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「ずっと変わらず、あたらしい。」TBSラジオは開局75周年!新聞記者やQuizKnockのキャリアを持つデジタル戦略担当者が語るラジオの“これから”

2026年に開局75周年を迎えるTBSラジオ。「ずっと変わらず、あたらしい。」をテーマに、これからさまざまなコンテンツを発信していきます。

2026年4月1日(水)には、開局75周年特設サイトをオープン。TBSラジオのこれまでを「音」で振り返るコンテンツなどをお届けしています。

新しい取り組みや、開局75周年のデジタル・プロモーション施策を担当している、TBSラジオの野口みな子に話を聞きました。

政治報道の丁寧な積み重ねで、有料配信企画が好調に

まずは、野口さんの普段の業務内容を教えてください。

野口 私はデジタル戦略部とコンテンツ制作局ニュース部を兼務しています。

まず、デジタル戦略部は2025年4月にできた新しい部署です。ラジオはこれまで長らく地上波放送での広告収入を主な収益源としてきましたが、デジタル戦略部では、近年注目が高まっているPodcastのほかYouTubeなど、デジタル広告などの新たな収益を拡大するための取り組みを行っています。その一環として、私が主に担当しているのは「BtoC施策」です。

ニュース部では、『荻上チキ・Session』(毎週月~金曜 ごご5時~よる8時)のディレクターを務めてきました。特集の放送内容を決めたり、ゲストをブッキングしたり、台本を作ったりというのが主な業務です。

必要な場合は記者として動くこともあります。記者会見に出席して質問したり、台風など災害時には現地からリポートしたりすることもありました。4月からは番組のプロデューサーのひとりとして、引き続き番組制作に関わっています。

デジタル戦略部でBtoC施策として行っている、リスナーに向けた新しい取り組みは、どんな内容でしょうか。

野口 はい。2024年10月の衆議院議員総選挙から始まった、開票特別番組(※2024年特設サイト)放送後に実施する有料オンライン配信の「アフタートーク」企画です。

私は2回目となる2025年7月参院選(※2025年特設サイト)での配信からプロデューサー兼ディレクターを担当して、3回目の2026年2月衆院選(※2026年特設サイト)の配信も引き続き担当しました。

2026年2月、衆院選の際に配信した「アフタートーク」企画
2026年2月、衆院選の際に配信した「アフタートーク」企画

選挙当日、TBSラジオでは開票特番を生放送し、各党の党首・幹部の皆さんへのインタビューを次々とお届けしています。特番はパーソナリティーの荻上チキさんのほか、論者としてさまざまな専門家やリスナーの思いを代弁してくれる出演者をお迎えし、各党に記者や技術スタッフを派遣するなど、事前取材や準備を含めてTBSラジオのニュースに関わる人たちの力を結集して制作しています。一方で、必要なコストカットはしているものの、質の高い番組制作を持続的に行うための制作費が課題となっていました。

また、特番では政治家とのやりとりがメインになるので、どうしてもスタジオの出演者の方々が話す時間が限られてしまいます。各党へ取材に行っている記者の中継も、番組内では約1~2分ずつしか時間がとれませんが、長い時間をかけてさまざまな情報を取材してくれています。

そうした生放送特番で紹介しきれなかった論点や取材の裏話などをお届けする一つの形として、有料配信でのアフタートーク企画をスタートしました。

リスナーからはどのような反響がありましたか?

野口 結果として、回を重ねる中で配信チケットを購入して視聴してくださる方の数が大きく伸びました。

理由の一つは、プロモーションを強化したことです。開票特番に注目が集まるように、普段の放送のほか、番組との新たな接点となるようなショート動画を作ったり、SNSで告知したりと力を入れました。どれも当たり前のことですが、一つ一つ丁寧におこないました。

加えてリスナーの皆さんが、これまでのTBSラジオの報道に対して信頼感を持ってくださって、応援してくれたからだと感じています。実際に終えて反響などを見ると、生放送で政治家とのやりとりを聞いたリスナーさんが抱えた思いを持ち寄る「場づくり」にもなっていたとも思います。

ニュースや報道は、サービスの対価としてマネタイズするのがやや難しいジャンルですが、「TBSラジオの報道を支えたい」というリスナーの皆さんの気持ちが、持続可能な選挙報道につながっており、良い循環が生まれているように感じています。

野口さんが担当している『荻上チキ・Session』でも、普段から政治の情報を積極的に扱っていますよね。

野口 そうですね。普段の放送から「聴く国会」というコーナーで国会の質疑の音声をじっくり取り上げていますし、政策や社会課題ごとにゲストに有識者をお呼びして解説していただいたりと、政治に関する情報の発信を続けてきました。

また、選挙期間中、メディアはより一層各党を公平に扱うことが求められますので、多党化が進んだ今はどうしても、一つ一つの情報量が少なくなってしまいます。ですが、有権者としては投票前にできるだけ多くの情報を知りたいのではないでしょうか。

そのため、『荻上チキ・Session』では、2024年の衆院選のときから選挙前に特別な特集を組んでいます。ここでは政党要件を満たす政党の党首や幹部に電話でそれぞれ政策や公約についてインタビューするという、選挙当日の特番さながらの内容を事前に放送してきました。番組では「選挙特番」ならぬ、「選挙“前”特番」と呼んでいて、2024年の衆院選では1日だけの放送でしたが、その後の参院選、衆院選では2夜連続放送に拡大しています。この特集は、リスナーの皆さんからの質問を直接政治家に投げかけられる機会としても、たくさんの反響をいただいています。

こうした積み重ねも、有料配信の成功に結び付いたのではないかと思います。

TBSラジオ野口みな子

ほかにも、取り組んでいるBtoC施策があるそうですね。

野口 最近ではTBS Podcast『ジェーン・スーと堀井美香の「OVER THE SUN」』の会員サービス「互助」の立ち上げに関わっています。2020年に始まったこの番組は、パーソナリティーのジェーン・スーさんと堀井美香さんが、「互助会員」と呼ばれるリスナーの皆さんと、まさに「互助」の精神で連帯して作りあげてきました。リスナー参加型の「大運動会」や武道館でのイベントなども大盛況で、「第7回 JAPAN PODCAST AWARDS」では大賞を受賞しています。

そんな番組から「会報誌を作りたい」というアイデアをもらい、番組の「会報誌」が紙で届いたり、デジタルブックで読めたりする会員サービスの検討を始めました。ただ、サービスを設計するなかで、制作や運用の大変さ、物価高などもあり、各方面から「紙の会報誌はやめたほうがいい」と言われ、頭を抱えました。世の中はずっとデジタル化しているということで、私も「デジタル」戦略部ですし。

しかし、番組の熱量にも押されながら、番組が大切にしてきた価値は会報誌に宿るはずと信じ、なんとか2026年4月3日にサービス開始にこぎつけました。第1号の会報誌は5月末に発送を予定しているので、互助会員さんに手に取っていただけるのが楽しみです。

さらに、DXでも新しい取り組みを行っているそうですね。

野口 はい。DXの取り組みとして、「生成音声AIを使ったデモCM(※実際のCM制作前に試作した試聴用音源)制作ツールの開発」です。

近年、Podcastの人気などから音声広告への注目が高まっていますが、まだ、なじみのないクライアントもいます。
そこで、生成AIを活用して、キーワードからBGMつきの音声CMを作成できるツールを開発しました。これまでデモCMを1本制作するにも、スタジオを確保し、読み手をブッキングし、音声を録音してBGMをつけて編集するなど、細かな段取りが発生してきましたが、ツールを開発したことで即時にイメージを具現化できるようになりました。これにより、たとえば営業担当者がクライアントへの提案前に、手元のパソコンでデモCMを作成できるようになりました。提案でより具体的なイメージを共有できれば、音声CMの魅力も伝わりやすくなるはずです。

生成AIの利用範囲がやみくもに広がることには懸念はありますが、この取り組みは「人の声で人が伝えることに価値があるものが、より際立つことになる」と考えています。効率化できる作業は生成AIを取り入れ、TBSラジオがお届けしている制作物の価値を高めるという狙いがあります。

TBSラジオ野口みな子

開局75周年!特設サイトなど、さまざまな施策を準備

TBSラジオは2026年に開局75周年を迎えます。それを記念した企画は、どのような内容でしょうか。

野口 まずは、2026年4月1日(水)に開局75周年特設サイトをオープンしました。私は本企画のデジタル・プロモーション班の一人として、特設サイトの管理も務めています。

このサイトでは開局75周年をお知らせするとともに、過去の番組のオープニングテーマやステーションジングルを聴くことができます。懐かしい気持ちを想起させることで、ずっとTBSラジオを聴いてくださっている方だけでなく、以前聴いていたという方にも戻ってきていただけたらいいなという思いを込めています。

ラジオ番組やPodcastを運営するうえで「より多くの新しいリスナーに集まってもらいたい」という思いは当然ありますが、ラジオリスナーのボリュームはある程度固定されているのが現状です。そのリスナーの皆さんがTBSラジオや他局を行き来してくださっている状況なので、今後はTBSラジオにしっかり戻って聴き続けていただけるような取り組みを進めていきます。

本格的な施策は2026年9月からスタートするので、こちらもぜひご期待ください。

開局75周年特設サイトキービジュアル

SE、記者、編集者を経験してTBSラジオへ。マンボウの記事20本執筆も

ところで、野口さんはどんな経緯でTBSラジオに入社されたのでしょうか。

野口 新卒では朝日新聞社にシステムエンジニアとして就職しました。その頃から朝日新聞で紙からデジタルにシフトする流れが活発になり、入社3年目に編集部門に異動して記事のアクセス解析などに取り組んでいました。そんななか、上司から「せっかく編集部門にきたのだから、取材してみない?」と打診され、「withnews(ウィズニュース) by 朝日新聞」(※以降、「withnews」)という若年層向けのニュースメディアで記者としてのキャリアをスタートすることに。自分で取材して記事を書く面白さを実感し、それ以降は記者・編集者としてキャリアを積んできました。

その後、クイズ王・伊沢拓司さんが発起人である知的エンタメ集団「QuizKnock(クイズノック)」のウェブメディアを制作する会社「baton」に転職し、編集に携わりました。3年ほど所属し、「そのメディアを好きな人たちのコミュニティーを作り、維持して成長させていくことの大切さ」を学びました。読者との信頼関係が大事であるという点は、ラジオやPodcastのリスナーとの関係性にも通ずるものがあると思います。

紙メディアとデジタルメディアを経験しましたが、コロナ禍で大きく飛躍した音声メディアの可能性にも魅力を感じるようになりました。新聞社時代に経験した、紙からデジタルへのシフトのような過渡期を音声業界で再度味わえたら面白いだろうなと考え、音声メディアの世界に入るべく、TBSラジオへ転職しました。

もともとTBSラジオのリスナーで、『アルコ&ピース D.C.GARAGE』(毎週火曜 深夜0時~1時)や『ハライチのターン!』(毎週木曜 深夜0時~1時)などいろいろなお笑い番組を聴いていました。以前放送していた『うしろシティ 星のギガボディ』では、スペシャルウィーク中の放送にあわせて、リスナーが深夜の赤坂へ集合することが恒例でしたが、実は私も参加したことがあります。入社当初に配属されたのはニュース部でしたが、お笑い番組も大好きなんです。

学生時代はどんなことをされていましたか?

野口 学生時代は宇宙物理学を専攻し、大学院に進学して、恒星がどのようにできるのか、シミュレーションを用いた研究をしていました。基礎研究だったので、すぐに実用化できるような分野ではなかったものの、基礎研究がもたらす情報や研究そのものには大きな意義があると感じています。それを広く世に伝えられるのはメディアであると気付き、メディア業界での仕事に魅力を感じました。

TBSラジオ入社後はどのようなキャリアを歩んでこられたのでしょうか。

野口 最初は現在も所属しているニュース部に配属され、週の前半は朝の番組『森本毅郎・スタンバイ!』(毎週月~金曜 あさ6時30分~8時30分)を、後半は現在も担当している夕方から夜の番組『荻上チキ・Session』を担当しました。

その後、もともとPodcastやデジタル施策に関心があったことが入社の動機だったこともあり、2025年からはデジタル戦略部も兼務しています。

デジタル戦略部とニュース部を兼務していることによる強みはどう感じていますか?

野口 制作現場にいながら、困っていることを解決するためにどのような仕組みやシステムを導入すればいいのか提案できるところは強みではないかと思います。私のような兼務を担当する社員は他にいないため、両方の橋渡しのような役割ができればと考えています。

TBSラジオ野口みな子

これまでのキャリアで影響を受けた人や、転機になった出来事を教えてください。

野口 影響を受けたのは、新聞社時代に記者の仕事に誘ってくれた上司です。その方は「withnews」の当時の編集長で、「責任はとるから何でもやっていいよ」というスタンスで、チームとしての仕事のほかに、動物が好きな私はマンボウについてたくさん取材を行うことができました。マンボウは知名度は高いですが、商業的な価値が低いことからあまり研究は進んでいないんです。わからないことが多いのが面白くて、マンボウの研究者たちに繰り返し取材し、のべ20本近くの記事を書きました。一つのメディアでこんなにもマンボウの記事を出すのは、極めて珍しいことだと思います(笑)。

また、「withnews」の編集部員たちと取材を通して問題意識を持ち、生きづらさを抱える若い人たちに向けたキャンペーンや連載に取り組んだことも強く印象に残っています。このように、取り組むべきと考えた事柄に自由に挑戦できる環境を作ることは大事だと感じたので、「QuizKnock」の制作時や現在の仕事でも意識しています。

前職batonの上司にも影響を受けました。その方は、何か問題や課題があったときに、属人的なものをなくして仕組みで解決しようとする方でした。例えば、何かミスが起きたときに、その人の不注意ではなく、そのミスを起こすきっかけとなった仕組みがあるのではないかと考えていて、それは今の仕事にも生かされていると感じています。

野口さんの今後の展望を教えてください。

野口 TBSラジオは制作や営業など部署によって働く時間帯が異なるため、社員同士が顔を合わせる機会がなかなか取りづらい状況ではあります。私は二つの部署を兼務しているのでそれぞれの良い部分を引き出し合い、リスナーに良い聴取体験を届けていくことにとてもやりがいを感じており、今後も強化していきたいと考えています。

番組作りにおいては、番組をご一緒している荻上チキさんの言葉をお借りすると「リスナーと、ともにあるニュースメディア」であり続けたいと思っています。ラジオは自分に話しかけられているような感覚で聴けるところが魅力の一つだと思うので、その特性を生かしながら、実際に困っている人や、やり場のない思いを抱えている人など、あらゆる立場の人に寄り添っていきたいです。

最後に、ラジオ業界を志望する人に向けてメッセージをお願いします。

野口 私は就職活動中にご飯の味も分からなくなるくらい、とても苦労したので、まずは体を大事に健康に過ごしていただきたいです。

ラジオを含め、メディアは何かと何かをつなぐためのハブのような存在です。メディア業界を志望する方は「自分はこれを伝えたい」という熱意を持つことも大事ではありますが、「人やもの、社会問題などいろいろなものをつなぐ役割でありたい」というある種の使命感を持っているといいのではないかと思います。

ラジオ業界を目指すなら、「ラジオが大好き」という気持ちも大切ですが、ラジオを聴く人を広げるためにはどうしたらいいのか考えるためにも、ラジオ以外のメディアやいろいろなものに接して視野を広げておくと、きっと役に立つのではないでしょうか。

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TBSラジオ野口みな子

野口みな子
新卒で朝日新聞に入社。エンジニアから記者に転向し、その後、株式会社batonへ転職。「QuizKnock」のウェブメディアの編集に携わる。
2024年TBSラジオ入社。事業創造本部創業戦略局デジタル戦略部とコンテンツ制作局ニュース部を兼務している。担当番組は『荻上チキ・Session』、TBS Podcast『東京ビジネスハブ』など。

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