面白がってくださるというか、真剣にやってるのに面白いって難しいですが、振り切って演じてくれました。
宮藤さんと大石さんも、以前の作品でそれぞれお二人とご一緒した時の信頼関係もあったと思いますし、描きやすいというのもあったと思います。3人でイメージをしながらキャラクターを作っていきました。
ほかにも個性豊かなキャラクターが揃っています。
磯山 主人公夫婦の結婚観も個性的ですが、その親の世代もまた全然違います。大志の父は地元の代議士で愛人がたくさんいたけど、母は「選挙に勝って、隣で万歳できるのは私だけ。あちらこちらの女とは格が違うのよ」という価値観の人だし、ゆいの母は、子どもが7人いるけど、その父親は全員違って一度も籍を入れたことがない。「どんなに愛し合っても男は生物学的には他人だけど、子どもは違う。一人の男を一生好きでいるなんて絶対に無理」という考えの持ち主です。ほかにもいろいろな人が登場し、それぞれの思惑があるので、その悲喜こもごもな人間模様にぜひ注目してください。
磯山晶
東京都生まれ。『池袋ウエストゲートパーク』(2000年)、『木更津キャッツアイ』(2002年)『タイガー&ドラゴン』(2005年)『空飛ぶ広報室』(2013年)『恋はつづくよどこまでも』(2020年) など数多くのテレビドラマをプロデュース。『俺の家の話』(2021年)で2021年度芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。
■Netflixシリーズ「離婚しようよ」
2023年6月22日(木)よりNetflixにて全世界独占配信中
作品視聴ページ:https://www.netflix.com/jp/title/81476361
制作プロダクション:TBSスパークル
製作著作:TBSテレビ