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なぜテレビ局が教育事業に?TBS社長・佐々木卓&Kバレエカンパニー熊川哲也が考える、次世代のためにできること

TBSグループのEDGE戦略におけるエクスペリエンス領域の最重要項目の一つが、知育・教育事業です。昨年10月、事業推進に向けて学びNEXT事業部が新設されました。

学びNEXT事業部は2月9日、佐々木卓TBSホールディングス代表取締役社長と、株式会社Kバレエ代表取締役社長で、Kバレエカンパニー芸術監督の熊川哲也さんによるスペシャル対談を開催。TBSが知育・教育事業に乗り出す理由を話しました。(聞き手:蓮見孝之アナウンサー)

TBSが今、次世代のための知育・教育事業に乗り出そうとしている理由は?

佐々木 実は、知育・教育は昔からやっていたことなんです。「世界ふしぎ発見!」や「どうぶつ奇想天外!」などの番組を作っていたクリエイターたちの底流には、番組を通して「学校で教えてくれないことを人に教えたい」という思いがありました。なので今後は番組の外に広げていきたいと思ったのが一つ。

それと、若手社員とのランチミーティングで「教育ジャンルをやりたい」と言った方が結構いて背中を押されましたね。若手が本気でやってくれるなら、僕らも本気で頑張れると思いました。
 

佐々木卓TBSホールディングス代表取締役社長

 

佐々木社長が一会社員だった頃と現在で、子育てに対するテレビの役割の違いを感じることはありますか?

佐々木 大きな変化は感じていませんが、昔よりいろいろなメディアがあるので、僕らがちゃんと強くメッセージを届けないと相手には伝わらないだろうなというところが違うと思います。

KバレエカンパニーはTBSと業務提携し、世の中に対してどんなメッセージを届けようと意識していますか?

熊川 クラシックバレエの世界は形式美であり伝統の世界ですので、普遍的でなければいけないというのがありますので、無理に変化を求める必要はないとは思います。ただ、変化に対応できない人はやっぱり取り残されてしまう。その変化に対応できる柔軟性と感受性は、TBSさんと業務提携したことで強化されるのだと思います。
 

左から熊川哲也氏、佐々木卓TBSホールディングス代表取締役社長

 

佐々木社長はどんなお子さんでしたか?

佐々木 僕はプロ野球選手を目指していました。でも中学受験を機に小学4年生から急に週6日塾へ通うようになり、視力が急激に下がってしまったので、野球をやめて人生が大きく変わりました。

中学時代もスポーツは続けていたものの、背が低いのがコンプレックスでした。そんな時、新聞で当時住友銀行にいた宿澤広朗さんを見かけました。銀行にはラグビー部がないのにオールジャパンに選ばれていて、身長も当時の僕と同じ163センチ。彼を見てラグビーをやるしかないと思い、そのために勉強するようになりました。
 

佐々木卓TBSホールディングス代表取締役社長

 

熊川さんの幼少期はいかがでしたか?

熊川 僕は北海道で小学4年生からバレエを始めました。バレエを好きになったのは、踊っていたときに「空気に浮いている」と感じた瞬間です。孫悟空が筋斗雲に乗るように、飛んだときに余裕を感じました。それが6年生の時。

当時全道でバレエをやっている男の子が3人しかおらず、コンクールに出ても張り合いがありませんでした。でも東京には僕よりうまい子がたくさんいて、そこから練習に励みました。実はスイス・ローザンヌに行くまでコンクールで日本のコンクールで優勝したことはないんですよ。

その後、ローザンヌ国際バレエコンクールで日本人初の金賞を受賞されますが、そこまでの経緯は?

熊川 実はその時には既に英国のロイヤル・バレエ学校に1年間留学していました。外国の先生の目に留まれば海外への切符をもらえるはずだと思い、北海道にいたときから外国の先生の講習会は必ず受けていたのですが、スイスのハンス・マイスター先生の講習会を受けた時に、君は日本で留まる才能ではないと言われ、英国に推薦いただけました。でも当時は1ポンド270円、しかも英国人の学費は無償なのに外国人は有料で大変高額、1年で学費が尽きてしまった。

すると、ロイヤル・バレエ学校から奨学金を出すと申し出があり、もう1年残ることになりました。その後、ローザンヌにも参加するように勧められたわけですが、僕が世界中から注目されるコンクールで多くのバレエ団の目に留まり、スカウトされる前に囲っておきたかったのか、コンクール出場前にロイヤル・バレエ団の方からプロ契約をオファーされました。それが15~16歳の頃なので、今思うと大人の政治的なゲームの渦中にいたのだなと思います。
 

熊川哲也氏

 

当時の熊川さんは日本人としてどういうマインドで外国の方たちと同じ舞台に立っていましたか?

熊川 当時の英国には第二次世界大戦を経験した方が大勢いて、今思えば日本人として差別されていたと思いますが、あの時は「構ってくれてありがとう」と、僕はポジティヴに捉えていました(笑) でもネガティヴな方や気が弱い方だと落ち込むかもしれない。要するに性格というかタイプの問題だと思います。

TBSにもいろいろなタイプの社員がいるので、それぞれどう育てていくのかが大事ですよね。

佐々木 そうですね。TBSグループには7000人の仲間がいるのが最大の強みで、それぞれの個性がぶつかり合えば絶対にプラスになると思います。

熊川 でも企業はなぜか学歴主義社会で、バラエティさがないですよね。これからの時代は偏差値も特性もさまざまな、それこそ“いろいろなタイプ”の人が一つの枠の中で何かを作り上げていくのが大事だと思います。
 

左から佐々木卓TBSホールディングス代表取締役社長、熊川哲也氏

 

佐々木 そう思います。今後は採用の仕方をガラッと変えて「TBSっておもしろい」と思う人に来てもらえるようにしたいです。

タイプを見極めるにはどうしたらいいと思いますか?

佐々木 やっぱり熊川さんの突出した才能や個性が人を見極める力につながっていると思うので、凡人の私が人の才能を見極めようとするには多くの人と出会うしかない。僕は数で勝負するしかないので、熊川さんのポジションが羨ましいです。
 

熊川哲也(くまかわ てつや)Tetsuya Kumakawa K-BALLET COMPANY 芸術監督 

北海道生まれ。1987年、英国ロイヤル・バレエ学校に留学。89年、ローザンヌ国際バレエコンクールで日本人初の金賞を受賞。同年、英国ロイヤル・バレエ団に東洋人として初めて入団。91年には同団史上最年少でソリストに、93年にプリンシパルに昇格。数々の名演を残し、名実共に世界的ダンサーとしての評価を確立する。98年、英国ロイヤル・バレエ団を退団。翌99年、K-BALLET COMPANYを設立。以来、芸術監督/プリンシパルダンサーとして団を率いるほか、演出・振付家としても才を発揮し、全幕古典作品の演出・再振付や、オリジナル全幕作品「クレオパトラ」や「蝶々夫人」などの新作を数多く発表。2013年、紫綬褒章受章。
 

佐々木卓(ささき たかし) (株)TBSホールディングス、(株)TBSテレビ 代表取締役社長

早稲田大学法学部卒業後の1982年、東京放送(現TBSテレビ)入社。北京支局長、「筑紫哲也ニュース23」プロデューサー、経理局長、グループ経営企画局長、編成局長などを経て、2015年TBSテレビ取締役。16年常務取締役、17年専務取締役。2018年6月から現職。一般社団法人日本民間放送連盟副会長。東京都出身。
 

 

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