2022年10月期の火曜ドラマ『君の花になる』（以下、君花）は、元高校教師が崖っぷち7人組ボーイズグループ「8LOOM（ブルーム）」の寮母になり、共にトップアーティストを目指す青春ストーリー。

劇中に登場する8LOOMは、歌番組やライブに出演するなど実際に期間限定でアーティスト活動を行っていたことも話題に。彼らの人気は放送後の今も衰えることを知りません。

この企画を立ち上げたのは、TBSドラマ制作部の黎景怡と宮﨑真佐子。どんな経緯で進み、どんな思いがあったのでしょうか。

『君花』は推し活ブームに後押しされて誕生した

劇中のボーイズグループが実際に活動するという発想はどうやって生まれたんですか？

宮﨑　最初に話が出たのは2020年10月頃で、推し活が話題になっている頃でした。そこで推したくなるようなボーイズグループを作って、ドラマに登場させるだけでなく、実際に音楽活動ができたらおもしろいよねという発想から企画しました。

ボーイズグループを作るならオーディションの段階もドキュメンタリーにできるし、歌番組にも出たい、ライブやファンミーティングもしたいなどを考えて、ドラマのストーリーも並行して考えていきました。

8LOOMメンバーのオーディションはいかがでしたか？

黎　オーディションでは就職面接みたいにグループディスカッションを取り入れました。台本を用意してどの役をやるか相談して決めてもらうんですが、限られた時間で、しかもプレッシャーがすごい中、それぞれがどうやってチームワークを築くのかを見ていました。

宮﨑　ボーイズグループとしてのオーディションなので、バランスはもちろん、集団行動をする上でお互いへの配慮や敬意を払えるかどうかを重視していました。

1年にわたるグループ活動を見ていてどうでしたか？

黎　彼らは最初に出会った頃から、徐々に信頼関係を築いて本当のチームになるまでいろいろなフェーズを経ながら、青春してたと思います。私たちも青春したんですけど。「こんなに泣く？」っていうくらい泣きましたよね（笑）。

宮﨑　ライブイベントももちろん感動しましたけど、ファンミーティングで8LOOMのファンの方々、つまりドラマの視聴者の方々を直接見たときは泣きそうになりましたね。お見送りでメンバーが手を振ると興奮して倒れそうになっている方もいて、こんなに喜んでくれているんだって感動しました。今まで視聴者の方の姿を生で見ることはなかったですから。

黎　視聴者の方とリアルに交流すると、報われたと実感できるんですよね。この取り組みは視聴者やキャストだけでなく、作り手側にもすごく良い影響があると思うので、他の番組でも試してみてほしいです。

数々のコラボに加え、日本のドラマとして初めて「KCON」に参加も

グッズ展開も幅広かったですね。

宮﨑　グッズ展開は早い段階からこの企画をやろうと決めていたおかげで、社内のいろいろな部署の方が声をかけてくれました。コラボに関しては諸先輩方の伝手が実を結んだものが多くありますね。

ブランチカフェとのコラボはいかがでしたか？

宮﨑　メンバーカラーのドリンクやメンバーの写真入りコースターなど、誰のメンバーカラーのドリンクにしようか迷ったり、どのメンバーのコースターが出るか一喜一憂したり、ファンの方はこうやって楽しんでくれるんだなと知りましたね。

ここまで展開できたのは、作品がコラボレーションに向いているのも大きいですか？

宮﨑　そうですね、それはボーイズグループの強みでもあります。例えばサスペンスドラマで登場人物が7人いたとしても、ここまでのグッズ展開は難しいかもしれません。

8LOOMはKCONという韓流文化コンテンツが体験できる総合型イベントに参加しましたね。これは日本のドラマでは初めてですが、参加してみていかがでしたか？

黎　まず最初にドラマの情報解禁をした直後の5月にブース出展という形で参加しました。開催1週間くらい前に参加を発表したので集客できるか心配でしたが、結果的に行列ができるほどの大盛況でした。

初回放送3日前の10月15日にも参加して、今度はブースの出展に加えてステージの出演ができました。そこで8LOOMが初めてドラマのメインテーマソングを披露して、外部のメディアにも多数取り上げていただきましたし、パフォーマンス映像がKCONのYouTubeチャンネル（登録者数106万人）に公開されているんですよ。その動画が今、TWICEなど世界的にヒットしてるアーティストに次いで第4位の人気動画になっています。2月にNetflixの世界配信が始まってからは、その動画に海外の方からコメントが増えてきて、ちょっと不思議な感覚です。

こうやってYouTubeに動画を残すのはPRとして効果的ですし、海外の方はTBSの公式YouTubeチャンネルにたどり着くまで少しハードルがあると思うので、今後どんどんやっていきたいですね。

挑戦を推進するTBSだからこそ、『君花』が実現した

振り返ってみて何が一番大変でしたか？

宮﨑　ドラマを作りながらグループ活動も展開するのは前例がないので、「これにこんなに労力をかけていいんだっけ？」とは常に考えていました。結果的にすごく人気が出たのでよかったですが、最初は本当に賭けでしたね。

黎　8LOOMは絶対売れると信じて全て本気でやっていましたが、ドラマのストーリーとのバランスをとるのが難しかったです。

宮﨑　グッズをたくさん作ったり、ライブなどのイベントをしたり、ドラマでやるのは初めてでしたが、TBSにはノウハウを持った人たちがたくさんいるので、部署の垣根を越えていろいろな人が協力してくれました。普通にドラマを作っていたら関わらない部署の方々に出会えてよかったですね。

黎　社交辞令かもしれませんが、いろいろな芸能事務所さんからも「この企画はTBSにしかできない」と言われたんですよ。今思うと、まだ知名度の低い新人俳優を火曜ドラマにキャスティングできたのは、普段から挑戦を推進しているTBSだからだと思います。企画自体も、今後他局が真似しようとしてもなかなか難しいかもしれません。

『君花』を見て、ドラマ業界を志す若者が増えるかもしれません。就活生にアドバイスをお願いします。

宮﨑　いろいろなところに行って、いろいろな経験をして、いっぱい遊んで、とにかく幅広い分野の知見を貯めておくことが大切だと思います。

黎　就活していると「ここに受からなかったらこの世界はもう終わりだ」と思う時があるかもしれませんが、全然そんなことはなくて、違う道がいくらでもあると知っていてほしいです。

あと、これは社会人になってからのアドバイスですが、長く続けるためにはメリハリをつけて仕事に取り組むのがおすすめです。現場で疲れてしまう人には真面目な性格の子が多くて、全てに100％で打ち込んで、ボロボロになってしまう…この先、絶対報われることはあるので、あまり自分を追い詰めないでうまくやっていってほしいと思います。

黎景怡
コンテンツ制作局ドラマ制作部。2015年入社。「この恋あたためますか」「ドラゴン桜」「君の花になる」などでプロデュースを担当。

宮﨑真佐子
コンテンツ制作局ドラマ制作部。2008年入社。「恋はつづくよどこまでも」「大恋愛～僕を忘れる君と」などでプロデュースを担当。現在は4月スタート「ペンディングトレイン」を制作中。