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松本潤演じる“人を診る”総合診療医を描く日曜劇場『19番目のカルテ』、企画担当が明かすドラマが生まれるまで

TBSで放送中の日曜劇場『19番目のカルテ』(毎週日曜よる9時)が、2025年9月7日(日)に最終回を迎えます。
原作は富士屋カツヒト氏による漫画『19番目のカルテ 徳重晃の問診』(ゼノンコミックス/コアミックス)で、19番目の新領域・総合診療医を描く新しいヒューマン医療エンターテインメントです。松本潤演じる総合診療医・徳重晃(とくしげ・あきら)が、患者と対話していく姿を通して、“人を診る”というテーマに真正面から向き合っていきます。
本作を企画したのは、TBSテレビの益田千愛。作品に込めた思いや最終回の見どころのほか、自身のキャリアについて話を聞きました。
“人をみる”仕事を探す中で、偶然出会った原作漫画
まずは、『19番目のカルテ』を企画した経緯を教えてください。
益田 最初は、確か「職業もの」の企画を考えてみようと思っていた気がします。私は、人の話を聞いて、その人がどんな人なのかを考えるのが好きなのですが、そういう仕事ってあるのかなと思い、「人の話を聞く 仕事」と検索をしていたことがきっかけになりました。いろいろな検索結果が出た中で、たどり着いたのが本作の原作である『19番目のカルテ 徳重晃の問診』でした。探していたイメージに合致した「人を診る医師」が描かれていて、読み進めるうちに「これは自分が届けたい物語かもしれない」と思いました。さらに別の作品でお話をしていた出版社さんから出ているコミックスだとわかったので、ご連絡をして「いつどうする」などまでは伝えずに原作から自分が受け取ったものが同じであるか、などを確かめたり、担当の方とたくさん会話をしました。
しかしその一方で、「自分は本当にドラマを作りたいのか?」と自問してずっと悩んでいた時期でもありました。担当していた番組が一段落してお休みをもらえるタイミングがあり、「今まで続けてきたのに立ち止まってよいのか?」という迷いもありましたが、思い切って「素直に自分が求めているものを知りたい」と、一人でアイスランドなどへ旅に出ました。どこか後ろめたさもありましたが、その期間は仕事やドラマのことは一切考えず、自分自身を空っぽにして心と向き合う時間を持つことで、少しずつ気持ちが変化していったように思います。
休暇が明けても、この先自分がどうしたいのか答えが見つからなかったのですが、そんなとき、部の先輩にもお話をしてみようと思い立ちました。会話をしたときに「自分が面白いと思うものが、正しいのかわからなくなっている」と伝えたところ、先輩から「プロデューサーはそれぞれ得意とするジャンルがあるけれど、あなたが考えられるもので、まだ誰も触れていないジャンルがあると思うから、それをめがけてもう一度トライしてみたら」とアドバイスをいただきました。自分が重く考えすぎていたところ、弾かれるような言葉でした。
自分が考えていた企画の話をしているうちに、同時に何気なく、「こういう漫画がある」と『19番目のカルテ 徳重晃の問診』についてお話したんです。確か、もう会話が終わるくらいの瞬間でした。
この話し合いがきっかけで企画が進んでいきました。

ドラマ化にあたり、どのように準備を進めていきましたか?
益田 脚本家の坪田文さんは、私が以前プロモーション部にいたころに宣伝で携わっていた『コウノドリ』シリーズ(2015、2017年)の脚本を担当されていた方でもあります。今回、初めてお会いすることができたこともあり、不思議なご縁を感じています。
物語の核でもある徳重先生の問診シーンの、黒の世界に入っていくなどの演出は、チーフ演出の青山貴洋監督がいろいろと考えてくださり、監督を筆頭に生まれたものです。
また、劇伴については、監督、プロデューサー陣で集まり、このドラマの世界観を表現するメインテーマをどうしようかと検討していた際に、元々イメージのあったアイスランドの音楽のイメージを伝えたところ、「それだ!」と賛同していただき、決まりました。思い切ってお伝えしてよかったという気持ちと、みんなのイメージが一致したことがとても嬉しかったです。
さまざまな方の意見やアイデアから、全てが形になっていきました。

キービジュアルには、どんな思いを込めていますか?

益田 ポスターにもなっているキービジュアルのデザインは、アートディレクターの吉良進太郎さんにお願いしました。
吉良さんは、私がプロモーション部に所属していたころ、ずっとお仕事をしてみたいと思っていた方で、『中学聖日記』(2018年)のときに初めてお願いしました。その後、ドラマ制作部に異動してから他の作品でもご一緒しましたが、本作のドラマ化が決まったときに「今回は絶対に吉良さんにお願いしたいな」と思ってご相談をさせていただきました。
デザインは、松本潤さんの体の一部をクローズアップした“丸いスコープ”が散りばめられ、「人が診ていないところも診ている」というテーマを表現しています。「人を診ることは、自分のことを顧みることでもある」というメッセージも、このビジュアルから受け取りました。

最終回は、ドラマオリジナルの結末に注目
キャストについて、印象を教えてください。
益田 主演の松本潤さんには、「こうでありたい」を静かに、自分とも闘いながら追い続けている人、いろいろなものを見つめてきたまなざしを持つ人、人が見ていないところも見ている人、という印象を持っていました。チームの皆が言っていることですが、松本さんが現場にいらっしゃる姿は、まさに徳重先生のようだなと思いますし、松本さんにしか演じられない役だったと改めて実感しています。
松本さんとは以前、『99.9-刑事専門弁護士-』の映画とスペシャルドラマ(ともに2021年)で少しご一緒したことがあるのですが、嬉しくも身の引き締まる思いでした。

徳重先生の恩師である赤池登(あかいけ・のぼる)役の田中泯さんは、高校生のころから映像作品などを拝見してきて、「いつか一緒に仕事がしたい」と思っていた方です。豪快な笑顔の裏でどこか読めない人物、「背中を追い続けたい、でも手が届かないかもしれない」と思わせる存在―。そんな赤池先生のイメージもあり、泯さんに演じていただきたいと考えていました。やりとりを重ね、オファーを受けていただけたときは嬉しくて、こっそり泣きました。
最終章では、徳重先生と赤池先生の師弟の関係性や思いがさらに色濃く描かれています。このお二人でしか表現できない空気を、ぜひお楽しみいただけたらと思います。

ドラマでは一見、個性も考えもバラバラな医師たちが、同じ意志に向かって少しずつ変わっていくところを見せたかったので、キャスティングはあまり見たことのない組み合わせにしたいという狙いがありました。
各話のゲストの方もあわせて、ずっと「お仕事したい」と思っていた方、以前ご一緒して「絶対またご一緒したい」と思っていた方、素晴らしいキャストの方々にご出演いただくことができました。




まもなく最終回が放送されます。
益田 最終回は原作にはない、ドラマオリジナルの結末になっています。原作者の富士屋カツヒト先生も、毎回一視聴者としてとても楽しんでドラマを見てくださっていると伺い、とても嬉しく思っています。
脚本家の坪田さんが作り上げてくださった世界には、紡がれているせりふのひとつひとつに、喜び、悲しみ、傷つき、さまざまな感情に突き刺さる言葉があふれていて、「生きている!」とひしひしと実感させてくれます。そして、最終的に「これが作りたかったんだな」と改めて気づかされ、自分に跳ね返ってくるものがたくさんありました。

私自身、自らの企画で日曜劇場という枠で医療ドラマを制作することになるとは思ってもいませんでした。自分には無理だ、と思っていたことでした。
ですが今回は、松本さんをはじめとするキャストの皆さま、ご一緒したチームの皆さんの思いや結束、医療の未来のためにと、多大なご協力をいただいた先生方、これまでお世話になった方々とのご縁など、いろいろなつながりで、この作品が生まれたという感覚が強いです。
最終回が終わった後も、ずっと何回でも見たくなるような…見てくださる方にとっても、今まさに人を救うために尽力されている医師の先生方にとっても、少しでも「救い」となる作品になっていたらと願っています。

入社10年目で、志望していたドラマ制作部へ
ところで、益田さんはどういった経緯でTBSに入社されたのでしょうか。
益田 小学生のころから映画やドラマが大好きで、それらに関わる仕事ができたらいいなと漠然と考えていました。幼いときからお話を創作するのが好きだったこともあり、高校生になり大学進学を考えるころには、脚本家や文章を書く仕事に興味を持つようになりました。
大学では映画や映像の評論などを行うゼミに所属していて、映画を見る会を自分で企画したことも。自分でテーマを決めてポスターやプログラムを作り、上映会を開催しました。企画した特集次第で、人が全然入らなかったり、いつも同じ人が来てくれたり…それを見るのが楽しかったです。基本的に自分の回は、満席になることはなかったですが(笑)。並行して、脚本について学んでいた時期も少しだけあります。
就職活動はテレビ局のほか、映画会社や出版社などを検討して行い、最終的にTBSに入社が決まりました。ぼんやり夢だと思っていたことが現実になり、「本当にテレビ局に入るんだな」と武者震いしたことを覚えています。
入社後はどのようなキャリアを歩んでこられたのでしょうか。
益田 ドラマ制作を志望して入社しましたが、最初は情報制作局に配属になり、生放送の『みのもんたの朝ズバッ!』と『はなまるマーケット』を約2年ずつ担当しました。『みのもんたの朝ズバッ!』は報道寄りの番組で未知の分野でしたが、周りのスタッフに恵まれ、慣れてくるにつれていろいろなことを任せてもらえるようになり、カメラを携えて街で人の声を聞いたり、ADのほかにフロアディレクターなどを任せてもらえたり、と仕事の楽しさも見出すことができました。
次の『はなまるマーケット』でもADやディレクターを担当しました。「誰が見てもわかるVTRを作ることが、こんなにも難しいことなのだな」と知り、生放送の怖さと魅力と、いろいろなことを学びました。一方で、ドラマ制作に夢を持っていたことがわからなくなってしまうほど、必死な日々を送っていました。
生放送の現場で頑張ってきましたが体調を崩してしまい、願い出てビジネス法務部へ異動に。ビジネス法務部では、契約書の作成や違法動画対策など、法律に関わる業務に2~3年ほど従事しました。元々苦手意識のあった分野で、苦労することも多かったのですが、他部署とのやり取りも多かったため、この経験を通じて社内の人脈を広げることができたように思います。他局のライツ部や弁護士の方との交流もありました。あとは、契約書を読むのが少しだけ苦手ではなくなった気がしています。

ドラマ制作部へはどのようなタイミングで異動されましたか?
益田 ビジネス法務部にいるころには、制作への異動はもうないだろうと諦めていました。それでもやはり、ドラマに対しての思いが残っていたので、少しでも手を伸ばすことができたらと思いながら、時間を見つけてシナリオコンクールへ応募する脚本を書いてみたり、頭に浮かんだ話をまとめてみたりしていました。
そんなことを続けていくうち、社内でドラマに関わる仕事ができないかと模索を始めました。ドラマ美術にも興味がありましたがスキル面で難しいことがわかり、法務で契約書を作成していた縁でプロモーション部の方と話す機会があって、それがきっかけで異動することになりました。
プロモーション部には3年ほど所属し、2017年の『コウノドリ』では宣伝・広告全般を担当しました。そのとき、かつて私がドラマを志望していたことを知ったドラマ制作部の方が声を掛けてくださり、ビジネス法務部時代に書いていた企画書を見てくださる機会がありました。
それが契機となり、2019年にドラマ制作部に異動することになりました。異動直後には、宣伝を担当していた『凪のお暇』(2019年)にそのままAP(アシスタントプロデューサー)として携わることになりました。同じ作品で宣伝担当からAPになるのは異例のことだったと思います。
入社して10年目での異動。もうドラマ制作に携わることはないだろうなと思っていたため、嬉しさよりもまず驚きがありました。入社時からドラマ制作部に在籍する後輩も多く、みんなどんどん企画を出している。やはり焦りはありましたし、大丈夫かなという不安は大きかったです。会社に入社したときと同じくらいの武者震いを、多分またここでしていたと思います。

初めて通ったドラマの企画は、どんな作品ですか?
益田 厳密に言うと、初めて企画が通ったのはラジオドラマ『禁断の告解室』(2021年)という作品でした。「Audio Movie®」という、リスナーに深い没入体験を提供する仕組みで制作する企画です。その仕組みを生かすにはエロティックを結び付けるのがよいのではないかと考えて企画しましたが、ナレーションやモノローグを使用できない、せりふと音だけで伝える、などの制約があり、難しい挑戦でした。
そうそうたる先輩方の教えを仰ぎながら、脚本家さん、ラジオ社の方と試行錯誤しましたが、「もう少し時間があればこうできた」とか、「今だったらこうしたかも」などリベンジしたい気持ちが今でもあります。ですが、この機会をいただけたことで、また知り合いも増えましたし、「自分にも通る企画がある」という自信につながったと思います。
最後に、益田さんのように、ドラマ制作の仕事を目指す就活生に向けてメッセージをお願いします。
益田 「諦めたときこそ、始まりだ!」というようなフレーズがありますよね。熱い言葉だなあ、と人ごとのように感じてしまうこともあったのですが、振り返ってみると結局、自分の中のいろいろな地点は「諦め」とか「無理かもな」、から始まっていることが多かったなと思います。「諦め方がわからないんです」。これは作品の中で徳重先生が、赤池先生に打ち明ける言葉なのですが、私も諦め方がわからなかったから、今もここにいるのだと思います。
私が就職活動をしていたころは、同級生がほとんど就活をしていなかったこともあり孤独でしたし、自分が社会人になるイメージもできていないのにこのまま突っ走っていいのか、と不安でした。一般的な参考書などはあっても自分にぴったりのお手本はもちろんなく、でも進まなければならないと、わからないまま走っていました。「何がしたかったんだっけ?」と思うこともありました。
ですが今は、突き進むしかないときもあるけれど「自分の声を聞きながら時には立ち止まってもいい」と少し思えるようになりました。失敗や、心がポキンと折れたことが、教えてくれることもありました。
周りと比べて焦ることもあると思いますが、「なんだかわからないや」と思ったら、大人になっても立ち止まっていいと思います。言葉にすると呑気に聞こえるかもしれませんが、今ようやくわかってきたことです。もっとかっこいいメッセージをバシッと言えたらよいのですが…。すみません、これしか思い浮かばなかったです。
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益田千愛
2010年TBSテレビ入社後、2019年にドラマ制作部へ。
『凪のお暇』(2019年)などでAP、『妻、小学生になる。』『アトムの童』(ともに2022年)、『ラストマンー全盲の捜査官ー』(2023年)、『さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~』(2024年)などでプロデューサーを務める。