- AKASAKA REPORT
雇われ店長から“自分の店”へ、赤坂の愛されキャラ「銀座ふくよし 赤坂店」店主、伊與部健一さん

赤坂6丁目にあるたこ焼き店「銀座ふくよし 赤坂店」を営む伊與部(いよべ)健一さん。
大阪風のたこ焼きと、関西風のいなり寿司「こいなり」を看板に掲げる同店を2017(平成29)年7月にオープン。以来、伊與部さんの気さくな人柄も相まって、近隣で働く人を中心に常連客を増やしてきました。

俳優として売れるため、さまざまな仕事を経験
1977(昭和52)年生まれ、新潟市出身の伊與部さん。大学進学を機に上京しました。実は当時、活動の軸は「俳優」でした。“俳優として食べていく”ことを目標に掲げ、レッスンに通ってオーディションに挑み、事務所にも所属。アルバイトを掛け持ちしながら、舞台の世界に全力で飛び込んでいました。
一方で、挑戦を続けるには生活を支える仕事も欠かせませんでした。伊與部さんが選んだ仕事は、飲食や営業だけにとどまらず、夜勤など“稼ぎの良さ”が魅力の現場にも広がっていきます。
中でも葬儀社の宿直の仕事では、求人サイトを通じて応募し、夜間の待機や対応にあたる中で、亡くなった方を迎えに行く場面に立ち会うこともあったそうです。若い時期にそうした現場を経験したことは、伊與部さんの人生観に強い輪郭を与えました。そこから「生きてさえいれば、なんとかできる」という感覚が残り、どんな状況でも前を向くための支えになっていったそうです。
知人の紹介でたこ焼きの世界へ
2012(平成24)年ごろ、知人の縁で銀座のたこ焼き店「銀座ふくよし」を手伝うことになり、伊與部さんの“たこ焼きのキャリア”が始まりました。経験を重ねて店長として現場を任されるようになると、赤坂店の立ち上げ期に合わせてこの街へ移ります。
赤坂店のスタートは決して順風満帆ではありませんでした。店内は15席ほどの小さな店。銀座では店に立っていれば自然とお客さまが入ってくる環境だっただけに、赤坂でも同じように人が来てくれるものだと思っていたそうです。ところが、オープン直後は客足が安定せず、店先で待つ時間の長さがそのまま不安につながる日々が続きました。
ようやく常連客が3組ほどついた頃も、安心はできませんでした。週のはじまりの月曜日にその3組が来店すると、残りの日は「今日は誰が来てくれるのだろう」と気持ちが揺れたそうです。店が街に根づくまでの時間を、伊與部さんは手探りで積み重ねていきました。
赤坂に来て印象的だったのは、回覧板が回り、年末には火の用心の呼びかけが響くなど、町会文化が今も息づいていること。華やかなイメージの一方で、顔が見える距離感のコミュニティがあり、いざという時に支え合える関係性が残っています。伊與部さんは、街とほどよい距離を保ちながら関わっていく“赤坂らしさ”を、この9年で肌で学んできました。
コロナ禍を経て、“自分の店にする”決断

さまざまな経験を重ねてきた伊與部さんですが、軸にあるのは「食」の現場です。たこ焼きは、だしを利かせた生地の味づくりを大切にし、そのままでも成立する一口を目指してきました。定番のソースマヨに加え、厚切りチャーシューを合わせたメニューなどもそろえ、店の個性を積み重ねていきます。
そうした歩みの中で、伊與部さんは“自分の店”としての決断をします。2022(令和4)年11月ごろ、店の権利を引き継ぎ、「銀座ふくよし 赤坂店」を自身の店として再スタートさせました。
コロナ禍では売り上げの落ち込みも経験し、この先の見通しが立ちにくい時期が続きました。そんな中で「この場所をどう守っていくか」を現実として考えるようになり、自分が前に立って支える覚悟が強まっていったそうです。
人に任せるよりも、まずは自分が責任を負って動く。伊與部さんのその気質は、店の現場にも表れてきました。日々の積み重ねで信頼をつないできたことが、“自分の店”としての再スタートを後押ししました。

常連の子どもが、大人になってスタッフに
そして現在。伊與部さんは、気さくな人柄と飾らない距離感で、店にも街にも自然と溶け込む存在になっています。初めて来た人でも構えずに話せて、気づけばカウンターの空気がほどけていく。そんな“安心感”が、この店の一つの名物になってきました。
9年の月日が流れるなかで、小学生の頃から通っていた常連が、高校生、大学生になり、「ここで働きたい」と声をかけてくれるようになったというエピソードも。初めてのアルバイト先として店を選ぶ若者も増え、家族ぐるみのつながりをきっかけに、店が次の世代へと静かに受け継がれていくような光景が生まれています。
“飲めるたこ焼き屋”として居心地の良い店に
伊與部さんは「たこ焼きが好きなのは、気を使わずに食べられるところなんですよね。老若男女、誰でも“素”のままで囲めるし、取り分けの気遣いも要りません。ひと口食べたら、場の空気がふっとやわらぐ感じがやはり好きなんですよね。
赤坂って街のテンポがあるので、それに合わせながら、これからも“飲めるたこ焼き屋”として居心地の良い店にしていきたいと思っています。ここは、たこ焼き屋で妻と出会い、子どもも3人授かった、自分にとっての“パワースポット”でもあります。だからこそ、来てくれる皆さんにとっても、ふっと元気になれる場所になれるよう、これからも精進していきます」と話してくれました。

転機が何度も訪れた人生の末に、たどり着いた赤坂の鉄板。伊與部さんのたこ焼きは今日も、誰かの肩の力をふっと抜き、明日へ向かう気持ちに小さな火を灯しています。
<店舗情報>
「銀座ふくよし 赤坂店」
住所:港区赤坂6-13-19
電話番号:03-5561-8688
営業時間:17:00~24:00(土曜日は16:00~23:00)
定休日:日曜・祝日

