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「ドキュメンタリーはドラマより遥かにドラマチック」TBSドラマプロデューサー佐井大紀が映画『日の丸』『カリスマ』を撮って感じたこと
「TBSドキュメンタリー映画祭 2023」が3月17日から東京、大阪、名古屋、札幌にて順次開催されます。『カリスマ~国葬・拳銃・宗教~』を含む全15作品が公開予定です。
昨年の「TBSドキュメンタリー映画祭 2022」で公開された映画『日の丸~寺山修司40年目の挑発~』は現在公開中。外部メディアに取り上げられるなど話題を呼んでいます。
この2作品を監督したのはドラマ制作部・佐井大紀。ドキュメンタリー映画祭に参加した経緯や作品に込めた思いを聞きました。
答えを出さないことにこだわった『日の丸』
映画『日の丸~寺山修司40年目の挑発~』は、1967年にTBSで放送されたドキュメンタリー番組『日の丸』の現代版ともいえる作品です。『日の丸』を初めて見た時の印象は?
佐井 『日の丸』は、是枝裕和さんの書籍「映画を撮りながら考えたこと」で初めて知りました。今のテレビは視聴者にとって心地よいものを作るという大前提がありますが、『日の丸』は挑発的で、見た後も気持ち悪さが残るような感覚がありました。
劇中、佐井さんは「日の丸の赤は何を意味していますか?」「あなたに外国人の友達はいますか?」「もし戦争になったらその人と戦えますか?」など挑発的な質問をされています。撮影中、どんなことに苦労しましたか?
佐井 まず、インタビューに答えてもらえないことですね。身分を名乗らずにいきなり質問するのがこの作品のテーマでしたが、昨今は我々も視聴者の皆さんも、メディアリテラシーや肖像権などの理解が深まっているので、何の脈絡もなく質問を投げかけられると無礼だと感じてしまう。だから300~400人に声をかけましたが、最後まで答えてくれて、映像の使用許可を得られたのは30~40人。僕もインタビューするのは緊張しますし、相手から淀みなく回答が来ると怯んでしまう瞬間もありました。
構成も非常に苦労しましたね。僕は日本の過去と未来を比べることによって、日本人や日本の姿が浮かび上がると思いましたが、どうやらそうじゃないと取材中にわかりました。結局、これをどうすればいいのか悩む道筋をそのまま提示したので、本来のドキュメンタリーとは違うものになったと感じています。
公開後、どんな反響がありましたか?
佐井 日本人は日本や日の丸についてあまり語ろうとしないので、それに対して「一石を投じるすごく良い映画だ」という意見もあれば、「監督が自らの日の丸に対する思いを表明してないのは不公平だ」という声もあります。
でも、大いなる問いになろうとするのが寺山修司のテーマなので、僕は答えを出してはいけないと思うんです。見る人に問いかけることが寺山や見る人に対して一番誠実だと思ったので自分の考えを表明しませんでした。
『カリスマ』が生まれたのはドラマの撮影現場にいたエキストラがきっかけ
『カリスマ~国葬・拳銃・宗教~』はどんな作品ですか?
佐井 これは元々『エキストラ』というタイトルでした。僕がドラマのADとしてエキストラさんに芝居をつけていた時に、私達も社会や組織という枠組みの中のエキストラではないかと思ったんです。それで、みんなは自分の人生の主役として生きているのかと問いかけるインタビューを始めました。
その取材の間に、安倍元首相の国葬がありました。ある種、日本の主役である安倍元首相に対し、不適切な言い方ですが、その周りにいる我々日本人の多くはエキストラだと思いました。国葬から連想するのは、山上被告の銃殺事件です。さらに、拳銃というキーワードで永山則夫を思い出しました。
ネグレクトを受けた永山と、政治と宗教の歪んだ社会構造から生まれた山上被告。2人とも拳銃を使った殺人犯です。拳銃を持ったからおかしくなったのか、逸脱していたから拳銃で犯罪を犯したのか、というのも興味が湧いて、永山則夫を深堀することで山上被告を浮かび上がらせようとしました。
また、山上被告が苦しんだ旧統一教会の問題を聞いて、イエスの方舟という集団の事件を思い出しました。これは千石剛賢という男が聖書の勉強会を開いて、そこで家出少女を囲って、日本全国を逃げ回った事件です。
こうしてエキストラに焦点を当てていたけど、徐々に浮かび上がるのは安倍元首相や千石剛賢のようなカリスマ的存在です。つまり、永山則夫を見ることによって、山上被告が浮かび上がり、イエスの方舟を見ることによって旧統一教会が浮かび上がる。全然関係ないようなものを追いかけているようで、別の見たいものが見えてくる様子を連ねていったのが『カリスマ』です。言葉では説明していませんが、そういう構造になっています。
『日の丸』も寺山修司の不在によって寺山を浮かび上がらせましたが、『カリスマ』は個人のアイデンティティに突っ込んでいますし、ただのインタビュー形式の作品とは少し違いますね。
山上被告から永山則夫の事件を思い出す20代の方は珍しいように思います。以前から知識はあったのですか?
佐井 永山則夫という固有名詞は60年代のカルチャーを探っているうちに浮かび上がってきましたね。センセーショナルな事件でしたし、「社会が永山則夫という殺人鬼を生んだんじゃないか」といろいろな文化人が論じていました。
60年代は世の中のいろいろな仕組みが変わって、既存の価値を破壊して再構築していく流れがあったと思います。世間で正しいと言われてるものを少し疑ってかかるとか、心地良いとされるものを壊すのが性格的に好きなんです。90年代も少し似ていると思いますし、さらに30年経って、今2020年代なので心地良いですね。
これからもドキュラマを撮っていきたい
そもそもドラマのプロデューサーがドキュメンタリーを作ろうと思ったのはなぜですか?
佐井 『日の丸』や『あなたは……』などのドキュメンタリーを見て、少し前衛的で文学的なドキュメンタリーを作ってみたいと思っていたところ、3年前にTBSドキュメンタリー映画祭が始まり、全社的に企画を募集していたので出してみました。
普段はドラマ部でドラマ制作をされていますが、ドキュメンタリーを作ってみて共通点を感じることはありましたか?
佐井 僕にとってドキュメンタリーとドラマは全く同じですね。強いて言うなら、ドキュメンタリーの方がドラマよりはるかにドラマチックだと感じました。
ドキュメンタリーを作るのは、取材対象や内容をこちらで決めて撮影し、編集するので、すごく主観的で暴力的な行為だと思うんですよ。取材対象は撮られていると意識しながら話すし、何気なく話したことも、ズームをかけたりカットを変えたりと編集したら、すごく重要なことを言っているように見えてしまう。その人が発した言葉だけど、こちらでアレンジしているので、ドラマよりもむしろフィクションだと思います。
今後はどんな作品を作りたいですか?
佐井 寺山修司が使っていたドキュラマ(ドキュメンタリー+ドラマ)を作りたいですね。ドラマなら例えば「サ道」とか「孤独のグルメ」はドラマとドキュメンタリーが混ざったような感じですし、実際にあるお店に行くのも虚実入り混じっていていいなと思います。
■TBSドキュメンタリー映画祭
https://www.tbs.co.jp/TBSDOCS_eigasai/
■映画「日の丸」
佐井大紀
2017年TBS入社、ドラマ制作部所属。「Get Ready!」など連続ドラマのプロデューサーを務める傍ら、朗読劇「湯布院奇行」の企画、ラジオドラマの原作や文芸誌「群像」への寄稿など、活動は多岐にわたる。監督を務めた映画「日の丸~寺山修司40年目の挑発~」が公開中。また新作「カリスマ~国葬・拳銃・宗教~」が3/17公開。